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転生の糸使い [830万PV突破・400万字、900話以上の大ボリューム!]  作者: 青浦鋭二
第1部 教会の孤児編 (襲撃・修行・エルフの里・黒骸王・巡回の旅・王都攻防戦)

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第132話 続・スウサ砦攻防戦 その4 休養と行方不明

前回と前々回のサブタイトルが、両方ともその2になっておりました。

現在は修正済みです。申し訳ございません。


 無事にエレオノールの誤解が解けた頃には、すでに朝日が昇り始めていた。僕たちはスウサの集落に到着すると、それぞれの用事を済ませに動き始めた。


 ラジクとキルウルクたちは、エレオノールと共に本陣でこれまでの経緯の説明と、これからの予定を話し合い、レストミリアとアルテミアは治療や部下との調整のためにクロエの元へ、僕とモルド神父はアマリアも治癒術士たちのところにいるかも知れないとの判断で、2人の後に付いていった。


「レストミリア様!それに皆さんも、ご無事で何よりです」


 エレオノールから聞いた場所へ行くと、集落の中でも一番大きい集会場のような建物を借りて、治癒術士たちは負傷者の治療に当たっていて、こちらに気付いたクロエが嬉しそうに微笑んだ。


「やぁクロエ。留守を任せていたのに、突然こんな事になってすまないね」


「敵はこちらの都合など気にしてくれませんから、それは構いませんが……アルテミア様は治療が必要なようですね」


「お、さすがクロエ。話が早くて助かるよ。応急処置はすでに済んでるけど、かなりの重傷だったから霊樹の薬と回復魔法の併用で頼むね」


「畏まりました。他の方々は怪我よりも疲労が溜まっているようですし、あちらのテントでお休みください」


 そう言ってクロエは、レストミリアに代わってアルテミアに肩を貸しながら、少し離れたところにあるテントを指差した。しかし僕たちには、休む前にしなくちゃならないことがある。


「その前にクロエさん、アマリアは今どこにいるんですか?」


「アマリア様でしたら、奥の部屋で重傷者の治療にあたっておられますよ。

 …レストミリア様、お気持ちは分かりますがそんなに興奮なさらないでください。それと少しお顔を見たら、あとはしっかり休んでくださいね」


「わかったよクロエ。じゃあ二人とも、早く行こうか♪」


 僕たちはアルテミアの治療を始めたクロエにお礼を言うと、ウキウキな様子のレストミリアに続く。奥の部屋に入ると年配の治癒術士たちと共に、アマリアが重傷者の治療をしていた。


「アマリア様、ただいま戻りました」


「ミリア!?それに神父様もジグも、皆無事で本当に良かった…」


「あぁっ!私はこの瞬間のために頑張ってきたのです…!」


 満面の笑みを浮かべたあとに自分の手をとり、ホッとして涙ぐむアマリアを見たレストミリアは、そう言って恍惚とした表情を浮かべると、ほどなくして鼻血を垂らして気絶した。

 アマリアはちょうど休憩に入るところだったらしく、他の治癒術士に任せて一度持ち場を離れた。


「かなり顔色が悪いし、きっと魔力の使いすぎで疲れが溜まっていたのね…」


 回復薬を飲み、空いていたベッドにレストミリアを寝かせると、その頭を撫でながらアマリアが言う。

 すると意識が無いにも拘わらず、レストミリアの顔色がどんどんと良くなっていった。

 きっと枯渇していたアマリア成分を、急速に補充しているのだろう。幸せそうで何よりだ。

 というか本当にアマリア成分って何なんだろう…。ミリアさんにとってはヤバイ薬みたいなものなのかな?


「ところで…」


 僕が謎物質について考えているとアマリアが、こちらにスゥーッと視線を移した。嫌な予感がする。


「ジグ、あなたはまた無茶をしたのね…」


「ひゃいっ!」


「なんでそんなに怯えてるの?」


「だってアマリアの雰囲気がなんとなく怒ってる感じだから…」


「べっ、別に怒ってないわよ。私が心配しようが止めようが、結局はその時にやるべきだと思った事をやってるんでしょ?」


「まぁそうだけど…」


「野営地で夜襲を受けた時にした無茶に対しては怒っているけど、今回は神父様や皆さんが許可したのだから、私から言うことは無いわ。二人が無事に帰ってきたのなら良いのよ」


「あ、オーガの時のことは怒ってるんだ…」


「当たり前よ!教会に現れた時に、騎士様が数人がかりで戦っていたモンスターと同じものが出て来て、しかもそれをジグが一人で相手するだなんて無茶もいいとこよ。

 ラティナさんたちからあの後のことを少し聞いたら、どうにか倒せたけどかなり危なかったらしいじゃない」


「ほう…。教会に現れたモンスターというと、ジェネラル・フレイム・オーガのことか?」


「あっ、はい。そうです。でも僕は途中から記憶が無くて、気付いたらアドルピスカ様に氷漬けにされてたんです。だから詳しいことは今度、アドルピスカ様に聞いてください」


「ふむ…わかった」


 オーガとの戦いに興味があるらしいモルド神父と話していると、アマリアが僕たちを見て溜息をついた。


「どうかしたの?」


「ううん…。なんだか言いたいことはたくさんあったはずなのに、二人の無事な姿を見ていたら、どうでも良くなってきたわ。

 さぁ、まだ敵がいるんだから、二人とも早く休んでください」


「休むのは良いんだけど、その前に1つ聞きたいんだ」


「なに?」


「小隊の皆はどうしてる?アマリアが無事だったからには、撤退には成功してるみたいだけど、姿が見えないから気になってさ」


「砦が急襲されてアルテミア様が私たちを逃がした時には、砦の外の部隊も退却戦に移っていたんだけど、その時にちょうどエレオノール様やクロエさんの援軍が到着したから、皆は無事にここまで退却出来たわよ。

 しばらく休んでから援軍に合流すると言ってたけど、騎士様や正規軍がたくさん来ているから、私たちみたいな新人は基本的に支援に回ってるわ」


「じゃあ砦の時みたいに、見習いが前線に出てるわけじゃなさそうだね」


「敵の増援が来てからは負傷者の数が増えたけど、それもエレオノール様が押し返してからは戦況が好転して、今はだいぶ落ち着いてるわ。

 それにラティナさんたちが出撃してからだいぶ経つから、もうしばらくすれば一度下がってくるかもしれないわね」


「そうか…なら良かった」


「安心したなら良いわ。それにそんなに心配なら早く休んで、何かあったときにすぐ動けるようにしておいた方が良いんじゃない?」


「そうだね。アマリアの言う通り、大人しく休むことにするよ」


「じゃあ…はい、これを飲んで寝てね。神父様も飲んでくださいね」


「うむ。済まないアマリア、助かる」


 アマリアから渡された回復薬を飲みながら、僕たちはクロエに教えられたテントに移動して休むことにした。

 レストミリアとアルテミアには、クロエやアマリアが付いているので安心だし、テントには報告や話し合いを終えたラジク達が、先に戻って休んでいた。

 互いの話は後回しにしてまずは休息をとるべきということで、僕たちは横になると遠くから響く戦闘音や、忙しなく動く騎士や治癒術士たちの足音を聞きながら、すぐに眠りについた。



「ジグ、そろそろ時間だよ」


 誰かの声が聞こえて目が覚めると日はだいぶ高くなっていて、目の前にはレストミリアが立っていた。


「やぁお寝坊さん。ゆっくり眠れたかい?」


「横になったらすぐに眠っちゃいました。ええと…疲れはほとんど無いみたいです」


「それは良かった。皆はもう起きてるから、ジグも食事にしよう」


 アドルピスカやアルテミアの治療で、かなりの疲労が溜まっていたレストミリアも、アマリア成分の偉大な力によって元気になったらしい。

 テントの外には食事中の皆がいて、しばらく休んだことで疲労感は無くなっていた。僕が座るとラジクが話し始める。


「よし、皆が揃ったので食事をしながら今後についての話をするとしよう。

 まず現在の戦況だが、前線は膠着(こうちゃく)状態になりつつある。これはこちらが守りに入って敵の消耗を誘う作戦に切り替えたためだ。

 今はエレオノール殿が指揮を執っていて、この後に我々が戦線に復帰すると同時に攻勢をかけ、一気に勝負をつけたいらしいのだが、1つ気がかりがある」


「砦を急襲して以降、敵軍の中にルナメキラの姿が見当たらないのね?」


「そうだ。アルテミア殿の言う通り、昨夜からルナメキラの姿が見えないらしい。何を企んでいるかは知らないが、奴の居場所が分からないまま動くのは、かなり危ない気がする」


「うむ。ラジク殿の言うように、ルナメキラの所在が不明なままでは、ここぞという時に再び奇襲を受けかねん。

 奴は相手の裏をかくのを好むから、我々が出撃してから姿を現して、その時に一番効果的な攻撃をしてくるだろう」


「さすがにモルド殿はルナメキラについてよく知っているね。そうなると私たちも、攻め手と守り手に分かれる方が良いのかな?」


「それだと敵軍を一掃するのに戦力が足りなくならねぇか?」


「レストミリア殿の言うように、ルナメキラを警戒するなら二手に分かれておくべきなのでしょうけど、キルウルクの言う通りで戦力が分散するのは避けたいところよね…」


「!…ミルカ、それこそがルナメキラの狙いなのかもしれんぞ」


「ロウレ、何か気付いたのか?」


「エレオノール殿と話をして、ラジク殿からもルナメキラの事を聞いたところ、奴はモルド殿や彼の守る教会の者達に、異常に執着しているように思う」


「あぁ、それは俺たちも聞いてるが…だからこそ奴は、訓練のために街から離れたところを襲撃してきたんだろ?」


「そうだ。しかしそれは最初の夜襲や、砦に撤退して援軍が来るまでの間に、決着をつけるべき作戦だろう。

 しかし援軍が到着した今、奴の目的を果たすのは戦力や状況的にも、かなり厳しいと思わんか?」


「そりゃそうだが…俺は難しいことは分からねぇから、ハッキリ言ってくれよ」


「ロウレはね、ルナメキラにとって今は、かなり不都合な状況だと言いたいのよ。だから姿を現さないのは、もしかしたら別の狙いがあるのかも知れないって言ってるの」


「…お、おう。何となくわかるぜ」


「二人とも、つまりルナメキラはここに私たちがいるからこそ、他に出来る作戦をとる可能性があると、そういうことかしら?」


「えぇ、そういうことよ。

 …キルウルクもアルテミア殿くらいに察しが良ければ助かるのに」


「ひでぇ言われようだが、こればっかりは直らんから反論もできやしねぇ…」


「そうなるとモルド殿とジグ、それにアマリア殿がここにいるわけだから、他に狙うとすれば…」


「!!」


 ラジクの言葉を聞いて、モルド神父がガバッと立ち上がる。


「いかん…奴の狙いは教会の者達だ。最初の狙いが外れたことで、奴はゴブリン軍やモンスターの群れ、協力関係にある獣人部隊までも囮にして、こちらに援軍を出して手薄になった、教会や街を襲うつもりだ!」


「でもモルド殿、いくら手薄になってても守備隊はもちろん、騎士団長やアイゼンフォート殿も残ってるリッツソリスに単独で乗り込んでも、そうそう簡単に目的を果たせるとは思えないよ?」


「しかし、もしそれを行える手段があったとしたら、奴は間違いなく実行するだろう。すでに味方全てを囮にしているならば、なにも無理に街の者を全滅させて占領する必要は無いからな。

 例えば王宮にあるような対軍魔道具やそれに近いものを起動させて攻撃し、混乱に乗じて俺の一番嫌がることを……教会の者達だけを皆殺しにしてから悠々と逃げるだけでも、奴ならやりかねん」


「もしそれが事実なら、すぐにでもリッツソリスへ向かうべきだけど、あくまでも予想の域を出ないからには私たちは動けないよ。

 今は膠着状態とは言え、私たちが離れた後の相手の出方次第では、大きな被害が出るかも知れないし…」


「レストミリア殿の言う通り、まずは目の前の敵をどうにかしなくてはならんか…」


「それならまずは目の前のことを片付けましょう。ジグとアマリアには護衛を二人ずつつけて、部隊の中で支援にあたってもらうわ」


「それは構わないが護衛をつけるとしても誰が…?」


「それは俺がやろう」

「アマリア様には当然私が」

「もちろん言い出した私が」


 モルド神父の問いに、ラジクとレストミリアとアルテミアの三人が同時に手を挙げて応じると、三人は驚いたように互いに顔を見合わせていた。


「おや、モルド殿は当然アマリア様の護衛につくから、これでちょうど四人だね?」


「しかし戦力的にこれはどうなのだ?結局は前線で戦う人数が、当初の予定より減ることになるぞ…」


「うーん、出来れば私たちの誰か一人ずつと、他から騎士か治癒術士を付けるのがベストなんだけど…」


 三人はそう言いながら頭を悩ませる。モルド神父はというと、自分には関係ないと言わんばかりの表情で成り行きを見ていた。自分だけは完全にアマリアの護衛をする気である。

 すると互いに譲らなそうな三人を見ていたキルウルクが口を開いた。


「あー、そんなに弟子たちを守りたいなら四人でやりゃいいだろ。アンタらの分は俺たちがカバーしてやるよ、まだ洞窟での借りも返せてないしな。

 そうやって後ろに待機しておけば何か起こった時に、すぐにでも動けるだろ?」


「しかしキルウルク殿、いかにアニマナイトの獣士とは言え、それはさすがに無茶ではないのか?」


「それなりに休養がとれたし、敵の構成がこれ以上変わらないなら大丈夫だ。なぁ、皆?」


「そうね…。休んで回復してるし、消耗してない今なら『狂獣化(きょうじゅうか)』が使えるから、他の騎士達と協力すれば問題ないと思うわ」


「そうだな。モンスターや同じ獣人ならそれほど問題ない。巨人やオーガには他の者達と一緒に当たれば良いしな」


 ミルカとロウレの言葉に他の獣人も頷く。


「初耳なんだけど、その『狂獣化』ってなんだい?」


「俺たち獣人は魔力を操作して、今よりも更に獣の血を濃くすることが出来るんだ。もちろん反動はあるが、それによって戦闘力がかなり跳ね上がる。

 アニマナイトの誰もが出来るわけじゃないし上昇率の違いはあるが、下級獣士以上なら大抵は出来るぜ」


 レストミリアの質問にキルウルクは得意気に説明すると、アルテミアが手を挙げた。


「過去に獣人との戦闘中に相手が正気を失って、狂ったように暴れまわったという報告があったけれど、意図的に発動させられるものだったのね…。

 というか、それって私たちに教えて良いことなの?」


「……んあぁっ!?」


 アルテミアが恐る恐る尋ねると、キルウルクは素っ頓狂な声を上げた。


「え!?キルウルク、まさか気付かずに機密を喋ってたの?」


「てっきりキル坊は、色々と覚悟の上で伝えたのかと思っていたが…」


「いやぁ……すまねぇ。何も考えてなかったというかサラッと出ちまった…。さすがにマズかったか?」


「…良いわよ。もし本国に知られるようなら、私たちも一緒に怒られてあげるわ」


「俺たちはキル坊に付いていくと決めてるからな。まぁその…気にするな」


「あ、あの…今後のこともあるし、両国の関係のためにも今の話は聞かなかったことにするわ。皆もそれで良いかしら?」


 珍しく落ち込むキルウルクをミルカとロウレが慰めていると、気の毒そうな顔をしたアルテミアがフォローして、僕たちもそれに頷いた。


 現場ではこれほど協力関係にあるのに、下手な食い違いで話が拗れるといけないからね。聞かなかったことにするのが一番だよ、うん。


 こうしてキルウルクたちの計らいで、僕たちは後方支援をしながら万が一に備えることになった。

 エレオノールにはアルテミアから上手く伝えてくれて、キルウルクたちが洞窟での借りを返すために、力を尽くすということで納得してもらえた。


 どうやらエレオノールは、アルテミアやアドルピスカに甘いらしいということを、僕はこの時に知った。


 そうしてキルウルクたちは前線に赴いて、敵軍との戦闘が激しさを増していき、僕やアマリアたちは負傷者の治療をし、護衛の四人は支援攻撃を開始すると、同じように後方支援を担当していた、小隊の仲間たちの無事も確認出来た。


 そのまましばらくの間、こちらが戦いを優勢に進めていると、リッツソリスの方角から狼煙が上がっているのが見えた。

ようやく味方と合流して一息ついた一行でした。

アマリアはジグ達を心配しながらも、自分に出来ることを懸命にこなしていて、度重なる回復魔法の使用によって魔力量はもちろん、なんだか精神的にもだいぶ成長したようです。


砦が完全に落ち、ジグ達が合流した後は守りに入ったことで戦闘は膠着状態になってますが、敵の総大将であるルナメキラがしばらく姿を見せておらず、不気味な感じです。


砦からの撤退はアルテミアの指示や、ゼストルフの捨て身の働きで大きな被害は無く、見習い達も大半は無事だったようです。

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