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旅の始まり10

「下がってアスティラ!」

「でも!」

「いいから早く!」

「分かった」

 アルタイルに何か考えがあるみたいで、私は一旦大きく下がった

「点、線」

 これは、アルタイルの勇者としての力?

 点という黒い弾が宙に浮かび、それが線となって化け物を取り囲んだ

「円!」

 線ガクルクルと回転を始めると円状に広がってシュパンという音と共に化け物の首を落とし、さらにブーメランのように戻ってくると化け物の体をバラバラに切り裂いた

「良かった、成功したみたいだ」

「今のは?」

「少し前に新しい力を手にいれてね。もしかしたらと思ってやってみたんだ」

「すごいわアルタイル! あんな化け物を一撃でっあぅぐ…」

「アスティラ?」

 アルタイルの視線が私の胸元を見ている

 まずい、まさかまだ生きていたなんて

 あんなバラバラの状態からの再生が、速すぎる

 化け物は私の心臓を正確に貫いて抜き取っていた

 だんだんと鼓動が遅くなっていく心臓を見て、私はまた息絶えた

 アルタイルの声が聞こえて、どんどん遠くなっていくのがわかる


 目が覚めるといつもの場所だったんだけど、そこにはいつも私を迎えてくれる女神様はいなかった

 その代わりに別の女神様が立っている

「あの子から話は聞いているわ。あなたがあの特殊な人間、いえ、今は魔族ね。私は愛の女神アズリア。妹神であるルニアは現在起きている異変の調査に行っているわ」

「あの」

「ええ分かっていますとも。黒い者たちについてですわね? あの者たちの話は少し別世界の話もしなくてはなりません。ただこれはあなた方の今後にも関わってくる可能性があるのです」

「私達ですか?」

「ええ、勇者とあなたです」

「どういうことです?」

「今世界で、ここを含むすべての世界を合わせた大世界で大きな異変が起きています。数十年前よりも大きな異変が」

「そんなに前にもあったのですか?」

「ええ、その時は全ての神々や世界を作り出した者、古の支配者や闇とも協力してようやく収まった事態です。しかしながら今回の異変、彼らは全て前回の異変によって力を失っております。神々もまた力は大きく衰え、世界の住人達に頼らざるを得ない状況になって来ています」

「それはつまり、私達がその異変を解決するってことですか?」

「今はまだ異変も神々のみで対処できています。しかしながら段々と手は回らなくなってきており、神々の中には力を失って命が危うい者もいます」

「でも、神様でもどうにもならないことを私達で解決できるとは思えません」

「いえ、あなた方は特別なのです。その異変に対応しうる力を持っています。そしてそのような者たちが様々な世界で生まれてきております」

「私達みたいな人がもっといるってことですか?」

「ええ、ですから戦いの日まで力を高めて欲しいのです。それに、あなたはまずこの世界で起こっている異変を解決しなければなりません。それがひいてはあなたをより高みへと導き、力となるはずです」

「分かりました。自分がどこまでできるかは分かりませんがやるだけのことはやってみます」

「ふふ、いい返事です。さてあなたの死でまた力があなたに宿ったようです。それは消滅の力。今回の敵を討ち滅ぼす力となることでしょう」

「ありがとうございますアズリア様」

「あなたの生により幸多からんことを願います」

 

 目を開けるとアルタイルが私を守るように化け物と戦っているところだった

 彼は目から涙を流しながら化け物を点と線で攻撃し続けている

 そんな彼を安心させるように立ち上がると、私は新しい神力を放った

「消滅!!」

 一瞬だった

 手がまばゆく光ったかと思うと化け物が砂となって消えていく

「アス、ティラ? 大丈夫なのかい?」

「ええ、この際だから、話しておきます。私のこの体は敵による攻撃で死ぬことはありません。どのような攻撃で死に瀕しようとも更なる力を得て復活できるんです」

「それじゃあ今の力は」

「はい、消滅という力です」

「そう、か…。でももっと早くに話しておいてほしかったかな」

 う、アルタイルが怒ってる

「ごめんなさいアルタイル。これからは秘密はなしです」

「うん、でもよかったよ。ホントに君が死んだかと…」

 私はアルタイルの涙をぬぐって安心させるように抱きしめた

 それから二人で砂になった化け物を見る

「こいつは一体何だったんだろう?」

「分からないけど、今までで一番不気味で恐ろしい敵だったわ」

 ひとまずその砂を袋に詰めて研究機関に回すことにした

 これで一応依頼は達成したと思うんだけど、念のため調査してもらわなくちゃ

「おおおい! 大丈夫かアスティラ! アルタイル!」

「アオロさん! こちらはもう大丈夫です」

「なんと、あの化け物を君たちだけで?」

「ええ、二人で協力して何とか、といったところです」

「そうか、何にせよ二人とも無事でよか…。えっとアスティラさん、そのなんというか」

「はい?」

「あ! アスティラ! 胸胸!!」

「はえ?」

 見下ろすと、穴を開けられた鎧から胸がこぼれ出ていた

 これは、相当に恥ずかしい

 急いでアルタイルが渡してくれたマントで隠して私達は帰路についた

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