四つ目の世界3
次の日の早朝のことだった
激しく家の扉を叩かれて目を覚ますと、扉が壊され中にたくさんの人間が流れ込んできて捕らえられた
「な、なんですかあなたたちは!」
驚いて声をあげると、その中に昨日私達に感謝してくれていたおじいさんが少し目を伏せながら立っていた
そしてそのおじいさんは私達を指さすと叫んだ
「こ、こいつらです! 鬼の一団です! こいつらが化け物を操って村をおそってるんですよ!」
「は? あんた何言って」
「ほら本性を現しましたよ侍様!」
「ふむ、鬼に沙汰などいらぬ。その場で斬り伏せい」
刀を抜く男たちを見てイナホさんは涙を流していた
それは恐怖からではなく、自分の気持ちが人間達に一切通じていなかったことによるものだと思う
彼女は優しい。誰を憎むこともせずこの不測の事態は自分が至らなかったせいだと考えている
だからこそ私は怒りが込みあがってきて、思わず力を放ってしまった
「ですから、ええ、そうです。この方たちに化け物から救っていただきました。いやぁ鬼にもこのように優しい方がいるのですな」
「まったく、そこな鬼たちよ。我が領民を救っていただき感謝する。是非とも城へと招きたい」
「え?あれ? これってどういうことなんですか?」
イナホさんは突然の状況に混乱している。無理もないわ、私だってそうなんだもの
何がどうなってこうなったのかは分からないけど、私の力が作用したのは間違いない
彼らの善の心を、増幅させた?
多分それで間違いはないと思うけど、今しがた私達を殺そうとした人たちがニコニコとドアの修理をし始める光景は、異様としか思えなかった
洗脳じゃないのこれ?
「いえ、これは洗脳ではなく元来のその人のうちにある善なる部分を増幅させただけです。今やったことは間違いで、私達は救われたのだから感謝をしなくてはいけない。そういった至極真っ当な考えになっただけでしょう」
サニア様が私の力を分析してくれる
「でもなんか気持ち悪いぞこれ。まあ被害が無かったから別にいいのだがな」
彼らは善人となったようだけど、これってもしかしていい傾向? 洗脳しているようで忍びないけど、分かり合えるようになったんだとしたら?
扉を直し終えた彼らはそのまま家から出て行き、後日城へ招くための人をよこすと言って帰ってしまった
「ねぇねぇ、これって私は喜んでいいのかな? あの人達、私を招いてくれるっていってたよね?」
「ええ。いい傾向でしょう。アスティラの力はまだ謎の部分が多いですが、これは改変に近い力なのかもしれません。ただ本来の心にあるものを引き出しているため、ただ善人になった、だけです」
人を善人にする力? でもしっくりくる。これがこの力の本質なのかもしれない
誰にでも善の心はあると言われているけれど、それを増幅させるなら悪いことではないのかもしれない
今はそれが本当に正しいことなのかは分からないけど、私は私のできることをやらないとね
「とにかく明日なんだろう? 今はゆっくりと休もうよ。イナホさんだってびっくりしただろう?」
「ありがとうアルタイルさん。でもまだ畑仕事をしてないから行かないと。それに畑仕事をやってると心が落ち着くの」
「それなら私も手伝います」
私はイナホさんと連れ立って畑に向かった
途中に毛むくじゃらの変な化け物が襲ってきたけど、イナホさんは動じることなく斬って倒してる
この人、なんの能力も使ってないのに強すぎる。剣豪ってこんな感じなのかしら?
刀を納刀して畑に来ると、雑草を抜いて耕して種を植えてその日の作業を終えた
結構広いから時間がかかっちゃったけど、こういう労働はいいものね
「ありがとうアスティラちゃん。私今まで鬼人にも友人なんていなかったから、どう接していいのか分からないけど、友達になってくれると嬉しいな」
「もう友達ですよ」
「フフフ、ありがとう!」
イナホさんの嬉しそうな笑顔が見れてよかった
さっきのショックもどこへやら。顔に土をつけている姿は普通の少女でとても剣豪には見えないわね
「では帰りましょう。私達の家へ」
帰る道中またしても襲ってきた化け物を今度は二人で倒して家に到着
扉を開けた私達は驚いた
なんともまあ豪勢な食事が用意されていたのよね
「え?え?これ、どうしたんですか?」
聞くと近くの村の人達が化け物を退治した礼として猟で取った猪や作物なんかを差し入れてくれたみたい
あれ? 村には私の力を浴びてない鬼に否定的な人がまだまだ多かったはずなのに
これはどういうことなのかしら
「実はねアスティラ。あなたの力は一人に感染するとそこからさらに拡大していくみたい。村の人達、人間の見た目な私はともかくセラビシアや禍々しい角を持ったお姉ちゃんにまで優しく接してたの」
「禍々しい、角・・・」
あ、禍々しいって言われてサニア様が少しショックを・・・
「すごいわね善の力は」
ま、まあいい傾向なのかな?とにかく明日は城に行く日、体を休めておかないとね




