第98話 巡回の旅路 その16 対抗出現
本編では無いのですが昨夜、設定の方を大幅に加筆しました。
ネタバレ注意ですがその辺りを気にしない方は、もし良かったらご覧下さい。
不明な点や要望などもございましたら、気軽に言ってください。
里に戻ると留守番をしていたエルフたちは素材の処理を始めた。
僕たちはというと、トルティガー討伐戦でイリトゥエルが見せた弓の腕前が素晴らしかったらしく、アルテミアとイリトゥエルが腕前を競い合い、それを弓兵たちが感心しながら見ていたり、
新たに身に付けた『風之太刀』の斬れ味に驚いた戦士達が、興味津々な様子でラジクが扱うのを眺めていた。
別の場所ではレストミリアの治癒術はもちろん、訓練を始めてそれほど時間が経っていないアマリアがなかなかの活躍をしたらしく、エルフの治癒術士たちに色々と話を聞かれていた。
「才能がある」とか「立派だ」とか言われてるアマリアは、照れくさいやら恐縮するわで顔を真っ赤にしながら、もういっぱいいっぱいな様子だ。
前にクロエも似たようなことを言っていたが、あの時はアマリア可愛さにお世辞が含まれているのかと、本人や僕も話半分で受け取っていたが、エルフにまで褒められるとなると、本当に治癒術士としての才能があるのかも知れない。
これから先のことは分からないけれど、アマリアが褒められているのは自分も嬉しかった。
モルド神父はそんな様子を見ながらお菓子を楽しんでいて、その姿はなかなかに幸せそうである。
…そんなにお菓子ばかり食べてると太りますよ!
モルド神父が肥えすぎないように、僕もお菓子をつまんで協力?していると、一人のエルフがやって来た。
まだ若い…というよりは見た目は子供で、イリトゥエルや自分と大して変わらないように見える。しかしエルフほど見た目と実年齢がかけ離れている種族もいないので、正確な年齢は分からない。
けれど見た目は幼くても落ち着きのあるイリトゥエルに対して、このエルフは何というか幼さがあるように見えたので、少なくともイリトゥエルよりは年下だと思う。
金髪に勝ち気な赤い目をしたエルフの少年は、こちらをジッと見て…というか睨んでいたが、しばらく何も言わなかった。僕は沈黙に耐えかねて話しかける。
「あの…僕に何か?」
「…ないからな」
「え、今なんて?」
「俺は絶対に認めないからな!」
「は、はい…?」
いきなり怒鳴りだした少年の声に周囲も気づいたらしく、こちらに視線が集まってくる。意味がわからないうえ恥ずかしいので、勘弁して欲しい。
僕はモルド神父に視線を送って助けを求めるが、知らん顔でお菓子を食べている。俺は忙しいから自分で処理しろ。といったところだろうか。僕は後で神父の分までお菓子を食べてやろうと心に誓う。
「いや、話が見えないんだけど…」
「…イリトゥエルは俺のものだ!お前なんかには絶対やらんぞ!」
あぁ…そういうことか。
うんうん、ぽっと出の人間の子供が長の娘から指輪を貰った事を考えたら、今までこういう相手が出てこなかったのが不思議なくらいだったよ。
周りのエルフ達は失礼なことを言うなとか言ってるけど、僕としてはエルフの男の気概を感じられて、少し安心したくらいだね。
そりゃそうだよ。多種族から第1候補を選ばなくたって、里の中に見合う相手がいるかも知れないんだから、立候補があるのは当然当然。
「将来、俺は里長になるためにイリトゥエルを妻にするのだ!」
「…は?」
この子…いや年齢は分からないけど、ともかく今なんて言った?里長になるために妻にする?イリトゥエル様を好きだからとかじゃないの…?
「あの…キミはイリトゥエル様が好きだからとかじゃなく、里長になりたいからイリトゥエル様が必要だと言いたいの?」
「もちろんだ。だからこそ、ずっと訓練を続けて力をつけているんだからな!実力のある者が里長になるのは当然だろう」
ここまで聞けば充分だった…というか限界だった。気づいたときには目の前にいたはずのエルフをぶん殴っていたらしく、少し離れたところに吹っ飛んでいるのが見えた。
「き、貴様!いきなり何をする!」
「キミこそいきなり何を言ってるのか僕にはわからない。あんなに里を守ろうとして自分を律し、鍛え、心身を捧げているイリトゥエル様を、里長になる手段として見ているなんてどうかしてる」
「うるさい!いきなり出てきた人間の、それも子供に指輪を与えるような者のことなどどうでも良い!」
「こいつ…」
あんまりの言い方に魔力が暴走を始めたところで、駆けつけたイリトゥエルが割り込んできた。
「ファルディエ、客人になんと失礼な物言いですか!控えなさい!これ以上は従兄弟と言えど許しませんよ!」
「こいつがいきなり殴ってきたんだ!それに俺は間違ってなどいない。強い者が里長を目指すのは当たり前のことだ!
お前もお前だ。なぜ同胞を差し置いて人間に指輪を与えるようなことをしたんだ!」
集団を率いる者として、戦闘能力にも秀でているべきというのは同意するが、目の前のエルフに関してはそれ以前の問題な気がする。
それにイリトゥエル本人を目の前にしても、変わらない言動には我慢がならない。
「誰か、ファルディエをここから連れ出…」
「イリトゥエル様、待ってください」
「…ジグ?どうかしましたか」
「そんなに強い者が相応しいと言うのなら、是非とも手合わせ願いたいのですが良いでしょうか?」
「そ、それは…でも…」
「ふはははっ!馬鹿め!見た目が人間の子供と変わらないからと思って舐めているのか?俺はお前の数倍は生きているし、その間に訓練もしている。
戦場にはほとんど出ないが、それは里長の一族として軽々しく出向くべきではないからだ!」
「はぁ…ではワイバーンの時にイリトゥエル様が前線に出ているあいだも、ザグエルが攻めてきたときも、里に引き篭もっていたと?」
「次期里長となる俺が、つまらぬ戦いで死ぬなんて有り得ないだろう!そんな事は他の者にさせておけば良いのだ!」
「その結果イリトゥエル様が戦死したら、どうしたわけで?」
「そうなれば裏切り者のザグエルは論外として、次期里長候補の筆頭もいなくなり、俺が里長の座に近づけるだろう!」
「…そうですか。じゃあその次期里長がどれほどの実力なのか、この非力な人間に教えてもらえますかね?」
「良いだろう!さっきはたまたま不意討ちが当たっただけなのに、実力と勘違いしているらしい馬鹿には、その体で分からせてやる!」
「…イリトゥエル様、そう言うことですから連れて行かないでください。それにここだと建物に被害が出るかも知れませんから、森でやります」
「で、ですがファルディエは…」
「認める。存分にやるが良い」
まだ何か躊躇うイリトゥエルの言葉を遮り、いつの間にか来ていた里長が許可を出した。
「ですが父上!」
「お前の気持ちと、そして気がかりも分かっている。
しかしお前が選んだ相手に否やを突きつけ、挑戦するという者が現れたのなら、ジグはその挑戦を受けこれを退けねばならん。
正式に決まりその座に就くまでは、挑戦を受け続けなくてはならんのだ。
俺もそうして自分を選んでくれた、お前の亡き母の気持ちに応え、この指輪を守り通して里長となったのだからな」
里長が自分の指に光る指輪を見せてそう言う。
「…わかりました」
「よし、では行こう」
「え?僕たちだけじゃないんですか?」
「嫁取決戦は、勝敗が決まったときに揉めないよう里の皆を証人として、その立ち会いのもとで行うものだぞ?」
「よ、よめとり…?いや、僕はイリトゥエル様に対して酷い事を言うから、腹が立って殴ってやりたいと思っただけで…」
僕は何か誤解を招くようなことをしたらしい。
すると里長が顔を近づけてきて、小声で耳打ちしてきた。
「お前の言いたいことはわかっておる。しかし俺は娘の気持ちも知っているし、一族として甘やかされ増長しきったファルディエについても、どうにかしたいと思っていたのだ。出来れば協力して欲しい」
「ぐっ…わ、わかりました」
里長にも思惑があるのは分かったけれど、ジワジワと逃げ道が塞がれているような気もしてきた。
そんな僕を尻目にエルフ達は盛り上がっているし、離れた場所にいてこちらを見ている師匠たちは、それはもう楽しそうにニヤニヤしている。
ちなみに嫁取決戦は、エルフにとっては祭りやイベント事のようなものらしい。
皆で里から出て森へ入り、僕たちが向かい合うと
里長の合図で戦いが開始された。
無事に里に戻ったかと思いきや、敵意丸出しのエルフが現れました。
怒りや傲慢、誤解や思惑の渦巻くなか、どういうわけかただの喧嘩ではなく、嫁取決戦を行う事になりました。




