二つ目の世界3
白の少女が応戦しようと構える僕らを見て嗤い始めた
「アハハハ! アハハハハハハハハハ! 頭おかしいんじゃないの? 勝てない戦いに挑む? やっぱり理解できないできないできない! まあどうせ全部消すし? 気まぐれに少しだけの間なら見逃そうとも思ったけどやめたわ。やっぱり神や人間なんてただのゴミでしかないのね。黒はなぜこんなくだらないモノに愛を注いだの? そうか、あんたたちが黒を、私の愛しい黒を狂わせたんだ!」
すさまじい瘴気が辺りを包み込む
私達は強力な結界を何重にも張って何とかその瘴気を防いだけど、外に出ようと私達から離れていたエヴィちゃんとお付きのおじいさんまでは結界が届かない
とっさにおじいさんはエヴィちゃんをかばうように自分の体の下に隠した
「あっぐ、駄目! 田辺さん! この瘴気は普通の人間が耐えれるものじゃない!」
エヴィちゃんが叫んでいるけど、田辺さんと呼ばれたおじいさんはさらにエヴィちゃんをギュッと抱きしめた
「孫を失た私を、途方に暮れて死のうとしていた私を、あなたは救ってくれました。私はあなたの傍にいることで、生きる意味を、得た。だからこの体朽ちようともあなたを守る!」
その時田辺さんの体が光りに満ちて瘴気が消し飛んだ
「な! 私の瘴気が!」
田辺さんから放たれる光は瘴気を飲み込み消していく。これは一体何が起こっているの?!
「う、あああああ! 何でこんな雑魚風情が! 何でこんなゴミみたいなやつが! アアアアアくそがくそがくそが!!! なんでその力を使えるのよ!」
田辺さんの光はどんどん強くなっていき、白はどんどん後退していく
「分かったわ。あのおじいさんの力、恐らくあれは人間なら誰しもが持っているもの。そして白が一番苦手とする力」
「それって」
「ええ、そうよお姉ちゃん。あれこそ白が最も忌み嫌う究極の善の力。愛、それは注がれる無償のモノ。白にはわからないものよ。一方的にしか愛せないあいつには決して発揮できない力」
田辺さんはエヴィちゃんを孫娘のように思い大切にしてきた
日々共に暮らすことでその愛はどんどん高まっていき、この子のためになら死んでもいいと思えるほどの愛を与え、そして与えられてきた
互いの絆が二人を繋いだ時に生まれる力はそれはそれは大きなものだったみたいで、白はその体が保てなくなり、揺らぎ始めていた
「クゥ! なんでよ! 何で私が逆に追い詰められているのよ! クソ! 悔しいけど、ここは一旦引いてあげるわ。精々世界が終わるのを振るえて待ちなさい!」
白は空間に亀裂を入れるとその中に逃げ込んで消え去った
私達は急いで田辺さんとエヴィちゃんの様子を見るために走った
瘴気に触れてしまった田辺さんはすでにこと切れている・・・。エヴィちゃんは無傷。田辺さんが命を得てエヴィちゃんを守ったのね
亡くなった田辺さんに縋り付いて泣くエヴィちゃんをしばらくそっとしておき、泣き止むのを待つことにしたわ
それから三十分ほど経った頃、エヴィちゃんはこちらにやって来た
「もういいの? お別れは」
「はい、田辺さんは私にとっておじいちゃんみたいな人でした。ずっと私を見守ってくれてて、親から離れた私をずっと可愛がってくれてたんです。ご自身がお孫さんを事故で亡くされてから私を本当の孫のように・・・」
ぽろぽろと涙が流れ落ちるエヴィちゃんをルニア様は優しく頭を撫でて落ち着かせた
「ありがとうございます女神様・・・。でもあの白はどうして予言よりも前にきたのでしょう?」
「予言は確定された未来じゃないからよ。いくらでも変わるわ。それがアカシックレコードだろうとね。本人が言ってたんだから間違いないわ」
「え? アカシックレコード本人が出すか?!」
「そうよ。あいつちょっと頭がおかしいけど、嘘を言うような奴じゃないから」
アカシックレコードって何だろう?
二人は当然のように話しているけど、私とアルタイル、それにセラビシアちゃんは訳が分からな過ぎて口を開けていた
そんな私達に気づいたサニア様がアカシックレコードについて説明してくれたわ
なんでもそれはこの世界の過去、現在、未来が全て記されたもので、その処理を担うのがそのアカシックレコード本人であるパリケルさんと言う女性
その人が言うにはすでに起こってしまった過去は変えることはできないけど、未来はいくらでも変わっていくらしい
ただそんな過去を私は変えたことがある
あの時私に目覚めた時の力
あれは世界から逸脱した力らしくて、時の秘神の力
私はあの時まだまだ使いこなせていなかったけど、今ならどんなことでも出来るかもって気はする
まあ白には過去も現在も未来も関係ないから使っても意味ないみたいだけど・・・
ひとまずこの世界の危機は乗り切れたと思うわ
白は消えたし、もうあのいやな気配はない
でもいつまた現れるとも知れない
まああっちは私達を優先的に狙ってくるはずだからとりあえずは大丈夫だと思うわ
念のためサニア様が監視の力で見張るみたいだけどね
「何から何までありがとうございました。私の予言が至らないばかりにあのようなことになってしまい申し訳ありません」
そう言って頭を下げようとするエヴィちゃんをサニア様が止めた
「至らないのは私達の方です。もっと私達に力があれば・・・」
これからまた別の世界を巡り、協力者を探さなきゃいけない
そしてそれと同時に私達ももっともっと強くならないと
白と再びまみえてよくわかった。力の差は大きく開いてるけど、決してたどり着けないわけじゃない
私なら、私とアルタイルならきっと乗り越えられる
そう信じて私達はまた次の世界へと続く扉をくぐった




