生まれたけど何か変なんですが5
「・・・であるからして、現魔王様は各都市に学園を設け、全ての魔族が学園へ通いよりよい生活を送れるようにしてくださったわけなのです」
ようやく学園長先生の長い長いお話が終わったみたいだ
座ってるからいいようなものの、立っていたら絶対に貧血を起こして倒れる子がいたはずだよ
「さてそれでは新入生代表のプラムプラムさん、挨拶をお願いします」
「はい!」
呼ばれたのはいかにも委員長というあだ名が似合いそうな少女で、広めのおでこにちょこんと生えた二本の角、丸渕の眼鏡におさげ髪といったもっさりした子が壇上に立った
「私は平民です。しかしながら魔王様のご慈悲のおかげで私達のような平民でも学園に通い学ぶことを許されています。ここでは身分など関係なく等しく平等と聞きました。平民ゆえに至らないところも数多くありましょうが、どうかその時はご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。最後に時期を同じくして入学された生徒の皆様、どうか私と仲良くしてくださいね」
彼女ははきはきとした挨拶を済ませると礼儀正しくお辞儀をして席に戻って行った
なんて立派な子なんだろうか。まさに委員長と呼ばれるにふさわしいと思うので、私は彼女を心の中で委員長と呼ぶことにした
委員長の挨拶が終わると来賓や保護者会会長(母様)による祝辞があり、最後に学園長先生からの諸注意の後に閉会した
今日はひとまず生徒たちの顔合わせと、担任の先生になる人の挨拶があるらしいので、私はソル君、フレアちゃんと一緒に教室へ向かった
一階の角にある一年生の教室は非常に手入れが行き届いていて、木のいい香りがする
今年は20人しか新入生がいないので全員がこのクラスに入って一緒に勉強するんだ
これならすぐにでも新しい友達ができそうだ
当面の目標はこのクラス全員と仲良くなることかな
それに授業も楽しみ。実を言うと私は人間だったころ勉強は得意な方だったんだよね
香純を養えるよう必死で勉強してきたんだ
その努力も無駄になったと思っていたけど、この世界の勉強はどうやら元居た世界と大して変わらないらしい
その授業に魔法や魔物との戦い方などが加わるだけ
まあその加わったものが厄介この上ないんだけどね
「あ、アスティラちゃん見て、さっき舞台上で挨拶してた子がもうみんなに取り囲まれてるね、人気者だね」
フレアちゃんに言われてそっちの方を見てみると、どうやら人気者と言うわけじゃなさそうだった
「お前平民の癖に生意気なんだよ! 何が仲良くしてくださいだ」
「そうそう、あんたなんかと仲良くする貴族なんているわけないじゃない。ちょっと入学試験の成績がよかったからっていい気になるんじゃないわよ!」
ドンッ
これは、止めに入らないと。委員長ちゃんが突き飛ばされて転ばされている
私は反射的に駆けだして委員長ちゃんの前に出ると手を広げた
「何をしているんですか? この学園に身分は関係ないと学園長先生もおっしゃっていましたよ?」
「な、何よあんた! その平民の方を持つ気? あ、分かった! あんたも平民なんだ!」
「ちょっといいドレス着てるからって背伸びしちゃって! 何よこんなもの!」
委員長を突き飛ばした女の子が私のドレスのスカートを引っ張るとビリッと破け、下着があらわになった
でも私はそんなことにひるまずにその子の手を掴むとにらんだ
「な、何よ! 文句あるって言うの平民! あんたなんか私のパパに言えばすぐ家なんてなくなってその辺の魔物の餌になるわよ! それでもいいの!?」
「はぁ、名前は出したくないんですが、貴方にはそのパパからきついお仕置きでもしてもらってください、アディリア・メイフォーンスさん」
「ななな何で私の名前を、それも家名まで!」
「我が領地の人間なら全て覚えていますよ。このぐらい将来この領を預かる者として当然ですからね」
もちろんスキルの力で覚えている。取っててよかった“瞬間記憶”
この領地に住む魔族なら私はその全てを末っ子に至るまで記憶しているんだよねー
「我が領地…。ま、まさかあんた、いやあなたは、ベルドモント家の」
「ええ、アスティラ・ベルドモントと申します」
ニコリと微笑むとアディリアは泡を吹いて倒れた
どうやら自分が罵声を浴びせて服まではぎ取った者が領主の娘と知ってシャットダウンしてしまったようだ
「全く、貴族なら民を思いやる心を持ちなさい。さて、大丈夫かないいんちょ、じゃなくてプラムプラムさん」
「あひ、だだだ大丈夫、ですアスティラ様!」
あう、どうやら委員長ちゃんまで驚かせてしまったみたい
「安心して、ここは身分なんて関係ないんだから。それに、私あなたとお友達になりたいと思ってたの」
「わ、私なんかが、アスティラ様のお友達に、なれるなんておこがましいでしゅ!」
「何言ってるのよ。あなたも言ってたでしょう、ここは身分なんて気にしなくていいの。だからほら」
私が手を差し出すと委員長ちゃんことプラムプラムちゃんはその手を添って握り返してくれた
これでこの子を平民といじめる者もいなくなるだろう
なんせ私が目を光らせてるからね
ちなみにプラムプラムちゃんに家名は無くて、大概の平民家は住んでいる家にあるものやその土地にあるものの名前を付けられる
プラムプラムちゃんは生まれたときに家に食べ物がプラム二個だけだったからそんな名前になったんだとか
まどろっこしいからプラムちゃんと呼ぶことにした
「あの、アスティラ様、その」
「なに? プラムちゃん」
「こ、これを」
ハンカチを差し出すプラムちゃん
何でハンカチ?
「その、下着が」
「あ、そうだった」
私は受け取った大き目のハンカチで腰元を隠す
なんかソルくんの目がギンギンとこちらに向いてた気がするけど気にしない
その日以来私達四人はすっかり仲良くなれたわ
プラムちゃんは非常に博識で、今まですごく努力してたんだろうなってことが分かった
そんな感じで初日を終えて、私はカルテアお姉ちゃんと家路についた
お姉ちゃんは何かまだ仕事が残ってたらしいけど、私が帰るのを見て飛んできたそうだ
おいこら仕事しろ魔導兵団団長