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転生の糸使い [830万PV突破・400万字、900話以上の大ボリューム!]  作者: 青浦鋭二
第1部 教会の孤児編 (襲撃・修行・エルフの里・黒骸王・巡回の旅・王都攻防戦)

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第8話 襲撃 その2 守る決意と兵士長への提案

スウサの砦は呆気なく陥落。魔族がいるとその強さにもよりますが、ある程度戦況が変わります。

「赤三本、黒一本ってことはモンスターだけでなく実は魔族もいて、もう砦は落ちてしまったってことだよね? ど、どうしよう……」


 アマリアは青ざめた顔でそう言って、考えを巡らせている。


「ここは国の首都で守りも堅いから、街の中にいればそりゃ安全かもしれないけど、僕たちの家は教会や孤児院で家族はそこにいる皆だよ。

 シスター・ヒルダや他のシスター達が小さな子供全員を連れて、街に避難するのには時間がかかるだろうし、モタモタして途中で襲われるのがきっと一番危ない。

 それにとっくに援軍要請は出ているんだから、じきに街の迎撃準備は整うだろうし、仮に教会に敵が(せま)っても結界で防いでるうちに、街の兵士や騎士が横から叩いてくれるかもしれない。

 出城だった立地や結界を利用して街の戦力と協力が出来れば、魔族がいても撃退が多少は楽になるかもしれない」


 僕が立て続けにそう言うと、アマリアはポカンとした表情をしていたがハッと我に返る。


「たしかにそうね。ジグの言う通りだわ。でもそうするには兵士たち……いえ、少なくとも防衛の指揮をする人に話が通ってなくちゃ。どうしたら良いかしら」


 アマリアは頷きキョロキョロと周囲の様子を見ていると、またもや周りがざわめき、兵士の叫ぶ声が聞こえる。


「新しい狼煙(のろし)だ! 今度のはスウサじゃなくトイスの辺りだ! 赤二本…いや今三本に増えた! 黒も一本上がってる!」


 南門の向こうを見るとたしかに、新しい狼煙が上がっているのが見えたし、最初のよりも近かった。


 恐らく砦と街の間にあるという、トイスの集落から上がっているのだろう。

 砦でモンスターの方にも被害は出て数を減らしはしたが、やはり魔族に蹴散らされているのかもしれない。もう教会から皆が避難する時間は無さそうだ。


「まずは南門の兵士長に話をしたらどうかな。モルド神父が不在で、教会からヒルダの代理の使いとして来たってことでさ。

 兵士にせよ騎士にせよ、戦いが楽になるのならそれに越したことはないはずさ。迎撃するのはここになるだろうから、もうすぐ部隊を率いた騎士や軍の指揮官も到着するはずだし、その時に教会のシスターや見習いが言うよりは、兵士長から上の人に申告してもらえるならそれが一番だと思う」


「上手く言えるかしら……緊張するわね」


 僕の話を聞くと、アマリアは表情をこわばらせた。


「仮に教会に敵が来なくても部隊を配置しておけば、南門で防いでる間に教会側から攻撃出来ることを説明して、あくまでも昔は出城だったことや現在は教会だから、単純に普通の建物よりは守りに適した結界があるという利点を伝えよう。

 それに負傷者を建物に入れれば、孤児院の子供達が食事や治療の手伝いなんかも出来ることや、現場の苦労を軽減して被害を減らすために、こちらも協力したいって感じで押せば良いんじゃないかな。

 普通に教会を助けて欲しいって言うよりは、説得力があると思うし」


 アマリアはうんうんと頷きながら僕の話を聞いていた。


「何もせずにこのまま教会だけが襲われるより、部隊がいた方が皆にとっても安全なはずだし、教会の神父やシスターがいつもどんな仕事をして、どんなことが出来るのか、孤児達だって立派に手伝いが出来るってところを見せてやろうよ」


「あなたときたら……もしかしてそれが本音なの?」


 僕は拳を握ってアマリアに伝えると、彼女は呆れたように言う。


「一番の目的は教会にも守備隊が置かれることさ。

 でもこちらから何も言わなければ、敵を引き寄せる餌や捨て駒として扱われることはあっても、わざわざ教会関係者や孤児たちを守ってくれるような、奇特な人は少ないと思うからね。

 もちろん時間があって皆で安全な街に避難できるのが最善だったけど、それはもう難しそうだから現状で自分にとって大事なものが、一番無事でいられそうな手段を考えただけさ。

 もちろん確実ではないし、僕らにとっても兵士にとっても戦いになれば、お互いに命懸けなのはわかっているつもりだよ」


 僕がそう言うとアマリアはその通りだと同意し、門へ向かって歩き出す。


「教会のモルド神父が不在で、代わりの代表者であるシスター・ヒルダの使いとして参りました。兵士長はどちらにおられますか?」


 周りが混乱しているなか、アマリアは近くにいた兵士に尋ねる。


「今は忙しい。今度にしてくれ」


「我々教会は結界を使って、皆様と共に街の防衛に協力いたしたく存じます」


 兵士はこちらを見ると教会関係者だからか難色を示したので、すかさず僕はアマリアの横から口を挟み、頭を下げながら丁寧にこちらの話を伝えて協力を願い出た。


「……こっちだ、ついてこい」


 兵士は少し戸惑っていたが使えるものは使いたいと思ったのか、兵舎の中へと案内してくれた。



「南門の兵士長であるカルストだ。この緊急事態に何用だろうか? 部下からは我々に協力したいと聞いたが……」


 兵舎の一室に案内された僕たちに、兵士長は部下に指示を出す(かたわ)ら尋ねる。

 カルスト兵士長は焦げ茶色の髪と目をした四十歳前後の、鎧姿が似合う男だった。


「現在、教会は代表のモルド神父が不在で、代理をシスター・ヒルダが務めております。私たちはその使いとして参りました」


「モルドってもしかして……」「あのバクケンか?」


 アマリアが答えると周囲の兵士たちがこちらを見て、何やら(ささや)く声が聞こえたが、僕には意味がわからないし今はそれどころではない。


「ふむ、聞こう。それで具体的には何をどうする?」


 こちらを窺うような表情になったカルストは、椅子に座り机に肘をついて指を組みながら、続きを促す。


「はい。魔族がモンスターを率いてこちらに向かっていると聞きました。先ほど新たに狼煙が上がったのも存じております。

 こちらからの提案は……昔は出城であった利点を活かして教会に部隊を配置していただき、地形と街との位置関係、そして我々が張る結界を利用して敵を防ぎ、また挟み撃ちにするという提案です」


「ほう……」


 少し意外そうな顔をしたが、カルストは興味を示した。それを見てアマリアは続ける。


「南城壁で敵を受け止めれば教会に配置した部隊が敵の側面を突き、教会が狙われれば結界で耐えてる間に、今度は街から攻撃部隊を繰り出して側面や背後を突けます。

 また、壁外での負傷者は街だけでなく結界内の建物にも収容できますし、負傷者のお世話には結界の維持には就かない見習いや、孤児達が協力出来ます。

 そうすれば正面から敵と戦うよりも、最終的な被害が少なく済むかと思われます」


 先ほど決めた伝えるべき事を、震える声でなんとか言い終えてアマリアは一息つく。


「ふむ。理にかなっているが一つ気になる。

 皆でさっさと街に逃げ込み、住民と共に城壁内部に隠れ、戦いは騎士団や軍に任せていれば一番安全であろう。

 危ないことがわかっていて、教会はなにゆえ我々に協力を申し出るのか正直なところを聞きたい。何か望みでも?」


 カルストはアマリアに問う。

 アマリアは正直に全て打ち明けて良いものか迷ったのだろう、チラリとこちらを見た。

 目の前の兵士長だけでなく、何人もの兵士が見ている中で話すのは不慣れなこともあって、非常に緊張するのだろう。

 汗をかいて、もういっぱいいっぱいな顔をしているのは流石に気の毒だ。


 僕もこういうのは苦手なんだけどなぁ……でも女の子に全部任せっきりも良くないかと考え、一歩前に出る。


「あの、発言しても良いですか?」


「む? 聞こう」


 僕が尋ねると少し驚きながらも、こちらを見たカルストから許しが出た。


「兵士長の(おっしゃ)る通り、実際のところはそれが良いとは思っていたのですが、トイスから狼煙が上がった時点で諦めました。

 孤児院には赤子や幼児もいて、彼等を全員連れて街へと避難するには、恐らくもう時間がありません。しかし見捨てるなんて考えは毛頭ありません。

 そして避難が出来ないならば教会の土地建物も含め、そこにいる我々の家族が無事にこの襲撃を乗り切るには、一体どうしたら良いかと考えた結果、兵士の方々と協力して共に戦うしかないと思ったのです」


 僕は身振り手振りを加えながらそう言い、更に続ける。


「先ほど最初に兵士の方に声をかけた時に一度は断られたことからも、教会や孤児院の者達は立場が弱く、街を守るにあたっては優先度が低いでしょう。

 なので単純にこちらから助けをお願いしても無視されるか、捨て駒として扱われるのが関の山かと思っています。

 それならば自分達の出来ることを示して協力を申し出て、それによって街の方々が得られる利益を認識していただき、そこに多少なりとも価値を見出してもらえる方が、皆が助かる可能性が上がると思ったのです。

 僕達は家族と住む家を守りたいのです。モルド神父にも留守を任されましたし……」


 最後はアマリアの方をチラリと見ながら言うと、アマリアも少し嬉しそうに笑って頷いた。


 僕の話を聞いていたカルスト兵士長は、最後のアマリアと僕のやり取りを見て、ガバッと立ち上がった。その顔は驚いたような、何かに気づいたような表情をしている。


「その赤い髪はまさか……。娘、お前の名前と年齢は?教会にはいつからいる?」


「は、はい。私はアマリアと申します。

 幼い頃に孤児院へ入って育てられ、成人してそのままシスターになりました。今年で十七歳になります」


 カルストが質問すると、突然のことにアマリアも驚いた様子で答えた。


「!!……アマリア、両親の名前は? 孤児院に入る前にはどうしていた?」


 アマリアの答えを聞いて、更に目を見開いたカルスト兵士長は質問を続けた。


「両親の名前は存じません。幼かったのでその頃の記憶もほとんど残っておりません。ですが孤児院へ来た時に、これを持っていたのは確かです。

 モルド神父からは両親の形見だから大切にするように、片時も外さぬようにと厳しく言われております」


 そう言って左手を差し出して人差し指にはめてある、銀色のリングにアマリアの髪と同じ、赤色の宝石のようなものがついた指輪を見せた。


「おおぉ……そうか、わかった。

 お前達の申し出は私から必ず上申(じょうしん)し、何としても話を通そう。

 そういえばモルドが不在と言っていたな? 向かったのはこの前に襲撃があったイスフォレか?」


 カルスト兵士長は指輪を確認し、どっかりと椅子に座って目を(つむ)りゆっくりと何度も頷くと、こちらの提案に対してそう告げ、モルド神父について質問した。


 何が何やらわけが分からないといった様子のアマリアは、質問が頭に入って来なかったのかポカンとしていて反応が無い。


「昨日の早朝にイスフォレへと向かいました。早ければ今日の日暮れか、明日の朝には戻るかと思いますが、ハッキリとした予定はわかりません」


 アマリアの代わりに答えた僕の言葉を聞くとカルスト兵士長は、まだ間に合うかもしれんな……と呟いた。


「よし、ではただちにイスフォレに早馬を出せ!

 替え馬も忘れるな。モルドに合流次第、早く戻るよう伝えて馬を与えろ。

 時間が惜しいから事情は戻りながら説明して、納得しなければ俺の名前を出して、また失敗するのかと言ってやれ。ヤツはそれですぐに動く」


 カルストはテキパキと部下に指示を出し、こちらを見る。


「先に俺の部下を数人付ける。まずは彼らと共に教会へ戻り、あちらの態勢を整えて追加の部隊を待て。俺は今回の指揮官のもとへ行ってくる」


 真剣な顔つきでそう言いながら支度をし、部下に命令を下してカルストは部屋を足早に出て行った。

その1と比べると随分と長くなってしまい、完全に配分をミスりました。兵士長に会う直前まではその1でも良かった気がします。それでも倍近いですが(笑)


もしかしたら近々、閑話として考えていた公開処刑中の買い物風景の部分を、その1の冒頭に追加するかもです。

(↑2020/8/14に加筆しました)


とりあえず、どうにか話し合いは終了。

兵士長からは色よい返事がもらえました。


気になる部分もチラホラ出てきましたが、ジグとアマリアには、ちんぷんかんぷんです。

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― 新着の感想 ―
ゆっくり進んでいくかと思ったらこの急展開! どのようにこの窮地を乗り越えていくのか(゜A゜;)ゴクリ カルストの反応も続きが気になるぜ!
[良い点] モンスターが襲来しそうなピンチですが、 どうやらアマリアにも秘密がありそうですね。 [一言] 情景描写や世界観の設定がとても丁寧ですね。
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