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アンコール「ゲーム」

一連の騒動から数ヶ月が経ち、成実のもとに一通の手紙が届いた。差出人は来也。

「一泡ふかせたい相手がいます。料金未払いの件で訴訟を起こされたくなければ、以下の住所に来てください」

脅しにも近い、というより脅しそのものと言うべき文面だったが、未払いは事実なので彼女はそこに向かうことにした。指定された日、三十分ほど歩いたところで到着する。そこは街はずれの廃工場だった。中には一台のテーブルと二つの椅子。来也は手前側の椅子に座ってうなだれていた。いつもはセンターで綺麗に分けている髪も、今は乱れている。

「賭けを、したんですよ。ゲームには自信があったんですが、やられました」

「得意のイカサマは使わなかったんですか」

「使いました。それなのに負けた」

「相手も何かした、ってことですか」

「いえ、僕がイカサマに気づかないはずがありません。ただ強いだけです」

「そんなこと」

ふっと、一瞬だけ意識が途切れる。そして気がついた時、景色はすっかり様変わりしていた。そこは煌びやかなカジノ。人が他にいないので、一種異様な空気が流れていた。

「なるほど、それで私を呼んだってことか」

成実が呟くと、現れた少年が言った。

「そうか、君が。話には聞いてるよ」

「私は、あなたをここから出してあげないといけない」

「ここは僕の城だ。ここから出したいなら、僕に勝ってみろよ」

「勝負って、何の」

「何だっていいよ。ここには何でもある」

「じゃあ、ジャンケンなんてどう」

「いいよ」

一回、二回、三回。結果は少年の全勝。それから百回ほどしたが、成実は一勝も挙げられなかった。

「僕の願うことは全て叶ってしまう。負けてみたい、その願いを除いては」

彼が語るが、彼女は少しの違和感を覚えた。来也が立ち上がり、トランプを取り出す。

「次は、こいつなんかどうですか」

「無駄だよ、どうせ何か仕込んでるんだろうけど。僕と彼女の戦いだからね」

少年はトランプを受け取り、卓上に広げるとグルグルと混ぜながら言う。

「ポーカーでもしようか」

「ポーカーはよくわからないから、神経衰弱とかで大丈夫かな。私、強いよ」

「ああ。本気を出してもらうためだ、僕が負けたら何かしてあげよう」

「じゃあさ、もし勝てなかったらここから出て」

「いいよ、負けないけど」

「先攻後攻はどうする」

「ジャンケンで決めようか。勝った方が有利な後攻ってことで」

ジャンケンをした。当然というべきか成実が負け、先攻をとる。二枚を捲るが外し、彼の番になった。あやまたず次々と当ててゆく。そのまま勝負が着いてしまうどころか、ただの作業となり果てていた。

「さっきジャンケンに負けていれば、順番を返さずに勝てたのにね」

「先攻は譲ったんだよ」

「そういう演出するような奴じゃないのは、もう分かってる。多分そんなに融通の利く力じゃないよね」

一瞬、彼の手が止まる。それにも構わず彼女は続けた。

「ただ、ただ勝つだけの力。そしてそれは君の心に関係している。負けに怯えている、だよね」

彼の表情に動揺が現れる。

「勝つのはもうたくさん、でも負けるのも怖い。なら、勝負をつけなければいい」

盤上には最後に一枚だけ、裏向きのカードが残った。そのトランプは、はじめから一枚足りなかったのだ。

「ゲームは不成立、というわけか」

「その気になれば、君の力で枚数を歪めることくらいできたはず。何故、しなかったの」

「言わせるなよ、僕の負けだ。しかし、奴らはそうさせてくれないらしい」

景色が元に戻る。そこには中年の男たちがいた。浦戸と似たような格好をしている。

「なんで」

「あの甘ちゃんとは違うからな。怪異はすべて取り除かなければならない」

抵抗する来也が取り押さえられ、少年は連行される。成実だけが辛うじて逃げ出した。逃げて、逃げて、どこまでも逃げて、誰も知らない街にたどり着いた。カチカチ、カチカチ。カッターを鳴らして、彼女は今日も歩く。

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