生まれたけど何か変なんですが2
洗礼の日の朝、私は母に手を繋がれメイドたちに見送られながら家を出た
外から見ると余計にこの屋敷の広さが分かる
洗礼まで少し時間があるから街を見て歩くことになった
「ほらアスティラ、この街が将来あなたが治める領地の一部よ。魔王様のおっしゃることをよく聞いて正しく民を導くの。あなたなら必ずできるわ」
母は頭を撫でながらそう言ってくれた
私に本当にできるのかな?って気持ちはあるけど、それでもやらなくちゃダメなんだ
今度こそ守りたいから。大切なもの全部を
街を見て回っているうちに教会の鐘が鳴った
この鐘は一時間ごとに鳴るんだけど、今の鐘はもうすぐで洗礼の儀が始まるという合図の鐘らしい
普段鳴る時刻を告げる鐘はその時間ごとになる回数が違う
例えば三時なら三回、四時なら四回といった具合に鳴るんだけど、合図の鐘は必ず一回鳴った後間を置いて三回鳴ることになっている
つまり今回のは洗礼についての鐘で間違いないってことだ
「お母様、洗礼はどのようなことをするのですか?」
「そうね、アスティラにはまだ教えてなかったかしら。うっかりしていたわ。まず洗礼がなんなのか分かるかしら?」
「えっと、神様に自己紹介をする儀式?」
「そうよ、それともう一つあるの。それは魔力測定よ」
「魔力測定?」
「ええ、自分の持っている魔力がどのくらいあるのか図るの。リィリアはお父様の血を継いでいるから高いと思うわ」
「ホント!?」
「ええ、それにお母様だって魔力は高いのよ? そんな二人の子ですもの。きっとかなりの魔力量になるわね」
母の話によると魔族と言うのは魔力が遺伝して、両親ともに高い場合稀に異常に高い個体が生まれることもあるそうだ
現在の魔王様もそうらしくて、歴代最強との呼び声も高い
魔王様とまではいかないけれど、私だってこの両親にしてこの子ありと言われたい
教会は私の家からほど近く、意外と質素なつくりだ
それもそのはずでこの宗教、太陽教には他者を思いやることという教えがあり、質素倹約と言うのがモットーなんだ
この戦争だってそんな教えが息づいている魔族側から行ったものではないというし、一体人間は何を考えているのやら
とまあ私も魔族の頭になってきているんだと思う
とりあえずは洗礼を済ませてしまおう
母に手を引かれて私は教会の中へ入って行った
「ようこそおいでくださいましたベルドモント家御令嬢アスティラ様、奥様」
司祭らしき魔族のおじさんが私が入った直後にそう言って挨拶したため、視線が一気にこちらに注がれた
私以外に子供は…。二人か
男の子と女の子がちょこんと席に座ってこっちを見ているな
「どうぞこちらへ」
司祭に席へと案内されて私はその男の子と女の子の横へ腰かけた
母は後ろに座ってその様子をハラハラと見守っているのがうかがえる
「ではそろったようなので洗礼の儀を始めます。名前を呼ばれた子からこちらへ」
今度はシスターらしき女性だ
魔族と言うのは美しい人ばかりなのか、今のシスターも相当な美人だし、司祭は渋い感じのおじさんだ
それに街ゆく人々もレベルが高いと思う。私の容姿も子供ながらに相当だと自負しているんだけど、私の横に座ってる子供達も元の世界ならモデルか子役をやっていてもおかしくはないんじゃないだろうか?
「フレア・ニースレイドちゃん」
「はい!」
私の真横に座っていた少女、(フレアちゃんというのか)は元気よく返事をして立ち上がった
前に出て司祭の元へ歩いていき、そこで膝ま付く
一応私も儀式の流れは習ったので多分大丈夫
フレアちゃんの洗礼が終わり、そのすぐあとに魔力測定器で魔力を測ってもらっている
何も反応が無い。どうやら彼女には魔力が全くないようだな
まあ魔力が無くても魔族は十分に強いし、魔力のない子は魔法の授業ではなく、知識を身につけるための授業を受けることができる
それこそ官僚や魔王城での働き口なんてのも夢じゃないみたいだし、魔力が無いからと言って悲観する者はいない
「では次、ソル・アークハイドくん」
「は、はい!」
男の子は緊張しているのかちょっとふるえている
でもちゃんとこなせているようで周りも安心したようだ
そして彼の魔力は、なんと魔族平均値の三倍という魔力量があることが分かった
彼も驚いているのか目を丸くしているのが可愛い
「それでは最後に、アスティラ・ベルドモントちゃん」
「はい!」
私の名前が呼ばれると見に来ていた町の人々が少しざわついた
「見て、あの方がベルドモント家御令嬢よ。なんて理知的で可愛いのかしら」
「本当に、これからの未来を背負って立つのにふさわしいな」
などなど口々に声が発せられる
少し緊張しながらも洗礼を終えて魔力測定器に手をかけると
いきなり魔力測定器が震え始めて宙に浮き、粉々になってしまった
「あえ!?」
変な声が出たけどそれどころじゃない
まわりがざわざわと騒ぎ始めてすぐに魔力測定が中止された
私は一体何をしてしまったのだろうか?
不安の中母が私の手をギュッと握ってくれたため、少し不安は取り除かれた
やがて司祭が誰か知らないけど女性を連れて来る
そして彼女は壊れた測定器を見ると一言言った
「なるほど、これは素晴らしい」