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プロローグ

 地方の田舎の片隅で俺は絶望の中に沈んでいる

 人に裏切られ、最愛の人を亡くし、夢も希望も失って

 俺には金どころか家も残されなかった

 死のう…

 そう思うのも当然の流れだと分かってほしい

 自殺は自らで自らを殺すこと

 俺はまず自分を絞殺することにした

 縄を木に括りつけてわっか状にし、踏み台に乗ってからわっかに自分の首を通すと、踏み台を蹴って宙へと踏み出した

 途端に首と喉元に尋常じゃない衝撃が走り、しばらくして意識を失った


 目が覚めると白い天井が見えて、点滴と心臓の鼓動を伝える装置があることから病院らしいということは分かった

 すぐに繋がれた管を引き抜いて病院から抜け出し走り出す

 途中に入ったホームセンターでカッターナイフを一本万引きすると人気のない路地裏まで走った

 そこですぐに手首に十字の傷をつけた

 横に裂くのだけでは足りないと聞いた。だから縦にもう一本の切れ込みを入れる

 血がたらたらと流れ出始めてゆっくりと気が遠くなっていくのを感じる

 最初に切った時は痛かったが、段々と気持ちの良くなるような感覚に目を閉じた

 

 俺はまた目を覚ました

 今度は先ほど手首を切った路地裏のままだったが、血は止まっていたようで失血死することはなかったようだ

 一日に二度も自殺に失敗するとは思わなかったが次こそは成功させよう

 

 そんな調子で俺は入水自殺も投身自殺も焼身も服毒もそのことごとくが失敗し続けた

 そして最後、実に29回目の自殺でとうとう死ぬことができたわけだ

 最後に選んだのは最初と同じ首つりだった

 今度は人が確実に通らない場所でひっそりと死のう

 俺は樹海と呼ばれる自殺の名所へ向かい、奥へ奥へと分け入って行った

 次第に辺りは暗くなり、一寸先もよく見えないほどの闇に包まれたが、これから死ぬというのだ。恐ろしさなどない

「これで最後にする。必ず死んでやる。待っていてくれ香純(かすみ)。俺もそっちに行くから」


 香純は俺の幼馴染だった

 非常に気立てがよく、近所でも評判の美少女

 俺が人に裏切られた時も支えてくれた香純

 両親を早くに亡くした俺にとっては兄妹のような存在であり、お互い愛し合っていた

 生来を約束していたのだが、そんな夢も奪われた

 つい先月のこと、香純はバイトの帰り道で暴漢に襲われ、その際に抵抗したためかナイフで刺されあっけなくこの世を去った

 刺した男は捕まったのだが、いまだ判決を待つ加害者というだけで、俺自身が裁きたくとも手は出せない場所にいた

 復讐すらできないこの世界は何か間違っていないだろうか?

 「俺は弱い。願わくば、来世でこそ大切なものを守れるように」

 俺は首をわっかに通して倒木で作った台を踏み蹴って全体重をその首へと乗せる

 今度はいい具合に首の骨が折れてくれたのか、すぐに意識が遠くなってようやく俺は死ぬことができた


 気が付くと上下左右が無いかのように様々なものが漂う空間にいた

 ただそれ以外はモノクロのように色が無い世界が広がっており、このような場所が黄泉の国なのかと戸惑った

 その戸惑いを察知したかのように声がした

 可愛らしい少女の声だがどこか深みがある

「えーっと、自殺は駄目だよー自殺はー」

 少女の声がこの空間に響いき、まるで鈴のような声で俺の耳にしみこんできた

「誰だ? まさか黄泉の案内人とかか? だったら早く連れて行ってくれ。俺はもう疲れたんだ」


 すると俺の目の前にその可愛らしい声にふさわしい目のぱっちりとした少女が現れ、少し困ったような顔を向けた

「あのねぇ、言っとくけど、貴方がいるのは天界でも地獄でも、ましてや神界でもないわよ。ここは転生を受けるべき魂が一時的に来る、いわば待合室みたいな場所ね。そこに私があんたを呼んだってわけ」

 何を言っているのかが理解できない

 確かに仏教には輪廻転生というものがあったが、それは徳を積んで天界へと導かれる道でしかないはずだ

 自己犠牲の精神でもなく自ら命を絶った俺には天界に行く資格もなく人道から外されるだろう

 堕ちるわけだ要するに

「何を勘違いしているのかしら? そんな宗教観念ここで通用するわけないでしょう? 貴方にはこれから別世界に行ってもらうのです」

「は?」

 本当に何を言っているのか分からないのだが、この少女の目は真剣だ

「あなたの魂は私がもらったの。一応転生の女神には許可を取ってるわ。だからどう使おうが私の勝手ってわけ」

 少女の微笑みが怖い…

 待てよ、女神と言ったか? 転生の女神と…。それと対等に話せるこの少女は

「そう言うことー。私ってば女神様なわけよ。それも上位のね。何を隠そう私は破壊の女神と呼ばれる神々の末妹よ。崇めるがいいわ」

「破壊の、女神?」

「あ、大丈夫大丈夫。見境なく破壊するような馬鹿じゃないわよ。他の世界に悪影響を及ぼす世界だけ壊すの」

 破壊神だと? 本当に?

 だがもし本当なのだとしたら…。いや、本当なのだろう。何せこの少女、この女神は俺の頭の中を視ているんだからな

「そそ。でね、本題に入るけどいいかな?」

「あ、ああ」

「えっとね。私が破壊するのは他の世界に悪影響を与える世界だけって言ったんだけど、その異常を取り除けるなら取り除いて正常な世界に戻したいわけ。その異常を取り除くのが勇者や英雄と呼ばれたり救世主として活動をしている人たち。あなたにはその一翼を担ってもらいたいの」

「こんな俺に世界を救えと、そう言うのか?」

「そうよ。あなたのその魂が、世界を救うの」

「俺の魂?」

「あなたは優しい、純粋、そしてその魂の輝きは他者を守れるほどの輝きを持っている」

「だが俺はあの子を、香純を守れなかった」

「確かにね。守れなかった。でもそれは貴女のせいじゃない。あなたの大切な人を奪った者の魂は未来永劫許されることのない炎に焼かれ続けるわ。それに香純もあなたに守られなかったことが悔いだなんて思っていないわよ」

 少女が手をかざすとそこにモニターのようなものが現れて映像を映し出した

 それは雨の降る夜道の映像

 その夜道は見たことがある。香純のバイト先と家を繋ぐ道だ

 道を一人の女性が歩く。香純に間違いない

 生前の香純の最後の姿だろうことはすぐに分かった

 そして俺にとっては見たくもない映像を見せられた

 香純が暴漢の男に襲われ、服を破られている最中に男の出したナイフで深々と胸を刺し貫かれるシーン

「やめろ! なぜこんなものを見せるんだ!」

「黙って。この先を見なさい」

 女神に言われるがまま恐る恐る映像を見るのだが、苦しそうに血を吐く香純。涙が自然とこぼれ、モニターに手を伸ばしてしまう

 その時小さくか細い声がモニターから聞こえてきた

「ごめん、ね、璃玖(りく)。璃玖のお嫁さんに、なれない、みたい。どうか、璃玖が幸せに、なれ、ます…ように…。またい…」

 最後の方は聞き取りにくかったが、その言葉は俺を恨むでもなくただ俺の幸せを願う彼女の心からの声だった

「香純の言うように幸せになってみたら? それがあの子の本当の願いよ。女神である私が保証する」

「俺が、幸せに?」

「そうよ。あなたにはその権利がある」

 女神はモニターでさらに別の映像を映し出した

 それはまるでゲームのステータス画面のような不思議な画面で、俺の姿とレベルが書いてあり、名前の欄は空白だった

 

「さてまずは、あなたの姿をエディットするわよ。本来転生や転移をする者は手に入れた能力に見合った姿に変わる。でも私がその(ことわり)を破壊して何とか姿を変えれるまでにはできたけど…。ちょっと性別を見てみなさい」

 俺はそのステータス画面に書かれた性別を見ると、Female、女性と書かれていた

「あの、これは…」

「性別だけはいじれなかったの。まあ大した障害じゃないでしょう? とりあえず、あなたの転生特典として、29回死んだあなたは29000ポイントをスキルに割り振れるわ」

「ちょっと待ってくれ、スキル? スキルがあるのか?」

 ゲームならやっていたから分かる。スキルは技で、スキルポイントをスキルに割り振ることでスキルレベルが上がったり新たなスキルを習得できるというものだ

 この世界では、そんなことができるのか?

「そうね、この世界にはレベルという概念がある。あなたの言うゲームの世界みたいなものだけど現実よ。レベルを上げて強くなるの。それでここに書いてあるのがスキル一覧と取得するためのポイント量ね」

 女神がモニターをスマホのようにスワイプさせると別画面が映った

 そこには取得できるスキルがずらりと並んでいて、それに必要なスキルポイントが書かれている

 新たな世界に行くのは抵抗はあるが、香純の願い、俺の幸せを願った香純の思いを自身の胸の内にしまい、今度こそ大切なものを守れる人になろうと決めた

 俺は迷わず全てのスキルを手に入れ、さらにはそれを最大まで上げて上位スキルというものに変化させた

 それらをさらに取得し、それぞれのレベルを最大にしてようやくスキルポイントをほとんど使い切ることができた

 かくして俺は新たな世界で女性として生を受けた

 始めよう、俺の人生を

 守るべき者を守れる人生を


「行っちゃったね」

「あ、お姉ちゃん」

「きっと大丈夫よ。あの人にはあの時の私達みたいな決意が見えたもの」

「うん…。ありがとうお姉ちゃん、おかげで彼も能力を定着出来たみたい」

「そりゃあ能力の女神だもの、定着させるくらい朝飯前よ」

「さすがお姉ちゃん!」

「それにしても、あんな能力見たことが無いわ」

「そうだよね。まさか死ねないのが自分の能力のせいだったなんて思ってもみないでしょうね」

「あの世界は魔力が極端にないのに、それでも能力が発動し続けた。それはあの人の力の強さを示してる」

 同じ顔の女神二人。双子である彼女たちは優しく今転生して行った男を見守った

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