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八つ目の世界4

 たくさんの人が私達にお礼を言ってくれるのは嬉しいけど、ちょっと過剰な気がする

 まるで神様でも崇めるような感じになってるもの

 いやまあ女神様が二柱本当にいるんだけど、それはこの際言いっこなし

 とりあえずはここの王様が会ってほしいと言ってるからこれから会うつもり

 まぁ王様と言っても街のリーダーって感じだから普通にもう目の前にいるんだけどね

「魔族の方々、この度は本当にありがとうございます」

 丁寧にお辞儀をする彼はセスさんのお兄さんのルッソさんと言って、人間族の王様をしている

 見た感じはセスさんに似た優しそうな人なんだけど、王としての威厳もある

 街の結界の強化と相当量の食料の確保、それから獲物の取り方のレクチャーなんかもしておいた

 そのお礼としてこちらは情報を提供してもらったわ

「その謎の男とも女ともわからない存在なのですが、実は私の友人の魔族から聞いた話なのです」

 ルッソさんの友人の魔族はゲールさんと言って、一か月に一度この国に来るらしい

 来た時には様々な旅の話と行商用の商品をもたらしてくれる

 その過程で二人は友人になった

 で、その彼に聞いたのが一人で世界を回る強靭な旅人の話だった

 十数年前のこと、その旅人は突然街に現れて水と食べ物をもらい、そのお礼としてこの世界でも随一の強さと美味しさを誇るドラゴンの肉を置いて行ってくれたんだとか

 この世界のドラゴンはフィリアとは違って知能が低く、人を襲って食べる危ない魔物

 その強さは世界でも頂点の一角で、一匹現れるだけで街が滅びる

 そのため現れた時は人間、エルフ、魔族が協力して討伐するみたいね

 それをたった一人で倒して食料にするあたりその旅人の強さが私達に匹敵しているのが分かる

「ともかく私は会った事がないのですが、先代の王、つまり私の父はその旅人に会ったのだそうです。声は男性のようでも女性のようでもあり、フードに隠れた顔は暗く見えなかったようで、実際その旅人がどのような人物なのか見当もつきません。何せ種族が分かりませんからね。一人でドラゴンを倒すあたり人間ではないのでしょうが・・・」

「その旅人がどこに向かったかは分かりますか?」

「ここより北西へと向かったと記録にはありますが、そちらには特に何があるわけでもありませんね。目印となるようなものも・・・。あ、高い山はあるのですが、そこは危険すぎるので私達は誰も行ったことはないのです。でもその旅人なら」

「分かりました、情報ありがとうございます」

 とりあえずこれでまた目指す場所が決まったわね

 次に向かうのはこの国から北西に進んだエヴィン山という場所

 魔族やエルフですら寄り付かない魔物の巣窟で、あまりにも危険なため封鎖されてるみたい

 でも私達なら多分大丈夫

 この世界の魔物と戦ってみて分かったけど、大きいだけでそこまでの強さは無い

 それは魔力濃度が濃すぎるこの世界でその魔力によって力を制限されてしまうからみたいね

 私達みたいな外からの存在は縛られないけど、この世界の生物はこの世界のルールに縛られる

 魔力が濃すぎることが逆に力の制限につながってる

 そんな中でもドラゴンとか一部の生物はちゃんと使いこなしてるみたいだけどね

「そうですか、もう行かれるのですか。もう少しお礼をしたかったのですが」

「すみません、先を急いでいるので」

 彼らには十分お世話になった

 エヴィン山までの距離は歩いて一週間はかかるみたいだから、明日出立することになったわ

 

 その日の夜、盛大にもてなされたパーティが開かれ、夜遅くまで飲んで食べて楽しく話した

 そして翌朝、まだ日が昇ったばかりの時間に私達はこの国を出発した

 目指すのはエヴィン山

 誰も住んでいないからと食料や水を持たせてくれたからしばらくは大丈夫ね

 まぁなくなったとしても自分で採れるから心配はないのだけれど、もし山の魔物がドラゴンほどの強さがあったらちょっと大変かも

 でも女神様がいるからそんな心配はないわね

 それから歩き野宿しまた歩き、一週間が経った頃に山の麓が見えてきた

 確かに高い山だけど、そびえ立つって程じゃない

 ただこの山そのものが魔力を放ってる気がするわね。それに何かの視線を感じる

 この山には明らかに何かいるわ

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