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勇者7

 いきなり意識を失うアスティラ。先ほど受けた矢には毒が塗ってあったらしい

 なんでもダークエルフの特別製で、耐性も無駄なうえに魔力を乱して回復魔法すらも受け付けない体に変えてしまうものらしい

 この毒をどうにかするには彼女らの作った解毒薬が必要で、それは彼女らの住処にあるらしい

 しかしその住処は件の蜘蛛少女に破壊され、解毒薬が残っているかどうかわからないのだそうだ

 ならば作ればと提案したが、恐ろしく時間がかかるためその間に死んでしまうらしい

 今はなんとか進行を遅らせる薬を投与しているみたいなんだけど、それでもいつまでもつのか分からない

「くっ、どうすれば! このままじゃアスティラが、僕の…、アスティラが…」

「すまない、私達が疑ってしまったばかりに」

「いえ、あなた達はやるべきことをやっただけ、僕たちがちゃんと警戒していれば…」

 お互いに非を認めあったけど、今はそんな場合じゃない

 アスティラの呼吸は段々荒くなってくるし、汗も凄い

 うわごとで僕の名前を呼んでいるし、時折目は開くけど虚ろだ

 僕も一応回復魔法を覚えてはいるけど、初級で擦り傷程度の手当てくらいしかできない

 解毒もできないし

 みるみる顔色が悪くなり、やがてアスティラの呼吸が止まった

「アスティラ! アスティラ!」

「まずい、人工呼吸を!」

「僕がやる!」

 僕はまったく呼吸をしていないアスティラの唇に口をつけ、息を吹き込んだ

 そのまま胸元の衣服をはだけさせ、あらわになった胸に手を置いて心臓マッサージを施した

 ダークエルフたちも薬を投与してくれたけど、アスティラの呼吸は戻ることが無かった

 僕は愕然として足が震えるのを感じる

 僕の大切なアスティラが、死んだ?

 現実を受け止めれないまま立ち上がる

 ウルミナさんがそっとアスティラに白い布をかぶせて炎魔法を唱え始めた

「ま、待ってください! アスティラはまだ!」

「しかしこのまま置いていればゾンビになるぞ? 愛する者のそのような姿、見たくはないだろう?」

「でも!」

 僕はまだ彼女が死んだことが受け止められない

 あっという間だった。本当に、倒れてから死ぬまで、ほんの一時間…

 そんな時間で死を受け止めろなんて、土台無理な話じゃないか!

 僕は布のかかったアスティラに縋り付き、涙を流してむせぶ

 すると、彼女の心臓がトクンと鳴った気がした

「どうした? 何でそんなに驚い…。そんな、馬鹿な。確かにこの子は死んで」

「いえ間違いありません! 以前にも同じようなことが…」

 ドクンドクンと心臓の鼓動が激しくなっていくのが聞こえ、布の中がもぞもぞと動き始めた

 そして手がガバッと持ちあがると、上半身がむくりと起きあがり、手が布をかなぐり捨てた

「アスティラ?」

「うう、ひどい目にあった…。まだ心臓がバクバクしてるし…。アルタイル、心配かけてごめんなさい」

「本当に、生き返った? よ、よかった。よかったよアスティラ」

 僕は恥も外聞もなくアスティラに抱き着いた

「アルタイル、痛いですって! ちょ、やめ、分かったから!」

 顔を真っ赤にして恥ずかしがってるけど、僕は絶対にこの子を失いたくなかったんだ

 だからホッとして、ずっと抱きしめてしまった

「あの、愛し合っているところ申し訳ないのだが、その、もう大丈夫なのか? 一応この薬を飲んでくれ、体力を回復させるはずだ」

「あっ、すいません!」

 アスティラは慌てて僕を放して薬を飲むと、ウルミナさんに話し始めた

「今こちらでドロドロとしたスライムのような姿になってしまってる方たちですが、私が調べた結果生命力を感じました」

「生命力、とは何だ?」

「はい、それは生命が生きる上で発する力、魔力の流れや気力とは全く別の生の力です」

「ふむ、それで、ミリファにはそれがあると?」

「ええ、でも最大の回復魔法でも元に戻らないことから恐らく、彼女をこのような姿に変えた者を倒せば元に戻る可能性があります」

「本当か!?」

「可能性がある、という段階です。もし治らなくても、その者の放った毒針を調べれば何とかなるんではありませんか?」

「確かに、毒の成分が分かれば私達なら解毒剤が作れるかもしれない」

「ですから、その蜘蛛少女は私達が倒します」

「なんと!? いいのか? 私達はお前を死なせてしまうところだったんだぞ?」

「でも死んでませんよ。それに、アルタイルは勇者です。困ってる人を見捨てないのが勇者ですから」

「勇者!? そんな馬鹿な。勇者は人間族に生まれたと聞いたぞ?」

 それから僕らはそのことについて説明した

 始めのうちは信じてくれなかったけど、根気よく説明したことで分かってくれた

「そうか、確かに人族の様子が最近おかしいとは思っていたんだ。よし、我らも君たちに協力しよう。世界がおかしいのなら、元に戻さなくてはなるまい?」

「ありがとうございますウルミナさん!」

 そう言うとウルミナさんは顔を赤くした

「ふ、ふん、こちらも妹を、仲間を助けてもらうのだ。協力するのもやぶさかじゃないと言うだけだ」

 照れてるのかな? 可愛いところもあると思った

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