本当のラスボスは…
くそ、また負けた
コントローラーを投げ、天井を仰ぐ
負けるとペナルティで金が減るからな
そうおもったのは相当前
俺はまた条件反射のように押し飽きたリセットボタンを押した
もう何回目だ?
レベル上げが足りないのか?
雑魚でも狩りにいこうか
俺は昔のゲームをするのが好きで中古ショップに行ってはほぼタダ同然になっているゲームソフトを買ってプレイする、いわゆるレトロゲーマーだ
昔のゲームはなんといっても今のものとは違ってゲームバランスを無視した理不尽さがあり、クリアも難しく、それが俺にとってたまらないのだ
マゾだといわれればそうかもしれない
ゲームはさらわれた姫を助けに開く王道RPG
相当前のさらにかなりマイナーなゲームらしく、ネットには攻略などは載っていない
ひたすら根気強くレベルを上げたりアイテムを集めたりコマンド入力を工夫したり
ちまちますすめるのがすきなのだ
今もその理不尽なゲームバランスでレベルに不釣り合いな中ボスに連戦負けしたところだ
…もう3時間も行き詰まってしまっている
今日はもうやめようか
リセットしたあとつい癖のように開いてしまったゲーム画面をふと覗く
…今、キャラが見たことない動きをした気がしたな?
バグか…?進行不能とかやめてくれよ
ハードももう古いし一度休ませるか
そうして俺はゲームのスイッチを切り、布団にゴロンと横になるととたん眠りについた
次の日も同じゲームに開けくれていた
無職の俺はゲームをする時間はたんまりあった
…
ここの雑魚も狩り飽きたな
1番効率がいいから仕方がないが…
…それにしてもコマンドセレクトの動きが悪い
コントローラーの+ボタンが壊れたか?買って一年しかしていないが、販売されたのももう十数年間前のものだ
壊れても仕方ないが、修理できるのかが不安だ
はあ、ようやく勝てた
あれから何度負けたか、かぞえるのも嫌になるくらいだ
回復薬をガブ飲みでHPギリギリだった
アイテムも空に近い
すぐ街に行って宿屋で回復してアイテムを補充しよう
そうしてキャラを動かそうと+ボタンを押すが、やたらキャラの動きが悪い
たまに操作しない方向に動く
本格的にコントローラーを買い換えるか…中古屋ならあるだろう
次の日、新しくコントローラを買ってきた
新しくと言っても中古のものだが、ショップ店員は動作は確認済みで問題なく使えるとのことだ
早速ハードに差し込み、プレイを始める
…おかしい
コントローラーを変えたのにやはりキャラが思うように動かない…
おかしいのはコントローラーではなく、このゲームか?
他のゲームに差し込みかえて操作してみると前のコントローラーでも新しいコントローラーでも問題なく動かせた
やはりソフトがいけなかったのか
くそ、無駄金を使ってしまった
これを作ったゲーム会社は…
お、幸いまだ存在しているようだ
今日はもう遅い
ゲーム会社には明日連絡するか
明くる日ゲーム会社に連絡し、ソフトを送って見たが、異常は見られないと
同じソフトをそのまま返してきた
新しいソフトと交換してくれるのも期待したが、もう随分古いゲームだ、新品などなかったのだろう
それからもゲームを続け、理不尽なゲームバランスに幾度かゲームオーバーになった
その度にキャラの動作が遅くなるのだ
新しいアクションもするようになった
キャラが周りをキョロキョロするのだ
もしかしたら仕様なのかもしれない
時間経過で起こるペナルティみたいな?
昔のゲームなのによくできたシステムだ
そう思い、今日も随分とゲームにふけってしまったのでセーブをメモし、寝ることにした
今日は…さらにおかしいことがあった
ゲームを起動すると主人公と、その仲間が画面にいないのだ
バグか?ともおもったが、昔のソフト特有の他の場所も文字化けしたり歪んだ形跡はない
主人公たちだけがまるっといないのだ
画面移動はできるようなのであちこちに移動させた
必死に探していると、ある街の宿屋にいるのを見つけた
なんだ、いるじゃん…焦った
なんでこんな街に…まだここ、訪れてもない場所のはずなのに
…横を向いている主人公がこっちをちらっとみたのは気のせいか…?
ともかくまたゲームを始めることにした
おかしい
明らかにおかしい
いくらコマンド入力をしても言うことを聞かない
戦う、魔法、どうぐ、どれも使えない
使えるのは逃げる、ただ一つ
なんだよ、このゲーム!レベルが上げられない縛りでも仕様に組み込んでいるのか?!
上等だ、こちらは100本以上の理不尽レトロゲームクリアの実績がある
このゲームも絶対クリアしてやる
そうしてしばらく経った頃
ようやく戦うや魔法のコマンドが入るようになった
だが、敵ににダメージが入らない
missという表記も出ない
物理も魔法も効かない敵か?
スクロールをよむか?ゴーストでは無いが聖水が効くか?
そうこうためしているうちに、ある異変に気付いた
こうげきのコマンドを入力すると、鈍い痛みが背中に走るのだ
炎の魔法を使うと、じわりとだが周囲の温度が上がったかのように暑くなる
ゲームのやりすぎだな、疲れてるから肩でも凝ったのだろう
いくら無職とはいえ一日中ゲームは良く無いな
そして今日もスイッチを切ったのだった
〜♪〜〜♪
いつのまにか眠っていたのだろう
真っ暗な中、ある音で目を覚ます
着信か?ちがうな
ふとみると
真っ暗な中煌々とテレビがついている
この音は、あのゲームだ
寝る前にスイッチを切ったはず…
なのに、なぜ…?
恐る恐る画面をみると、主人公たちが全員こちらをみている
主人公の後ろについて歩くサブキャラまで…横並びなのに…
どう操作したって全員がこっちを見れるはずないだろ…なんなんだよ
夢か?薄気味悪い…
薄気味悪いからさっさとクリアしてしまうか
そうしていつもにまして急ピッチで攻略を進める
おかしい
雷の魔法でなんで自分が痺れるんだ?
氷の魔法でなんで室温が下がるんだよ
敵にダメージもとおらねぇし
なんなんだよ…
気味わりぃ…俺の負けだ
このゲームはもうやめてしまおう
そう思った時だった
いきなり主人公たちが喋り始めたのだ
『おまえはだれだ』
『なんどしんでもリセットしておなじしのくつうをおれらにあたえる、おまえのことだよ』
『いたいの、くるしいの、もういやなの』
『おまえがいるかぎりこのくつうからのがれられない』
魔道士が勝手に呪文を唱え始める
熱い、寒い、痛い…痛い…!
なんだよこれ…やめろ…やめろ!!
『おれたちのほんとうのラスボスは「おまえ」だ』