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転生の糸使い [830万PV突破・400万字、900話以上の大ボリューム!]  作者: 青浦鋭二
第1部 教会の孤児編 (襲撃・修行・エルフの里・黒骸王・巡回の旅・王都攻防戦)

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★第97話 巡回の旅路 その15 森の周囲とトルティガー討伐

この回を投稿してからかなりの時間が経過しましたが、2024年3月より作品にいただいたファンアートの中でも、ご本人様からご許可をいただけたものを本編に載せております。

今回は『碧眼の彼女』作者のさんれんぼくろ様(TwitterID=@7ltqMJ3HrLU4qe5)より、風の糸を発動中のジグです。本当にありがとうございます!

 翌日はイリトゥエルや里長から要請のあった、大型モンスターの討伐に向かうことになった。

 トルティガーの位置は探知結界によって筒抜けなので、ラジク、アルテミア、モルド神父とアマリアにイリトゥエル、レストミリアと僕のいる4つの部隊に分かれて、それぞれの隊にエルフの弓兵、戦士、治癒術士を何人かずつつけて、四方から囲むことにした。


「俺も話に聞いているだけだからどこまで正確なのかは分からないし、未確認の情報もあるかもしれんが、トルティガーは森の中でも素早く動けるらしいので十分注意するように。

 それと尻尾には毒があるようだから解毒薬を忘れずにな。

 あとはそうだな…風、雷、水の属性を持つので各属性の攻撃にも注意が必要なのと、体が液体化すると物理攻撃が効かなくなると聞いている。

 ああ、それと教会に現れたジェネラル・オーガのように、咆哮波を撃つとも言っていたな…」


「私が知っているのもそのくらいだね。

 でも、たしかトルティガーは基本的には群れで行動するモンスターだと思ったけど、大森林にいるのは1体だけなんですか?イリトゥエル様」


 ラジクが自分の知る情報を皆に伝え、レストミリアがそれに付け加える。

 今回の大森林におけるトルティガー討伐に関しては、大森林での戦闘やエルフとの共闘経験があるラジクが、アルテミアに代わって指揮を執ることにしたらしい。


「はい。姿を現してから今までずっと1体だけです。もしかすると群れからはぐれた個体なのでしょうか…?」


「確かなことが分からない今、1体だけと決めつけるのは危険かもしれん。群れが現れるのを警戒しながら行動した方が良いだろう。

 幸いこちらはエルフの結界によって、敵の増援があれば瞬時に判るはずだ。各隊にもそれぞれエルフがいるのだから頼りにしている」


「索敵はお任せ下さい。それに各隊の動きもある程度把握できるので、連絡が出来なくても動きから推察することは可能です」


 話し合いを終えて各隊に分かれ、僕たちは森の南東へと進んでいく。

 エルフの里は大森林の中でも北東部に位置するため、しばらく進むと大きな川とその奥には、リッツソリスの北の山脈と比べても遜色ないほど高く、南北にもかなり長い山脈が見えてきた。


「ソリス川より大きな川ですね。それに遠くから見ていて山脈があるのは知ってはいましたけど、近くに来るとこんなに高かったんですね」


「ジグはこの辺りに来るのは初めてだったね。

 この大きな川はドルエフ川、向こうに見えるのはドワーフのいるモーリア山脈さ。

 北の山脈からソリス川の下流にぶつかるまで、大陸の北東部を南北に貫いている川と山脈だけど、川はエルフとドワーフの境界線とされているし、山脈全体はドワーフによって治められていて、鉱山として機能しているんだよ。

 どちらかというとモーリア山脈というより、ドワーフの極大鉱山としての呼び名の方が有名だね」


「ドワーフがいるとは聞いていましたけど、この山全体がドワーフの領域なんですね…凄いなぁ」


「凄いのはそれだけじゃないよ。極大鉱山にはいまだに活動している火山があるのだけれど、ドワーフが治めるようになってからは、一度も噴火していないんだ。

 ドワーフの秘宝と言われるいくつかの魔道具によって、火山のエネルギーを金属加工や採掘技術に変換しているのが理由らしいよ。

 それにセントリング周辺は東の海から吹く風によって、船がソリス川を遡りやすくなっているけれど、それは逆に言うと火山の噴火が起これば、大量の灰が大森林や、私たちの住む街まで飛んでくるってことだからね。セントリングが穀倉地帯として栄えているのも、割とドワーフのお陰だったりするのさ。

 まぁ本人達はそんなこと気にしてないし、何より火山の力とそこにある鉱物資源を独占できてるのが現状だから、利害の一致って事なんだろうけどね。

 私たちは食糧や木々を、ドワーフは代わりに鉱物資源をお互いに供給し合っているわけさ」


「ドワーフの機嫌を損ねたら大変なのかと思いきや、それなりに共生関係なんですね…安心しました」


「そういうこと。ちなみにこの大森林だけど南東の端の辺りからは、ドルエフ川に沿って南に細長~く伸びていて、エルヴィレの東の草原やリザードマンの集落の北にある荒野の東を通り過ぎて、最終的にはソリス川の下流にぶつかるまで伸びているよ。

 だからトルティガーがそっちの方面に逃げると、下手をすると3日くらい追跡する羽目になるから注意してね」


「げっ、さすがにそれは困りますよ…っていうか大森林は本当に広大なんですね。

 なら早めに南東に回り込んで、逃げられないようにした方が良さそうですね。

 ところでそのトルティガーの現在位置や、他の隊の動きはどうなっているんですか?」


「今は動いていないみたいだ。我々がこのまま南に進めば、逃げ道を塞げるだろう。

 他の隊は北と西から包囲を狭めつつある。少し急いだ方が良いかも知れない」


「よし、じゃあ私たちは他の隊が取り逃がした時に備えて、待ち構えるとしようか」


 レストミリアによるドワーフの話は、初耳なものばかりでかなり興味をそそられたが、あまりお喋りばかりもしてられなかった。

 僕が質問すると一緒の隊にいたエルフが答えてくれ、エルフの提案を受けたレストミリアが指示を出すと、僕たちは更に移動速度を上げて目的地へと向かった。


 僕たちが目標の地点に着いた頃には、他の3隊によってトルティガーとの戦闘が始まったらしい。

 エルフによって時折伝えられる位置を聞きながら、僕たちはその場で待機しておく。

 トルティガーの魔力反応が段々と小さくなり、そろそろ勝負が付くかもと言った後、しばらくしてエルフが顔色を変えた。


「なっ…!いきなり複数の反応が現れた!?

 …これはまさか川から出現したのか?1…2…3…モンスターは全部で7体になってます!」


 探知の結界は大森林のみに張られているので、ドルエフ川にいるモンスターは感知できないらしい。


「ミリアさん、ど、どうするんですか?」


「エルフに加えてあの3人がいるなら、そこまで心配する必要は無いと思いたいけど、奇襲を受けて苦戦している可能性もあるし、私としてはアマリア様が心配だから出来れば合流したい…。

 でもここを離れて取り逃がせば、他の地域に被害が及ぶかもしれないし…正直言うと迷うね」


「最初に遭遇したトルティガーは討伐できたようですが、新たに現れたトルティガーと思われるモンスターは、各隊に2体ずつ襲い掛かっていて交戦中ですが、なかなか魔力反応が小さくなりません。苦戦しているものと思われます」


「…ミリアさん、あちらが苦戦しているなら治癒術士の力が必要でしょうから、ここは任せて行ってください」


「…大丈夫なのかい?」


 レストミリアが僕を見る。その目を見つめ返しながら、僕はニヤッと笑うと両手から一斉に糸を放つ。周辺に放たれた桜糸は、木々のあいだに張り巡らされていき、巨大な網を構築した。


「どなたかエルフの方が残って敵の位置を教えてくれるなら、トルティガーが向かってきても捕まえられると思います。まさか黒骸王より強いなんてことはないでしょう?」


「あぁ、たしかにそうだね。あれに比べれば楽なもんだ。じゃあここは任せるから、探知の得意な者の他に何人か残ってもらえるかな?」


 そうして部隊を分け、レストミリアは他の3隊と合流しに北へと向かった。

 僕と共に残ったエルフによると、素早く合流したレストミリアは一番近くにいたトルティガーに奇襲を仕掛けて倒し、もう1体も2つの隊で協力して片付けたようだ。

 トルティガーが2体減ったことで、人数あたりにかかる負担も軽減され、形勢は逆転したらしい。更に2体倒したところでトルティガーは逃走し始め、こちらに向かって来ると知らされた。


「2体が前後に並ぶようにして、こちらに真っ直ぐ向かってくるぞ。少年、本当に止められるのか?」


「大丈夫だと思います。でも皆さんは万が一に備えて、少し下がって迎撃準備をお願いします。

 それともしトルティガーが方向を変えたら、すぐに教えてください」


「了解した」


 エルフたちが配置に就くと、僕は前方にレストミリアに見せたものよりも、更に広い範囲に糸を放ち網を作り、身体強化で待ち構える。

 するとすぐにこちらに向かってくるモンスターの姿が見えた。

 どんな行動をするモンスターのかは聞いていたけど、初めて捉えたトルティガーの外見は薄ら青い大きな虎で、尻尾は3つに分かれて蛇の姿をしていた。


 そして巨体に似合わず木々のあいだを俊敏な動きで駆け抜けていて、たしかに森の中では動きを捉えるのは難しそうだ。


「そう言えばトルティガーは、体を液体化して物理攻撃を無効化するとか言ってたっけ…。

 あれ、この糸で捕まえられるのかな?不安になってきたよ…」


 ラジクの言葉を思い出して少し慌てたが、それならいっそのこと、下手に捕まえようとして拘束に成功した後、液体化して逃げられるよりは、風の糸を使って一瞬でケリを付けようかなと考えた。


 そして木々に張り巡らされていた桜糸に、先頭を走っていたトルティガーが絡め捕られた瞬間、一気に風属性を通して引っ張り、その体を切断した。

 すると後ろから「上だ!」という声がした。

 後ろに続いていたトルティガーが、前を走っていた仲間の最期を見たことで、高くジャンプして網や僕を飛び越えようとしていた。


 僕は頭上へと手を伸ばし、グレイジーナとの戦いの際に使えるようになっていた、もう一つの糸を放つ。


金剛斬糸(こんごうざんし)!』


挿絵(By みてみん)


 風の糸よりも更に輝きを増している緑の糸は、空中へ真っ直ぐ伸びると全身に巻き付いていき、液体化で逃れようとしたトルティガーを逃さず、そのまま粉々に斬り刻んだ。

 ……そう、僕の頭上で。


「あっ…」


 間抜けな声を出した直後に血の雨が降り注いできて、僕は避ける間もなくクロコスネイクの時のように、全身真っ赤になってしまった。

 するとトルティガーを追撃していた他の隊もやって来て、僕の姿を見る。


 全身真っ赤な僕を見たアマリアは、僕が怪我をしたと勘違いしたのか卒倒し、同じ感想を抱いたらしいイリトゥエルも、顔を真っ青にしながら回復魔法を連発してきた。

 ラジクとアルテミア、それにモルド神父はすでに一度見た経験があるので、トルティガーの残骸を確認して何があったのかは予想がついたらしく、大笑いしていた。


 レストミリアも笑ってはいたが、やれやれといった表情で水魔法を使い、すぐに綺麗にしてくれた。


「ミリアさん、ありがとうございます。僕はもう大丈夫なのでアマリアを診てあげてください。

 それとイリトゥエル様、回復魔法は必要ないです。でも、心配かけてすみません」


「無事なら良いのですが、寿命が縮む思いでした…」


「その心配する気持ちを欠片でも良いので、あの3人にも分けていただきたいくらいですね。

 まぁ、同じようなことが数日前にもあったからこそ、あの反応なのかも知れませんけど…」


 イリトゥエルと話しながら僕は、まだ笑っている3人をジトッとした目で睨む。


「ジグの実力を知っているからこそでしょう。

 それにしても弱っていたとは言えトルティガーを、それも2体をほぼ同時に倒してしまうなんて…。

 これが昨日言っていた、新しい力なのですね」


「はい。魔力の糸を使って相手を拘束したり、斬ったり出来ます。まだ他の使い道も無いかなと模索中ではありますけど、なかなか便利です」


「それほどの力があるのに、まだ他に求めるものがあるんですか?」


「僕としては大事な人達を守るためには、そしてずっと安心して暮らすためには、まだまだ力不足だと思ってますよ。

 目標を叶えるためには、最終的に魔王軍の四天王を倒さないといけませんからね」


「そう…。ならあなたに釣り合うように私も頑張ります」


「え?イリトゥエル様には…」


「関係ないとは言わせません。それに私が力を付けるのは里のためにもなることですから、まさかそれを否定したりはしませんよね?」


「…そう言われると、僕にはどうしようもないですね」


「それに私だってワイバーンの襲撃以降は、近接戦が苦手とは言っていられないと思って、頑張って弓や魔法以外の戦闘訓練をしているのですよ?」


「それは偉いですね。さすがイリトゥエル様です」


「他の同胞たちもそうです。騎士や治癒術士はもちろん、里でのあなたの戦いぶりを聞いて、負けてはいられないと更に訓練に励むようになったのです」


「そう言われると恥ずかしいですけど…でもきっと良いことなんだと思います」


「えー、コホン。二人とも、ラジク殿がそろそろ今後についての話をしたいそうなのだけれど…よろしいかな?」


 僕たちが話しているとレストミリアがそう言った。周りを見るといつの間にか皆が集まっていて、気絶していたアマリアもいつの間にか目を覚ましていた。

 周囲の生温かい視線が僕たちに向いているのを感じて、僕たちの話をずっと聞かれていたと悟り、すでに真っ赤になっているイリトゥエルはもちろん、僕も顔から火が出そうだった。


「とりあえず、トルティガーの討伐は完了したので里に戻ろうと思う。

 素材は基本的に全て譲るので、魔石に関しては最後にジグが討ち取った2体分だけ、いただいても良いだろうか?」


「…私たちは構いませんが、皆さんはそれだけで良いのですか?」


「俺とモルド殿はトルティガーを相手に出来たことで満足しているし、女性3人も素材にはそれほど興味が無いと言っている。

 一応、騎士団へのゴマすりに使えるのと、教会の守りに役立つ魔石だけ、2つ貰えれば特に問題は無い」


「わかりました、ではそのようにいたしましょう。その代わり、今夜も手厚くもてなさせていただきますね?」


「おお、それはありがたいが……アルテミア殿、予定としてはどうだろうか?」


「すでに予定より遅れてるし、今更1日延びたところで構わないわ。

 私としても滅多に来られないエルフの里だもの、まだ話し足りないこともあるし、可能なら昨日は出来なかった弓術の競い合いも、是非してみたいわね」


 アルテミアの言葉にはモルド神父も大いに頷いていた。エルフの戦士との手合わせはもちろん、エルフのお菓子がたいそう気に入った様子だったので、こちらも理由としては納得だ。

 レストミリアとアマリアも同意見のようだし、僕も賛成なので問題はなかった。


 話が纏まると僕たちは素材を回収して里に戻ったが、予想以上の早さと戦果に里長も嬉しそうだった。

新しいモンスターとドワーフについての話が出てきて、新たに判明したことがあった回でした。


トルティガーの討伐も無事に完了しましたが、水辺の森というトルティガーにとって一番、力を発揮できる場所で奇襲をされたことで、なかなか苦戦したようです。


設定としては、もし水辺から離れて拓けた場所で戦ったなら、それほど苦戦もせず、レストミリアやジグの出番もなく討伐できたと思われます。


アマリアやイリトゥエルの視点で、トルティガー討伐戦を書くのも面白そうかと思ったのですが、このような形にしました。

もし要望があれば今後、外伝というかSS枠で書くのもアリかなと思っております。

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