生まれたけど何か変なんですが29
蜘蛛少女を救い出した後、私は彼女の精神ケアに務めた
未だに何かに怯え続けていて、可愛そうなほど震えている
そうそう、人間の持っていた彼女を苦しめて命令を聞かせるための魔道具なんだけど、そっちはすぐに破壊できた
首輪状になっていて、無理に外そうとすると呪いで死んじゃうような代物だっただけに、そんなものをこんな幼い子につけた人間にまた怒りがわいてくる
でも私のアンチディスペルで簡単に外れたのは幸いだったよ
ただ…
彼女の背中に融合してしまった蜘蛛魔物の足。これはどうあっても取り除けそうになかった
この体は彼女と血管なども共有しているため、剥がせばこの子まで死んでしまう
それじゃあ助けた意味がないもの
可哀そうだけど、どうにかする手立てがない現状では、このままの姿でいてもらうしかない
あ、あと洗脳や催眠に関しても完全に解除することができたよ
まあ私のスキルなら洗脳や催眠解除は大した労力じゃない
それで、この子の名前はヨンニーハチ号って言うみたいなんだけど、そんなもの名前と呼べないよね
私はちゃんとした名前を付けてあげることにした
「そうね…。目が綺麗だし、アイちゃんって言うのはどう? 番号や蜘蛛ちゃんとかじゃ思い出しちゃってつらいでしょ? 安直かな?」
「いや、僕はいいと思うよ。女の子らしいし」
アルタイルはそう言ってほめてくれた
肝心の少女の方を見ると、嬉しそうに顔を輝かせていた
「私、その名前、好き、です」
「よかった。じゃあこれからよろしくね、アイちゃん」
で、アイちゃんはどうやら解毒針を出せるみたいで、ウルミナさんのところへ行くことになった
ウルミナさんたちはアイちゃんの毒針から解毒薬を作り出そうと準備を始めているところだったけど、解毒針のことを話したらすぐにでもやってほしいとのこと
「それで、まさかとは思うが、完全に殺すような真似はしないだろうな?」
「や、やらない、です。もし、そんなことしたら、すぐに、殺してくれて、構わない、です」
「お、おいおい、子供がそう簡単に殺せとかいうもんじゃ」
それで彼女は気づいて息をのんだ
アイちゃんはこの世の地獄とも言うべき光景を幾度も見て来たし体験した
死にたいと思うのも、無理もない話かもしれない
アイちゃんは指をどろどろになったダークエルフたちに近づける
その小さな指先から、金色の針が飛び出し刺さった
するとまるで逆再生のようにどろどろとした体が人型に戻って行き、やがてダークエルフとなった
「ミリファ!」
ウルミナさんは妹であるミリファさんに抱き着く
裸だったのでとりあえず羽織れる布を出して渡した
アルタイルは紳士らしくちゃんと後ろを向いてくれてるわ
「ね、姉さん、私」
まだ完全に回復しきっていないようなので私は元に戻った彼らにヒールをかけていく
「ありがとうアスティラ! おかげで里のみんなも元に戻った。本当になんと感謝してよいか…。それとお前、さっきは悪かった。お前だってつらかっただろうに」
「で、でも、全部、私の、せい…。恨んでも、いい、よ。私、は、殺されるだけの、ことを、した、から」
それを聞いてウルミナさんはアイちゃんの頭にそっと手を乗せる
「つらい思いをずいぶんしたんだな…。だが頼むから、子供が、そんな悲しいことを言わないでくれ」
ウルミナさんに優しく頭を撫でられ、アイちゃんはぽろぽろと大粒の涙を流して大声で泣き始めた
無理もない。本当に、ただの女の子なんだこの子は
その後、回復したダークエルフたちからお礼として様々な薬をもらうことができた
魔力の宿っているこれらは非常に効果が高く、店で買うなら一つでも馬が数頭買える代物
ありがたく受け取って私達は帰路についた
ちなみにアイちゃんも一緒にね
ダークエルフたちは死んでいなかったから元に戻せたけど、商隊の人達はもう元には戻らない
死んだ者は返ってこない
それが世界のルール
じゃあそのルールを破ってる私は…
死なない体、神様でも死ぬってあの女神様に聞いたことがある
それなら、死なない私は何者なの?
女神様は答えてくれなかったけど、もしまたあの場所に行くことがあるのならもう一度聞いてみよう
父様のいるキャンプ地まで戻ると、父様は私の後ろに隠れるアイちゃんを見て何も言わず悟ってくれた
「はぁ、アスティラ、お前はまったく…。だがまぁ、その子が元凶なんだな」
「はい、でもこの子は」
「ああいわなくても大体わかる。俺も魔物と人間の融合実験というは聞いたことがあるからな。それにしてもその子は肌まで黒い。確実にあの黒い者たちに何かされているな」
「はい、被験体として孤児の子供に非道な実験を行っていたようで、この子含めて何人か成功していたようです」
「そうか…。それが本当なら、こちらも準備しなければな…。全く人間は、酷いことを考えるものだ」
父様はアイちゃんに近づく
「ヒッ」
「ちょ、父様、怖がってるじゃないですか」
「あ、ああすまない。怖がらせるつもりはなかったんだ。お嬢ちゃん、名前は?」
「あ、う、ひ、被験…。いえ、アイ、です」
「そうか、俺はガイア。アスティラの父親だ。怖がらないくていい。うちへおいで。あったかい紅茶やお菓子を用意しよう」
それを聞いてアイちゃんはまた顔を輝かせた
「フ、まぁなんだ。本当に俺は、つくづくこういった子に縁があるんだな」
そういえばそうね。カルテアお姉ちゃんに、メイドのレッピィ、それからアイちゃん
不遇な境遇の子ばかり集まってる気がする
父様はそう言った子をほっとけない性分だもん、集まってくるのも仕方ない気がする




