生まれたけど何か変なんですが7
魔法の授業も進み、戦闘に関してもみんな少しはモノになって来たのではないかな?
私の場合はすでにありとあらゆるスキルがあるため、そのスキルを体に馴染ませたうえでの使い処や動きを覚えると言う単純反復練習を繰り返していた
これによって私の戦闘スタイルも確立しつつある
五歳でそんなものは必要ないとも思ったけど、魔物闊歩するこの世界じゃ子供でも身を守る術が必要らしい
一歩街の外に出ればこの周囲はそこまで強い魔物は出ないんだけど、それでも危険なことには変わりない
だから次の授業は街周辺での魔物退治という授業になっていた
先生はあのカルテアお姉ちゃんだ
お姉ちゃんなら教えるのもうまいし、いざとなったらみんなを守ってくれるはず
というわけで早速その日がやってきたわけだけど、みんなかなり不安そうな顔をしていた
それもそのはず、皆街の外になんて出たことの無い子供ばかりだ
魔物など見たことが無い
それは私も同じで、生まれてこの方魔物を一度も見ていなかった
まぁ街に魔物が入ってきたら一大事だからなあ
「よしお前たち! これからディグラットという魔物を倒してもらうんだが、子供でも倒せる魔物と思って侮ってはいけない。少しでも油断すれば、たちまち自分たちが餌食になる。気を引き締めてかかること! それと戦闘についてはこのアスティラの動きをよく見ておくといい…。アスティラ、最初は君だ。みんなに手本を見せてやるんだぞ」
「ちょ、お姉ちゃん、何言って」
ホントにこのお姉さんは何を言ってくれてるんだおかげで注目の的になってるじゃないか
「大丈夫だアスティラ、君はすでにそこいらの魔物に負けないほどの力をつけている。ディグラットくらい拳でも倒せる」
そういう問題じゃないけど、まあ仕方ない。やってやろうじゃない
街からすぐ近くにあるちょっとした森
その少し入ったところにくだんのディグラットの巣があるらしい
放っておいたら街にまで入ってきて疫病蔓延の原因となるらしく、定期的に巣ごと駆除するみたいだ
その過程で生徒の訓練のために使われることも多い
この辺りでは一番弱く、子供でもこん棒で倒せるほど弱いが、すばしっこいためなかなか捕まることがないんだけど
私は巣であるあなぐらを見つけ、そこに水魔法を放った
巣を水没させて一網打尽にするのだ
巣穴はいくつかあって、その全てが地下でつながっている
つまり、別の巣穴で待ち構えていれば
「うわ! こっちに出て来た!」
「キャァ! こっちも!」
「そっちに逃げるぞ!」
子供達はてんやわんやだけど、巣穴から逃げ出したディグラットをうまく木の剣で叩きつぶしている
走って逃げたものも魔法で見事に打ち倒す
ディグラットが巣穴から出てこなくなったところで訓練は終わりとなった
これでこの巣穴は全滅、無事初めての魔物退治を終わらせることができたんだ
「よし、みんないい感じだったよ。少し休憩しようか」
カルテア先生が魔法の袋から生徒たち全員にジュースを出してふるまってくれた
しばらく休憩しているとプラムが話しかけてきた
「ア、アスティラちゃん、私ちょっとおトイレに…。その、ついて来てくれたら嬉しいかな」
「え? それは、ちょっと」
いくら今女の子とは言え、中身はまだ男だ
トイレに付いていくというのは紳士としてはちょっとね
「お、お願いだから! すぐすむから!」
「わ、分かったよ。プラムも甘えん坊ですねぇ」
まあ見なければいいだけなんだから
それに森には魔物がいる。一人で行かせるのも危険だろう
「先生、私達少し離れます」
「む、危ないからあまり奥に行くんじゃないよ?」
「はーい」
カルテアお姉ちゃんはどうやら気づいてくれたみたいで、私達を辱めることなく行かせてくれた
私がいるから大丈夫だとも思ってくれたんだろう
「ごめんね、すぐ済ませるから!」
プラムは茂みに入って行った
一応耳も指でふさいでおくかな
プラムが茂みに入ってからすぐのこと、突如空を裂くようなプラムの悲鳴が響いた
驚いて素早く茂みに入るとパンツまでずり降ろしていたプラムが、水たまりの上で尻もちをついて何かに怯えている
彼女が見ている方向を見ると黒い鎧を着た骨の魔物がこちらを見ていた
何だこの魔物は…
私はとっさにプラムを守るようにして前に出てしまった
それがいけなかった
私は胸を深々と剣で刺し貫かれる
「え?」
冷たい刃がゆっくりと胸に入って行くのが見えた
その直後に胸に激痛が走り、心臓を貫かれたのがありありとわかった
込み上げる血液を吐き出しながら心臓が脈打たなくなっているのを感じ、視界が暗く暗く落ちていく
最後に思ったのは、プラムに逃げて欲しいということだった
目を覚ますと見覚えのある空間
そこにはあの時出会った少女女神が腰に手を当てて得意そうな顔で立っていた
「意外と早かったわね、またここに来るの」
「すいません、転生させてもらったのにこんなに早く死んでしまって」
そうだ、私は死んだんだまた
守りたいと思ったものも守れずにあっさりと、スキルも魔法も発動する間もなくだ
「あら、死んだなんていってないけど? てかあんた自分の力も知らないの?」
「自分の力? スキルや魔法のことですか?」
「ああそっか、知らないんだったわ。じゃあ教えとくけど、あんたなんで元の世界であんなに死ねなかったか知りたくない?」
確かに、あれだけ自殺を繰り返したというのに29回もかかってしまった
我ながらすごい生命力だと思う
「それがあんたの力。肉体的に死ぬことはない。あの時最後の一回でようやく死ねたのは私が魂を無理やりこの世界に呼んだからよ。あんたは本当の意味で死ぬことはないの。そして死に瀕したときあんたの力がフルに発揮される。それが“死の王”という力。死ねば死ぬほど強くなれる」
「死ねば死ぬほど?」
「そ、あの世界で29回死んだときは力が定着せずに無駄になってた。だからそれを私の姉妹である“変化”の女神が今の世界で使えるスキルポイントに変えておいたの。でも今はその力がちゃんと使えるわ。さぁ、使いなさい“死の王”の本領を! 神スキルを発現させるの!」
「はい!」
女神様に促されるままにその力を使った
「なんてこと! これはもはや神の領域じゃない! あんたすごいわよ! 最初に発現したのは“消滅”私の力“破壊”と双璧を成す強力な力ね。さぁ目を覚ましなさいな!」
女神様の声と共に私の目が覚める
胸に剣は刺さったままで、プラムが振るえて泣いている
剣を引き抜くと傷口が一瞬で塞がった
なるほど、死んでも蘇るのか、それが私の“死の王”ってわけね
剣を地面に放ると走り、その骨の鎧を消滅させた
あとは残った骨を蹴り上げて魔法を叩き込み、砕いた
「ふぅ、死ぬかと思いましたよ」
「う、うぐ、ふえええ、大丈夫なのアスティラちゃん。今刺された様に…。あれ? 傷が無い」
「大丈夫大丈夫、ちょっと服にかすっただけです。おかげで胸元が出ちゃいましたけど、まぁこれは変えの鎧で隠せるし」
ひとまずプラムの服が汚れていたので、私が持っていた着替えのスカートとパンツをはかせた
その直後にカルテアお姉ちゃんが走ってくるのが見える
「アスティラ! プラム! 大丈夫か? 怪我はないか?」
「ないよお姉ちゃん、それよりもこの魔物を見て欲しいの」
「魔物? 何だこの骨は…。スカルポーンか、この辺りに出るような魔物じゃないぞ?」
「やっぱりそうなんだ。急に襲われてね」
「なっ!? こいつらはどこかを守る墓守のようなアンデッドだぞ? ここにはそのような場所もないし、襲ってくるはずないのだけど」
今倒した魔物はスカルポーンと言って墓や古戦場等に現れるアンデッド型の魔物だ
普段はその土地をはなれず、土地を守るようにして動くんだけど…
こいつは何でこんなところに?
まあ子供の私が考えることじゃないからお姉ちゃんに任せよう
それにしても私が死なない上に、神様の力をスキルとして使えるってとんでもないことが分かってしまった
これからも死ぬ度に増えると女神様は言っていた
出来ることならし死にたくないもんだよ