四つ目の世界1
どうやら本当に今の怪人で最後だったみたいで、念のためその後数ヵ月ほど雨さんの家でお世話になってたけど、その間普通の怪獣しか出なかったわ
雨さんでも十分倒せる強さの怪獣
この世界で怪獣が出る理由は、生物の遺伝子が変異しやすいかららしくて、そのことに関しては白が別に関わっているってわけじゃない
もともとそれがこの世界のルール
その世界にあるルールはその世界の者によって守られなければならない
そしてそのルールに従って怪獣が出て来るというのであれば、この世界の者で人々を守らなくてはならない
サニア様はそう教えてくれた
つまり私達がこの世界から去るべき時が来たってことね
「まだ怪獣は出るんだと思うけど、そこはそれ、せっかくお姉ちゃんが力を与えたんだからみんなでしっかりやりなさいよね」
「はい! ありがとうございましたルニア様!」
この世界で出会った人たちが皆見送ってくれる
人と人の出会いは一期一会、出会いは神の御業というけど、私の場合はまさしくそうね
この出会いは大切にしたい
あれ? そう言えば忘れてたけどこの世界に私達が求める人材がいなかった
白に対抗しうる力を持った人がいない
「ああ、そのことなんだけど、この世界にはいないわ。昔来た世界だしね。まあ白の気配が少ししたから確認のために来たんだけど、来てよかったわ」
なるほどそういうことだったのね
でもそのおかげでこの人たちのことは守れたんだから結果よかった
そんな彼らの笑顔を見ながら、心をあったかくしてもらいながら、私達は次の世界へと転移した
まばゆい光がおさまって目を開くと、私達はのどかな田園に囲まれた田舎道に立っていた
まるで昔の日本のような風景ね
その田んぼのところどころに農家の人がいて、田植えにいそしんでいるのが見えた
それに恰好も昔の農民そのものね
ここがどういったところなのか彼らに聞いてみようとしたところ、彼らは一斉に逃げ出してしまった
逃げ際に「お、鬼じゃぁああ!」とか言ってたので、もしかしたら角のある私やアルタイル、セラビシアちゃんを鬼と勘違いしたのかも
「失礼な! 我はれっきとした魔族! 鬼とかいう化け物と勘違いされては困るぞ!」
プリプリ怒ってるけど、鬼って日本で言う魔族みたいなものなのよね・・・。いわないけど
「ああやって逃げるということは本当に鬼が出るのかもしれませんね。誰かお話を聞ければいいのですが」
「あ、あそこに人影があるよ!」
田んぼの中心辺りには確かに人影が見えた
でもなんだか変な動きをしてる。クネクネクネクネとまるで踊っているかのよう
気が付くとさっきまで明るかったのに、辺りはぼんやりと薄暗くなってきた
とりあえずその人影に向かって歩いて行ったんだけど・・・、なんだか嫌な感じがする
「見ちゃ駄目!」
突然後ろで声がしてそっちに振り向くと、額から角の生えた和服の女性がこちらに走り出していた
「え?何?やろうっての?」
ルニア様が構えたけど、女性は私達を飛び越えて腰から抜いた刀を振り下ろした
「せりゃあああ!!」
女性が切り裂いたのはあの人影。人を斬ったの!?
でもよく見たらそれは人じゃなかった。何か得体のしれないものがグネグネとのたうち回ってやがて消えた
それが消えると次第にあたりが色を取り戻していく
「ふぅ、危ない所でした。だめですよこれに向かって行っちゃ。これはクネクネ、人のふりをして人の心を壊す魔性の化け物です。普通の人では倒せま・・・。あれあなた? もしかして私と同じ鬼人なのですか?」
「鬼人ではない魔族だ。我は魔王セラビシアだぞ」
「魔族? 知らない種族ですね」
どうやらこの世界には人間と彼女のような鬼人しかいないみたいで、人間は鬼人を鬼として恐れてるみたい
彼女の名前はイナホさんと言って、鬼人のはぐれという立ち位置らしい
鬼として恐れられるけど、彼女は人間が好きなんだそうだ
以前化け物にやられて傷を負い、息も絶え絶えだった幼いころの彼女を助けたのが人間だったかららしい
それ以来彼女は人間と鬼人の架け橋となるべくずっと動いてるらしいけど、普通の人間族は心を開いてはくれないみたいね
それと分かったことがもう一つ
彼女こそが私達の求める人、新しい世代だった
「とにかくまあうちに来なさいよ。お握りくらいは出すからさ」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせてもらいますね」
彼女の家は山の奥にあるらしくて、そこから化け物が出たら人間を助けるために動いてるみたいね
でも彼女は恐れられてる
原因は化け物に人間が襲われた時彼女が助けた後、化け物の方の死体が消えて彼女の姿と化け物にやられた人間の死体だけが残るかららしい
つまりここらあたりの人達は彼女が人を襲っている犯人だと思い込んでるってことね
それは、彼女がいたたまれないじゃない
私達は何とか彼女の誤解を解くためしばらくここに滞在することにした
ちなみに彼女はこの森のさらに奥にある開けた土地で自給自足のため田畑を作っているので、そこを手伝いつつ一緒に住むことになったわ




