四つ目の世界5
驚くほど弱かったけど、普通の人間よりははるかに強いこの化け物
それはヌタヌタとのたうち回って光る眼をギョロギョロと動かしている
「ヴィヴィヴィヴィヴィエエエエエエ!!」
「うわ気持ち悪! なにこれ、なんか今までこの世界で戦った化け物と全然違うんだけど。イナホ、これ何なのか分かる?」
「いえ、入道系の化け物なら私も幾度となく戦いましたが、これはまったく見たことがありません。とても、何というか不快な・・・。それにこの臭い・・・、うっぷ」
「確かにすごい臭いね。もういいわ、始末しましょう」
「この穴の中に子供達がとらわれているかも。ルニア様、僕行ってきます」
「ええ、アスティラ、あなたもついて行きなさい」
「はい」
化け物を倒すとそこには黒くて丸い玉が一つだけ残った
今まで戦っていた化け物は塵になって消えていたはずだから、この化け物は明らかに他とはちがうってことね
ともかく子供達が心配だから、私とアルタイルは化け物が出てきた穴に飛び込んだ
飛び込んでからすぐに周囲の景色がグネグネと曲がる感じがして、どこかへと転送された
そこは明らかにこの世界の文明とは違った近代的な、いえ、未来的な場所で、ところどころに見たこともない機械が置かれていた
「これは・・・。アスティラ、窓の外を見て」
アルタイルに言われるがまま窓から外を見てみると驚くべき光景がそこに広がっていた
「嘘・・・。宇宙!?」
「ああ、ほぼ間違いないと思う。だってほら、あそこに今いた世界らしき惑星が見えるからね」
それは昔テレビとかで見ていた宇宙から見た地球の様子と同じような惑星
「じゃあこの場所ってもしかして」
「ああ、UFO?じゃないかな?」
「じゃああの化け物って、え?宇宙人なの?」
「分かんないけどそうとしか思えない気がしてきた」
怖い怖い怖い。何でここにきて宇宙人なんて訳の分からないものが出てくるわけ? 意味わかんない
でもあの明らかにこの世界の化け物じゃないアレを見たら、宇宙人か、そのペットって考えまで出て来る
とにかく私達は掴まってる子供達を探すためにこの宇宙船内を探索することにした
私の力で二人ともの姿や気配を隠して行動。何者かの気配はまだしてないけど念のためね
今いた部屋を出て廊下らしき場所を歩いていると、どこからか子供の声が聞こえてきた
「アスティラ、あそこの部屋みたいだ」
廊下の先に光っている部屋があって、そこから子供の声が聞こえてくる
その声は鳴き声や、助けてという声ではなくて、なんだか楽し気な声
そっと部屋の中を覗いてみると、美しい女性が子供達と遊んでいるのが見えた
その顔は慈愛に満ちていて、子供達を愛おしそうに見てる
でもその姿は明らかにこの世界の人間や鬼人とは違う
肌の色は真っ白で、目の色は金、服は真っ白なボディースーツのようなものだからまるで何も着てないように見える
彼女は一人一人の子供達と対話し、遊び、まったく危害を加えている様子はなかった
それに子供達は栄養状態もいいのか、顔色も赤みを帯びてて健康そうね
「誰、でしょう? 私の船に、何用、でしょうか?」
え?! 隠れて気配もないはずの私達に気づいた!?
気づかれているのなら仕方ないと姿を現して彼女の前に立つ
彼女はこちらを見ているけど、その顔に敵意は無かった
「ああ、そうなのですね。しかし私もこの子たちが必要なのです。黙って攫ったのは申し訳なく思っています、が、どうかここは見逃して、もらえませんかね?御強い方たち」
「それはできない相談です。その子たちの親は悲しんでいます。おとなしくその子達を返してください」
「いいえ返しません! この子たちは私の子供です!」
女性はスッと立ち上がった
凄く背の高い人で、二メートルくらいはありそう
私達に立ちはだかってるけど、相変わらず敵意は無いどころか震えてる?
「あの、戦う気はないんです。あなたは慈愛に満ちた優しい人だとここにいる子供達を見ればわかります。それでも、この子達には本当の親がいるんです。どうか、返してあげてください。あなたも、親なのでしょう? 引き離された気持ちが分かるはずです」
あ、そっか、そういうことだったんだ
彼女の後ろにある本棚のような物の上に立体映像のような写真が飾ってある
そこには彼女と、彼女に似た女の子が一緒に映っていた
「でも、子供、は、私が・・・。そう、そうですね。この子達にも親はいるのですよね。私が、間違っていました」
話しを聞くに、彼女はエシニュラという星の人で、名前はモシュネラさん
家族で宇宙を旅していたところに宇宙船に隕石がぶつかって墜落、その際に夫と娘を失ったらしい
何とか生き残ってエシニュラ星の人に助けられたけど、家族を失った彼女は自暴自棄になって一人宇宙船で旅立った
そこで見つけたのが科学が全く発展していなこの星
すぐに降り立った場所で楽しそうな子供達を見つけてしまい、もう一度あの幸せを取り戻すために子供達を衝動的に攫ってしまったそうだ
もともと故郷では先生をしていたこともあって、子供たちの扱いになれているらしく、すぐに打ち解けた彼女は子供達を自分の子供にしようと思ってしまった
「ああ、いけないことだと分かっていながら私は何と酷いことを。攫われたこの子たちは恐ろしかったでしょうね。親は心配したでしょうね。申し訳、ありません」
彼女は涙を流しながら子供達を抱きしめた
この人は悪い人じゃない。やり方は間違っていたけど、もしかしたら
「ねえモシュネラさん。私達と一緒に来てもらえますか?」
「ええ、そうよね。どのような罰でも受けます」
それを聞いた子供達が急に不安そうな顔になった
「そんな、先生は何も悪くないわ。先生はいろいろなことを教えてくれて、凄く優しくて・・・。私達を攫った変なのは怖かったけど、ここでも生活は幸せだったの! だからお願い、先生を許してあげて!」
一番年長らしい女の子がそう言ったのを皮切りに、子供達は彼女を守るように私達の前に立った
愛されている。そんな人に私達は危害なんて加えられない
「大丈夫よ。一緒に来てもらって誤ってくれればいいだけだから。もし村の人達が彼女を襲いそうならちゃんと止めるから」
「ほんと?」
「ええ、約束する」
「ありがとう鬼のお姉ちゃん!」
鬼じゃないけどそこは今はいいか
とにかく私達は子供と彼女を連れてさっきの部屋へ戻り、そこからワームホールと思われる穴をくぐった




