第1章 第2話 吾輩は成長期である。
魔法都市の片隅にある魔導師エスクラピウスの家に、子猫リヒトが保護をされてはや一週間が経った。
魔導師エスクラピウスは、毎日の大半をこの子猫に愛情をかけている。
子猫の新鮮なご飯のために早朝から、遥か彼方の山に赴き、下位種のドラゴンやら、キマイラなどを倒しては、素材を剥ぎ取り魔法袋にしまい込んでいる。
『そろそろ、リヒトが起きる頃合いか。急いで戻らねば。』
エスクラピウスは、転移魔法を唱え自分の部屋にゲートを繋げた。
エスクラピウスの転移魔法は、他の魔法使いの転移魔法と違い、距離の制限が無く転移による体の負荷もほぼ皆無に等しい。
優秀な魔法使いでさえも、この山の麓から魔法都市クリストに戻るまで転移と休憩を挟んだとしても少なくとも1時間はかかってしまうだろう。
エスクラピウスが、家の部屋へ転移してくるとお腹を空かせたリヒトがみゃーみゃー鳴いてエサを待っていた。
『リヒトちゃん、起きたんでちゅか〜。今、じぃじぃがご飯用意しまちゅね。』
「ミャー」
『今日の朝ご飯は、ロック鳥の卵のオムレツとドラゴンのテイルスープじゃぞ。』
とリヒトに語りかけ台所で調理をし始めた。
リヒトは、待ちきれない様子でエスクラピウスの足元で調理している様子を眺めるのであった。
エスクラピウスは、一人身が長かった(現在進行中)こともあり、食事を作る事には苦でもなかった。
ただし、掃除・洗濯は、物の場所がわからなくなるし、服は防水性の強い水竜を一部素材として使っているので汚れることはないと考えているため、する必要性がないらしい。
『よし、出来た。』
エスクラピウスじぃじの声を聞くなり、リヒトはテーブルまで走って行き、じぃじが作ってくれた椅子の上にちょこんと座った。
「ミャーミャーミャー」
と待ちきれなく尻尾を左右に鞭の様に振っている。
『いい子でちゅね。じゃ、一緒に頂くとしようか。』
そして、老人と子猫は目を瞑り食べ物に感謝の意を込めて祈りを捧げた後に、朝ごはんを堪能し始めた。
子猫のリヒトは、保護された当初よりも少し大きくなり、肋骨が浮き出てくるくらいに痩せていたのが少しずつ改善されてきていた。
リヒトの食事は、エスクラピウスが栄養満点な物と考えて普通の人間、猫でも食べる事が無いであろう高級食材(高位のモンスター)になっている。
リヒトは、知るよしも無いが、魔法力を高めたり状態異常の抵抗性が上がったり、魔法使いにとっては重要なステータスの精神・知性を高める食材が惜しみもなく使われているのであった。
その食事を、一週間も食べているのであった。
「ごちそうニャま」
『はて?』
『・・・・・』
『今の声は、何処から聞こえたんだろうか。』
リヒトは、エスクラピウスが不思議そうに首を掲げていたのを真似しながらもう一度鳴いてみた。
「ごちそうニャま。じぃじ、今日も美味しかった。」
エスクラピウスは、子猫のリヒトが喋ったことに驚きながらも、すぐに納得してしまったのである。
何故ならば、エスクラピウスは猫を飼った時が無い。
そして、猫は知らない人の前では、喋ることがないと思ったのであった。
なにせ、エスクラピウスは猫から逃げ回られていたため、未だによその猫にはシャーとしか言われないのである。
なので、リヒトが喋った事に対し、猫は飼主には喋るものだと勘違いしたのであった。
『リヒトちゃん、喋れる様にまで大きくなったのかい。
じぃじは、嬉しいでちゅよ。』
「じぃじ、リヒトも嬉しいよ。」
『そうか、そうか。』
「じぃじ、いつも美味しいご飯を作ってくれてありがとう。」
そう言われた瞬間、エスクラピウスは泣いた。
嬉しくて嬉しくて、涙が溢れて両手で顔を抑えてた。リヒトは、テーブルの上を、二本足でトコトコ歩きながらじぃじの前に立ち、小さい右手の肉球を使ってじぃじの頭を撫でてあげたのであった。
じぃじは、
リヒトの始めて歩く瞬間を見逃してしまったのであった。