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転生の糸使い [830万PV突破・400万字、900話以上の大ボリューム!]  作者: 青浦鋭二
第1部 教会の孤児編 (襲撃・修行・エルフの里・黒骸王・巡回の旅・王都攻防戦)

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第107話 合同訓練 その3 ラジクの狙いと騎士団との訓練

 治癒術士との訓練を終えて教会に戻り、アマリアとモルド神父は皆の手伝いや仕事をしに行き、僕はその日あったことを師匠に報告することにした。

 クロエと戦ったことを伝えると、やはり自分も行けば良かったと口では嘆いていたが、畑仕事や採集を終えた子供やシスターたちの反応を見るに、留守番でもそれなりに楽しんではいたみたいだった。


「しかし反則技を使ったとは言え、あのクロエ殿に勝つとはなぁ…正直驚いたぞ」


「もう二度とやりたくない相手ですけどね…」


「はっはっは!彼女は国内の治癒術士の中なら、最低でも五指に入る腕前の持ち主らしいから、それはそうだろう。

 ふむ…しかし、それほどまでにお前が腕を上げているなら、次の騎士団との訓練でも予定より強い相手とぶつけても良いかも知れんな」


「いやいやいや…あくまでも訓練、訓練なんですよ師匠?今日の時点ですでに何かおかしいと思ってるんですけど、もしかして話し合いの時に先生が言ってた、師匠の考えというのと何か関係があるんですか?」


「今からそれを言うと、お前が調子に乗ってしまったり、あるいは訓練中に思うように動けないのではと思っていたんだが、うーん…まぁ良いか。

 たしかに訓練の意味合いもあるのだが、今回の狙いは治癒術士や騎士団の見習いや若手をはじめとして他の者にも、お前やアマリア殿の腕を見せて、危機感を煽るのが狙いなんだ」


「…ええと、ちょっとよくわからないです」


「アマリア殿は別として、実を言うと戦闘訓練という意味では、今回の訓練でお前が得るものはそれほど多くない。

 なんせ我々4人が教えているのだから、体術に剣術、治癒術や弓術においても、すでに見習いや新米騎士どころか下級騎士クラスに、そして糸を遠慮なく使えるならば中級騎士か、それ以上の者達に匹敵するほど、お前は成長している」


「はぁ…そうなんで………えっ!?」


「そんなに驚くことでもあるまい?

 何せ初めてダリブバールに行った時点ですでに、800万の賞金首を行動不能にするほどだったのだ。そこから大森林でワイバーンやエルフを相手にしたり、その後もアンデッドや黒骸王との戦いで類い稀な糸の力を手に入れた。

 最近の旅の間にも様々なモンスター討伐に加えて、巨人族に魔族、トルティガー討伐やエルフの里の麒麟児と言われた、ファルディエまでも退けてきたのだ。

 俺達はもう慣れているから何とも思わんが、ハッキリ言って他の者達から見たお前は、完全に異質な存在だ…良くも悪くも、な」


「そんな化け物みたいに言われるのは心外ですよ。そんなことを言うなら僕の周りは化け物だらけなんですからね」


「いや、さすがにお前の年齢でそこまでの実力を付けていた者は、俺達の中にもいないはずだぞ…」


「師匠、そこで引くのはおかしいですよ?

 こういう風に育てたのは神父や師匠が初めなんですし、僕だって一生懸命に頑張った結果がこれなんですからね!?」


「あぁ、そうだったな、すまんすまん。別にこれまでのお前の努力を否定したわけではなくてだな…その、お前は自分のことについて、もう少し自覚するべきだと言いたかったのだ」


「モルド神父にもたまに言われますけど、他人からどう見られているとか、どう思われているのか自覚するのって、かなり難しいんですよね。

 何となくですけど、師匠だってそういうのは苦手なんじゃないですか?」


「ま、まぁな。ふむ……それじゃあ自覚するのは置いておいて、これからはお前の持つ稀な能力や人間関係を利用や悪用したり、自分たちに都合の良いように使おうとする者が現れるかもしれんということを、自覚ではなく注意するように、と言えば分かりやすいか?

 それか、単純にお前が力を付けすぎたから、誰かにとっては都合が良いし、誰かにとっては都合が悪い事になりかねない、とでも言うべきか…」


「あぁー、なるほど。少し分かりました、そういうことですか…悪目立ちしているんですね。

 それでも今までは、師匠たちが壁代わりになってくれてたけど、これから先に僕が人間関係を広げたり冒険者になれば、それらに自分で対処しないといけなくなるんですね」


「そういうことだ。だから今のうちに治癒術士や騎士とも繋がりを多く持っておき、また力を見せつけることで牽制する意味もある。

 まぁ、さっきは下級騎士並みだとか、糸を使えば~といった話をしたが、それは現時点でなら経験や工夫でいくらでも覆せる部分も多いから、お前もまだまだ修行が必要だけどな。

 そういうことで今日からの訓練は、将来的に何かの役に立つ日が来るかもしれんから、やっておいて損はないだろう。

 おっと、話が随分と逸れてしまったな。どこまで話してたんだったか…」


「逸れた後の話の方が、僕にとって重要だった気がしますけどね…」


「あぁそうだ。俺達が教えていることで、お前やアマリア殿はかなり実力を付けているから、それらを見せて若手に危機感を持たせたいのだ」


「そうは言っても治癒術士や騎士を志望する人達なんですから、ある程度は志を持ってその職を選んだんじゃないですか?」


「そういう者も確かに多いのだが一部は違っていたり、訓練を行うようになって自分の理想と今の実力の違いで挫折を味わったり、志を持っている者でも慣れてくると、多少は気を緩めてくる事もあるのでな。

 努力次第でここまで力を付けられると知れば、ある者には希望を、ある者には焦りを植え付けられるかと思ったのだ」


 いつも緩んでいるように見えるラジクが、それを言うのかと突っ込みたくなったが、決めるべき時には決めてくれる人なので、僕は必死で我慢した…偉いぞ自分。


 それに理想と現実の違いに悩んだり、いくら目標を掲げていてもその新鮮な気持ちを、そのまま維持することは出来ないということも、僕は前世ですでに知っているので、自分が誰かの役に立てるなら良いかなと思うことにした。


「まぁそういうことなら良いですよ。それにアマリアも楽しそうでしたからね」


「そう言ってもらえるとありがたい。

 では明日以降に関してだが、アマリア殿は今まで通りレストミリア殿との訓練や、治癒術士が練兵場を使うときにはそちらと合流することになる。

 お前の方は、ちょうど明日が騎士団の練兵場での訓練になるから、そちらに参加することになるな。

 それ以外は日替わりで、我々が今まで通り教えるか、何かしら不足があったりすれば、誰かの担当を増やすことになるだろう」


「わかりました。では明日も僕は練兵場に行きますね」


 そうして僕は報告や話を終えると、久しぶりにアマリアが得意のシチューを作っていたので、それを皆と一緒に美味しくいただいた。

 しかしクロエとの戦闘でクタクタだったのか、食事の途中から眠気が酷くて、何度かシチューの中に顔からダイブして叱られたので、すぐに寝ることにした。


 翌日、目覚めてから食堂へ行くと、すでにアマリアを迎えに来たレストミリアがいて、クロエとの戦いやシチューにダイブして汚れていたにも拘わらず、眠気に負けて軽く拭うに留めて寝てしまった僕を、水魔法でスッキリ綺麗に洗ってくれた。


 水魔法マジ有能。早く属性増えないかなぁ…。

 あれ?でも師匠くらい強くても1属性しかなかったりするから、このままってことも大いに有り得るのかな。

 風と光があるだけでも恵まれているとは思うけど、無い物ねだりは世の常だから仕方ないね。気長に考えるとしよう。


 朝食を摂りながらそんなことを考えていると、ラジクもやって来た。

 ちなみに今日のアマリアは、騎士団が練兵場で訓練するので負傷者も出ると予想されるため、レストミリアと一緒に街へ行って治癒術士たちと合流し、後から練兵場に来るらしい。

 ラジクも練兵場に行って留守になるので、教会にはモルド神父が残り、僕はラジクと一緒に練兵場に行くことになった。


 ちなみにアルテミアは現地で合流する予定だ。

 今回の訓練は首都防衛の任務に就いている、アルテミアとアイゼンフォートも後進の育成のために参加するらしく、普段より大規模な訓練になると街を歩きながら聞かされた。


 ラジクが楽しそうにしているので、恐らく白熱した実戦訓練を期待しているのだろう。まぁ大いに頑張って欲しい、出来れば僕の分まで。

 なんせ話を聞けば聞くほど、僕の気は滅入るばかりだった。

 と言うのも治癒術士のそれと違って騎士団の訓練は、1に戦闘、2に戦闘、3、4が無くて、5に戦闘らしいのだ。


 戦闘力重視なのは分かるんだけど、僕は治癒術士みたいな訓練の方が好きだなぁ…。

 いや、もちろんクロエの相手はもう懲り懲りなんだけどね。

 どんな体育会系の訓練が、この先で待ち受けているのかと考えながら歩いていると、やがて練兵場に到着した。行く先に気乗りしない時には時間が経つのが早いね!


 そこにはすでに騎士達が集まっていて、僕たちが到着するとこちらを興味深そうに見ていたが、それも仕方がないと思う。

 なんせ僕を見つけたアルテミアや、ラジクの姿を見つけたアイゼンフォートがそれぞれこちらにやって来て挨拶を交わし、騎士3人の中に子供がいる状態になっているのだから。


「聞いたわよジグ、昨日の訓練でクロエに勝ったんですって?私としても教え子の成長は嬉しいけど、そのせいで今日は多分大変よ?」


「あのクロエ殿をこの子がのぅ…。ラジク坊主も鼻が高かろうて」


「はい。俺の弟子は才能に胡座(あぐら)をかくことも無く普段から努力家ですし、ここぞという時にも決して諦めませんから、クロエ殿にも手を尽くし懸命に挑んだと聞いてます。

 今日の訓練でも全力を尽くすことでしょう」


 なんかアルテミアが不穏なことを言ったと驚いてたところに、にこやかなラジクが連打で追い撃ちをかけてきた。何その爽やかな笑顔、誰に見せるためにやってるの!?

 もうやめて…それ以上ハードルを上げないで。

 このままじゃ戦う前にHPが0になっちゃうよ!


「それは楽しみじゃな。さて、皆も集まったことじゃし、そろそろ始めるかのぅ。

 今日の訓練は対戦形式で行うことにするが、まずは若い者からするとしようかの。

 普段から指導している騎士は、見習いや新人の実力が似た者同士を組ませて、順番を決めるが良い」


 アイゼンフォートの指示のもと、騎士達はどんどんと二人一組になっていき、僕と同じくらいの年の騎士姿の子供達から戦闘を開始した。

 僕はどうするのかと思っていたが、隣にいるラジクは何も言わないので、とりあえず大人しく付いていることにした。


 さすがに騎士志望なだけあって、見習いでも剣術はなかなかの腕前だった。

 しかし、人によっては魔法をほとんど使わない戦い方をしていたので、不思議に思ってラジクに尋ねると、今戦っている僕より年下らしい一番若い見習いくらいだと、属性は判明していても魔法の訓練までは始めていないらしい。


 その後、対戦が進むにつれて年齢層も上がっていき、徐々に剣だけでなく身体強化や魔法を使った戦闘に変わっていった。

 今はちょうど自分と同じか、少し上の見習い騎士の戦いの最中だ。そろそろ僕の出番にならないのだろうか?


「何を言っているのだ?お前が見習いを相手にしても、それはただの苛めになってしまうではないか。相手にとっても何かを学ぶどころではなくなるから、流石にそんなことをさせるわけにはいかんぞ」


 不安になってきたので順番を尋ねると、当たり前だろうと言いたげな顔でラジクが答えた。

 いや、まぁ確かに前日にそんな話をしたけど、じゃあせめて誰が相手なのかくらいは教えてくださいよ…。


「そうだな…。お前の相手はあそこにいる若手の騎士だ。あの世代では今のところ一番実力があって…そして少々天狗になっているらしい。

 だからお前の役目は、アイツの鼻っ柱を折ることだな」


 こちらの不満げな表情が伝わったのか、ラジクはそう言って一人の騎士を指差した。

 そこにはすでに成人しているらしい、黄色い髪の若い騎士がいた。

 向こうもこちらの視線に気づいたのか、僕を見るとフッと笑っていた。


 うん、確かに自信がありそうだ。まだ成人前の子供が相手だと言われたら、そりゃあそんな反応になるよね。僕だってもしかしたら笑っちゃうかもしれないし、下手をすれば失礼だと怒るかもしれない。

 何となくそんなことを考えていると、ラジクが思い出したように付け加える。


「ちなみにお前の糸だが、昨日と同様で相手に使うのは基本的に禁止だ。他は死なない程度なら好きにして良い」


「基本的にって事は例外があるんですか?」


「そうだな…こちらとしてはお前が負けると思惑が外れるから、最悪負けそうな場合は切断力の無い糸に限ってなら使用を許可する。

 まぁそこまで苦戦するとは思えんが、一応な」


「昨日から持ち上げられ過ぎて、なんだか体が痒くなる思いですよ。

 でもまぁ、いつもの無茶振りだと思えばやるしかないですね。出来るだけ頑張りますよ」


「うむ、是非そうしてくれ」


 相手が分かったので一旦ソワソワするのは収まったが、対戦が進むにつれて緊張してきた。

 今まで騎士達の戦いは見る機会があったけど、自分が戦うとなるとラジクとの訓練以外では初めてかもしれない。

 さすがにラジクより強いのは有り得ないと思うけれど、どれくらいの実力なのかは完全に不明なので、やはり不安は感じた。


 色々と考えていると、レストミリアやクロエが治癒術士を率いてやって来た。もちろんアマリアもレストミリアの近くにいる。いやむしろアマリアの近くにレストミリアがいると言う方が正しいか…。

 そして治癒術士たちは対戦が終わって負傷している騎士たちの治療を始めると、レストミリアがこちらにやって来た。


「やぁジグ、まだ出番は来てないのかい?」


「もうそろそろだと思うんですけどね…」


「おやおや顔色が悪いね。緊張してるのかい?」


「騎士と戦うのは初めてみたいなものですし、相手のことを何も知りませんからね」


「キミはこれまでの訓練や旅で、いつも知らないモンスターや相手と戦ってきたのに、今更緊張するのも変じゃない?

 知らない相手との戦い方はもう知っているはずだし、いくら未知の相手とは言っても、さすがにスカルピオンやサードアイズ・ジャイアントより、強いなんてことは無いと思うけどね?」


「……あ、言われてみればそれもそうですね」


 レストミリアの言葉はもっともだし、あまりにも気楽そうに言うので僕も何だか気が楽になり、先ほどまでの緊張が嘘のように無くなった。


「ミリアさんのお陰で緊張が解けました。ありがとうございます」


「そうかい?それなら良かったよ。じゃあ頑張ってね」


 レストミリアが手を振ってアマリアの所に戻っていくと、ほどなく自分の出番がやって来た。

端折るのもどうかなぁと思って書いた結果、今回はそんなに話が進みませんでした(汗)


ジグの実力に関しては、総合力で言うと中級騎士と比べても遜色ないか、相手によっては上回るくらいになってます。

これは糸が優秀すぎるためで、それを抜くと下級騎士と良い勝負をして負けるかな…ってくらいです。


ただ、作中でも触れた通り経験や工夫、駆け引きやコンディション等で変わるので、確定しているものではありません。あくまで目安ですね。


アマリアの方は戦闘能力はほとんど無いものの、治癒術士としては成人したばかりの新人程度には出来ます。

これは訓練期間の短さを考えると驚異的な速度での成長なので、レストミリアとしては結構満足していますが、最終的な目標が聖女と呼ばれたマリアの治癒術士としての実力に加えて、自分並みの戦闘力なので、まだまだ先は長いです。


あくまでもアマリアではなく、レストミリアの目標ですが(笑)

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