元四天王だけど200年ぶりに復活したら魔王も神も滅んでた
もともと、スローライフ物を私が書いたらどーなるかという実験的に書いて、放置しておいた作品です。
暇つぶしに投稿してみました。
「……はあ、どっこいしょ」
嫌に重い棺桶の蓋を開けて起き上がったら、薄暗い部屋の中でなぜか作りかけの造花を手にしていた参謀のリル(泣き女・三百十五歳)が、ゴーレムになったかのようにギギギーッ……と、茫然とした顔で私のほうを振り返った。
周囲を見回すと棺桶の蓋の上にテーブル掛けが敷いてあって、蓋を開けた拍子に散乱したらしい、植木鉢や木彫りの人形、食べかけの麺麭とかが、床の上に転がっている。
こん畜生、ヒトが死んでる棺桶を長持箱か物置代わりに使ってやがったな……と思いつつ、上体を起こした姿勢で思いっきり伸びをする私。
うお~っ、肩だの首だの腰だのがボキボキ凝り固まっているわ。どんだけ死んでたんねん、と思いつつついでに背中の翼を八枚とも伸ばして、文字通り羽を伸ばした。
瞳の色と同じ虹色に輝く羽が光を乱反射するも、死に起きだからかちょっと精彩が欠けている気がする。
「――あ~~、よく死んだわ~。さすがは勇者の聖剣。無茶苦茶痛かった。洒落にならないわ……」
それから鬱陶しい金髪(種族的な特徴で、なんど切っても切っても床を引きずるほど伸びる)をかき分け、死ぬ寸前、ど真ん中を貫かれた胸のところに手をやってしみじみと述懐する私。
いや、あれは本気で痛かった。
熾天使の堕天使にして吸血鬼の神祖として生を受けて二千六百年。数々の強敵と戦ってきた私が、生まれて初めてマジで死を覚悟した――いや、実際に殺されたわけだからね。
……まあ、こんなこともあろうかと、念のために受肉した際に《魔核》の予備を、メインの心臓部分の他に腰のところと左足首に分散しておいたんだけど、それがなかったらマジで塵も残さず滅びてたところだわ。
万一に備えて、魔王や他の四天王にも教えていない保険だったけれど、どうやら無事に機能したらしい。
とはいえ、さすがにメインの《魔核》と違って、あくまで補助用の《魔核》。保持する魔力の貯蔵量も活動量も段違いに低い上に、白木の杭とかならともかく聖剣で有無を言わせず、体のど真ん中に風穴を開けられただけあって、肉体の再生と《魔核》の再起動に全力を尽くして……うん、たぶん再生するのに二百年前後はかかった計算だね。
まあ、なにはともあれ無事に生き返れて重畳……などと徒然思ったところで、再起動したリルが、
「ルテティア様っ! お目覚めになられたのですか!?」
手にした造花を慣れた手つきできっちり仕上げ、きちんと箱に収めたところで、感極まった面持ちで立ち上がって、嬉し泣きしながら私のほうへ走り寄ってきた。
ああ、うん。感動的な光景に見えるけど、その直前の一仕事終えるまで、やたら冷静な手つきとひと呼吸置いていたお座なり感、あと『泣き女』という種族特性が、どーにも胡散臭いウソ泣きにしか思えないんだなぁ。
「……いや、まあ、細かいことで水を差すようだからどうでもいいんだけど」
「――は? なんですか?」
「いや、なんでもない。て言うかなんでメイド服なんて着てるわけ? あんた仮にも私の参謀でしょう? あと、ここ埃っぽいけどどこなの? 城の物置小屋?」
矢継ぎ早にそう質問をぶつけると、リルは困ったようにエプロンを抓んで、もじもじと言うべきか言わないべきか……そんな感じで挙動不審に視線をあちこちに逸らせた。
おかしい。なにか隠しているな。
思わず藪睨みの目付きでリルを凝視して、白黒はっきりさせようとしたところで――。
「うおおおおおっ! やっぱり! この魔力はルテティア様だと思ったんですよっ」
「お久しぶり、盟主様。ウケケケケッ!」
「ティア様、ちーっす!」
「お元気そうでなによりですわ~」
ばたばたと騒ぎながら、《銀狼将》ライガ(男・九百六十歳)、《死神将》ヘテロー(女・年齢不詳)、《地竜将》マーニュ(男・五千六百三十歳)、《炎魔将》エッレン(女・自称永遠の十七歳二万八千九百五十カ月)が、次々とこの場へ姿を現した。
久々に見る懐かしい顔ぶれを前に、私は感極まった激情の赴くまま――
「だから、なんで仮にも四天王の側近が揃いも揃って、人化して継ぎの当たった野良着を着ていたり、エプロン付けて茹でた玉蜀黍を持って雁首揃えているわけ!?」
思わずそう全力で詰問していた。
「え……」
「いや~、ハハハハ……」
「色々あってな」
「そうなんですよ~」
途端、先ほどのリル同様、挙動不審になって言葉を濁す魔将たち。
どーにも歯切れの悪い連中の態度に、私はイライラしながら、どうにか手掛かりを掴もうとリルを含めて連中の顔を一瞥――全員が目を逸らせて、口笛を吹く真似をする――して、なるべく冷静な口調で問いかけた。
「……ならば質問を変えましょう。まずは私が復活するまで何年かかりましたか?」
「えーと……二百飛んで九年です」
リルがどこかホッとした様子で答える。
「ふむ。妥当なところですね。では、次ですが――」
これからが本番だとわかっているのだろう。その場に緊迫した空気が張り詰める。
「私が勇者に斃された後、アレはどうなりましたか?」
「「「「「…………」」」」」
アレと言ってもピンとこないのか、顔を見合わせる五人。
ええぃ、じれったい! 私がアレと言ったら、アレのことでしょうに! 二百年程度でここまで弛んだか、我が軍団は!!
と、普段から私の傍にいたリルが、おずおずと手を挙げた。
「あの……もしかして、アレというのは、魔王陛下のことでしょうか?」
そうリルが口にした瞬間、他の連中にも『ああ、そうだったそうだった!』という理解の色が浮かんだ。
えぇい、遅い! 私がアレを口に出すことを嫌ってたのは周知の事実だっただろうに!
「そう。あの陰険な蛇女のことです」
自分でもわかる苦虫を噛み潰した顔で頷く私。
そう。アレこと自称《魔王》であった複数の首を持つ蛇女帝ティマット。
ぶっちゃけ、1対1なら負けない自信があったけれど、他の四天王の三人がアレに篭絡されていた関係で、どうしてもパワーバランス的に直接対決できず、屈辱的な『魔軍四天王』の一人……なーんて不本意な立場を余儀なくされていた私。
無論、水面下ではアレの寝首を掻こうと虎視眈々と狙っていたし、あの魔王も魔王で、自分より若くて美形――なお基本的に天使は中性だけど、物質界に受肉した段階で男女に分かれる。私の場合は見た目17歳前後の美少女である――な私に嫉妬して、さっさと死ねとばかりに常に最前線に送ってくれやがったしね。
その結果が、絶対に対私用に調教……というか、私への当て馬にする目的で、わざわざ段階を踏んでパワーアップさせた勇者に対して、単独で私が戦えという無茶振りを命じられ、結果、アレの思い通りに私が斃されたわけだ。
そこらへんの経緯を知っている腹心の五人――当時、そんな馬鹿なことができるか。だったら全員で掛かればいい! と本気で抗議してくれたものだ――は顔を見合わせて、お互いに視線で促し合って、どうやらライガに賽が委ねられたらしい、ガシガシと銀色の蓬髪を掻きながら、
「あ~~、死んだ。勇者に斃されて」
そう端的に答えた。
「へ……?」
思いがけないその台詞に、思わず間の抜けた声を放つ私。
「いや、あの。アレって魔王城の奥深くでふんぞり返っていたよね? 魔王軍100の軍団は!? あと、魔王城の扉を開くには、四天王が全員斃されないと無理な話だったはずだけど?」
そうなのだ。あの蛇女は、用心に用心を重ねて、魔王城へは四天王が認めた相手、もしくは四天王が全員死ぬまで入れないように安全装置を取り付けていた筈なのだ。
「魔王軍だったら、ティア様が斃されたことでウチの33軍団は瓦解したっス! 具体的には中核をなしていた『不死軍団』、ティア様配下の《真祖吸血鬼》五人組が、次のリーダーになろうと相争って共倒れになったっス! 吸血鬼なんで、当然トップがいなくなったら連鎖的に軍団が壊滅したわけで、あとは散り散りですねー」
竜種としては比較的若いマーニュが、玉蜀黍片手にあはははは、と笑い事にして言う。
言うまでもなく我が『不死軍団』はアンデッドを中心にそろえられた魔王軍最大にして、最前線で戦っていた最精鋭である。その分、個々の軍団長は癖が強い――目の前の四人を見れば一目瞭然だろう――のは分かっていたけれど、どうやらその個性の強さが悪い方向に働いてしまったらしい。
「あー、だから。ルテティア様がお隠れになられた後、前線は崩壊した訳で、他の軍団なんて実戦から遠ざかっていた張子の虎でしたからね~。たちまち息を吹き返した各国――人間だけじゃなくてエルフやドワーフも臥薪嘗胆で反撃の機会を狙ってたみたいですね――が一斉に行動を起こし、その混乱のどさくさ紛れに調子に乗った勇者とその一行に四天王が全員斃されて、ついでに魔王も斃されたってわけです」
「ウケケッ……聞いた話では、残りの四天王連中、三人まとめてなら勇者にも勝てると思っテ。逆に三人まとめて、勇者一行に秒殺だったらしいゼ」
割とどうでもいい口調でそう答えるライガと、いつもの調子で茶化すヘテロー。
「まあ、私を斃した時点で聖剣が大幅にレベルアップしたろうし、当然といえば当然だろうね」
基本、勇者の技量は大したことはなかった――一流以上、超一流には届かないレベル――だったのだけれど、あいつがもっていた聖剣、あれは反則だった。
対峙してはじめてわかったんだけど、あれはそこいらの霊力が強いだけの聖剣とは別物だった。
具体的には、そこに存在するだけで魔力を際限なく吸収して魔族を弱体化させ、さらには強い相手を斃せば斃すだけ無制限に威力を増し、ついでに副次効果で一時的に使い手を超人へと最適化する――要するに聖剣が主役で、使い手は聖剣の力を補助する部品のひとつでしかないのだ――バランスブレーカーもいいところだったのだ。
あれを創った『造物主』も、よほど切羽詰まってあんなもん人間界に顕現させたんだろうな。
とはいえ、ある意味朗報である。溜飲が下がったとも言える。
あいつら。さんざん人のことを陰で「四天王最弱」とか「天界の落ちこぼれ」とか言ってたのに。瞬殺で、ざまぁ! あと、蛇女ある意味自分で墓穴を掘って死んでざまぁ!!
「――で、それで200年経過して、お前たちはどうしたわけ?」
心行くまで「ざまぁ!」を連呼したところで、私はいまさらながまるで農夫や家事手伝いのような恰好をしている、元軍団長たちに近況を尋ねた。
「いや、まあ……ぶっちゃけ、人間が力を持ち過ぎて、魔王軍壊滅した後、次々に残党狩りで行き場がなくなったもので、こうして僻地で自給自足して生活しているわけなんだなぁ」
視線を逸らせながらライガが答える。
「……なんで?」
いや、勇者が強かったのはよくわかるよ。けどあれから200年。普通の人間なら鬼籍に入ってるよね? まさか聖剣の効果でまだ生きてるわけ?!
と、思ったのだが幸いそれは杞憂であったらしい。
「そうですね~。勇者は120年ほど前に大往生しましたし、その際に聖剣も地上から消滅しました。いまの人間にはかつてのような魔力はほとんどありません」
と、ほわほわした口調で答えるエッレン。
「弱くなったわけ?」
「弱いですね~。個体としての能力は、200年前の一般的な戦士を平均50。勇者の一行たちを平均250とするなら、現在最高ランクの剣士でも60に届かないレベルですね~」
そんだけ弱体化して、なんで元魔王軍の重鎮がこんなところでコソコソ燻っているわけ?
そう視線で問いかけると、
「えーとですね~。100年ほど前に『異界科学』というものが提唱されまして、それをもとに魔力や神性力、精霊力を使わない、誰でも指先一つで魔物を殺せるような武器や鉄でできた馬よりも早い乗り物などができまして、それのせいで魔族はどんどんと狩り尽くされている状況です~」
「はあ!? なにそれ、魔力や神性力に依らないって……それで信仰とか大丈夫なわけ?!」
堕天使の私がいまさら言うのも烏滸がましいが、それって信仰の否定じゃないの!?
「そうですね~。『異界科学』では、神というのは概念上の存在であり、実在はしない空想上の産物とされています。そのせいか、ここ100年ほどはほとんど神の奇跡も起きませんし、神の使いである天使も姿を現さず……ぶっちゃけ、『神は死んだ』と公言されています」
「うえ!? うええええええええええええええええええっ!?!」
困惑しまくる私の態度を、さもありなんという眼差しで眺めていたリルが、さっきまでやっていた造花を作る部品を手に取って、
「最初は困惑しましたけれど、これはこれで充実した日常ですよ。これ内職の仕事なんですけど、これでも一日の食費くらいは賄えますし」
「そうそう。たまにしか食えないけど、最近は牛も豚も品種改良されて美味えんだ。人間なんぞもう食えないな」
ライガも同意して、
「新大陸で発見された、馬鈴薯っつーのがどこでも植えられるから、飢えることもそうそうねーしな。つーか、こうして土いじりしているのって、俺っちの天職なんじゃないかと最近では思えるしさー」
「ケケケッ。おめーはもともと土竜みてーなもんじゃねーカ」
マーニュが日焼けした腕を見せつければ、ヘテローが混ぜっ返す。
そんなほのぼのとした光景を前に、私は――
「お前ら、それでも最強を誇った『不死軍団』の軍団長か!? 神も魔王もいなくなった?! なら僥倖! 私が頂点に立ってやろうじゃないかっ!」
そう言い放って棺の上に雄々しく立ち上がった。
「「「「「え~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ」」」」」
それを支えるべき軍団長たちは、一斉に面倒臭そうなブーイングを飛ばしやがった。




