第102話 巡回の旅路 その20 見送りと夜話
誤字報告ありがとうございます。
たまに見てはいるのですが探しているうちに、永遠に終わらない間違い探しをしている気分になるので、気づいていないところを教えていただけるのは、本当に助かります(笑)
翌早朝、僕たちは皆に見送られながら里を出て馬で大森林の入口を目指し、来たときと同じようにイリトゥエルが、数人のエルフを伴って同行している。
荷馬車の馬でもたまに練習していたので僕は問題なく乗れたが、アマリアは1人で乗るには危なっかしいのでレストミリアと一緒に乗っている。
アマリアはモルド神父と一緒に乗りたそうだったけど、モルド神父と誰かが乗ると馬が可哀想なので却下された。
とは言えアマリアに後ろから抱きつかれた状態で、馬を走らせているレストミリアの方も、恐らく遠からず貧血で倒れるのでは無かろうか。鼻栓をしてはいるが鼻血は止まらないし、あんなに興奮状態が続いては身が保たないだろう。
途中で休憩を挟んだ後も本人はまだ頑張るつもりのようだったが、見た目からしてそろそろ限界だと言うことで、アマリアはアルテミアと乗ることになった。
その後も時折休憩をとりながら順調に進み、昼過ぎには大森林の入口に到着した。
「私たちはここまでですね。皆さん、この度も色々とお世話になり、本当にありがとうございました。皆を代表し、改めてお礼を言います」
「いえ、私たちにとっても非常に有意義な時間を過ごせました。これからも共に協力していければと思っております」
イリトゥエルとアルテミアが互いに挨拶を済ませると、イリトゥエルがこちらにやってきた。
「ジグ、それにラジク様も。ファルディエのこと本当にありがとうございました。また昔のように仲良く出来そうで、私も父も感謝しております」
「俺はまぁ言いたいことを言っただけだからなぁ……あ、もし貸しになるなら里長とコソコソしていたことでも、帳消しにして貰えればそれで良い。もちろん里長への説教も、な」
「まあ!帰ったらと思っていたのに残念です。
…でもそれで手を打ちましょう。お二人も私の事を考えての事でしょうから」
「それは助かる。里長にもよろしく言っておいてくれ」
ラジクはそう言うと用は済んだとばかりに離れていった。
「ふふっ、父にも友と呼べる人が出来て良かったです」
「あんまり仲が良すぎると、師匠の緩いところが里長にも伝染しないか心配ですよ…」
「私としては、以前より父の考え方が柔軟になって良いと思いましたし、今回の件で色々と改革に着手できるのも、良い影響を受けたからだと思います。
でもそうですね…あまり度が過ぎるようでしたら、私や周りが止めることにしましょう」
「それなら安心ですね」
ラジクの後ろ姿を見ながら二人で話していると、イリトゥエルが少し真面目な表情をしたので、僕も切り替える。
「色々とジグの知らないところで話が進んでしまいましたが、ご迷惑ではありませんか?」
「ファルディエのことなら、別にもう気にしなくて良いですよ。僕も殴ってやりたいと思って戦うことにしたんですから」
「いえ、そうではなくて……その、私が里の外に出る件についてのことです…」
「…まぁエルフや里のためになることと聞いてますし、教会も1人増えたところで問題無いですし、アマリアも友達が近くにいれば嬉しいでしょうから、大丈夫だと思いますよ」
「そういうことではないのですが…。むぅ…この人はわざと言ってるんでしょうか…」
「はい?」
「べ、別に何でもありません!」
「ところでイリトゥエル様、その里を出る時期なんですが、いつ頃になりそうなんですか?」
「あくまでファルディエの事が上手くいけばの話ですが……早くても1年以上はかかると思います。
再建する騎士団の方も、ある程度までは形にしなくてはいけませんし、それ以外にもやることが山積みですからね」
「あまり無理しないようにしてくださいね。他の人に任せられることは任せて、適度に休まないとダメですよ?
ただでさえイリトゥエル様は、1人で抱え込むタイプなんですから」
「あら、心配してくれるのですか。そうですね…肝に銘じておきます。ふふっ」
「なんで楽しそうなんですか…」
「これから色々とやりたいことがあるので、その事を考えるとワクワクしてしまって」
イリトゥエルの表情が、なんだか強い敵と戦っている時のラジクや、アマリアについてあれこれ考えている時のレストミリアに通じるものがあったので、僕は少し…いや、かなり心配になってきた。
「………里長やファルディエにも、あまり無理をさせないようにしないとダメですよ。
今のイリトゥエル様について行ける者は、かなり少ないと思いますから。強いて挙げるなら会議の時にいた、あのエプロン姿のおばさんくらいだと思います」
僕は会議の時に戦士長を圧倒していた、エネルギーの塊みたいなエルフのことを思い出す。
「あぁ、ガラドエルですか。そうですね…彼女なら何でも出来そうです。なにせ彼女は最年長かつ里で最強のエルフですから、何事にも経験も豊富です」
「え?最年長?」
「はい。私たちエルフは長く生きていると精神が老成していき、それに伴って体も老いていくのですが、彼女のように精神が若く保たれていると、あの様に見た目もそれほど老いていかないのです。
たしかとうに2000歳を超えていて、長老衆の代表とは同世代と聞いていますが、あの2人を比べてもそうは見えませんよね。ふふふっ」
「エルフが長生きとは聞いてましたけど、見た目にそういった秘密があるのは知りませんでした。
それに最強と言いましたが、僕の記憶では戦場に出てなかったと思うんですが…」
「ガラドエルは基本的に、引退した者としての立場を崩しませんから、何かあっても大抵は若い者がどうにかするように、と言うのです。
しかし決して薄情なわけではなく、あの時は里と非戦闘員を守るために里の最奥、結界の魔道具のある部屋にいたはずです。
彼女がいれば余程の相手でなければ、最悪の場合でもそこだけは死守できますから」
「そう言えば、あの時は非戦闘員の姿がありませんでしたが、そういうことだったんですね」
「はい。例え私たちが敗れたとしても、兄が魔道具を手に入れるのはほとんど不可能だったでしょうね。
……そうですね…彼女をどうにかして動かせられれば、騎士団の再建も早まりそうです…よし、この件についても少し考えてみましょう!」
また何か思いついたらしいイリトゥエルは、その緑の瞳に野望の炎を燃やしながら、グッと拳を握り締めた。
その後イリトゥエルは、モルド神父やアマリアの方へと行き、話をしてから何やら渡していた。
それぞれが挨拶を終えて馬を返し、先に来ていたエルフから荷馬車を受け取ると、イリトゥエル達は里へと戻っていった。
僕たちも御者をラジクに任せると荷馬車に乗り込み、イスフォレの村へと向かうことにした。
「そう言えばアマリア、イリトゥエル様から何か受け取っていたみたいだけど、どうかしたの?」
今回の荷馬車の旅ではいつも、外の風景に夢中なっていたはずのアマリアが、珍しく荷台にいたので聞いてみた。
「戻ってからでも良いと思ったのだけど、見ていたならちょうど良いわ。はい、これ」
アマリアが小包を取り出すと、僕に渡してきた。
開けてみると中には、青々とした葉が6枚入っていた。
「これってもしかして、霊樹の葉…?」
「そうよ。今回のモンスター討伐のお礼や、色々と迷惑をかけたお詫びとして、1人1枚ずつどうぞってイリトゥエルちゃんがくれたの。
ジグはきっと受け取らないから、とも言ってたわね」
すでにアマリアとイリトゥエルは互いに、姉様、イリトゥエルちゃん、と呼び合う仲らしい。
今回の旅で色々なところへ行き、たくさんの人と出会ったことで、アマリアが一番成長したのかも知れない。
教会にいる人間の他には街の店主と門番くらいしか、ほとんど交流が無かったアマリアだが、かなり社交的になってきていた。
「それはそうだよ。かなり貴重だと聞いているし、前に僕らに渡したものや王に献上したのを合わせたら、かなりの数になるし…これは相当無理をしてるんじゃ…?」
「ジグが寝ているときに装備を見て、薬が無いのを気にしていたから、イリトゥエルちゃんも心配していたのよ。
神父様も、そんなに貴重なものを人数分も貰うわけにはいかないと、一度は断ったのだけれど、ジグとジグの周りにいる人に、自分が出来ることはこれくらいしか無いからって言って…」
「うむ…あのような顔をされては、さすがに俺も断れなかったのだ。彼女の気持ちを汲んでやるべきだろうし、すでに受け取ってしまったのだから諦めろ。
そうだな…もし何か返したいと思うのなら、今後の途中で素材を集めて街で換金し、教会にある魔石を持って工房に持ち込んで、装飾品でも依頼すれば良い。
出来上がったものにお前の盾魔法でも込めて、商人や任務でエルフの里の方へ向かう騎士にでも依頼して、届けてもらえば良い」
「それは良いですね。イスフォレへの森には弱いモンスターしかいませんけど、指輪や首飾りの代金にはなりますし、イスフォレ村の周りで狩りをすれば一石二鳥ですね」
「それなら霊樹の葉は全員分あるのだから、皆で手分けしてやりましょう。どうせなら細かくても良いから魔石も集めて、サイモンにでも頼んで合成してもらえば、質の良い魔石に出来るわ」
アルテミアがそう言うと、サイモンの名前に反応したモルド神父とレストミリアが、苦い経験を思い出したのか凄く嫌そうな顔をした。
「そ、それは良い考えだけどアルテミア、サイモンへの依頼はもちろんキミがしてよねっ!?」
「う、うむ。俺は王宮に軽々しく行けんし、ここは護聖八騎のアルテミア殿が適任だろう。うむ、適任だとも」
「まぁ別に良いけど…2人ともどうかしたの?」
明らかに様子がおかしい2人を、アルテミアが不思議そうに見て言った。
「い、いや?別に何にも無いよ?」
「うむ、特に問題は…ない…」
2人は共に否定するが、レストミリアは声が裏返っているし、モルド神父は明らかにテンションが低かった。変人賢者恐るべしだね…。
これからの予定も決まり、その後はラジクと交代したモルド神父と、その隣にはいつものようにアマリアが座って景色を眺めていた。
イスフォレへの大草原も基本的には平和な地域なので、僕たち荷台組ものんびりと過ごして、イスフォレ村へと向かっていった。
日が暮れて辺りが暗くなってから、僕たちはようやく村へと到着し、いつものようにアルテミアが村長と話をしてモルド神父が結界を張り、歓迎の宴が開かれた。
イスフォレくらいリッツソリスに近くなると、お菓子はそれほど変わらないのか、モルド神父は少し残念そうだった。
酒なら何でも良いらしいラジクとレストミリアは、いつも通り村人と騒いでいる。
そろそろ報告書をまとめなくてはならないアルテミアは、用意された部屋へと早めに戻って書類仕事をしていた。
僕とアマリアは焚き火を見ながら座っていたが、やがてアマリアが話し始めた。
「今までラジク様や神父様と出かけていたのは知っていたけど、ジグが実際にどんなことをしているのかまでは、よく知らなかったわ。
でも今回の旅で少し分かった気がする。
ジグは色んな所へ行って、たくさんの人を助けてきたのね。とても偉いし凄いことだわ…」
「僕はいつも師匠や神父について行ってるだけさ。それにその時やれと言われたり、やるべきだと思ったことを、どうにかこなしてきただけだよ」
「それが凄いのよ。私ならやれと言われても簡単には出来ないし、自分でこうしたら良いなんて、なかなか決められないもの…」
「そう?アマリアが腹を括ると、僕なんかよりよっぽど肝が据わってると思うけどね?
兵舎でモルド神父に怒ったときも、ミリアさんに自分のことを聞かされたときも、訓練を始めてからの頑張りも、街で師匠に食い下がった挙げ句カルスト兵士長に魔法を突きつけたときも、黒骸王との戦いで負傷者で溢れかえってた北門近くでも、何だかんだでアマリアも決断してるし、結構な無茶もしてると思うよ?」
「そ、そんなに無茶はしてないわよ!それに大抵はジグが一緒にいて引っ張ってくれたり、応援してくれてたでしょ。
それにいつも平気な顔して帰ってくるから、そんなに危険は無いのかなと思ってたけど、散々現地で倒れて休んでから戻ってきてたのも、初めて分かったわ。
シスター・ヒルダが知ったら卒倒するから、絶対に教えちゃダメよ」
「あー、たしかに現地で倒れてるね…。うん、ヒルダには内緒にしておこう。
それにしてもアマリアも、だいぶ出来ることが増えてきたんじゃない?」
「皆に比べたらまだまだだけど、そうねぇ…回復魔法に盾魔法に浄化魔法…それと幻影魔法に魔力弾くらいかしら。
熱線魔法と身体強化は一応出来るってだけで、まだまだ苦手だわ…」
「訓練を始めてから1年経たずにそれだけ出来れば、普通は十分だと思うよ…」
「それを言うならジグの方が色々と出来るじゃない。それに比べたら私なんてまだまだよ」
「まぁ僕の場合は鬼教官が2人もついてて、死ぬような目に遭いながら訓練してるからね…。
アマリアにはさすがに危なすぎて、神父はもちろん、ミリアさんや師匠もそんなことはさせないと思うよ」
僕は遠い目をしながらこれまでのことを思い出すと、よく死ななかったものだと我ながら感心した。いや、本当に。
「たしかに私にはついて行けないわね…。
エルフの里や大森林での戦いでも、前線に立つのは無理だと改めて思ったわ」
「アマリアにはアマリアの、僕には僕の出来ることを、それぞれ一生懸命やれば良いと思うよ。
出来ないことを無理してやろうとすると、大抵は周りに迷惑をかけるからね」
何度も無理や無茶をして気絶してきたことを考えながら、僕はしみじみと言う。
「何だか実感の籠もった言葉ね…でもたしかにそうだわ。私は私にしか出来ないことを探して、それを精一杯やることにするわ」
焚き火に照らされて更に赤さを増した目を輝かせ、両手をグッと握り締めたアマリアが言う。
その姿は昼間見たイリトゥエルのようで、僕は2人が仲良くなった理由が少し分かった気がした。
色々あったエルフの里を出発し、一行はイスフォレへと向かいました。
個人的に荷馬車の旅はのんびりしていて好きですが、やはり盛り上がりには欠けますね…。
一応わかり易さを心掛けてはいるのですが、イリトゥエルやファルディエを初めとして、他の人物の心境の変化や、ジグやアマリアの成長を上手く描けているか、少し不安ではあります。
もし何かご指摘や、不明な点などございましたら、遠慮なく下さいませ。




