旅の始まり12
お休みも終わって私達は家へと帰って来た
子供達は存分に楽しんだみたいで、朝はなかなか起きなかったわ
さっきまで馬車の中でも寝てたしね
「ほら付いたわよ皆、起きなさい」
子供達を起こして家の中に入れるとメイド長さんが一通の手紙を持ってきてくれた
それはやっぱりお姉さんからで、とりあえずメイド長さんから預かった
アルタイルも今日戻って来るみたいだから魔王都に一足先に行っておこう
思い立ったが吉日、私はお母様に事情を話してすぐに転移のスキルで魔王都に飛んだ
飛んだ先はもう目の前にアルタイルの実家である屋敷が見える
すぐに中からこの家のメイドさんや執事さんが出迎えてくれた
「これはこれはアスティラ様、よくぞお越しくださいました。さぁどうぞこちらへ」
家令のラガロさんに案内されて私はアルタイルの自室へと通された
許嫁だからここまで通してくれるんだと思う
「まもなくお帰りになると思いますのでしばしお待ちください。すぐにお紅茶を用意いたします」
「ありがとうラガロさん」
ラガロさんはまだ若く、65歳という年齢ながらこの家の家令を任されていた
あ、65歳は魔族ではまだ青年だから若いのよね
ラガロさんはびしっとした黒いスーツで、モデルのようにすらっとしていてかっこいいお兄さん
アルタイルを生まれたころから見て来た人らしいわ
ラガロさんがスムーズに紅茶を用意してくれて、それを飲んでいるとアルタイルが慌てたように部屋に入って来た
「ア、アスティラ! 来てたんだね。ラガロありがとう」
「アルタイル、これを見て」
「これは、キュレッソさんからかい?」
「ええ、どうやらあの砂について何か分かったみたい。これから行ってみましょう」
「そうだね」
アルタイルのご両親に挨拶した後に直ぐに砦町に戻ってキュレッソお姉さんに会いに行く
お姉さんは待ってましたとばかりに走って来た
「おおアスティラ! 研究結果が届いたんだがちょっと見てくれ」
お姉さんの手には資料がいくつか握られていて、重要そうなところに赤丸で印が書かれていた
「ここを見てくれ。まずあの砂に残っていた細胞を調べていたんだが、なんと細胞は活発に動いていたそうだ。残っていたのがほんの少しだったためかこの前アスティラが言ってたように再生することはないようだが、今でもこの化け物は生きている。恐らく、これは予測なのだが、もしこれと同じ化け物がまた召喚されればこの砂を吸収して復活する可能性は高い。ということで全ての研究が終えたあと細胞は一遍残らずしょうかく、しょうきゃきゅ、しょうかきゅ、焼き払っておいた」
ものすごく盛大に噛んだけど何事もなかったかのように続けるお姉さん
「そしてこの細胞と存知の魔物の細胞を照らし合わせた結果、合致する魔物も、動物も見つからなかった」
「やはりこの世界の生物じゃないってことですね?」
「そうなんだが、いやそうとも言い切れない部分もあってな」
「どういうことでしょう?」
「要は魔物や動物には該当がいなかった。それはつまり種族、この世界で人族に分類されている種族には該当があった」
「人族ですか?」
「ああ、人間族と獣人族、それにエルフ族と妖精族、さらにはこの世界にいない種族の寄せ集めのような細胞、どこかの世界で何者かの手によって作り出されたであろう化け物だ」
それは衝撃の事実だった
つまりあの化け物は、誰かの犠牲で作り上げられた悲しいモノだったってこと?
一体だれがそんな非道なことを
それになんでそんな異世界のモノを偽勇者の部下たちは召喚できたの?
疑問はたくさんあるけど謎は深まるばかり
いったい偽勇者って何者なのかしら
「もう一つ分かったことがある。こっちの資料を見てくれ」
次に出された資料にはあの化け物を召喚した魔方陣について書かれていた
確かに禁忌の魔方陣を使って召喚していたものの、その魔方陣にはこの世界にない文字で描かれた部分があったらしい
その文字を元異世界人である私が読んでみたけど何が何やらさっぱり
ひょっとして地球の言語かとも思ったんだけど、それはまったくわからない文字で書かれてあったの
アルタイルもしきりに首をかしげてる
「な、訳の分からん文字だろ?」
「一体どこの言語何でしょうか?」
「一応解読させてはいるが、規則性が発見できんらしい。似た言語も該当なし。お手上げというやつだ」
これをかいた偽勇者の部下達も化け物に取り込まれて死んでしまってるし、相手がまた何かしてこない限りこちらから何かできる手段がない
こっちから攻めるっていうのは絶対になしだもの
かといって相手に攻めて来て欲しいわけない
「まあ現状はこんな感じだ。だが監視班の話によると魔の森を抜けた国境付近では未だに黒い者たちが動いているという情報もある。もしかしたらまた呼ぶかもしれん」
「ええ、その時はすぐに駆け付けますよ」
とりあえず化け物について少しわかったけど、あの化け物も被害者かもしれないっていうのがこころに突き刺さった・・・




