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勇者8

 アスティラは一体何者なんだろう

 いや、素性はしっかりとわかっているんだけど、行動やしぐさ、それに時々出て来るあの世界の言葉、死なない体

 あの子はまだまだ力を隠している気がする

 スキルだってその歳では異様なほどに充実している。この世界ではあり得ない成長速度なんだ

 だって彼女はまだレベルすら手にいれていない未成年、まあそれは僕も同じことだけれど、レベルが無ければスキルのポイントが取れない

 寿命の長い魔族にはスキルをたくさんとっている人も多い。スキルレベルだってそれなりの人もいる

 でも、彼女に至ってはその量が異常なほど多い

 一体どうやってここまでのスキルの数と、レベルを取ったのだろう

 極め付きは今使った力

 ドローンを作り出して、コンピューターのモニターのようなものでそのドローンの映しだした景色を見ている

 こんなの、あの世界の知識が無いと思いつかないはずだ

 彼女は、もしかして僕と同じ…

「みて下さいアルタイル、この部屋誰もいません。ここから下に降りる階段があるみたいですよ」

「ホントだ。じゃあ侵入できそうだね。念のため先も調べてくれるかな?」

「ええ」

 アスティラの偵察のおかげでこの小屋の内部情報がつかめた

 地上は一階で地下は二階、地下一階は数人の人がいて、地下二階にあのフードをかぶった少女がいた

 でも、その少女の様子はどこか変で、この場所にいる人間達に無理やり何かをやらされているようだ

 フードを脱がされると、泣きそうな顔の少女の顔が出て来た

 その子は人間たちを怖がっているようで、震えている

 すると人間の男の一人が何かマジックアイテムのような物を取り出して少女に向ける

 そのとたんに少女は苦しみ始め、たおれこんだ

 来ていたローブが脱げてその体の全体があらわになる

 やはりこの少女がダークエルフたちを襲った少女で間違いないのだろう

 でもこれは…。こうなると話が違って来るじゃないか

「許せない。あんな少女を使って、非道なことをさせるなんて」

 アスティラは静かに怒っていた

「行きましょうアルタイル。あの子を救わないと」

 そう決めたアスティラの行動は早かった

 姿を消して僕の手を掴むと一気に中に駆け行って地下二階まで駆け下りる

 その少女を苦しめていた男たちを一瞬でのすと気絶した少女を抱えてまた地上まで駆け上がって、その足で町を走り出た

 あまりの速さに僕はただ手を引かれているだけって状況だ

 そのまま走り続けてダークエルフたちのいる森に戻った

 速いのはいいんだけど、馬車よりも、むしろ車よりも速いってどういうことなんだ…

 疲れた…

 でも無事蜘蛛少女は救えたわけだけど、やっぱりウルミナさんが怒り出した

「お前たち! これはダークエルフを襲った化け物だぞ! なぜ殺さないんだ!」

「待ってください! この子も、この子も被害者なんです!」

「何が被害者なものか! こいつは嬉々として襲ってきたんだぞ!? あの邪悪な笑みは忘れもしない!」

「でも待ってください! 説明しますから!」


 それから一応は落ち着いたウルミナさんに今見てきたことを説明した

「それじゃあこいつも無理やりやらされている可能性が高いと言うことなのか?」

「はい、あの嫌がり方は尋常ではありませんでしたし、それに何より、人間に虐げられて、無理やり従わされているかのようでした」

「ふん、とりあえずは目を覚ますまでは殺さないでおいてやる。だが毒の採取はさせてもらうぞ」

「はい、この指先から射出したんでしたよね?」

 アスティラは蜘蛛少女の指を触ると、指先から細い棘が出て来たのが見えた

 それを引き抜いてウルミナさんに渡す

「これで、解毒剤が作れる」

 ウルミナさんは走って仲間の元へ行ってしまった

 

 数時間後、蜘蛛少女はようやく目を覚まし、目の前の光景に驚いて逃げ出そうとした

 しかしアスティラがあらかじめ体を麻痺させておいたので動けずに困惑している

「大丈夫、傷つける気はないよ。君は、この里を襲った子で間違いないんだよね?」

 少女は少し考えて、コクリとうなずいた

「なんで、この里のダークエルフたちを襲ったんだい?」

「わ、私、お母さんが死んでから、こ、孤児院で暮らしてて、そ、それで、大人の人達に売られて、それで、魔力がすごく高かったから、被験体だって言われて、分かんないうちに、こんなことになって」

 少女の話すことはかなり悲惨な話しだった

 彼女のいたのは研究施設のような場所で、そこでは魔物と人間を融合させて戦闘能力の向上を図っていたのだと言う

 しかし彼女と他数百名の少年少女たちはみんな実験の過程で死ぬか、魔物に心を乗っ取られて使い物にならなくなったため処分されるかだったという

 彼女はたまたま蜘蛛型魔物との親和性が高かったため実験が成功し、アブゾーバーという魔物と融合した最初の事例になってしまったそうだ

 そこからは洗脳魔法や催眠魔法によって無理やり働かされ、多くの魔族や人間と敵対している種族を殺させられたという

 ダークエルフもその一つだったけど、途中で意識が戻ったため何とか体を動かして毒をセーブしたらしい

 それによりどろどろに溶けたにもかかわらず生きているという状態になったのだそうだ

「わ、私、戻せる、よ。戻させ、て」

「本当かい? それならお願いするよ。ところで君、名前は?」

「覚えて、ない。研究所では、秘検体ヨンニーハチ号って呼ばれてた」

 ヨンニーハチ、428番目の秘検体ってことだろうな…。つまり、それだけの数の子供が殺されてたってことなのか

 人間は、つくづく、何て愚かで、非道なんだろう

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