第99話 巡回の旅路 その17 嫁取決戦
気がつけばこの回が99話です…。
最初に思っていた以上に話が膨らんでしまいました。
とは言え今のこの流れが良いのか、早く二部に行った方が良いのかが不明なので、クレームがつかない限りは、このまま思いつくままに進んでみようと思いますっ(錯乱)
里長やイリトゥエルをはじめとしたエルフや、師匠たちと心配そうなアマリアが見守るなか、僕は剣を抜き、ファルディエは反りのある2本のナイフを両手に構えて向かい合い、互いに相手の出方を窺っている。
戦う前には、力の差を思い知らせてやる!とか言ってたけど、いざ戦闘が始まると先ほどまでとは顔つきが別人のようだし、隙が無いというか攻めにくい。
ファルディエの言動はアレだけど、本当に里長を目指すに足るだけの訓練は積んでいるのかもしれない…。
僕は相手に対する認識を改め、苛立ちのまま戦うのではなく、しっかりと気を引き締めることにした。
「まずは小手調べだ」
ファルディエがそう言った瞬間、2本のナイフを素早く振って風の刃を飛ばしてきた。
こちらも同じく風の刃で迎え撃ち、双方の攻撃がぶつかり合うと、1発の威力ではこちらが勝っているようだが、手数は向こうが多いため互いの攻撃は見事に相殺された。
続いて魔法を放つと同時に駆けだしていたファルディエが、風の魔法剣で斬りかかってくる。
こちらも風の魔法剣でそれを受けるが、2本のナイフは次から次へと流れるように攻撃を繰り出してきて、頬や腕を斬りつけた。
「くっ……はぁっ!」
このまま防御していては削られるだけなので、僕は身体強化して強打を叩き込む。
ファルディエはそれを両方のナイフで受けるが、予想以上の威力だったらしく少し仰け反り、そのまま地面を蹴って一度距離をとった。
「なかなかやるじゃないか。話には聞いていたが、ギリラウを斬りザグエルに深手を負わせたというのも、どうやら嘘ではなかったようだ」
「お褒めにあずかり光栄だよ。それにそっちこそ、大口をたたくほどのことはあるみたいだね」
前にナイフ使いとは戦っているけれど、あれから随分経つし自分も成長していることを考えると、カナレアを誘拐したハイワーシズの刺客とは比べ物にならないほど、ファルディエは強かった。
「だから言ってるだろう?里長になるのは俺だ」
「いや、別に僕は里長の座を巡って戦ってるわけじゃないんだけど…」
僕たちはジリジリと動きながら、再び互いの出方を窺う。
「なら大人しく負けを認める事だな。そうすれば痛い目に遭わなくて済むというものだ」
「それはそうかも知れないけど、里長の座はともかく、イリトゥエル様への暴言に対しては到底受け入れられないからね。負けを認めるつもりはないよ」
会話を続けながら僕は魔力を溜めていく。
「なら腕や足の1本は覚悟して貰おう!」
すると同様に魔力を溜めていたらしいファルディエが動き、こちらに向かって突進してきた。
それに対してこちらも、足裏に溜めていた風の魔力を爆発させて突っ込んだ。
『エル・ウインドハンマー!』
高速で突進しながらファルディエが知らない魔法を唱えると、直後に風の塊のような突風が直撃して僕は吹き飛ばされた。
単純にこちらの勢いを削ぎ体勢を崩す目的の魔法だったらしく、風の魔法にしては珍しく切り裂かれたりなどはしなかったが、僕が空中でバランスを崩しているところに、更にファルディエが追撃するべく走り込んでくるのが見えた。
「やばっ…『ホーリー・ライト!』」
防御は間に合うか分からないし、間に合ったとしても2本のナイフを捌ける自信が無かったので、僕は咄嗟に眩い光を放つ閃光魔法を唱えた。
「ぐあぁっ!目が……くそ!」
目潰しは見事に成功しファルディエは急停止した。僕はその隙を逃さず、着地と同時に接近戦で一気に勝負をつけようとする。
『エル・メニア・トルネード!』
まだ視界の戻らないファルディエはその狙いに気づいたのか、自分の周囲に複数の竜巻を生み出し、接近を阻んだ。
「あれじゃ盾魔法を張られるより厄介だね…」
どうにか突破しようと風の刃を放つが、魔力をかなり込めたらしく竜巻はビクともしなかった。
こちらが攻めあぐねていると、やがてファルディエは視界を取り戻してしまった。
「今のは危なかった…戦い慣れているようだな」
「まあね…」
「もう手加減は無しだ。全力でいかせてもらう」
そう言うとファルディエの魔力が更に上昇したように感じ、その手の平には雷が発生し始めた。
何か危険な予感がしたので、こちらもすかさず魔力を溜める。
『エル・ライトニング!』
『ホーリー・レイ!』
雷魔法に対して風の攻撃魔法でどこまで通用するか分からなかったので、咄嗟に光の熱線魔法に切り替えたが、判断としては大正解だったようだ。
ファルディエの手からは、ハイワーシズの刺客の使ったものよりも更に上位の雷魔法が放たれたらしく、自分の持つ魔法攻撃の中では威力、貫通力共にトップクラスの熱線魔法でも完全には相殺できず、飛び散った雷が自分の周りに達し、首飾りの守りが発動していた。
「これも防ぐか…ならこれはどうだ!
『エル・サンダー・レイン!』」
ファルディエが更に魔法を唱えると、今度は僕のいる一帯を無差別に攻撃する落雷が起こり、それを防ぐことが出来ずに直撃を受けてしまった。
「ぐっ…!うぅぅ…」
激しい痛みと痺れを感じながらも、属性身体強化で軽減してどうにか耐える。
その機を逃さずファルディエは更にもう一度同じ魔法を唱えるが、二度も続けて喰らうわけにはいかないし、流石に今度は対策をとれる。
「自分の使った範囲魔法を、全部そっくりそのまま返してやる!…『因果応報の盾!』」
ファルディエの雷魔法が発動されると同時に、僕は特大の風の盾を作り出した。
自分に直撃するものだけではなく、辺り一帯に降り注ぐ雷を全て弾き返すためだ。
加えて今回は、ダリブバールでメラリオに破られた時から改良すべく考え、そして思いついた工夫も試しに使っている。
これまで竜巻のように渦巻く風をドーム型に張っていた風の盾だったが、今自分の周囲に張られているのは、それよりも更に回転速度を上げている半球型の嵐だ。
ゴォォッ!という感じの音だった風の盾に対して、改良版の因果応報の盾はキュィィンッ!とモーターのような音を鳴らしている。
そうして雷が辺りに落ち始めると、応報の盾はそれらを全て弾き返した。
雷魔法はただでさえ着弾速度が速いのに、弾き返されて更に速度が上がっていると避けるどころの問題ではないらしく、ファルディエは属性身体強化で耐えつつ、途中から風の盾魔法を発動して防いでいたが、それも貫通して雷の雨を受けていた。
「があぁぁぁっっっ!」と雄叫びのような声を上げながら、風の属性身体強化でどうにか耐えていたファルディエだったが、雷の雨がやむ頃には魔力をほとんど使い切ったのか、身体強化も解除され倒れていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…た、たしかに前より防御力は高いけど、消費魔力がとんでもないや…。
もっと魔力量が増えるまでは、これを使うのは本当に危ない時だけにしよう…。
ところで、これって僕の勝ちで良いのかな?」
ファルディエは倒れたままだし、見た感じはもう戦えそうにない。僕は少し離れたところにいる里長の方を見るが、難しい表情をしているだけで近付いては来ず、まだ勝ち名乗りは上げてくれそうになかった。
……え、まだやれと?ファルディエはズタボロだし僕も疲れたから、もう十分じゃない?
これからどうしたら良いのだろうと考えていると、予想外なことにファルディエが立ち上がった。しかも全身から魔力が溢れ、風が巻き起こっている。
「なっ!……まだ魔力が残ってるの?っていうか、なんで立てるの!?」
「俺は神からの恩恵によって、普通では有り得ないほどの魔法耐性を持っているのだ。まぁそれでも今の攻撃はかなり危険だったがな。
しかしそれに加えて俺は、敵の攻撃魔法を吸収して魔力に変換する、特別な魔道具も持っていたのだ。
まさかあれほどの攻撃を受けるとは想定してなかったせいで、全て吸収しきれずに許容量を超えたのは計算外だった。
しかし魔道具が壊れるほどの魔力を吸収していれば、ダメージを受けても片っ端から回復魔法を使えば良いだけだ」
ファルディエの左腕には、ヒビ割れて崩れ始めた腕輪型の魔道具があった。
かなりのダメージを与えたはずなのに、それを吸収して魔力にされたんじゃあお手上げだ。
実際、こちらの魔力は残り少ないのに対して、ファルディエの方はダメージは回復し続けているし、魔力もたっぷりとあることだろう。
「ははっ…参ったねこりゃ…」
「今さら降参しても遅いが、そうだな…指輪を差し出し跪いて許しを乞えば、考えてやらないこともないぞ?」
視線を移して里長の隣にいるイリトゥエルを見ると、諦めたような暗い表情で頷いていた。
あぁそうか。魔道具のことや特殊な恩恵のことを知っていたから、イリトゥエル様は止めようとしたんだね。
そして里長は知っていたからこそ、里の他のエルフでは身分的にも、そして実力的にもファルディエには敵わないと分かっていて、僕に託したのか。
なら諦めるわけにはいかない。今だってイリトゥエル様ときたら、自分の将来よりも僕の心配をしているんだから。
それに里長の希望もついでで良ければ叶えてあげよう。王宮ではイリトゥエル様と一緒になって庇ってくれたらしいから、恩返ししなくちゃだしね。
「ファルディエ、キミは強いね。
実のところ、自分ではかなり戦闘経験を積んでいると思ってて、結構自信があったんだ。
相手が訓練を受けた大人や騎士でもなければ、相手が同年代ならそうそう負けることはないんじゃないか。それがたとえエルフでも、子供に負けることはないだろうと。
でもキミは魔道具が無くても十分強かったし、それは真面目に鍛練を続けていなければ身に付かない実力だと思う。その点だけは認めるし尊敬できると思う」
「今更何を言っている。そんなお世辞を言っても指輪を渡して謝らねば許さんぞ?」
「別にお世辞じゃないさ。それに認めてるのは強くなるための努力だけであって、それ以外はクソ野郎だと思ってる。
今の考えが変わらないなら、イリトゥエル様を大事に出来ないなら、里長になるのは諦めることだ。
僕は負けてやるつもりは無いし、これ以上戦うならキミがさっき言っていたように、腕や足の1本は覚悟して貰うことになる」
「寝言は寝てから言え。今のお前に何が出来る?今の俺の魔力とお前の魔力で戦えば、どうなるかもわからんのか?」
「…わかった。ならもう何も言わないよ。
…『神縛桜糸』」
僕が話しているあいだに不意討ちで突進してきたファルディエを、僕は糸で絡め捕った。
「な…なんだこれは…?」
「魔法耐性だっけ?特殊な恩恵のことを自慢に思っていたようだけど、そういう力を持つのはキミだけじゃない。
それに今回は自分の喧嘩だと思っていたから、剣や魔法戦闘だけで競うつもりだったんだ。
けど負けられない理由が出来たから、申し訳ないけど使うことにしたよ」
「こ、こんなものぉぉぉっっ!」
空中で四肢を拘束されたままのファルディエは、身体強化を全開にして引き千切ろうとするが、黒骸王ですら千切れなかったものをどうにか出来るわけがない。それに今使っている糸は、それよりも更に強いものなのだ。
「負けを認めるなら解放するけど、認めないなら…」
そう言って僕は剣を突きつけ、ファルディエの腕に浅く刺す。
拘束から逃れるためにかなりの魔力を費やしたらしく、汗だくになっていたファルディエは逃れられないと悟ったのか、俯いて大人しくなった。
「…わかったわかった。だから拘束を解け」
ファルディエが呟くようにそう言うと、僕は拘束を解いた。
決着がついたので僕は皆のもとに戻ろうとすると「馬鹿者!」とモルド神父の叫ぶ声が聞こえた。
その声に反応して咄嗟に横に飛ぶと、後ろからファルディエが斬りかかってきていて、僕の左肩をザックリと斬った。
「降参したんじゃ!?」
ボタボタと血が流れる傷口を押さえながら言うと、切羽詰まった表情をしたファルディエが追撃してくる。
「愚か者め。どちらかが里長に負けを認めて宣言するか、意識を奪うなりして里長が止めるまで、戦いは終わらん!」
それほどまでに里長になりたいのか、それとも僕のような相手に負けるのが許せないのか。
自分には理由が分からないし、分かりたくもなかった。今はただ早く戦いを終わらせたかった。
次々と繰り出されるナイフをどうにか避けながら、僕の体はどんどん熱くなる。
残り少ない魔力が暴走し始めていた。
「そうか。そっちがその気なら…『金剛斬糸!』」
地面を蹴って距離を取りながら、思わず放った糸は拘束を目的としたものではなかった。
「しまったっ!」
慌てて解除したときにはすでに遅くファルディエの両腕は、それぞれ右手首と左肘の辺りから切断されていた。
「ぎゃあぁぁっ!腕が!俺の腕がぁぁっ!」
「それまで!」
「誰か治療を!」
のたうち回るファルディエを見て里長がようやく戦いを止め、僕が叫ぶとすぐに駆けつけたエルフの治癒術士たちが、ファルディエの腕を繋ぐ。
切断されたばかりなら治癒術士の能力と、必要な魔力量次第では治療が可能なのだそうだ。
戦場では多数の怪我人を救うため、このような大量の魔力を使う治療はなかなか行えないらしいが、今は魔力の心配もしなくて良いので大丈夫らしい。
「ジグも出血が酷い。早く治療しなくちゃ!」
その場に立ち尽くしたままファルディエの様子を見ていると、レストミリアが慌てた様子でそう言い、べちゃっとした地面に僕を座らせた。
「べちゃ…?」
下を見ると自分の腕から滴り落ちる血によって、小さな血溜まりが出来ていた。
あぁ、これはマズい。多分また…。
嫁取決戦は決着がつきましたが、なかなか後味の悪い感じになってしまいました。
ファルディエも自分の目標のために手段を選んでいませんし、明確に降参と確認しないまま油断したジグの判断も甘かったですね。
しかも最終的には、扱いに気をつけろと言われていた風の糸よりも、更に危険度の高い糸を使ってしまいましたし、その辺りのことでまたモルドやラジクにお説教されそうです。
戦いの後はまたもや気絶してしまいましたが、いつもの魔力限界ではなく今回は貧血です(笑)




