第三楽章「ハリネズミ」
第三楽章「ハリネズミ」
それはどこかで見たような街だった。知らないのに知っている、夢の中で来たような街。彼と彼女を除いては、人は誰一人としていない。道なりに進んでみると大通りに出た。道の先にある広場に、何者かが佇んでいる。それが人間であるか、はじめのうち判別がつかなかった。全身いたるところに棘が生え、蓑のように本体を覆っている。そしてそれが人間だと成実が確信したのは、棘の向こうの目があまりに哀しかったから。おそるおそる話しかけてみる。
「何、してるんですか」
「来ないで」
彼女が歩み寄ると、それは後ずさった。
「私のせいですか。私がいるから、そんな目をしてるんですか」
「違います、僕が悪いんです。これ以上近づいたら、きっとあなたを傷つけてしまうから」
「私なんかが傷ついたところで、誰も悲しみませんから」
「僕は嫌です」
「今ここであなたが悲しんでいる方が、ずっと嫌だ」
逃げ去ろうとするそれの手を掴む。彼女の手に棘が刺さり、赤く染まっていった。棘の奥の目から一滴、二滴、光る滴が落ちる。
「なんで、どうして、そんなにまでなって」
「あなたを放っておく私は、駄目な私だから」
どこからか男が現れる。浦戸だ。彼はひと突きのうちに棘を折り、中身を剥き出しにしてしまった。蓑を失った彼は苦しんでいるようだ。景色が崩れ始める。意識も揺らぎはじめる。浦戸は彼女を見やり、言う。
「覚悟が足りない。人を傷つける覚悟もなしに、誰も救えはしないさ」
「違う、私は」
「違わないさ。被害者でいれば加害者より楽なんて、そんな考えが透けて見える」
プツリ、途切れてしまった。




