生まれたけど何か変なんですが1
俺はあまり科学の発展していない世界に生まれたようだ
ここはかなり大きな屋敷で、俺は母親と思われる美しい女性に抱えられて色々な部屋を見て回った
「アスティラ、ここがあなたの部屋よ。大きくなっても使えるようにしておいたわ」
アスティラ・ベルドモント。それが俺の名前だ
こんな世界で姓があるということは貴族家なのだろうか?
子供部屋としてあつらえられたいかにも女の子らしい部屋で、高級そうな木材の机に椅子、可愛いぬいぐるみに天蓋付きのベッドとその横にベビーベッドがある
天蓋付きのベッドは母が言うように俺が大きくなったときに使わせようと考えているんだろう
お姫様でも暮らしているのかと思うほどの贅をつくしたかのようなつくりだ。どうやら相当な富裕層の家らしい
「ほらアスティラ、色々見て疲れちゃったわね」
母は俺を抱えたまま子守唄を歌い始めた
前世での両親は、俺が物心つくよりも幼いころにに亡くなっていたためあまり思い出はなく、写真を撮らない両親だったのか顔も分からない
だが今世は違う。俺の母親は優しく美しい女性で、深い愛情を感じた
子守唄を歌う母を見ていると少しおかしなことに気づいた
なにやら額に角が生え、耳が尖り気味なのだが…
まさかとは思い頭を動かして置いてあった子供用化粧台の鏡を見てみる
そこには赤ん坊の俺の顔、ぱっちりとした二重の可愛い女の子の顔が映っており、案の定耳は少し尖り、丸みを帯びた角が額から覗いていた
母ほど尖ってはいないが立派な角
これはもしや俺は人間ではなく亜人とかいうのに転生したのではないだろうか
「かなり可愛くエディットできたと思うから成長を楽しみにしておきなさい」
という女神様の言葉を思い出す
人間じゃないなんて聞いてないんですけど…。これは一体なんて種族なんだ?
まあ今は考えても仕方がない。当面は女の子らしさを身につけることに専念しよう
なんとしても俺はこの世界で幸せをつかみ取る
それにしても生まれてすぐにこの世界の言葉が分かるというのは女神様の特典か何かなのだろうか?
いや待てよ、そう言えばスキル画面というものがあったな
俺はその画面を開いてスキルの一覧を見てみた
数百はあろうスキルの中(どうやら魔法などもここに表示されるようだな)、それらしいものがないか探していくと、言語理解Lv10というものがあった
なるほど、これが作用しているのか
説明を読んでみると“ありとあらゆる言語を理解し、自ら使用することができる”と書いてあった
それで母の言葉も理解できるというわけだ。便利だから上げておいて正解だな
「あらあら、アスティラはまだオネムじゃないのね。お母さんが一緒にいてあげるからネンネしましょうね」
優しく穏やかな声に安心する
まるで香純に話しかけられているようだ
そして俺はそのまま眠りについた
次の日の朝俺は目を覚まし、まだうまく話せない口で発声練習をしてみた
するとメイドたちがすぐにやってくる
「おはようございますアスティラ様、ご機嫌なようですねぇ」
ここのメイドたちも角が生えていたり翼があったり長い尻尾があったりと人間じゃないみたいだ
そして彼女たちも俺のことをよく可愛がってくれた
何不自由なく俺は大切に、まさに箱入り娘として育てられていた
仕事が忙しいのか、父親はたまにしか家に帰ってこないのだが、帰って来るなり私を抱きかかえて放さないほど。やはり父親も立派な角があり人間じゃないのか
両親の愛に包まれて、俺はすくすくと成長し、5歳となった
すでに5年も少女として生きてきたので、俺という一人称をやめて私と言うように心がけてきた
周囲からは年の割には大人びていると言われるけど、それもそうだ
中身は18年人間として生きて来たからな
今日は5歳の誕生日
明日には街の教会で洗礼を受けることになっている
この5年でいくつか分かった
まずこの国は魔族の国で魔王が治めているということ
魔王と言えば聞こえは悪いかもしれないが、民思いの賢王のようで、すでに数百年彼による統治が行われている
というのも魔族は異常に寿命が長く、魔王ともなればその寿命は数千年とも言われているが、大概はその前に戦争で命を落とすらしい
そう、今現在も続く戦争。それがこの世界の大問題なのだ
勇者率いる人族やエルフ族、鬼人族など多種多様な種族の連合軍と魔王率いる魔族軍
その2つの間でもう何千年も続いている
現魔王は何度も対話をしようと努力しているらしいけど、向こうは聴く耳を持たないらしい
そりゃあ数千年も続く確執を取り除くのは難しいと思う
でもそうか、勇者ってのがいるのか
勇者は人族から生まれることもあれば別種族からも生まれるようで、前勇者が数年前に魔王と戦い力を失ってからは未だ勇者は生まれていないようだ
その間はこちらも攻撃を仕掛けることはなく、向こうも勇者のいないことに不安があるらしく冷戦状態となっている
勇者がなぜ生まれないのかは分からないようで、向こうは混乱しているらしいな
そして私のことなんだけど、まずこの家は魔族の中でも格式高い魔王の右腕と呼ばれる公爵家で、要するに私は公爵令嬢だ
寿命の長い魔族は出生率が悪くて、私には兄弟姉妹はおろか友達もいない
メイドがいつも遊び相手
だが今年からは違う。5歳になった私は魔族の学校へ通うことが決まっているんだ
そこでは学問はもちろん、魔族には必須の魔法も習うようで、それが楽しみ
でもまずは洗礼を受けなければ
魔族として女神様に報告するというのが儀礼みたいだ
聞いたところによるとその女神は私を転生させてくれた破壊神様とは違うようで、魔族の祖神と呼ばれる女神様らしい
まあその女神様に報告するってことか
洗礼は明日行われるので、私は母に絵本を読んでもらいながら眠りについた