生まれたけど何か変なんですが12
今回長くなってしまった
魔族の子供が攫われるという事件は実はここ2~3年で増えているらしい
生涯で産める子供の数は一人というのがほとんどで、それ故に魔族にとっては子は本当の宝、そんな子供を攫うと言う卑劣な人間族に私は嫌気がさした
魔族を世界の敵と認識している人間族とは話合いもできないかもしれないけど、魔王様は未だに地道な話し合いを試みているらしい
父様曰く魔王様はそれはそれは仲間思いのお優しい方なのだそうだからして、きっと心を痛めているに違いない
私がお姉ちゃんに話したことですぐにでも対策がたてられて、国境付近の村にいた“変化”で化けていた人間族は捕らえられた
彼らもやとわれだったため、詳しくは分からなかったけど、子供を攫っているのはやっぱり大きな組織が絡んでいるとわかった
でもその組織が一体どれほどの大きさなのか、末端のさらに使い走りの彼らには全くと言っていいほど情報は与えられていなかったんだよね
まぁそこまでは予想通りだったけど、これは本格的に冷戦中の人間族に書状を書いて抗議するらしい
でも多分、帰ってくる答えは…
数日後に書状が帰って来た
案の定、そこに書かれていたことは酷い言葉の羅列だった
「世界の敵である魔族の子がいくら被害に会おうともこちらは一切関さない。自業自得と思い知るがよい」
なんてことを書くのだろう
これには魔族全体が憤った
本来私達は争いが嫌いな種族で、他種族とこちら側からことを構えたことなんてなかった
でも、これには私を含め、お姉ちゃんも、父様母様も、幹部も、皆が一様に一つのことを考えた
本気で人間族を攻め滅ぼし、子供達を救い出そうと
しかしそれには魔王様が反対した
きっと対話で解決すると言ってくださっているけど、もはや魔族は我慢の限界が来ていた
これまでも唯一交流を持っていた亜人たちの町を襲撃され、そこの亜人たちや商業にいそしんでいた魔族を皆殺しにしたうえでそれを魔族のせいにされたり、エルフの女性を攫って奴隷にしているのも魔人だと嘘吹かれたりと散々に魔族は我慢を重ねてきたんだ
もはや戦争を再開するしかないと、魔族の怒りで国民が一つになっていた
でもそれは相手の思うつぼ、これをきっかけに全種族が総集結して魔族を滅ぼしにかかるだろう
そうなれば多勢に無勢で一気に魔族は滅んでしまう
魔族は、数が少ないから
どこまでも、愚かな人間族を、私は…
数日間考えた結果、私は一つの結論を出した
私一人で子供達を救い出せばいい
簡単だ、私の“探知”スキルを使えば世界中どこだろうと発見できるし、“転移”や“テレポート”ですぐに助け出せるはず
きっと救ってみせる!
それから準備を念入りにした私は三日後の休日に決行することにした
アディリアやフレアたちが私と遊ぼうとしていたみたいだけど、丁重に断って私はさっそくかなり広い家の地下にある部屋で行動を開始した
作戦らしい作戦とは言い難いけど、まずは探知で魔族の子供を探し出す
見つけたらその子の場所へテレポートで移動し、助け出して再びテレポートでこの地下に子供を保護する
ちなみにテレポートと転移の違いは魔力を使うか使わないかだ
もしかしたら魔力に反応する罠なんかもあるかもしれないから、テレポートを使う
攫われた人数は98人。その全員を助け出せればこのミッションは成功だね
「ふぅ、気を引き締めなくちゃ」
私は頬をパンパンと叩いて探知を始めた
しばらくして
「一人目見つけた!」
すぐにテレポートしてその子の前に来た
首に隷属の首輪をつけられた少年、私より少し年上かな?
彼は驚いた顔をしていたけど、時間が無いからすぐにテレポートで家の地下に戻った
家に帰れるからここでおとなしく待っているように言うと彼はコクンとうなづいてその場に座った
栄養状態は比較的良く、あまり危害は加えられていないみたいでよかった
あとで彼から聞いた話によると、人間の女性に買われたようで、彼女は彼をペットのように可愛がっていたそうだ
そういった人間は多いのかもしれないけど、アディリアを攫おうとした男たちが言っていた変態の貴族という存在も気になる
すぐにまた探知をして発見、その子達の場所へ飛ぶと、少女二人が震えていた
どうやら双子の姉妹のようで(魔族でも一応ごくまれに双子が生まれることがあり、魔族では大変喜ばれる)、最近ここに連れてこられたらしい
明日には何かされると聞いていたのでずっと震えていたそうだ
私は裸だったこの子たちにスキル“空間収納”から取り出した毛布を渡して羽織らせ、連れ戻った
それからどんどんと魔族の子たちを連れ戻していき、残りは三人となった
助け出した中には今にも死にそうな子が複数人いたけど、最上級の治癒魔法で完全に元の体に戻した
酷い目に遭ったのだろう、手足が無い子や両目をくりぬかれた子、体全体に火傷の痕のある子や拷問を受けたような子もいた
「パーフェクトヒール!」
この魔法ならどんな傷だろうと生きていれば完全回復できるというもので、あっという間に治療が終わった
残り三人は同じ場所にいるようだから急いでそこにテレポートすると、凄惨たる光景がそこにはあった
魔族の子三人以外にもエルフの子や獣人の子、妖精族や妖怪族なんて珍しい種族もいた
その子達は生きたまま体中を切り刻まれたり、口では言い表せないような酷い拷問をずっと受けていたようだ。まさに生かさず殺さずというような…
その中にはすでに死んでいる子もいて、腐りかけた死体に私は思わずその場に吐いてしまった
でも子供達を救わないと!
力を振るい立てて子供達を治療しながら解放し、テレポートで一気に全員を連れ帰った
思わず他種族の子も連れてきてしまったけど、あのままにしておけるわけがない
死んでしまった子はその場に残しているけど、私はすぐにまたその拷問部屋に戻った
そのまま数分待っていると一人の肥え太った男が入って来た
見るからに貴族だと思う
「ふひょひょ、この器具を持ってき忘れるとは私も抜けているわ~。さておチビちゃんたち、大事なところが引き裂かれるときのいい悲鳴を聞かせ…。あれ。あららら? 子供はどこ!? 私の玩具はどこ行ったのよ!」
男は気持ちの悪い声でがなり立てた
「全員保護させてもらいました」
「あら? どこから入ったのかしらこのガキは…。まぁいいわ、あなたでこれを試してみようかしらね? これ、なんだかわかる? これは」
「聞く耳持ちません。あなたはこれから断罪されるのですから」
「はぁ? チビちゃんが何を言ってるのかしら? 生意気ね、決めた。あなたはゆーっくりと時間をかけてぶって、汚いもの垂れ流してもぐちゃぐちゃにめちゃくちゃにしてあげるわぁ」
「ああもういいです、気持ち悪いので喋らないで下さい」
私は男の口を“念力”で閉じさせた
「むぐ、んむぐぐぐぐ」
「さて、どうしましょうかね? やっぱりこの子たちが味わった恐怖を味わってもらうと言うのが妥当でしょうか?」
「んぐぐぐぅううう!」
男はやたらめったら手に持った器具を振り回して襲ってきたけど、念力で宙に浮かべてあっさり捕獲した
「んんん! ぐんんぐぅう!」
「じゃぁそこで、ゆっくり楽しんでください、この子たちの無念と恐怖を」
私は横たわっていた子供達の死体からその怨念だけを取り出して、男の頭に植え付けた
「これで気が晴れるとは思いませんけど、もうゆっくり休んでください」
せめて死体は綺麗にと私はその傷や汚れを全て綺麗に治し、連れ帰った
地下では全員がおとなしく待っていてくれたみたいで、皆がまるでヒーローを見るかのような目で私を見つめていた
「い、いいですか? 私が助け出したことは一切秘密にしてください。ご両親にもです」
そう言うと全員深く頷いたので、私はまずお姉ちゃんと父様を呼んできて事情をすべて話した
「なんと危険なことを! もし捕まっていればお前も大変な目に遭っていたんだぞ!」
「そうだよアスティラ、私達はお前という宝を失いたくはないんだ」
当然の如く父様とお姉ちゃんから烈火の如く叱られたけど、その後に
「だが、よくやってくれた。このままでは魔王様が望まない絶望的な戦争へと突入していたことだろう。本当に、無事で、よかった…。それとだアスティラ、お前には一週間の謹慎を命じる! わかってくれるな?」
「はい!」
一週間というのは少し甘い気もするけど、父様の気持ちは分かってる。誰だって自分の子には甘いものだ
それから一週間ほどをかけて魔族の子たちは全員が無事帰宅でき、魔族たちの怒りは収まり始めた
さて、それでも問題が残るんだよねこれが…
この子たち、どうしよう…
私の前には10人の他種族の子供が残っていた




