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宴の後に~それぞれの道へ~  作者: ミニトマト2
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出会いと切なさと

「それじゃ、今年も無事に皆で収穫祭を祝えることを祝して乾杯!!」


「「「「「乾杯――!」」」」


 一際大きな杯を掲げた元締めリュウメイの音頭を合図に、大勢の男たちが一斉に歓声を上げる。お互いに杯を打ち鳴らし合った彼らは待ちに待った今年の酒を思う存分、喉の奥に流し込んでいく。それと同時に給仕を担当する女たちも忙しく動き出して食堂は騒がしさを増していった。


「みんな相変わらずやかましいな……でも北の鍛冶師はこうでなくちゃな」


 そんな周囲のにぎやかさに一人感心している様子のリュウレイは近くの食台にあった料理を手に取る。この後は無礼講だが、厨房の様子を確認しつつ給仕の手伝いをするつもりでいる。まだまだほかの村の男たちの相手は義母のリュウメイに任せておいた方が何かと気楽なのだ。


 そんな彼女のもとに出来立ての料理を抱えた相棒のリュウフォンと妹分のカンショウがやってきた。


「リュウレイ、ここにいたんだ!」


「ああ、フォンにカンショウもこっちにいたか。少し腹ごしらえしたらリシン姐たちの手伝いをするつもりだったんだよ。こっちはずっと義母さんの付き添いだったからな」


 人々の中心で陽気に笑うリュウメイの方を指さして、リュウレイが肩をすくめる。鍛冶の名家たるリュウ家の人々は代々人から好かれるものが多く、その人望は周囲の村々にまで及んでいた。


 普段、ぶっきらぼうで知られるリュウレイもまた同年代や先輩の鍛冶師たちからは厚い信頼と人望を受ける存在ではあったが、それはリュウフォンやカンショウの想像の及ぶところではなかった。


 それは何より常日頃の彼女に接しているせいでもあるだろう。


「それにしても、今日は人が多いですよね。他の村の鍛冶師なんて私初めて見ましたよ」


 親方リコウやほかの先輩たちが普段あまり会うことの無い顔見知りの鍛冶師たちと楽しげに話す様子を目の当たりにしたカンショウが感慨深げにつぶやくのを聞いたリュウレイは思わず破顔する。


 それはかつてリュウ家の養子となり、この村で初めての収穫祭を経験したころの自分が抱いた感想と全く同じものだったからだ。


「そりゃそうだよ、カンショウだってふもとの町に納品するのについてきたことがあるだろう? 全部の村が順番で納品する時期をずらしているから、なかなかお目にかかる機会が少ないだけのことなのさ」


「そういうものなんですかねぇ……?」


 持ってきた料理を食台の上に置いたカンショウが振り返りながら首をかしげていると、そこに数人の若者たちがやってきて声をかける。


「おい、リュウレイ! うちの村の奴らを連れてきたぞ!」


「ああ、コウソクか。みんな元気そうで何よりだな!」


 五人ほどいる彼らは隣村の若衆でみんな跡取り息子ばかりであった。リュウレイが彼らと親しげに話しているその横で、あまり見慣れない彼らの登場に緊張したカンショウは思わず姉貴分のリュウフォンの後ろに隠れてしまった。


「あれれ? そんなに緊張してどうかしたの、カンショウ」


 同年代とあまり話した経験のないカンショウはこちらを見て、意地悪な笑みを浮かべるリュウフォンに何とも言えない表情を見せていた。かくいうリュウフォンも女の子以外はあまり自分の周囲に寄せ付けることはないのだが。


 今もリュウレイと話している若者のうち数人が魅惑的な体つきを白い長布一枚で隠す彼女の方をちらちらと盗み見ている。以前、リュウレイにそれをとがめられて拳による制裁を経験している彼らは表立って、直接何かをしようという度胸はない。


 もしリュウフォンを怒らせればどうなるのかは嫌というほど理解している。おまけに彼女たちはあの女傑リュウメイや姫長メイシャンの身内。そこに声望高い姉姫や領主まで絡んでくるとなれば、結果は想像するまでもなかった。


 ――リュウレイ姐さんたちの話、いつまで続くんだろう?


 いっそのことこのまま他の姉貴分リシンたちや厨房のリュウシュンの手伝いに戻ろうかとカンショウが考えていた矢先、もう一人の若者が先ほど別れたソンネイを伴い歩いてくるのが見えた。


「お――い、兄貴! 向こうで親父たちが呼んでるぜ!!」


「もうそんな時間か? 悪い、用事が出来た。俺たちはもう行くよ」


「ああ、またあとでな!」


 それを聞いたコウソクたちはリュウレイやソンネイ達に別れを告げて去っていく。それを見送ったリュウレイたちに向き直ったソンネイが笑顔を浮かべる。


「あいつら何か変なことしてない? 何かあったらすぐに私に言ってよね、すぐにとっちめてやるんだから!」


「今のところは特に何も。まあ、うちの大事な嫁と妹分をちらちら見てたのは大目に見てやるけどな」


「あいつらは女の子と見ればすぐにそれだ……、後で容赦しないんだからね!」


 少し怒った様子のソンネイにリュウレイとリュウフォンが声を上げて笑う。どこの村でも男たちより女たちの方が怖いのは同じらしい。そんな彼女たちのやり取りを見守っていた少年がソンネイに声をかける。


「なあ、ソンネイ。そろそろ俺も兄貴たちのところに行っていいか? 俺も呼ばれているみたいだし」


「ああ、そうだね。でもその前にこの子のこともカンショウに紹介しておくよ、こいつはコウソクの弟でコウソウ。うちの村の親父さんの次男坊なんだよ、年は十五でカンショウと一緒なのかな? まあ、仲良くしてやってよね」


 コウソウを後ろから後押しする形で、ソンネイがカンショウに笑顔を向けた。


「カ、カンショウです……。よろしく……」


 リュウフォンの後ろから顔だけ出して、あいさつするカンショウ。そんな彼女をリュウフォンはするりと背後に回って前に押し出す。


「お、俺はコウソウだよ、ソンネイから聞いたけどリュウレイみたいに鍛冶師を目指しているんだってな。俺も修行中なんだ、お互いに頑張ろうな」


「う、うん、そうだね……。私も頑張る……」


 なぜか顔を真っ赤にしてうつむくカンショウ、そんな彼女につられてコウソウも恥ずかしそうに視線を逸らしていた。


「さ、顔合わせはこれまでにしてそろそろ向こうに戻ろうか。お邪魔してごめんね、リュウレイにリュウフォン!」


「ああ、また暇な時に話そうぜ、ソンネイ!」


 先を急ぐソンネイに手を惹かれてコウソウも足早に去っていく。そんな彼女たちの後姿を高鳴る鼓動を抑えながらカンショウが見送っていた。


「それじゃ、私たちも厨房の方に顔を出してくるか。またシュンの奴にどやされるだろうけどな」


「それがいいね。じゃ行こうか、カンショウ」


「あ、はい! わかりました……」


 先を行くリュウレイたちの後に続くカンショウ、そんな彼女を遠くから見つめる一人の気高き女性の姿があった――。


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