第103話 巡回の旅路その21 先生と第三の糸
今後の展開について考えていたら、体調不良でもないのに2日も空くところでした。
多分、後からでは書けないので、今書きたいことを書くことになりそうです。
その分、今回のお話は巻きで進めてます…多分。
イスフォレの村で朝を迎え朝食を終えると、僕たちは二人一組に分かれて早速狩りへと出掛けた。
ちなみに構成は僕とアルテミア、ラジクと神父、アマリアとレストミリアだ。
「今日は糸だけでモンスターを捕らえる練習をしましょう。普段から束縛の糸を使い慣れていればエルフの里の時のように、咄嗟に風の糸を使わなくなるかも知れないわ」
「たしかにそうですね。それと少し試してみたい事があるので、ついでにやってみても良いですか?」
「あら、何かしら。一応、やる前に危険が無いか知りたいから、教えてもらえる?」
たびたび予想外の動きをするらしい僕は、すっかり警戒されているみたいだ。次は何をするつもりなのかと探るような目で、アルテミアがこちらを見ている。
「桜糸や神縛桜糸は浄化と束縛、風の糸や金剛斬糸は貫通と切断に特化したものなのは、もうご存知だと思います。
今回はそれ以外に思いついた事があって、伸縮自在で粘着力のある糸なんかが使えたら、何かと便利かなぁと思いまして」
「現状使ってる糸もかなり伸縮自在だし、対象の動きを制限するなら、束縛の糸だけで足りるんじゃないの?」
「たしかにそうなんですけど、もっとこう…更に柔らかいものを考えてます。
桜糸は張り巡らせていても、結局のところは僕が操作して捕らえないといけませんけど、この新しい糸なら相手が接触するだけでくっ付いて、相手がもがけばもがくほど、勝手に捕まってくれますから」
「それだと蜘蛛の糸みたいね…」
「みたいというよりは完全に蜘蛛の糸ですね。
それに相手が少なければ桜糸で良いのですけど、もし今後たくさんの敵を相手にするとなったら、こっちの方が良いのかなって思ったんです」
「それもそうね。手札が多いに越したことは無いわ。危険も少なそうだし、今日の狩りで練習すると良いわ」
「ありがとうございます。じゃあトドメはアルテミア様に任せて良いのでしょうか?」
「……」
これまで普通に話していたのに、僕がそう言うと何故かアルテミアは不機嫌そうな表情をして、何か言いにくそうにしている。何か失礼な事でも言っただろうか?
「あれ、何かいけませんでしたか?」
「ジグはラジク殿の事を『師匠』と呼んだり、ミリアのことを『さん』付けで呼んだりするのに、どうして私のことはずっと様を付けて呼ぶのよ?」
「ええと、それはその……師匠もミリアさんも、割と最初から堅苦しいのは嫌だと言うので、成り行きで今の呼び方に落ち着いただけなんです。
それにアルテミア様の場合は護聖八騎の偉い人だと思ってるのと、本来師匠やミリアさんのような立場の人を呼ぶなら、様付けが当たり前だと思っているので、本人からの希望が無ければ様を付けますし、口調にもある程度は気をつけますよ」
「なるほどね…。じゃあ私も堅苦しいのは無しで良いわ」
「い、いきなりですね…」
「これまで何だかんだで一緒に旅をしてきたのに、私だけいつまでも様付けなんて、除け者みたいで嫌じゃない。
それともジグにとって弓の先生だけは、別物扱いなのかしら?」
「いえ、別にそういうわけではないですし、指導してもらえるのは他の方々と同じように、とてもありがたい事だと思ってます。
ただ、どこでも態度の変わらないミリアさんは今のままで良いとしても、師匠やアルテミア様の場合は普段の時と、騎士としての立場をとっている公の場での時とで、呼び方を気をつけないといけませんから、さん付けで呼びにくいんですよね。
だから師匠もラジクさんにしないで、間違えても良いように師匠と呼ぶことにしたんです」
「へぇー。案外ラジク殿も気をつけているのね。じゃあ私のことは何て呼んでくれるのかしら?」
「師匠だと被りますからね……うーん、ここは無難に先生でどうでしょう?」
「面白味には欠けるけど、それが一番良さそうね。じゃあ今後私のことは先生と呼んでちょうだい」
「はい、先生。今後とも宜しくお願いします」
「くぅ~!なんか良いわねその響き!
じゃあ行くわよジグ。教え子の捕らえた獲物は先生が仕留めてあげるわ!」
アルテミア様…もとい先生ってこんなキャラだっけ?と思ったが、本人は嬉しそうなので良しとしよう。
そうして狩りを開始して、僕は早速新しい糸の発動に挑戦することにした。
魔力のイメージとしては蜘蛛の糸という、すでにこの世に存在するものを思い浮かべれば良かったので特に難しいことはなく、それに加えて高い伸縮性を持たせるのも、桜糸ですでに習得しているのですぐに出来るようになった。
『自在粘糸!』
伸縮自在で粘着力のある糸ということで、何となくしっくりくる魔法名を付けて発動させると、見た目は桜糸とほとんど変わらない糸が放たれた。
それは巻き付けなくても対象に接触するだけでくっつき、モンスターが糸を引き千切ろうとして暴れたり、噛みついたりするたびに纏わり付いて、
すぐに動きを封じる事に成功した。
「あら、早いじゃない。もう出来たの?」
捕らえられたモンスターの頭に矢を撃ち込みながら、アルテミアが木の上から降りてきた。
「はい。でも瞬時に捕獲とはいきませんね。
暴れずに落ち着いていれば多少の反撃くらいは出来てしまうので、動きのある敵や逃げ相手に使ったり、風の盾と併用した方が良いかも知れません」
「完成しても油断せずに考えるのは良い事だわ。想像力は武具と同じで、使い方によっては敵を倒す武器にも、自分の生存率を上げる防具にもなるから、常に考える癖を付けるのは大事ね」
「はい。引き続き考えながらやってみます」
途中でアルテミアが糸に引っかかり、逆さまの状態で宙吊りになったりもしたが、その後も粘糸を使いながらしばらく狩りをしてから、僕たちは村へと戻ることにした。
「あれだけの粘着力があるのに、魔力を切れば綺麗さっぱり消えるんだから便利よね」
「逆に言えば、魔力切れを起こすと敵の拘束も解けちゃいますから、何か工夫をしたいところですね」
「あら、それなら……いえ、何でもないわ」
「えぇっ!気になるじゃないですか。教えてくださいよっ」
「これは宿題にするわ。改善点が分かったら先生に報告するように。何事も自分の頭で考えるのが大事よ」
アルテミアは先生らしいことをしたかったのか、左手を腰に当て右手の人差し指を振りながら言う。
「むぅ…そう言われたら仕方がないですね、わかりました」
そんなやり取りをしていると他の4人も戻ってきて、それぞれ素材や魔石を持っているので、これなら良い装飾品を作ることが出来そうだった。
いつものように素材を村長に渡し、僕たちは荷馬車に乗り込んで村を出発した。
途中で街道沿いにあるイスフォレの狩猟集落にも立ち寄り、アルテミアが村人に近況を聞き、モルド神父が結界を張って、休憩を挟んでからリッツソリスへと向かった。
森の入口にある監視塔を通り過ぎると城壁が見えてきて、僕たちは暗くなる頃にようやく街へと到着した。
「なんだか凄く久しぶりな気がするね」
「そうね。皆に土産話がたくさんあるし早く会いたいわ」
久し振りの街を見て僕とアマリアがホッと息をつくと、皆も荷台から降りてくる。
「各自で戻る方向が違うでしょうから、この東門で解散しましょう。
私は騎士団や王宮魔導師の所に、報告書と魔石の提出をしてくるから、ラジク殿はそのまま荷馬車で商人ギルドの方に行って、素材の売却と荷馬車を返してきてもらえるかしら?
ダリブバールの商人なら大抵一人はいるはずだから、理由を話して執政官の手紙を渡せば、持ち帰ってくれるはずよ」
「わかった。用件が済んだら俺は、教会で代役を務めている者達に礼でも言いに行くとしよう。団長には明日にでも顔を出すと言っておいてくれ」
「わかったわ。じゃあ皆、お互いに長旅お疲れさま。今後の訓練については近いうちに一度、話し合いの時間を設けたいのだけれど、どうかしら?」
アルテミアの提案に指導役の3人も頷く。
そうしてアルテミアとラジクが別れを告げ、それぞれ移動を開始すると、荷物を背負ったレストミリアもやって来た。
「じゃあ私も治癒術士棟に顔を出して来ようかな。皆がアマリア様の話を、それはもう首を長~くして待っているはずだからね」
「えっ…ち、ちょっとミリア、一体何を話すつもり?」
「アマリア様の訓練の模様や成長はもちろん、寝顔のスケッチや着替えの様子、初めての景色を見てはしゃぐ姿や道中でどのような事をしていたかまで、それはもう事細かに書き記してあります。このレストミリアに抜かりはありません!」
ミリアさんがそう言いながら懐から出した本には、アマリアの旅の様子が詳細に書き記されているらしい。
旅の中でそんな事をしていたなんて誰も知らなかったようで、アマリアだけでなく皆ドン引きしているが、レストミリアのアマリア愛を考えれば、していても不思議では無かったね、うん。
しかしそんなレストミリアの努力の結晶は、皮肉にも自身が教えた熱線魔法によって、瞬時に丸焦げにされた。
アマリアに奪われないようにと、両手で高々と掲げていたのが仇になったね。普通に持っていたら危なくて撃てなかっただろうに。
「ああぁぁぁっっ!!」と悲痛な叫びを上げるレストミリアと、「ふぅーっ!、ふぅーっ!」と息を荒げるアマリアが対照的だった。
レストミリアはその場で膝をつき、うな垂れて反省しているのかと思いきや、そんなことは全くなく、頭の中に刻み込んでいるから大丈夫だと言って立ち上がると、張り切って治癒術士棟へと向かっていった。
レストミリアの脳まで消し炭にするわけにはいかないアマリアは、もう呆然としながら見送るしかなかった。
「アマリア、あの状態のレストミリア殿は誰にも止められん、もう諦めるしかあるまい…」
「そ、そうですね。私たちも帰りましょう…」
さすがに気の毒に思ったのか、珍しくモルド神父がフォローしていた。
東門からだと少し遠回りにはなるが、アマリアの気晴らしも兼ねて、僕たちは久し振りの街を眺めながら教会へと戻った。
ヒルダや皆に帰宅を告げ荷物を片付けていると、素材の売却や荷馬車を返却を済ませてきたラジクがやって来た。代わりの騎士達にはすでにお礼を述べてきたらしい。
「師匠、どうかしたんですか?」
「いや、久し振りの教会だからたまに皆の顔を見たくなったのと、訓練について少しな」
「何か予定でもあるんですか?」
「恐らく二、三日は俺もアルテミア殿もレストミリア殿も、留守の間に溜まった仕事に忙殺されるだろうから、その間はお前も休んでおくと良い。
その後は我々の話し合いで予定を組むが、俺としては少し考えがある。楽しみにしておけ」
ニヤッと笑う師匠の顔は見覚えがある…これは楽しんでいる時の顔だ。絶対に何か企んでいる。
「師匠、悪い顔をしてますよ。一体何を企んでいるんですか?」
「それは内緒だ。恐らく皆の賛同も得られるはずだから、お前はゆっくり休んでおくように」
何か企んでいるのは確定したが、訓練の好みが似たタイプのモルド神父や、割と何でも経験すべきというレストミリアはいいとして、アルテミアも納得するとなると、一体どんなことを考えているのか凄く気になる。
しかし、指導者たちの話し合いも終わらないうちから、僕が食い下がっても無駄なので切り替えることにした。
その後は僕たちが荷ほどきをしている近くで、ラジクがシスターや子供達に旅の話をしたり、皆で夕食を食べて過ごした。
はしゃいでいた子供達が寝るとラジクも街へと帰っていき、僕やアマリアも旅の疲れが出たのか早めに寝ることにした。
久し振りの我が家でリラックスしたのか、その日は夢も見ずに深い眠りについた。
地味に距離の近いラジクやレストミリアを、羨ましく思っていたアルテミアとも、これまでより少し仲良くなり、新しい糸の開発にも成功しました。
レストミリアによるアマリアの記録は、その後ふたたび書き記されて治癒術士たちのあいだで読まれ、密かに人気の本になりました。
ようやく巡回の旅も終わりましたが前書きでも書いた通り、やはりすぐには第二部に行けなさそうです。すみません。




