第九話 おうちができた
完全ねこ視点です。100%です。
よろしくお願いします。
この森の拠点にケイと暮らし始めてから一週間ほど経っただろうか。
われはこの期間、実に有意義な時間を過ごせていた。
最初の方はケイが木と格闘していてあまりわれをかまいに来なかったので、これ幸いと寝床タワーで訓練したり、昼寝の心地を確かめたり、ふらふらと散策に出て拠点周辺の土地情報を頭に入れたりと、ケイが拠点に籠っておろそかにしている分の仕事をしていたわけだ。
拠点の周囲には小さな川がある以外は何の変哲もない豊かな森が広がっているばかりだったが、他にも発見があった。少し離れたところに一回り大きな木があり、そこを小動物が宿替わりにして集団で暮らしていたのだ。
ここはわれのいい狩場になるやもしれんと思い、少し様子をうかがってみると、鳥やリス、モモンガ、ウサギなど、実に多様な種類の動物がいた。
そこでわれは最初に一度実力を見せつけて、今後この近辺はわれの狩場になることを知らしめてやるのもよいと思い、あやつらの前に姿を現し警告してやることにした。
「みゃあお」
む、こら、なぜお前ら全員でこっちに来る、ちょ、待っ、われの話を聞け。おい、われはお前らと共に住みにきた新しい仲間ではないぞ、こら、友好的な挨拶はやめろ、くすぐったいではないか。むうう。
もふもふぽんぽんすりすりちくちくするなあああ!
「みゃああああ!」
はあ、はあ、いいか、お前らが油断しているようならわれは狩人としてその命をもらいに来るからな。覚悟しておけよ。
だが今日のところは見逃してやる。せいぜい今後は周囲に気を付けることだな。
そう言ってわれはこの辺りの探索をしばらく打ち止めにすることにした。
ケイは日中木を切ったり削ったり、小さな箱や大きな箱を作ったりとよくわからないことばかりしていたが、どうやら食事の用意は忘れていないようだ。
うむ、相変わらずうまいな。だがケイよ。ブラドが来た時に比べると品数やら気合に差があると思うのだが。いや、部下の献身にケチをつけるようなわれではない。これは文句ではないのだ。ただ、たまにはあの時のような豪華なものがあるとだな、われうれしいのだが。
そんな生活を送っていてふと気づいた。そう言えばここは安全なせいで、縄張りの主としての仕事があんまりない。もちろん日夜マーキングをしたり、われの気配を振りまくことで周囲の獣を牽制してはいるが、ふむ。
ということでわれはケイのために何か褒美を用意してやることにした。人間はよくわからないものに価値を見出すからな、何種類か珍しいものを見繕ってやればうれしくなるものが含まれているだろう。
少しずつとってきて渡すのもなんだから、ある程度溜まるまでは木の根元に穴を掘ってそこに隠しておくか。
ふふふ、あれから数日、いい感じに溜まって来たではないか。
む、そこにいるのは誰だ!
ケイだった。むう、渡す前に見つかってしまったか。まあよい。いずれ渡すものだったのだ。ちと目標数には届かなかったが、これがそちの日々の献身に対する褒美だ。受け取るがよい。
ケイを見つめそう声をかけながら褒美たちをポンポンしてみせる。ケイは驚きそれを自分にくれるのかと問うてきた気がしたので頷いてやると、とてもうれしそうな笑みを浮かべて『ありがとう』と言ってきた。
ふむ、なんだ、多分感謝されたのだろうが、その、こういった気持ちをぶつけられるのは悪いものではないな。うむ。そうだな、探索に出た帰りに狩りの成果や興味深いものをここに集めることを日課とすれのも良いかもしれん。
ケイが喜ぶようなものがあれば感謝される。われは日々の成長を実感できる。うむ、われながら良い計画だ。あと、われもたまには群れのボスとしてではなく、ただのわれとして素直に感謝の気持ちをぶつけてやるのもいいのかもな。
そんなことを感じつつ日々は過ぎて行った。
それからさらに一週間後、驚くべきことが起きた。
ある日探索から帰るとわれの拠点に、よくわからないが木を用いた大きなものが組み立てられていたのだ。
ふむ、どうやらあれはケイが作っているものか。だがたぶんあれで完成ではないだろう。
それがどう変わっていくのか見届けてやるか、などと思っていたら次の日、その木の上にさらに大きな木の箱が乗っかっていた。
あれほどの大きさのものをたった一日で作り上げるとは、人間は不思議な技を使うものだな。他にどんなことができるのか、聞いてみてわれが使えるものがあれば習ってやるのもよいかもしれん。
それはそうとあれはたしか家というやつだ。人間はわれと違い軟弱な生き物だから、強固な拠点がないと日々を安心して過ごせないと聞いたことがある。なるほど、たしかにあのサイズならきっと丈夫であろう。よし、ここはわれが一つ試してやるとするか。
ぺしぺし、ぼすん、ぼふぼふ。
うむ、われの拳や突進、しっぽ攻撃に十全に耐えるとはやるではないか。だが、この攻撃に耐えられるかな。受けて見よ、われの奥義の一つ、爪攻撃!
『こらこら、爪は立てちゃだめだぞ。せっかく作った新築なんだから。そうか、爪とぎ板は用意してなかったな。ちょっと待ってろ』
むう、せっかく爪でひっかいてやろうと思ったのに止められてしまった。そして何かを持ってきた。ん、なんだただの板きれではないか。
なに? これにむかって爪攻撃をしろと?
いいのか、その程度の板ではすぐにボロボロになってしまうぞ。
だがせっかく配下から求められたのだ。主の実力、しかと見よ!
「みゃああああ!」
がりがりがりがり。がりがりがりがり。
むおお! なんだこれは!
これまで木の幹や岩相手に試したのとは違う、気持ちいい感触。われの嗜虐心を満たすとともに爪がほどよく削れてより強く、鋭くなっているような気がする。
ケイよ、こんな良いものをどこに隠しておった。全く本当に油断できない男よな、お前は。これからもこういったわれの役に立ちそうなものを作るがいいぞ。あまり長く秘密にするのはだめだからな。
わかったか?
そう声をかけつつわれはケイが料理を作り終えるまでの間、ずっとがりがりを続けていた。
そして今日からは食事はこの家の中でとるらしい。そのためか家に入るときは手足を丹念に拭かれた。
なに、それは必須なのか? そんなことよりごはん。むう、いや、そんな、拭かなかったら食事抜きだなんて、約束が違うではないか、ぬう。
わかったわかった。ここはおとなしく従おうではないか。われが料理を任せたそなたからの要望だ。だが、われがひとりでも足を拭けるような布も用意しておくんだぞ。家に入るたびにお主の世話になるとか、われは過度な束縛はごめんだからな。
そんなひと悶着もあったが無事食事にありつくことができた。
食事の内容はこれまでも食べたことのあるものだったのに、家の中で食べる食事はまたちょっと違った、不思議な気持ちのするものだった。
さて食事も終わったことだし、寝床に行くか、と思ったらケイが声をかけてからわれを持ち上げた。
『ああ、タマ。とりあえず家の中にも寝床を作ってみたんだけど、試してみてくれないか?』
む、これはわれのための新たな寝床か。いや、しかし、われには既にあの寝床タワーが。
なに? どちらで寝ても構わない、と。なるほど。確かに雨が降っている時などは家の中に寝床があった方が便利かもな。
よろしい。ではこちらの寝床の寝心地も試してやろうではないか。
だが、われの審査は甘くないぞ。前のよりも寝心地が悪かったら明日の朝顔をひっかいてやるからな。
そうしてわれは眠りについた。うむ、ごくらくごくらく。
一人称の文ってこれまでいくつか小説もどきを書いてきな中で初めての試みなんですけど、三人称とはまた違う難しさがありますね。
今日もあと何話かかけると思うので、よろしければ夜にでも確認していただけると幸いです。
お読みいただきありがとうございました。