優等生に襲う怠惰 その1
俺は勉強ができる優等生だった。
これを聞いたら普通の人間は『あー、はいはい。そういう感じの人ね』とか『うわーないわー、自意識過剰奴~ww』とか言ってバカにしてくるだろう。
まあそのことを口外する気もないが、実際のところ真実なのだからしょうがない。
俺は年間を通して5回ある定期テストで、今まで一度もトップの座を譲ったことがなく、高校二年生のときに受けた全国模試ではトップ10入りするという実績を残している。
こんな優秀な成績をとれたのも、当然多忙に多忙を重ねた努力のおかげである。高校一年生の春頃に、親友と偏差値70の神聖大学に行くと誓ったあの日から一年間、寝る間も惜しんで毎日毎日かかさず勉強をしてきた。テスト前なんて自分を追い込みすぎて、下簿を吐いたりしたことがあるほどだ。朝も昼も夜も暇さえあれば勉強してきた結果が、こうして実績として表れている。
このまま順調に勉強を続けていれば、神聖大学も夢じゃない!……と思った矢先だった。
———突如脳内に現れた怠惰。
それは剥がそうと思っても剥がれない。まるで寄生虫のような存在だった。
———あの時なぜやめることができなかったのだろうか。
———どうして打ち勝つことができなかったのだろうか。
今でもその後悔だけが頭から離れない。
———高校二年生、四月一日、始業式
真っ白なシャツ、紺色のブレザー、灰色のズボン、エンジと白のネクタイ。
朝七時頃、目覚めると、制服一式が勉強机の上に畳まれて置いてあった。
ふと二週間前に制服専門店で新調してもらったのを思い出す
「あ~やっと届いたのか。」
大樹は新しい制服が気になり、寝ていたベットから降りて勉強机の方に向かうとそこには〝全国模試頑張ってね 母より〟と書かれた置手紙が一緒においてあった。
母は四月になると仕事の事情で半年間海外出張へ行き、その度にこうやって毎年いつも置手紙を残してから出ていく。それを見て毎回頑張らないといけないなと元気をもらっている。ちなみに父はというと俺が生まれる前に離婚したらしい。正直どうでもいい。
俺にとっては今まで育ててくれた母だけが本当の親だ。
「あーあ、また一人か」
元気をもらったとはいえ半年間一人になると思うとやはり寂しい気持ちになる
俺は制服に着替えながらそんなことをつぶやく。
ピンポーン
そんな孤独を感じている俺のところに家のインターホンが鳴り響く。
俺は急いで着替えを済ませてドアに向かう。
ピンポピピピピピピンピピンポーン
「やめろぉぉ。今行くから」
こんな非常識に鳴らし続けてくる奴は俺の知っている中で一人しかいない。
ガチャ
「よっす。支度がおせえぞ大樹。待ってやるから早くしろ~。」
「うっせ、余計なお世話だ。とりあえず中入れ。」
「おじゃましまーす。」
こいつの名前は桜庭学頭。まるで勉強するためだけに生まれてきたような名前の奴だが、昔は勉強が大嫌いだったらしい。理由を聞いたら、どうやら親に無理やり勉強させられてきて苦しい思い出しかないからと言っていた。きっと親は相当勉強に力を入れてきた人なのだろう。俺は母に強制されたわけではなく自分の意志で勉強をしているので、あまり精神的にはそこまでやられてはないが、やりたくもないのに否応なくやらされるのは、他人ごとに聞こえるかもしれないが、相当しんどいんだと思う。
だが今はそうでもないらしいが、真相はまだ教えてくれない。
家に上がって一緒にリビングまで行くと、俺は食卓で母が作り置きしてくれた朝食を食べ、学頭はソファに座りながらテレビを見ている。
「なあ今日休んで一緒に勉強しねぇ?」
「いや、今日は行くよ。クラス替え発表されるじゃん。ちょっと気になるし。」
「あー、まあでも俺ら特待クラスだから一緒確定じゃん。正直他誰がいるとか興味ねぇわ。」
「お前もうちょっと交友関係築く努力しようぜ…」
こいつは厳しい家庭で育ってきたせいかわからないが、性格はかなりひねくれている。親友としては少し心配ではある。
「いいんだよ、俺はお前さえいれば。」
「……お前絶っ対それ外で言うなよ」
「ん?なんで?」
「はぁ…」
……まあこの通りこのような言葉を世間体気にせず言ってしまうのだ。おかげで一年の時のクラスでは俺らはホモカップルというキャラで定着していた。そのせいで〝イチャイチャしてるねー〟とか〝Fu—~♪〟(口笛)〟とか言われるようになり、その度〝そんなんじゃねえから!〟とか言って必死に撤回しようとして疲れていた。今年度のクラスでは絶対言われないように注意しよう。
「ホモって思われるんだよ、その発言を男に言うと。」
「ん~、日本語ムズカシイ」
「それぐらいわかってくれ,…頼むから。」
「大樹は優しいなやっぱ、俺の国語力気にしてそういってくれてるんだろ。」
「違うわ!」
「違うの??」
「はあ,…」
確かに学頭のその読解力はどうにかしないといけないな、今後のために。
ちなみにこいつの苦手分野は会話でわかる通り国語である。他はほとんど百点なのに国語だけはどう頑張っても70点ぐらいの点数しかとれない。それのせいで毎回の定期テストで俺より総合点で下回っている。国語さえできれば間違いなく俺より頭がいい。
「ったく、お前ってやつは」
「まあ、でもさ。」
急に声色がしみじみとした感じに変わり、思わず学頭の方を見る。
「俺本当にお前に出会えてよかったと思っているんだぜ。」
「……なんで?」
いつもだったら〝またお前勘違いされそうなことを〟とか言ってしまいそうになるのを抑え真剣な面持ちで聞くことにした。
「だってお前のおかげで嫌いで苦しかった勉強も今は楽しいと思えるようになったし、……いや、勉強だけじゃない。俺の人生までもが楽しくなった。ホントにありがとうまじで。」
「……ハハッ」
ったくなにをいうかと思えば
「お前もう何回目だよ、そのセリフ」
「クスッ,………何度でも言ってやるよ。」
「…ったく、ホント臭い奴だなお前」
「えっ、体臭匂う?」
「違えよ」
———でも
学頭と出会って、共に目指せ!神聖大学合格!という大きい目標を掲げてから、たくさん勉強し、たくさん遊び、時には笑ったり、時に喧嘩したり、時に泣いたりしたこと、、、。俺の青春の思い出を埋め尽くすほど、濃い人生を学頭と送ることができた。俺も本当に学頭に出会えてよかったと思っている。
「……絶対合格しような」
そう言った後、ソファから立ちあがり、俺が座っている食卓テーブルの椅子のところまでき
て、そして手を前に差し出してきた。
これは誓いの握手を求めているのだろう。それはすぐにわかった。だが今はする気がなかった。俺は学頭の差し出した手を両手で抑えるようにして。
「これは、俺らが受験前まで一緒に勉強を共に続けられたらにしよう。今はまだ早い気がする。」
まだ受験まで約一年半以上もある。もしかしたら、万が一、勉強しなくなっていたりとかしたら、または志望校が変わったりとかしたら、振り返ってあの握手は何だったんだってなってしまう。それが嫌だった。
学頭は俺の言葉に納得したのか。差し出した手を下ろしてくれた。
「まあ絶対に続けているとは思うけどな」
「まあな」
「「フフッ」」
俺らの強い絆を再確認でき、お互い思わず歯を出してはにかんだ。
「ってか時間は」
「えっ八時だけど」
「嘘ダルロォ!」
「まだ支度終わってねえのかよ(笑)。はやくしろよーww」
「うっせぇ!」
正直、問題さえ起こさないように気をつければ、普通に受験日を一緒に迎えることができるだろう。
——————そう思っていた。
——————これからこの二人に波乱が起ころうとしていることに俺らは気づく余地もなかった。
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