第1章 第1話 吾輩は銀猫リヒトである
吾輩は猫である。
名前はすでに有る。
リヒトである。
何処かの国の作家さんのような語り口だが・・。
生まれは魔法都市クリストで、街角で木の箱に入れられ捨てられていたのである。
生まれて1ヶ月の時のことである。
そこである老人が吾輩を抱きしめてくれたのである。
ここは、感動的なシーンで有るのだろうが、吾輩はかなり抵抗して嫌がったのを記憶している。
老人からドラゴンの血の匂いや魔法アイテムなのだろうか、毒蛾の粉や毒牙草の瓶などの混和した目にしみるような悪臭を漂わせていたからであった。
この老人は、魔法都市クリストで一番、いやこの世界で一番の魔導師エスクラピウスである。
若いころは、魔法使いの仲間と冥王プルートーを封印したとか、勇者とその仲間と共に古竜ファブニールと戦って国を守ったなどといった伝説を作ってきた。
吾輩と出会った時には、すでに齢135歳になっていた。普通の人間では、すでに寿命をまっとうしているものだが、このご老人は若返りの薬を100歳の時に使用したらしく、見た目は70歳前後になっているとのことである。
若返りの薬は生涯一度しか使えず、約30ー40歳くらい若返ることしかできなかったようである。
後に、『50代で使えば良かった。そうすれば、あの酒場のメアリーちゃんと〜、、。クソ、あのエルフめ。薬の作用をしっかり言わないせいで、ギリギリまで待ってしまったではないか。』と嘆いてたのである。
このご老人は、自由奔放な性格の持ち主で、70歳に見える現在でも国の重要クエストに一人で挑んだり、強い獲物の気配を感知するとすぐに戦いに挑みに行ったり血気盛んな方である。
そんなこんなで、吾輩はこのご老人に誘拐さ・・・、もとい、保護されたのである。
「ミャーミャー」
『お腹がすいたんでちゅか〜。』
魔導師エスクラピウスは、かなりの猫好きなのである。
けれども、大きくなった猫は異臭を放つ彼には近づこうともせず、皆一目散逃げ出すのであった。
そして、実年齢153歳にしてようやく猫を飼うことができたのである。
『猫のご飯とお水〜。なかなか見つからないね〜。確かこの辺りに。』
家の中に無数にあるゴミ(魔導具やら魔石、魔法書、魔獣の素材の山)の中から以前猫を飼うことを想定して買っておいた猫のご飯を探しているが、なかなか見つけ出すことができない。
『う〜ん。欲しい時にはなかなか見つからないとのことはこのことなのであろうな。とりあえず、今日狩ってきたドラゴンのお肉とドラゴンの涙を代用にしてみようかね。』
おもむろに魔法袋から肉を取り出し、皿の上におき魔法を唱える。
『ウィンド、そしてファイア』
皿の上の肉が瞬く間に細切れされ、ミディアムレアに焼かれたのであった。
二日ほど、ご飯を食べてなかったこともあり、子猫は飛びつくようにドラゴンの肉をもぐもぐと食べた後に、食べている間に用意されたお水(竜の涙)をガブガブと飲むのであった。
『おいちいですか〜。やっぱりご飯は新鮮なものに限るのでちゅね〜。』
『となれば、明日からはこの子のために、栄養満点なお肉を用意しないといけないな〜。』
魔導師は、腕を組みながらそう考え始めるのであった。
戦いの中に身を置く魔導師にとって照らし包み込んでくれる光のような存在になった。
『ふむ、この子猫の名前は、リヒトにしよう。』
名前をつけられた子猫は淡く光輝き始め白い毛なみが銀色に変化したのであった。
「ニャー!」
と銀色の子猫リヒトが力強く一鳴きしたのであった。