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転生の糸使い [830万PV突破・400万字、900話以上の大ボリューム!]  作者: 青浦鋭二
第1部 教会の孤児編 (襲撃・修行・エルフの里・黒骸王・巡回の旅・王都攻防戦)

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第134話 閑話 心配性の老シスターと昔話

今回はヒルダの視点に変えて、少し時間を遡ります。

 私はヒルダと申します。教会のシスターで、孤児院の副院長も務めております。


 若い頃には各地の村を回って祈りを捧げ、結界を張っていましたが寄る年波には勝てず、ここ数年は主に、教会で新米の神父やシスターの教育をしたり、孤児院の中で子供達の世話をして暮らしております。


 教会での暮らしについては、魔王軍との戦争中や、その後もしばらく大変な思いをしましたが、最近では復興が進み教会を取り巻く環境が少しずつ変化してきたことで、苦労もありますが昔に比べれば随分と生活が楽になってきていました。


 特に1年半ほど前に起きた教会襲撃の後には、これまでモルド神父に頼り切りだった部分を、皆で協力して行うようになり、他の神父やシスター、そして子供たち一人一人の成長を感じて喜ばしく思いました。

 それに街の人々の教会や孤児院に対する心境の変化によって、城壁の外にある教会に衛兵も配置していただける事になり、またラジク様やレストミリア様が訪れるようになってからというもの、皆が以前よりも明るくなったように思います。


 そして何と言っても一番の変化は、ジグとアマリアが魔法や戦闘の訓練を行うようになったことでしょう。狩りをして手に入れた魔石や素材の代金や、ラジク様からの寄付などには本当に助けられました。


 私としては最初、危ないことをしてほしくなかったのですが、二人の意志は固く、そして何よりそれが自分のためではなく、皆のためだということが分かってからは、反対することが出来なくなってしまいました。

 それでも心配するのは止められるものでもなく、危ない目に遭ったと聞けば落ち着いてはいられませんし、怪我をしたり倒れたとなれば寿命が縮まる思いです。


 もともとアマリアは優しく、面倒見の良い性格で子供達からも慕われていましたが、本人は知らないことでしたが彼女の生い立ちや、これまでの経緯によって狙われていることもあり、半ば強制的に教会の中に留め置かれていたこともあって、少し内向的な面もありました。


 しかしレストミリア様が訪れて、自分の両親のことや自身を守るために周りがどうしてきたのかを知り、その事実を受け止めてからというもの、それまで出来なかったことを取り戻すかのように、懸命に努力し少しずつ外の世界に触れることで、もともと芯の強い子でしたが随分と成長し、明るくもなってきたように思います。


 ジグは通常時の修行の厳しさもさることながら、どこかに出掛けては毎回のように倒れていると聞いてるので、こちらは特に気が気ではありません。男の子ということで、ラジク様やモルド神父の訓練も厳しいものになりがちなので、常にどこかしら怪我をしている気がします。


 それでも優れた教育者たちに恵まれ、本人の強い意志と(たゆ)まぬ努力、それに天性の才能も相まって、今では騎士様に匹敵するほど強くなったと、モルド神父や他の方々が話しているのを耳にしたことがあります。


 少し前までは他の子供達と一緒に、遊んだり叱られたりしていたのに、凄く不思議な気分です。

 私は以前、訓練を始めて間もないときに尋ねたことがあります。


「ジグ、どうしてそこまで頑張るの?あなたはまだ子供なんだから、危ないことはせずに大人に任せて、どうしても叶えたい目標があるのなら、もう少し大人になってからでも良いのではないの?」


「それが出来たら楽だとは思うよ。でも襲い掛かってくる危険や敵には、こっちの都合なんて知った事じゃないんだよね。

 僕たちがいくら平和に暮らしたくても、どれだけ放っておいて欲しくても、奴らには関係ないんだ。だから僕は今出来ることをやる。

 それにヒルダも孤児院の医務室で言ってたじゃないか。次に同じような事があったときに失敗しないよう、経験を活かしなさいって」


「それはそうですが…」


「それに自分が非力なせいで、大切なものを守れないのはもう嫌なんだ。だから僕は頑張るよ。もし次があるのなら、今度こそ何も失わないように…」


 私はその時、目の前にいるジグがとても大人びて見えました。赤子の頃から知っているせいか、いつまでも子供だと思っていたあの子が、急にいっぱしの男の顔をしていたのです。

 その顔を見て私は、なぜか昔近所に住んでいた、年下の男の子のことを思い出しました。


 その頃はまだ両親が生きていて、私もリッツソリスから遠く離れた村で普通の暮らしをしていたのですが、成人を迎える前に両親が事故や病気で亡くなってしまい、親戚もいなかった私は首都にある孤児院に入ることになりました。


 その男の子は当時7歳くらいだったけれど、その前から互いの両親が仕事に行ってるあいだに、私が面倒を見ていたこともあってよく知っていました。

 小さい頃から騎士になることを夢見ていて、いつも木剣を振り回してはニカッと笑い、「父さんも母さんも姉ちゃんも、まとめて俺が守ってやるよ!」などと言ってました。


 あれから五十年以上が経ち、その子の名前や故郷の村での暮らし、そして両親の顔までもが朧気に覚えている程度になってしまいましたが、あの時の言葉と笑顔だけは、今も記憶に焼き付いています。


「最近は年のせいか、昔のことばかり思い出すわね…困ったものだわ」


 私は事務仕事を中断して肩をトントンと叩くと、伸びをして子供達の様子を見に行こうと立ち上がりました。

 今は冬が近くなり、子供達が体調を崩しやすいので注意が必要です。遊んでいる子供達に、早めに屋内に戻るよう言いに向かうと、窓の外には雪がチラつき始めていました。


「あら、雪なんて珍しいわね…。あまり積もらないとは思うけど冷え込みそうだし、子供達のベッドにはもう一枚、毛布を足した方が良さそうね…」


 私は独り言を言いながら、訓練のために南へと向かったジグとアマリアのことを考えていました。

 すると外からモルド神父が急いだ様子でやって来て、スウサの砦から狼煙が上がったことを告げられました。


 早馬の知らせによると、以前にも教会を襲撃した魔王軍の生き残りが再び攻めてきたようで、モルド神父もこれから出撃するとのことでした。

 援軍要請に応えなくてはならない騎士様や兵士の方々に、このまま教会の守りをお願いするわけにもいかず、加えてモルド神父も不在となるので、私たちは一旦街へと避難することにしました。


 私は急いで他のシスターに声をかけて荷造りさせ、カディルとヘロルに教会や孤児院の内外を駆け回らせ、皆を集めてもらいました。


「モルド神父や騎士様がたが戦いに赴くので、私たちは街の兵舎に避難します。すぐに移動を開始できるよう、速やかに準備を整えるように。

 カディルとヘロルは全員揃っているか再度確認してから、皆を中庭に集めてちょうだい」


 そうして指示を出した私は、戦支度(いくさじたく)をしているモルド神父の元へと向かいました。


「シスター・ヒルダ。毎回済まないが後のことは頼む」


「いえ、これも勤めの内です。ジグとアマリアのことをくれぐれもお願いします。

 …それと、モルド神父も無理をしないようにして下さいね」


「わかっている。…ヒルダ殿は相変わらず心配性だな」


 ふっと笑いながらこちらを見るモルド神父は、まだ幼かったアマリアを連れて初めて教会に来た時より、随分と表情が穏やかになったように思います。

 しかしそのぶん戦いから遠ざかっているのも事実で、私は彼が軍人の頃や『爆拳(ばくけん)』のモルドとして知られた頃の姿を取り戻させるべく、両手を腰に当てて口を開きます。


「あなたがこれまで、どれほどの武功を重ねてきたかは知りませんが、神父としては新米なのですから、いくら子供の相手が苦手だろうと、畑仕事をしたことが無かろうと、全力で努力していただかなくては困りますよ!」


「……懐かしいな。俺がアマリアを連れてここに来たばかりの時に、ヒルダ殿から言われた言葉だったか。

 しかしそうだな…これから行くのは戦場だ。油断せず初陣(ういじん)の時のように緊張感を持って臨むとしよう。

 俺にとっては何よりの激励だ。感謝する」


 私の言葉に一瞬驚き、目を見開いていたモルド神父は、昔を思い出すように頷くと頭を下げ、顔を上げたときにはあの頃のような鋭い目つきに、少しではありますが戻っていました。


「いえ、皆で無事を祈ってますから、必ず全員無事に戻ってきてください」


 オロオロしながらも赤子のおしめを替えたり食事の世話をし、不器用ながらも子供達に文字や外仕事を教えたりする平和な生活に慣れ、穏やかになるのは良いことでありますが、戦いにおいては危険でもあります。

 今の言葉をあの時に言えていたなら、彼は右腕を失うことも無かったのかもしれないと、いまだに悔やむ気持ちもありますが、それはすでに過ぎてしまったことです。

 今はただ、今の彼が出来ることを、今の私たちが出来ることを一生懸命にしなくてはなりません。


 装備を整えたモルド神父が、街から出撃する援軍と合流すべく教会から出発すると、少し遅れて私たちも兵士の方々と共に、南門の兵舎へと向かいます。

 南門にはカルスト兵士長がいて、モルド神父が事前に話を通してくれていたお陰か、すんなりと通してもらえました。


 私たちは次々に出撃する方々の無事を祈りつつ過ごし、その日は何事もなく過ぎていきました。

 そして翌日、戦いが早く終わることを願いながら兵舎で過ごしていると、外が急に騒がしくなったかと思った直後、爆発音が響いて窓が割れ、慌てた様子のカルスト兵士長がやって来ました。


「街の南東から敵襲だ!初めに教会を攻撃したのだろうが、恐らく無人だと分かってこちらに狙いを変えてきたようだ。

 ここは敵に近くて危険だから、我々が抑えているうちに皆を連れて、街の北西にある練兵場まで逃げろ。カルストからの指示だと言えば通してくれるはずだ。

 それでも問題があるなら、アイゼンフォート殿を頼れば何かしら手助けをしてくれるはずだ!」


「ご配慮に感謝いたします。カルスト様も皆様も、どうかご無事で!」


 私はどこか懐かしいような感覚を覚えながらも、皆を連れて兵舎を出ると、逃げ惑う街の人たちと共に、急いで練兵場を目指しました。

 途中で一際大きな爆発が起きて後ろを振り返ると、すでに街の南門付近は火の海で、城壁や南門も破壊されていました。

 そして燃え上がる炎の向こうには、巨大な狼の姿が見えました。


「シスター・ヒルダ!急がなくては!」


 カディル神父の言葉にハッとして、私は全身から小さな狼を生み出す巨狼から目を離し、再び北を目指して移動を始めましたが、しばらくすると足腰が痛んで進めなくなりました。


「私はこれ以上は速く歩けません。二人は皆を連れて先に行ってちょうだい」


「シスター・ヒルダ、それではあなたが…」


「今ここで私を気にかけ止まっていては、下手をすると皆が危険に晒されます。私は留守を預かる身として、それだけは避けなくてはいけません!わかったなら行きなさい…さぁ早く!」


 それでもカディルとヘロルは迷っているようでした。二人とも優しい子に育ってくれましたが、このままでは本当に危険です。

 何とかして先に行かせなくてはなりません。


「これ以上、皆の足手まといになるくらいなら、私はここで死を選びます!」


「……!」


 森へ行ける皆は採集のための短剣を持っているので、私はカディルの持つそれを腰から引き抜いて首筋に当てると、二人は驚いた様子でいましたが、やがてヘロルが口を開きました。


「わかりました。カディルは皆を連れて先に行け。ヒルダは俺が背負っていく」


「……わかった。皆を練兵場まで届けたら俺も手伝いに行くから、それまで頑張ってくれ」


「それはダメです!この年寄りのために、あなた方が危険を冒すのは断じてなりません!」


「カディル、ここは俺に任せて早く行け!」


 ヘロルはそう言うと、素早い動きで私の腕を掴み、短剣を取り上げてしまいました。

 そしてそれを見たカディルも、皆を連れて走っていきます。


「ヒルダ、こんなことをしても無駄だよ。俺たちにとっては大切な家族なんだから、ヒルダを見捨てて行けるわけないじゃないか」


「しかし…それでもしあなた方の身に何かあったらと思うと、私は胸が締め付けられるようで…」


「それは皆同じ気持ちさ。もし逆の立場なら、ヒルダは俺たちを見捨てて行けるのかい?」


「それは……」


「絶対に無理だろう?それに俺やカディルだって、魔法は使えないしジグほどの力は無いけれど、ヒルダ一人を背負って走るくらいどうってことないんだ。

 それに今モルド神父が向かっている場所で、ジグやアマリアが戦ってるなら、俺たちだってここで自分に出来る戦いをしなくちゃいけないだろう?

 それにはヒルダの協力が必要なんだから、こんなところでモタモタしてられないよ」


 そう言うとヘロルはしゃがんで背中を向け、私に負ぶさるように促しました。

 訓練をしている二人だけが成長しているわけでないと知っていたはずなのに、いつの間にか大きくなった背中を見て、私は改めてそれを認識させられました。


「わかったわ、ヘロル。ごめんなさいね…」


「そこはありがとうって言うんだよ。じゃあいくよ」


 私を背負ったヘロルはそう言って立ち上がると、先に行った皆を追いかけて走り出しました。

 私はすれ違う兵士や騎士の姿を見ながら、彼らの無事を祈っていると、やがてカディルが引き返してきてヘロルと交代してくれましたが、後方からは先ほどの巨狼が生み出したと思われる、狼のモンスターが襲い掛かってきて、兵士達と乱戦になりました。


「ここは危険だ!早く避難を……ぐあぁっ!」


 私達を守って戦っていた兵士の方々が狼に襲われ、その爪牙(そうが)は私たちにも迫りました。私は自分を背負うカディルを押して着地し、狼の前に立ちはだかると目の前には二匹の狼がいて、私に向かってきました。


「「ヒルダ!」」


「は、早く逃げなさい!」


 二人が叫びますが私は覚悟の上です。相手はモンスターですから倒せないとしても、手に持った短剣で少しでも傷つけ、この身を差し出せば多少の時間は稼げるはずです。

 私は飛びかかってくる狼に向かって、短剣を突き出しましたが難なく弾き返され、ならばと目を瞑って身を差し出しましたが狼の牙は届かず、その代わりに獣の悲鳴が聞こえました。

 目を開くとそこには、幾本もの槍が突き刺さった狼が倒れていました。


「おうおう、全く何という無茶をするのじゃろうな?年寄りが若いモンを生かすべく動くのは仕方のないことじゃが、最後まで諦めない事こそが皆で生き残る秘訣じゃぞい」


「騎士様、危ないところを助けていただき本当に感謝いたします!」


「ヒルダ!本当になんて無茶をするんですか…!」


「ご、ごめんなさい。でも私は……」


「よいよい、お主らもあまり年寄りを苛めるものではないぞ。ここはワシに任せて早く行くがよい」


 そう言って黒い鎧を纏った老騎士様は、こちらにやって来る狼を次々と倒していきます。


「守ってくださりありがとうございました。騎士様もどうかお気を付けてください。ご武運をお祈りしております…」


 私たちは三人で神に祈りを捧げると、騎士様は満足そうにニカッと笑いました。


「ワシがお主らを守るのは当然じゃ。あの時に約束したんじゃからのぅ」


「…騎士様、今なんと…?」


「ヒルダ!早くここから離れないと、騎士様の邪魔になってしまうよ!」


 どこか懐かしく感じた騎士様の笑顔に、何かを思い出しかけたところで、私は再びカディルに背負われて、その場から離れました。

 そうして無事に三人で練兵場へと到着し、すでに設置されていた無数のテントに入ると、私たちは皆を集めて辺り一帯に結界を張り、休憩をとった後は、運ばれてくる負傷者の治療を手伝うことにしました。


 街の南側では至るところから煙が上がり、戦いが更に激しさを増していました。

 私は先ほどの騎士様や兵士の皆さん、そしていまだに戻らない家族の無事を祈りながら、私たちに出来ることを懸命に続けました。

初のヒルダ視点でジグやアマリア、それにモルド神父のことを書いてみました。

最近はなかなか出番のないヒルダですが、作者はお婆ちゃん子なので、割とお気に入りのキャラクターだったりします。

同じく出番の無いカディルやヘロルについても少しではありますが、この機会に触れてみました。


昔話や繋がりに関しては、もう少し分かりにくく濁しても良かったかなと思いましたが、力量不足でした(汗)


初めての試みもありましたが、それでも割と上手く描けたかなぁと思います。

次回はジグの視点に戻る予定です。

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