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旅の始まり9

 しばらく何事もなく平和に滞在していたけど、それが起こったのは私達がここに来てから三日後のことだったわ

 やっぱりまた来たみたいなのよね

 黒い者たち、偽勇者の使いと見られる十二勇士?だと思うんだけど、そいつらが森の少し入ったところで確認されたみたい

 私とアルタイルは急いで身支度を整えるとその方向へ向かって走り出した

 案内してくれるのは目撃者である兵長のアオロさんというかっこいいお兄さんで、優しそうな外見とは裏腹に鬼の兵長と呼ばれるほど部下にも自分にも厳しい人らしい

 彼は私達より五十歳ほど年上で、物腰も落ち着いてる

 お姉さんが信頼している部下の一人だって

「こちらですアルタイル様、アスティラ様」

「様付けはやめてください。僕らは一冒険者としてここにきているんですから」

「分かりました。ではアルタイル、こっちに来てくれ」

「はい」

 堅物じゃなくてよかった

 時には柔軟な発想もしないと兵長は務まらないのかも

「アスティラ、足音を消してくれるか?」

「あ、はい」

 防音のスキルで私達の足音を消して、さらに気配遮断のスキルで完全に気配を断つ

 森に入るとなんだか森全体がざわめいてるような気がした

 辺りを見渡すと、普段ならいるはずの鳥や小動物の姿が全く見えない

「様子が変ですね」

「恐らく黒い者が何かをしているんだろう。警戒して進んでくれ」

 アオロさんの指示に従いつつさらに奥へ進んでいく

 三人の間には緊張感が走ってて、額に汗も浮かぶ

「見えたぞ、あれだ」

 木が切り倒されて少し開けた場所が見える

 その中央で黒い肌の男女二人が魔物を魔方陣のようなものに置いて呪文を唱えてる

 その魔方陣からはなんだかヤバそうな気配がして肌がチリチリと痛くなってきた

「何をしてるんですか? あれは」

「私の勘だが、恐らく召喚の儀式だろう。あの魔物は生贄だろうな。しかし、ただのウッドウルフで生贄召喚とは、それほど強い召喚獣ではないのかもしれん」

「いえ、そうとは限りません。あの召喚陣、何かが変です」

 よくよく見てみると、通常召喚とは魔方陣の描き方が違ってる

 あんな魔方陣は魔法に詳しい学園でも教えていない、というよりあんな魔方陣見たことがない

「一体何を召喚するつもりなんだ?」

「分かりませんが、嫌な気配がします」

「今のうちに止めよう」

 アルタイルに従って私達は飛び出し、その男女の召喚を止めた

 でもギリギリ遅かったみたいで、召喚陣から何かが召喚されてしまった

「ヒッ、な、なに、何なのこの禍々しいモノは…」

 そこから出てきたのは、明らかに既存の魔物ではない、それどころかこの世界の魔物とも思えない得体のしれない化け物だった

 グジュグジュと腐った体に、怪しく光る眼、見た目は下半身がタコのような人間だけど、手は右腕が異常にねじ曲がってて、左手は異様に大きい

 顔は皮膚をどろどろに溶かされた人間のような顔で、時折ゴポゴポと音を立てて不気味に笑っている

 そいつの後ろで、二人の黒い者がいきなりその化け物に縋り付くように抱き着いた

 すると化け物はその二人を掴んで握りつぶし、その血を飲み下し、肉を喰らい始めた

 なんておぞましい光景…

 込み上げる吐き気を我慢して私は叫んだ

「アオロさん! ここは私達が食い止めますから急いで救援をお願いします!」

「あ、ああ、ああ分かった! 無理はするなよ!」

 アオロさんの力は兵の中でも群を抜いていると言ってもいいけれど、私と勇者アルタイルには遠く及んでいない

 本人もそれが分かっていたのですぐに救援を呼びに走ってくれた

 どうやらこの化け物とは本気で戦わなきゃいけないみたい

「アスティラ、君は魔法を頼む。効果は薄いかもしれないけど牽制にはなりそうだ」

「ええ分かったわ」

 私はしょっぱなから最高位の魔法の準備を始める

 アルタイルはそれと同時に腰に下げていた剣を抜いて構えた

「ぐぎゅぎゅごぽぽぽぽぽ」

 口から血の泡を吹き出しつつ邪悪な笑みでこちらを見つめる化け物

 涎のようなものが垂れて地面を焦がしている

 高温の毒のようで、かかればひとたまりもないのが明らかに分かった

「いくよ!」

「ええ! ドラゴニアフレアナ!」

 竜が放つ魔法、これを使えるのは恐らく魔族では魔王様とその妹のエイリアスさん、それに私くらいだと思う

 それほどに強力な魔法を初激で放ったわ

 その位しなきゃ傷一つつけられそうにないほど魔法抵抗力が高い化け物だったもの

 大爆発が起きて森の一部と化け物が消し飛んだ

「倒した、の?」

「まだだ!」

 煙が晴れると何事もなかったかのようにそこに化け物が立っていて、少し燃えている皮膚を口から出た触手のような舌デペロペロと舐めとってる

「剣戟、春風のワルツ!」

 アルタイルは剣戟という斬ることに特化した技を化け物の胸めがけて放つ

 でも化け物の皮膚にほんの少しの切り傷ができた程度だった

 しかもその傷はあっという間に再生して元通り

 こいつ、今まで戦ったどんなものよりも強い

 ほんの少しだけ傷を負ったのが気にくわなかったのか、鈍そうな見た目とは裏腹に一瞬でアルタイルの目の前へ移動すると、大きな左腕でアルタイルを殴り飛ばした

 アルタイルは何とかその拳を剣で受け止めて、わざと後ろに飛んで衝撃を和らげたんだけど、剣は折れてアルタイルの右腕がグニャリと不自然な方向に曲がっていた

「ぐっ」

 痛そうだけど、アルタイルはすぐに空間収納から別の剣を取り出して構えた

 私はすぐに回復魔法を飛ばしてその傷を癒す

 一瞬でとはいかないけど、アルタイルの骨折は徐々に治っていった

 化け物は私達を嘗めているのか、その様子を嬉しそうに見ている

「く、馬鹿にされてるな」

「ええ、でもそれなら隙をつけそうね」

「ああ、やってみよう!」

 私は今度は魔法を連射してとにかく隙を作ることに専念した

 けれどすべて当たっているにも関わらず化け物はどこ吹く風

 魔法が、全く通じていなかった

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