いざ異世界へ6
「こうしてこうしてここをこう、神力術式展開、えと、そのようにしげしげと見られては気が散るのですが」
「はん、下級女神の力がどれほどか見たかっただけよ。でもあんたなかなかやるじゃない。その術式、上級までとはいかないものの中級上位には食い込むんじゃない? でも足りない。おかしいのよね。どうしてその程度の力でこれほどの魔王を作れたの?」
「魔王、と言ういい方には語弊があります。この子は私の世界を正しく導くために生み出した勇者です。魔王と呼んでいたのはこの子に敵対していた者たちだけです。そうですね、疑問も最もだと思います。私のような力無き女神ではこの子のような神をも超える存在は作り出せません」
それからこの世界の女神クレフィア様はセラビシアちゃんについて語り始めた
まずセラビシアちゃんの正体。それは元地球の少女だった
女神様達が言うには地球の魂は根源と言う力にアクセスするためのカギを持っているんだとか
そのカギが何かの拍子、例えば死んだり、異世界に飛ばされたりした過程で開き、そこから力を得ることができる
それって私とアルタイルもって事? だから私達はあんな力を使えるのかしら?
それでかつて地球人の普通の少女だったセラビシアちゃんは、押し入り強盗に銃で撃たれて殺されたらしい
その魂は清らかで、思わず見惚れたクレフィア様が救い上げた。そして自分の娘としてこの世界へと生を受けさせたの
その後は魔族として地球人だったころの記憶は消え、お姉さんと一緒にこの世界で生きていた
でもお姉さんの方はセラビシアちゃんを守って女神様の元へと還ったわけ
「この子は私にはもったいないほどよくできた子です。魂に刻み込まれていたのかとにかく争いが嫌いで、子供を襲うような輩に容赦がありませんでした」
そう締めくくり、今セラビシアちゃんの鍵が開いた
ゆっくりと目を開ける彼女は真っ先にお姉さんを見て驚愕に目を開き、ベッドから飛び起きると抱き着いていたわ
「姉様! うわあああああん姉様! よかった、生きてたんだ!」
「セラビシア、辛い思いをさせてごめんね」
しばし二人の再開を優しい母の目で見つめているクレフィアさん。彼女もきっとその中に飛び込みたいに違いないわ
「ほら何してるの? 二人を抱きしめてあげなさいよ母親なんだから。母親ってそういうもんでしょ?」
「は、はい!」
親子の再開っていいものね。しばらくは三人・・・。いえ六人にしてあげ、私達は落ち着くのを待つことにした
あの三姉妹だってクレフィアさんの娘だもの
三姉妹は恐る恐るその輪に加わろうかどうか見ている
そんな三姉妹に気づいたクレフィアさんが三姉妹をぎゅっと抱き寄せた
それから一時間ほどして六人が部屋から出て来る
「話は聞いたぞ! この最強魔王である我の力を借りたいというのだな? それがひいては世界の平和を守ることに繋がるのだと、そういうことだな?」
「そうよ。あんたの力ってば私が見てきた中でも特筆してる。協力してくれればすごく助かるんだけど」
「もちろん協力するぞ! こうして姉様や母様に再会できたのもお前、ではないな、女神様のおかげなのだからな!」
「お、お嬢様行くところならば私も行きます! どんなにつらいことがあろうとも必ず守って見せますから!」
「だめよ! 正直あんたじゃ足手まとい。あんた進化の兆しを見せてるけど、たかだか九尾になったところでそれこそゼロがコンマ1上がる位の微妙なものだもの。確実に死ぬわよ。守るなんて言ってられない」
「でしたら盾にでもなんでも! 私を盾として捨て置けば強敵から逃げる時間くらいは!」
その時ルニア様が突然ハクちゃんの頬を平手打ちした
「簡単に言ってくれるわね? 死ぬことで恩返しになるとでも? かつて私はお姉ちゃんに守られてた。お姉ちゃんは死んででも私を守ってくれた。でも私はお姉ちゃんのために死のうとは思わなかったわ。いい? 命を守られたのならその命を消さないことが恩に報いることなの! 死んだら何も残らないじゃない!」
声を荒げて怒るルニア様の迫力にその場の全員が息を飲んでいた
かくいうハクちゃんも目を丸くしている。そして涙をポロポロとこぼし始めた
「そうだぞハク、我はかつてお前に戦いに出ないよう言ったではないか。我はお前が生きているだけで嬉しいのだ。だから、我が帰るべき場所となってくれ」
セラビシアちゃんはハクちゃんの頭を撫でて諭すようにそう言った
はたから見ればなんだか妹に慰められるお姉ちゃんみたいな感じだけど、ハクちゃんは分かってくれたみたい
「ではお嬢様、私はいつお嬢様が帰ってこられてもいいようにこの場所を守り続けます。きっと、きっと帰ってきてくださいね」
気丈に笑顔を見せるハクちゃんをセラビシアちゃんは抱きしめ、別れを告げた
そして旅立ち、こうやって様々な世界を巡って、私達は仲間を集めなきゃ
来たるあの白との戦いのためにね




