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マリーと恋バナ


 マリーから怒られたあの日から数日が経ちました。相変わらず私は部屋に引きこもっています。マリーに怒られたのもそうなのですが、お兄様より出来るだけ部屋を出ないようにと言われたのです。


 ですが、最近部屋に引きこもっている私でも分かるほどに外が騒々しいのです。一体何があったというのでしょう。


「姫様。いかがいたしましたか?」

「マリー……」


 物思いに耽っているといつの間にか背後にマリーが居た。いつも怖いからやめてって言ってるのに……。でも、マリーが言っても聞かないから、急に現れても変な声を出さない程度には慣れたんですけどね。


「最近、部屋の外が騒がしいと思って。何かありましたの?」

「いえ、いつも通り特筆すべきことはございません」


 特に表情を変えることもなくマリーは告げた。そうなのよね。この質問も、もう何度目か分からない。けれど、皆揃って答える気が無いようだ。もしかすると、まだ答えていい時期ではないのかもしれないけれど。こうも隠されると気になってしまうわ……。


「…………ふぅ。分かりました。それでは姫様。ひとつ答えて頂けますか?」

「ええ!なんでも聞いていいわよ!」


 私が、気になる!気になる!と、目をうるうるさせてマリーを見ていた効果でしょうか。どうやら、固く閉ざしていた口を開いてくれるようです。日々の積み重ねのおかげですね。ここしばらくのマリーとの攻防を少し思い出しながら、マリーの言葉の続きを待ちます。


「姫様。理想の男性像はございますか」

「……理想?うーん」


 理想の男性像とは、これまた変な質問です。外の騒がしさと何か関係があるのでしょうか……?


「姫様は使用人以外とあまり接触もされたこともございませんし、公爵家自体、男性の使用人が姫様の区画で仕事をすることが無いように決められています。男性を遠くから見ることがあっても、直接話をすることもございませんでしたから、どのように見えているのかと思いまして。それに、その規則が無くとも男性の方を普段より避けていらっしゃるように見受けられましたので、本当のところが気になっておりまして」

「……そうだったの?」


 マリーがいつになく饒舌だ。簡潔に話すことの多いマリーがこれほど饒舌になるなんて、普段からきらきらした男性を苦手として避けていたことはバレていたのね……。実は、公爵家だからか、使用人の顔面偏差値のレベルがとても高いのです。外に出たことが無いので、もしかしたらこの世界の人間は、皆美形揃いなんでしょうか……?


 ……とても恐ろしい考えに至ってしまったわ。でも、そうね。もし希望として述べることが出来るのであれば、やはり常々思っている理想で問題ないでしょう。


「姫様はどのような男性が好みなのですか?」


 自分の普段の言動について深い思考に陥っていると、再度マリーから答えを催促される。これは、もしや恋バナなのでは……?前世でも全くすることの無かった話がこんなところで出来るとは思わなかったです。マリーがじっとこちらを見て返事を待ってくれています。


「私は……」


 私の男性の理想像。それはやはり、理想の家庭が築ける方と一緒になりたいのですから、第一に私の望みを分かってくれる方でないと……。


「やはり、優しい方、かしら?私のことを穏やかに愛してくれる方が理想、なのかもしれないわ」

「穏やか、ですか……」


 マリーが難しそうな顔になった。曖昧な答えになってしまって、困らせてしまったかもしれません。具体的に例を挙げたほうがいいのかしら?


「私の夢、なのだけど……」

「夢ですか?」

「家族そろって穏やかに過ごせることなの」

「姫様……」


 マリーが困った顔になってしまいました。おかしいですね。困らせたかったわけではないのですけど……。


「申し訳ございません。しかし……」

「いいの。気にしてないから」


 公爵家に生まれた姫として、私は大切に育てられてきた。緩やかな檻の中で。自分から出ることを望まなかった私はその檻のありがたさも身に染みています。利害が一致したので、特に恨みに思っている訳でもありません。先日のように、公爵家の姫として外へ出なければならないこともたくさんございます。本来であればこの箱庭の中でのみ完結は出来ないのです。ですから、マリーが謝ることもありません。


 皆、私が出ることを嫌がったため、その代わりになったのです。父も、兄も、母も、私の我儘のためにこのように会うことも少なくなってしまったのです。ですので、私がそれを恨みに思うことはありません。私の為を想ってのこの状況なら、私はそれを受け入れます。むしろ、私こそ謝らねばならないほどですから。


 マリーは私が気にしていないと言っても、その曇った顔を晴らせることはないのでしょう。少しでも明るい話題を提供しませんと。


「そうね。これならどうかしら?確かに、家族団欒で過ごす、というのも理想ではあるけれど、そこに、マリーも入ってみたらどうかしら?」

「姫様……それは私にさらに婚期を遅らせろという意味でしょうか?」


 あ、マリーの目が据わった。そういう意味じゃなかったのだけど、どうやら、相当気にしていたみたい。年齢のこともあるし、そろそろ嫁がないと一般的な貴族令嬢は年増と言われてしまう。マリーは騎士の家系だから、まだ余裕はあるでしょうけど。


「そういう意味ではないのだけど……私は、ただ、もし私がどこかへお嫁に行っても、マリーと一緒に行きたいなあ、って……」


 私の言葉に、険しい顔つきになっていたマリーの表情がもとの無表情に戻った。どうやら、照れてるらしい。マリーは昔から怒るときは表情豊かだけれど、照れたり笑いたくなったときは無表情になる。前に理由を聞いてみたのだけれど、明確な答えは貰えなかったのです。


「それに、マリーにはケビンくんがいるでしょう?」

「あれに期待はしていません」


 即答でした。照れ期、短かったなあ。あれ呼ばわりとは、ケビンくんも可哀想。今どうしてるんだろうか?公爵家の騎士団長は百戦錬磨と聞いているのだけど、どうやって倒すのかしら?……あら?そういえば、騎士団について変な噂が外から聞こえていたのだったわ。マリーに確認しないと。


「そんなこと言って、本当は気になっているんではないの?私、知っているのよ。ここ最近、マリーが訓練場に顔を出しているって」

「業務連絡です」

「それにしては毎日頻繁に必要な業務連絡とは何なのかしら?」

「……父上に久々に手ほどきを受けておりまして」

「そうなの?手ほどきにしては時間が短いと思うけれど……?」

「…………」


 どうやら図星のようだ。カマを掛けただけだったけど、ドンピシャにマリーへ直撃したようです。やだ、なんか楽しくなてきちゃった……!


「……ところで姫様。その話は誰から聞いたのでしょうか?おかしいですね。ここには私くらいしか入室していないはずでしたが?」


 ギクッ。マズイ。人の目を盗んで、実はこっそり部屋から出ていたとバレたら、キツイお説教が待っている。なんとかごまかさなければ!


「通りがかった侍女の話し声が聞こえたのよ」

「仕事中におしゃべりですか。改めて教育をやり直したほうが良いようです」

「あ、侍女だったかもしれないし、本当は侍女ではなかったかもしれないわ」

「…………」

「…………」


 咄嗟に侍女をかばってしまった。休憩中の彼女たちに何の罪もないのに、これではさすがに可哀想だからです。しばらく無言でマリーと見つめ合う。じーっと疑わしい視線で見られています。これ以上は危険なので、話をどうにか逸らそうと、冷汗をかきながら必死に考えます。必死に考えた結果、唐突に私は閃きました。さも、今気づきましたとでも言うように、なるべく自然を装って話題を続けます。


「あ、そういえば、マリーの理想の男性像はどういう方なのかしら?」

「……正直者で素直な方、ですね」

「そ、そうなの?初めて聞いたわ。何か理由でもあるの?」

「母が手なずけるには容易いと申しておりましたので」


 マチルダ……。なんてことをマリーに教えていますの……。


 それから、お互い深く話を掘り返すこともなく、私は話題が戻らないように必死に私の理想の男性像についてマリーに語り尽くすのだった。

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