四つ目の世界4
翌朝予定通りに使者の人達が来て私達を籠に乗せてくれた
何と人数分の籠が用意されていて、全員を城まで連れて行ってくれるというから驚いたわ
「では頭をぶつけないようお気を付けください」
運んでくれる筋肉の塊のような人が優しくそう言ってくれてちょっと安心した
だって翌日には効果が切れてしまいましたってなっちゃうと、今後この世界でさらに争いが増すかもしれないもの
とにかく彼らは私達を歓迎してくれてるから大丈夫かな
籠に揺られること半日ほど。運び人?はかなり体力のある人たちみたいで、ここまでほぼ休憩を挟まずに走ってる
そして城に到着するとびっくりするほどの大歓迎だった
「ようこそイナホ様、お付きの方々」
「ちょ! 私達はお付きじゃないっての!」
「まぁまぁいいじゃない。ほらイナホさんもあんなに喜んでいるんだから」
確かにイナホさんは幸せそうな顔をしてる。今までずっと人間に怖がられたり虐げられてきたんだからそれもそうか
こんな風に他の土地でも鬼人と人間達が手を取り合えればいいのに
いやまだ手を取り合えるって決まったわけじゃないけど、私達のような魔族を見ても喜んでくれている彼らを見たら、それも可能な気がしてきた
「ああなんて、なんて素晴らしいのでしょう! このような世界が来るなんて夢のよう!」
イナホさんはくるくると踊るように喜んで案内の人について行く
それから通されたのは城の一番上、つまり天守閣で、お殿様がいるところね
ホントに大昔の日本とそっくり
「おお、来たか。どれそこに座るがいい」
あ、お殿様の横に昨日私達を殺そうとした人がいる・・・
でも今は敵意を向けることもなくにこやかにこっちを見ていた
優し気な笑顔で、普段は恐らくいい人なんだろうなって言うのが分かる
そしてお殿様、彼はゆったりとした垂目のこれまた優し気なおじさん
実は昨日のうちに村の人達にお殿様について聞いてみたところ、領民の言うことをよく聞いてくれる良い人って言うのが共通の見解だった
「さて、我が領民を救ってくれたこと感謝する。ひいてはイナホとやら、この土地で暴れておる化け物を討伐してはくれんか?」
「化け物ですか?」
「うむ、西の村の近くに夜ごと現れ人を攫うというのだ。すでに十数人の被害者がでておる。死体は見つかっていないためまだ生きておる可能性はあるのだ」
悲しそうな顔のお殿様。イナホさんは一も二もなく返事してその怪物を討伐すると約束した
「怪物の特徴は見上げるような巨漢、目が怪しく光る入道のようだったそうじゃ。攫われた者たちが心配での・・・。わしらも捜索はしたのじゃが、全く尻尾を掴めなかったのだ」
「お任せください! その化け物を倒し、攫われた人々を救い出してみせます」
おお、イナホさん凄いやる気になってる
私達も協力するからすぐに解決しそうね
「すまない、もてなすと言っておきながらこんなことを頼んでしまって」
やっぱりこの人いい領主ね。私の力が作用しているとしても本来の性格は変わらないみたいだし、これが本来の彼自身ってことね
その後すぐに私達は件の西の村に向かった
今度は籠じゃなくて足でね。だって走った方が早いんだもん
およそ一時間ほどで西野村に着くとすぐにお殿様からの書状を見せた
「なんと、ああやはり殿は我らのことをよく考えてくださる。それにこのように強そうな鬼まで従えて」
「従ってないっての! 私らは!」
ルニア様がぷりぷり怒ってるけどそれは放っておいて村の人の話を聞いた
「つい先月のことです。始めに一番若い六三郎が攫われました。まだ三歳だというのに、ああ六三郎、怖がっているだろうに」
一か月・・・。もしその化け物に喰われていないにしても三歳児ではもう・・・
「それから一日と立たずに小谷のとこの娘が攫われたんだ」
その子もまだ十歳ほどと子供で、それからも次から次へと子供が攫われ、村に残ったのはお千代ちゃんという十二歳の子供ただ一人らしい
「今夜も恐らく来るだろう。何としてもお千代は守りたいが・・・」
「それは僕らに任せてください。アスティラ、攫われた人達のことは任せれるかな?」
「ええ、私なら多分化け物の居場所が分かると思うわ」
私の力はほとんど万能と言ってもいい。痕跡さえあれば容易に見つけれるはず
化け物の痕跡はそこかしこに残っていて追跡は簡単そうだわ
「では行きます」
力を使ってその痕跡から化け物の足取りをたどる
それは森の奥の方に続いていたのでルニア様と辿りながら走った
「ルニア様、ここで痕跡が途切れてますね」
「うーん、あ、これじゃない?」
ルニア様が突然地面を思いっきり殴る
「ひっ! 山が揺れてますよ!」
「あら、ちょっと力入れすぎたわね。でもほら見て、出てきたわよ」
ルニア様が殴った地面がパカリと開いて化け物が出てきた
うわ怖っ!怖いよこの化け物!
でも力は全然強くなくてあっさりとルニア様に掴まって転がされた




