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転生の糸使い [830万PV突破・400万字、900話以上の大ボリューム!]  作者: 青浦鋭二
第1部 教会の孤児編 (襲撃・修行・エルフの里・黒骸王・巡回の旅・王都攻防戦)

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第115話 子鬼の山 その4 殿(しんがり)と夢幻の戦い

「こっちだウスノロ!」


 そう言いながら風の刃を数発撃ち込み、僕はオーガを挑発する。それなりに魔力を込めて顔を狙ったにも拘わらず、腕で防御したオーガの皮膚には僅かな切り傷すら出来なかったが、引きつけることには成功した。


 以前教会で見たとき、師匠はかなり魔力を溜めてオーガの足を切り飛ばしていたので、本格的にダメージを与えるならそういった準備が必要になる。

 しかしオーガを引きつけながら、魔力をそこまで溜めるとなると回避が疎かになるし、かと言って見習い達にオーガを引きつけさせるわけにはいかない。危険すぎて絶対に死者が出る。


「ウガァッ!」


 オーガは雄叫びを上げながら何度もハンマーを振り回しては、僕を挽き肉にしようとしてくるが、こちらはそれを身体強化で回避したり、木の陰に隠れたりなどして付かず離れず時間を稼ぐ。


 最初は糸で拘束したのだが、オーガに比べてこちらの力が圧倒的に足りず、木に括りつけても薙ぎ倒される始末で手に負えなかった。

 また風の糸でも鎧を切断するには至らず、ならばと関節部分に巻き付けたが魔力量の違いなのか、その皮膚を切り裂くことが出来なかった。


 結局、オーガが元気なうちは回避に専念して、他の手段である程度ダメージを与えたり、魔力を消耗させてからじゃないと糸の出番は無さそうだった。


「はぁ…はぁ…はぁ…咆哮波の威力もそうだったけど、このオーガは前に見た個体より強いのかな。まったく…ホント嫌になるね!」


 オーガの攻撃を回避して後ろに回り込み、僕はエルフの弓を引いては何度も矢を放つ。せめて目を潰して視界を奪えたら楽なのに、さすがに上位種なだけあって、ジェネラル・オーガはそうさせてはくれない。


「ジグ!こっちの準備は出来たぞ!」


 ダンクの声が聞こえたので回避しながらチラリと確認すると、数十人の見習いたちが魔力を溜めて攻撃準備を整えていて、バチバチと火花が散っているせいか、その辺りだけ少し明るくなっている。


「一瞬だけ動きを止めるから、その隙に一斉攻撃!3、2、1…今だ!」


 僕は糸を大量に放って木や岩に括りつけオーガを拘束し、身体強化を最大まで引き上げて合図を送る。

 暴れるオーガとの力比べになったが、拘束し続けることは出来なくても、地形を利用すれば短時間の足止めなら可能だ。僕は歯を食いしばって耐える。


 一斉に放たれた魔法が着弾する直前に糸を解除して飛び退くと、次の瞬間には目の前で大爆発が起きた。

 作戦の成功に喜ぶ見習いたちだったが、燃え上がる炎や煙の中を索敵魔法で探ると、その中から立ち上がるオーガの姿が見えた。


「まだ終わってない!散開して回避準備!」


 そう叫んだ瞬間、煙の向こうから轟音が響き咆哮波が放たれた。そしてそれは見習いたちのいる一角を突き破り、そこにいた一つの小隊を…四人の見習い騎士や治癒術士たちを、この世から消滅させた。


 そして咆哮波によって煙や炎を吹き飛ばし、あちこち負傷した姿を現したオーガの手の平には、徐々に魔力が溜まりつつあって、次の攻撃準備に入っていた。

 見習いたちは先ほどの全力攻撃で魔力を消耗しているのか、目に見えて疲弊している。これでは再度攻撃することは出来ないし、これ以上無理をすれば退却するのにも差し支えるかもしれない。


 ……覚悟を決めるしかない。


「ダンク!それにゲオリグ!僕が殿(しんがり)を務めるから、ただちに皆を連れて北へ退却しろ!

 向こうにはレストミリア様がいるはずだ。こちらの状況を伝え、以降は彼女の指示に従え!」


「なに?俺が敵の相手をお前に任せて、逃げるとでも思っているのか!?」


「じゃあアンタならオーガを足止めできるのか!?」


「っ!…ぬぅ…」


「あの咆哮波を見ただろう!もう話している時間は無いんだ!」


「ジグ、あなただけ残るなんてダメよ!」


「アマリア、ここにはミリアさんもモルド神父もいない。ここでキミを死なせたら僕は死んでも死にきれないし、神父やミリアさんにあわせる顔が無い」


「また私は足手まといなの?これだけ努力してきても、まだ足りないの?」


「……ダンク、あとを頼む!ゲオリグも今は従ってくれ!」


「了解した!…でも死ぬんじゃないぞ」


「他に選択肢は無いか…従おう」


 涙ながらのアマリアの問いに僕は答えられなかった。

 アマリアが懸命に努力しているのを知ってるし、師匠や神父に褒められたりしたことで、それを認めてもらえた喜びがわかる分、今のように逆に否定された悲しみも痛いほど理解できるから。


 それでもこの危機的状況でアマリアを、そして見習いたちを、ここに留まらせるわけにはいかない。

 すでに目の前で四人も死んだ。これ以上やらせるわけにはいかない。無理でも無茶でもいい、何が何でもここで阻止しなくちゃ。


「待って、ダメ!ジグも逃げなきゃ…あの子を置いてはいけないのよ…。お願い、待って!」


 身体強化をしたダンクには抗えず、抱えられたアマリアは力尽くで連れて行かれる。

 その近くには今にも泣きそうな顔をしたラティナと、あまり表情を変えないオリヴィエが珍しく沈痛な表情をしてこちらを見てたが、僕が頷くとオリヴィエが支援魔法をかけてくれ、二人はダンクのあとに続いて行った。


 一斉に退却を始めた彼らに向かって、オーガは手の平から巨大な火球を放つ。


「…この野郎、いい加減にしろ!」


 僕はそれを応報の盾で弾き返し、倍以上の速さで向かってくる火球に対応しきれずオーガは炎に包まれる。

 さすがに威力が高くて跳ね返すには消費魔力も多かったが、自身の攻撃をまさか自分が喰らうとは思っていなかったようで、高威力の火球はオーガの体力をそれなりに削ったようだった。


「よそ見をするなよ、お前の相手は目の前にいるだろ?この汚い化け物め、僕を殺さない限りここは通れないぞ!」


「グガオォォッ!」


 言葉は話せなくとも、ある程度理解は出来ていること、そして挑発に乗りやすいことも僕は教会の戦いで知っていた。

 怒りによって溢れ出した魔力は炎へと変化してオーガの全身を包み込み、ハンマーを振り上げてこちらに突進してきた。


 ハンマーや炎は当然だが、オーガの攻撃はどれもまともに受ければ、そこで戦闘が終わるレベルだ。直撃だけは何としても回避して、出来る限り時間を稼がなくてはならない。

 僕は光の属性身体強化で速さと防御力を上げ、白剣に風の魔力を通すと、振り下ろされた巨大なハンマーを回避して、オーガの腕を力いっぱい斬りつけた。


 すると剣は僅かながら腕を傷付けることに成功し、オーガの表情が曇る。

 先ほどより体が軽いし、力が増している気がする。オリヴィエの支援魔法が効いているのかも知れない。

 それに見習いたちの総攻撃や先ほどの火球が、想像よりもダメージを与えていたのだろうか?オーガの体力や魔力が、随分と落ちてきてる可能性がある。


 地面にめり込んだハンマーを、オーガが引き抜くあいだに更に数回斬りつけると、それを嫌ったオーガが全身に纏った炎を更に強めた。

 こちらも魔力を纏ってはいるが、炎の熱量が凄まじいため一旦距離をとる。


「あちちち。少しずつだけど防御を気にするようになってきたじゃないか。このまま粘って、糸でトドメを刺せるところまで削ってやる…」


 そう言って僕は霊樹の回復薬を飲む。

 こんな事態になるとは誰も予想してなかっただろうけど、師匠から渡されていて本当に助かった。

 そして弓を構えると目や鎧の隙間を次々とロックオンしていき、風の魔力を大量に込めた矢を放つ。


 一直線に向かったそれは、ハンマーを構えて防御しようとしたオーガの目の前で無数の矢に分かれ、一斉に狙いを定めた場所に突き刺さる。

 纏った炎で軽減されているとは言え、1本1本の威力はそれほど高くなくとも大量に刺されば効果はあるようで、オーガは苦痛に表情を歪め、纏った炎も勢いを落とし始めた。


 更に風の刃を連発して攻撃に移らせないようにしつつ、足に魔力を溜める。

 風の刃に耐えきったオーガが、反撃とばかりにハンマーを地面に叩きつけると、そこから炎が噴き出してこちらに向かってきた。

 正面から迫る炎の波を、足裏に溜めた魔力を爆発させて飛び上がり回避すると、落下の勢いをそのまま乗せて真上からオーガに斬りかかる。


 ハンマーで防御するのは間に合わないと判断したのか、オーガは頭を捻ると僕の斬撃を額の角で受けた。しかし風を纏った白剣は「カッ!」という音と共にその角を両断し、そのままオーガの左眼を切り裂いた。


「よし…あっ、やば…ぐぁ!」


 その痛みに対して、文字通り全身を燃え上がらせて怒るオーガが、着地の体勢に入っていた僕を捕まえると、そのまま振りかぶって力いっぱい投げ、木に叩きつけた。


 オーガの炎で纏っていた魔力が削られ、それを補いきる前に木に激突したため、途轍もない衝撃をまともに受けて全身に激痛が走る。

 首飾りの癒やしはすでに発動していたが、地面に倒れた僕はすぐには立ち上がれなかった。


「がはっ!…これは参った…もうそろそろ糸の出番かと思ったのに、ぐふっ…ミスしちゃったよ…」


 僕は回復魔法を体内で循環させ高速回復を図るが、ダメージが大きすぎて追いつかないようで、血を吐きながらも起き上がろうとするが、体に力が入らない。


「魔力のだけじゃなく、体力の回復薬も飲んでおけば良かったかな…」


 ポーチから回復薬を取り出すことすら出来ないでいると、片眼を失い全身に傷を負いながらもオーガが近付いてくる。


「ヘヘっ、たしかあの時もそんな格好をしていたっけ…。騎士様が数人がかりであそこまで追い詰めたのを、今の僕は一人で出来たんだから、十分だよね…」


 過去に遭遇したものと、今自分の目の前にいるオーガの姿が重なる。時間は十分稼いだし役目は果たした。あとはトドメを刺されるだけかと思っていると、オーガの姿の後に血塗れの騎士や神父の姿が頭に浮かんだ。


「…ちぇっ、師匠ったら僕がこんなに頑張ってるのに、まだやれって言うんですか…?モルド神父も本当に鬼教官ですね…わかりましたよ、やりますよ」


 もう意識が朦朧としていて、それが現実なのか幻なのかもわからない。でも二人に見られていると思うと、諦めるわけにはいかなかった。何せ師匠も神父も、敵を前に諦めるということをしない人達なのだから。


 僕は立ち上がり白剣を鞘に入れて構える。もう体には力が入らないはずなのに不思議な感覚で、まるで体が浮いているようだ。

 そしてこれから居合い斬りでもするかのような姿勢の中で、指先だけが激しく動いている。


 オーガはトドメを刺すべく、こちらに向かって突進しながらハンマーを振り上げてくる。


 僕はそれをボンヤリと視界に捉えながら魔力を溜め、一気に剣を引き抜いて横薙ぎに払うと風の刃が放たれて、振り上げられたオーガの両腕を切り飛ばした。

 少しのあいだ痛みに暴れていたオーガは、こちらを怒りの形相で睨むと炎を纏いながら、突撃してくる。


(こん)(ごう)……斬糸(ざんし)…』


 それを僕は、身体強化も使っていないのに高く跳び上がって避けると空中で金剛斬糸を放ち、オーガの全身を拘束すると同時にバラバラに切り裂いた。


 着地して目の前に広がるオーガの死体を見ている僕には、これが実際の光景なのか、それとも都合の良い夢なのか判断することが出来ず、その場に立ち尽くしていた。

恐怖を克服して強敵ジェネラル・オーガに立ち向かったジグですが、被害が皆無とは行かず死者が出てしまいました。


自分も戦うつもりだというアマリアを、無理矢理に退却させ自身は殿(しんがり)に残ったものの、ただでさえ強力なうえ初めて遭遇したオーガよりも、個体として更に強い今回の相手に大苦戦。


白剣でダメージを与え、サラマンダーの防具で炎のダメージを軽減し、霊樹の回復薬や訓練で身に付けた戦法などを駆使して、どうにか時間を稼ぎましたが、遂に捕まって戦闘不能に陥りました。


最後の方は意識が混濁していて、よくわからないことになっていますね。

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