八つ目の世界5
視線は一体どこから向けられているのかしらとキョロキョロしていると、目の前を何かが素早く走った
目にもとまらぬ速さって言うのは正にこのことで、それが走った方向に顔を向けてももう何もいない
それでまた視線の端に映るからそっちに目を向けるともういない
それを繰り返しているといきなりお尻をパチーンと叩かれた
強烈な一撃だったため私は倒れ込み、お尻を抑えて叩いた何かを見た
でもやっぱりもういない
次に叩かれたのはアルタイルで、彼はふっとんで砂山に顔から突っ込んだ
「ペッペッ、なんだ今の衝撃は」
砂山から抜け出したアルタイルはお尻をさすって周りを見渡す
すると今度はフィリアがポーンと飛んできて、私の胸にポスンと治まった
痛くて泣いてる
よくも私の可愛いフィリアを
「誰なの! どこにいるの!?」
そして今度はルニア様を叩こうとしたのか、それが運の尽きでルニア様はあっさりとその正体不明の誰かを捕まえてしまった
「んあ! 放せこの下郎!」
じたばたと動くフードを目深にかぶった背の低い人物
私より少し低く、フィリアよりちょっと大きい
男の子とも女の子ともとれる抽象的な声で、ルニア様が掴んだ腕を掴まれてない方の左手でバシバシ叩いてる
その程度でひるむわけもないルニア様はその子に思いっきり拳骨を喰らわせた
「いったぁああい!! 何するんだこのブスガキ!」
あ、まずい・・・。ルニア様の顔が般若のように歪んでさらにその子の頭に拳骨を落とした
「生意気なガキ。誰がブスよ! 私は可愛いわ!」
確かに可愛いけど、自分で言うんですね女神様・・・
ルニア様はその子の手を掴んだままフードを脱がせた
するとその子の顔に私は思わずため息を漏らした
目の色が左右で違い、右目は金、左目は銀。輝く白い髪に美しい顔立ち
魔族と思われる角があるけど、私達みたいに曲がったものじゃなくてまっすぐ伸びてる
どこぞの王族と言っても不思議じゃない高貴さがあるわね
でも男の子、女の子、どっち?
「余を誰だと思っておる! 魔族が王の一人娘、アイリシアであるぞ!」
あ、女の子だった。しかも王族だったわ
アイリシアはフンフンと鼻息荒くルニア様をポカポカ殴ってる
力の流れを見るにかなりの攻撃力があるはずなのに、ルニア様何の反応もしてない
痛くないのかな?
「いい加減にしなさいよクソガキ。ボコボコにするわよ?」
あ、痛かったんだ。ものすごく怒ってらっしゃる
その威圧にひるんだのか、アイリシアは急に殴るのをやめてガタガタ震え始めた
しかもチョロチョロとお漏らしを・・・
「ごごごごごごめんなさいいいい、殺さないでくださいいいい!」
「こ、殺さないわよ人聞きが悪いわね!」
とりあえずルニア様がアイリシアを降ろしたので、私は替えの下着と服を渡した
グズグズと泣きながら着替えを終えた彼女の汚れた服を見るとかなり臭う
どうやらずっと着替えていないみたいで、汚れが目立っていた
体も洗っていないのか薄汚れてる
私は彼女に生活魔法の一種であるクリーンで体の汚れを綺麗にした
それを見て驚くアイリシア。しかも私に抱き着いてスリスリしてくる始末
一体どうしたんだろう
彼女が落ち着いてから話を聞いてみた
「余は魔族の王ディエンドの娘。ディエンド亡き今余が魔族を導かねばならぬのに、数十年前現れた謎の魔物によって魔族はバラバラになってしまった」
アイリシアはその魔物に幾度となく襲われて、一緒にいて彼女を守っていた魔族たちは一人また一人と殺されていったらしい
残ったお付きの魔族は彼女を守るため全員でその魔物にとびかかり、彼女を必死に逃がした
でもそれがもう十年以上前の話
彼女を迎えに来ていないということは、もうその人たちは・・・
「余は魔族を立て直さねばならん。それ故にここで力を蓄えておったのだ。しかしそこの少女に余は勝てぬ。つまりその程度の実力なのだ。余は弱い・・・」
そんなことはないと思うんだけどな
この山で生き残ってるし、竜を簡単に倒せるほどの実力を持っていることは分かってる
つまりルニア様が強すぎたせいで自信を無くしちゃったってことね
「あーっとアイリシアちゃん。この方の強さはこの世界の常識じゃ測れないから参考にしないで」
アルタイルがフォローを入れるけど彼女はしゅんとしてうつむいたまま
でもすぐに顔をあげてルニア様を見て立ち上がった
「決めた! そなた余の師匠になってくれ!」
「なってくれ?」
「な。なってください」
「はぁ、いいわよ。あんたかなり才能ありそうだし、魔力のちゃんとした使い方を覚えればフィリアより強くなるんじゃないかしら?」
「本当か! よろしくお願いする!」
輝く笑顔
「まぁまず最初はそこの魔族に習いなさいな。あんたよりはるかに魔力の扱いが上手いから教われば上達も早くなるわよ」
「う、うむ! そなたはその、怖くないよな?」
「我か? 厳しいがルニア様ほど怒らんから安心しろ。それにしてもお前も魔王か。我もなのだ!」
「おお!本当か!」
少女魔王同士気が合ったのか、二人は一気に仲良くなった




