勇者5
今までにないほどの大規模な戦闘に僕はお父様と共に参戦していた
黒くなった魔物の群れにさらに黒い人間族に亜人族。それを率いているのが黒い肌の男だった
ハザードと名乗ったその男はキザッたらしくタクトを振るう
すると魔物たちが一斉に動き始めた
僕たちの軍を率いているのはベルドモント公爵、それとその養娘で魔導兵団隊長のカレアナさん、アスティラちゃんの義理のお姉さんか
お父様は参謀であるため離れたところにいるけど、今回アスティラちゃんが参戦していると聞いて驚いた
もしあの子が危ない目に合うようなら、すぐにでも駆け付けれるよう心掛けている
でも今は迫る魔物の対処をしないと
お父様は豪快に見えるけど頭を使う方が得意で、近接戦闘が苦手なんだ。だから僕が守らなきゃ
こちらまではまだ黒い魔物の手は届いていなけれど、すでに戦いは始まっていて、先頭の方では魔物の唸り声やギャァという声が聞こえてくる
鳥型の黒い魔物はこちらを目指して飛んで来るけれど、それは僕のスキルである“点”を使って撃ち落とせた
このスキル意外と便利で、空中に制止させておけばそこを足場にして宙を駆け回ることもできる
今まで隠していたこの力だけど、こういった大規模な戦闘も想定して父様やその部下たちには明かして置いた
ここでなら使い放題
「点!」
フワフワと浮かせた点を足場に宙を歩きつつ襲ってくる鳥の魔物を“点”と剣で落としていく
さらに宙を走って大きな鳥魔物との戦闘に入る
見た目は大烏で、魔力を纏っている。恐らく一般兵では勝てないはずだ
バサバサと翼をはためかせて風を起こし、下にいる兵たちが吹き飛んでいく
幸い皆うまく着地しているみたいだ
僕は大き目の点を出すとそれを大烏にぶつける
「せりゃぁ!」
いくつもの点を大砲のように打ち込むと大烏の翼を砕いて落とした
そこを兵たちが一斉に攻撃して何とか倒す
その後も同じように大きな鳥魔物は僕が落とし、あらかた大きな魔物を落とし終えたところでお父様に断って最前線を目指した
この辺りはあとは魔導兵たちに任せておけば大丈夫だろう
最前線ではあの子が、アスティラが戦っているはずなんだ
急ぎ点に乗って駆け、ようやく最前線に来ると、あの子が、アスティラが血まみれで横たわり、息をしていないようだった
その瞬間私の頭は真っ白に染まって、ガクリと膝から崩れ落ちた
何が勇者なのか、私は、そんな素晴らしい者なんかじゃない
悲しさと同時に、怒りが私の中で込み上げてきた
「よくも、よくもアスティラを」
アスティラをこのような目に合わせたと思われる黒い肌の男ハザード
格闘技の達人なのか、タクトを置いて今は構えている
「ハハハ、たかが魔族の女一人、この世から掃除してあげただけだ。貴公はこの女の何なのかな? まぁいい、すぐに後を」
もう聞きたくない。こいつの言葉など聞く必要が無い言葉だ
男の首がコロリと転がり落ちて、正面を見ると、その男の周りにいた黒い人間も、皆バラバラになって崩れ落ちた
“線”
点と点は繋がり線となる
線は宙に張り巡らされると残っていた魔物に絡みついてバラバラに切り裂いた
転がった男の顔は驚愕に満ちている
「まさか、魔族が吾輩を…。十二勇士たる吾輩、が」
「お前は勇者直轄の部隊だと言っていたな? 僕がその勇者だとしたら?」
「まさか、そんな馬鹿なことがあるわけないだろう! 魔族が勇者など滑稽! 邪悪な魔族が! 吾輩は家族を、魔族の手から守るため、世界は魔族の手に渡さぬ!」
男の首の切り口からうねうねと触手が生え、倒れていた男の体と接合して元通りに戻る
「今は油断したが、勇者にこの体にしてもらってよかったと思える」
「そうか、君は…。いいだろう、君とは正々堂々と戦いたくなった」
「ふん、魔族が正々堂々などと片腹痛し!」
男は再び構えて僕との距離をジリジリ詰め始めた
「せい!」
男の拳が撃ちだされると黒い靄が手にまとわりついて周囲を焼くかのような黒い炎が噴き出した
「点!」
自分の体よりも大きな点を出してそれを防ぐ
「ほぉ、魔族にも少しはできる者がいるのだな」
「線!」
撃ちだした拳を切り刻む
だがそれもあっさりと再生してしまった
「く、僕の力だけじゃ」
「アルタイルさん!」
聞き覚えのある小鳥のさえずりのような声に思わず振り返ると、傷一つついていないアスティラが立っていた
「アスティラ、ちゃん?」
「ごめんなさいアルタイルさん。一人で戦わせてしまって」
「あ、ああ、でも、君…」
「さぁ行きますよ!」
何が何だかわからないけれど、僕は彼女の無事な姿を見て安心し、力が湧いてくる
「お、いいですねぇその感情! 愛って素晴らしいと思いませんかね? 私ってばこの感情が一番好きでぇ、いつかお父さんとお母さんみたいな恋愛をするのが夢で」
「あの、メルカさん? 頭に急に話しかけないでもらえませんか?」
「あら、ごめんなさいね。でもそれこそ勇者の力。そしてその子こそ、あなたを支える者。共に目指しなさい、この世界の中心を。人間達を元に戻してあげて!」
「元に? それは一体」
「お願いね」
声が消えた
でも、沸き上がる力で男に勝てるとわかった
僕の中から沸き上がった力をアスティラに渡す
「な、何ですかこれ!? 体の奥底から力が」
「それが、僕の持つ勇者としての力。アスティラ、僕と共に戦ってくれないか?」
「もちろんです!」
二人で構え、お互いの力が高まっていくのを感じた
「あなたには悪いけどこちらも守るものがあるんです」
「ふん、同情無用」
「アスティラ、手を取って!」
「はい!」
二人で僕の力を使う
これが勇者の力なのか
仲間を鼓舞し、力を底上げして共に戦う
「あなたの勇者はなぜ戦場に出てこないのです?」
「あの方は多忙の身、このような場所に来られるはずがない」
「それがそもそもおかしいとは思わないのですか? 今までの勇者は最前線で戦っていたのでしょう?」
「それは…。いやあの方をを疑うなど、おのれやはり魔族、吾輩を惑わす気だな!?」
「もう一度よく考え直すべきですね。アスティラ」
「ええ!」
「「ベレア・フルハーレス!」」
二人で力を合わせ、彼を思いっきり吹き飛ばした
「くそがぁ! この吾輩を! 生かして逃がすと言うのか!」
「あなたもわかっているはずです。今の世界がおかしいことが」
ハザードは飛んで行き、見えなくなった




