第八話 宴の終わり
人間視点だけです。会話多かったのでやむを得ずです。残念。
それではよろしくお願いします。
猫が竜王の頭の上に乗って帰って来たのにはびっくりしたが、特に問題なく食事は始まった。…あの猫って水は怖いのに竜王は怖くないんだな。
猫は朝の肉への夢中っぷりが嘘のように、竜王が食べ始めるまで行儀よく待っていた。かなりせかしている感は否めなかったが。この猫は常識があるのかないのかわからんな。いや、人間の常識は知るわけないか。多分俺とは異なる常識を持つのだろう。
そして俺の料理が竜王の口に合うか不安だったが、問題なかったようである。
「おお、うまい、うまいぞ!
やっぱり料理は人族が最高だな!
だがこれまで食べた中でもこれは一番の味だ!」
竜王大絶賛である。
ちなみに作ったのはハンバーグ、から揚げ、シチューなど、この世界でだいたい再現可能だった元の世界の料理である。多分日本だったら所詮大学生の男料理のため味は良くてそこそこだろう。でもこうして喜んでもらえるとうれしいな。
あ、俺は異世界料理とか作れないぞ。特に習ってないし。なので作り慣れている料理の方が楽なのと、異世界料理の方が新鮮味があって喜ばれると思ったが故のチョイスをしたわけだが、正解だったようだ。
「口に合ったようで良かったよ。俺の故郷の料理なんだ。
いくらでも、とは言えないけど、とりあえずここにある分は遠慮せず食べてくれ」
「ああ、遠慮なくいかせてもらおう」
それから料理の材料や方法についての質問に答えつつ、なごやかに食事は進んでいった。
「ふー。食べた食べた。久しぶりに料理を満喫できたぜ。
ごちそうさまでした、で良かったか?」
「ああ、お粗末様でした。
俺もこれだけうまそうに食べてもらえて嬉しかったよ。
あ、そうだ。竜王って名前はあるの? おれはケイっていうんだけど」
「そういえば自己紹介を忘れていたな。
では改めて。ここ、通称竜王の森の主である、竜王のブラドだ。
ぶっちゃけ堅苦しいのは苦手なんでな。これからも自然体で頼むな、ケイ」
「了解、ブラド。
こちらこそ、この森で世話になる。これからよろしくな」
俺、なんで竜王を名前呼び捨てで呼んでるんだろう。多分誰も信じてくれないだろうなあ。あ、話す人がいなかったわ。はっはっは。
「ところでブラドってなんでこんな親しみやすいいいやつなのに、あんなに恐れられているんだ?」
そう訊ねるとブラドはちょっと苦笑しながら答えてくれた。
「話せば長くなるんだけどな。
俺は基本的に知性を持った存在が森に入ってきたら、様子をうかがった後直に会って話しかけることにしているんだ。
それでな、獣や魔物なんかはビビって俺の言う通り無駄に争うなってのを守ってくれてるんだが、人族や獣人、ついでに魔族もだが、ひっくるめて人間のやつらは俺が目の前に現れると大体即攻撃してくるんだよ。それでこっちも反撃にブレスを放つんだ。
中には攻撃しないやつもいるが、それでも逃げ出すか頭を地面にめり込ます勢いで土下座してくるか失神するか、って感じでまともに話せたことはほとんどないんだよな。
ああ、もちろん森に入ってからの行動がひどい奴は問答無用でブレスぶっ放してるぞ。
まあそういったことが繰り返されたせいか、森で悪さすると俺にブレスされるって話が広まったわけだ。
だからケイが落ち着いて話してくれた時はうれしかったぞ」
「いくつか気になる点があったがまあ今はいいか。
だけど俺が落ち着けたのは、ブラドが待ってくれたのと、あとは猫のおかげだな。
なあ、猫がなんて言ってたのか気になるんだが、教えてもらえるか?」
「ああ、いいぞ。あれは傑作だったな。長く生きてきたがこの猫みたいなやつには初めて会ったな。
こいつはどうやら俺の存在を知ってたらしいんだが、俺が目の前に表れてもただなるほどって顔をして普通に挨拶してきたんだよ。あくまでも対等な関係でな」
「それはすごいな。こんだけ広い森を統治してる存在と自分が対等って思ってるってことだろ?」
「多分この猫は、自分の立ち位置をかなり上に設定しているんだろうな。それこそ自分の上には神しかいないくらいに思っていそうだ。
それでこいつはこの森のルールを知らなかったみたいだが、自分の肌で理解したことが真実であると確信しているかのように話しかけてきたんだ。しかもそれが当たってるときた。まあこの森はかなり不自然だからわかるやつにはわかるだろうけど、あそこまで自信たっぷりに断言されたのは初めてだったな」
俺は呆れた顔をした。同時に思う。この猫、やはりかわいいだけじゃないな、と。
「そんな態度からちょっと傲岸不遜なやつなのかとも思ったんだが、不思議となにかを見下している感じではなかったんだ。逆に全てが対等なうえで、それでも自分がその上に立つ存在だと思ってるって感じかな」
「こいつすげえ価値観もってるんだなあ。だが嫌いじゃないな」
「でまあ悪い奴ではないって思えたんでな、あっけにとられて何も言えないのをごまかしつつケイの方を見たんだ」
「あれは怖かったな。ちびらなくて良かったと思ってるよ」
「ひでえな。あの姿の俺、カッコいいだろ?
そんでケイがビビってるのはまあ俺もわかったんでどうしようかと思ってたら、またこいつが話しかけてきたのさ。まるで、やれやれしょうがない、って感じでさ」
「あ、やっぱそんな感じだったんだ」
「しかもその内容がさ、こいつは人族の勇者だ、昨日の夜出会ったばかりだけど悪い奴じゃないから大丈夫、こっちで見張っておくから森の安全は保障する、ってな感じでさ。
まずなんで猫が昨日会った人族の情報を把握してるんだ、とか、なんで明らかに弱い猫のお前が見張るとか自信満々に言えるんだ、とか色々疑問に思ったんだけどな。
とりあえず本人に聞けばわかると思ってケイに確認していくことにしたんだ」
「なんで猫は俺が勇者だと思ったんだろうな」
「さすがにそれはわからないな。だが大体内容は合っていたのが恐ろしいな。もしかしたら本質を見抜く力でも持っているのかもしれん」
「猫に確認とかってできる?」
「この際だから聞いてみるか」
ということでブラドが食べ終わって満足そうに丸くなっている猫に話しかけた。
残念なことに話している内容はわからない。別にブラドは猫みたいに鳴いているわけではないんだよな。あれか、魔法的な何かか。多分一度に一種族という制限はあるが、どんな種族とも対話できるとかそんなあれだろうな。
「どうやらこいつはケイが無断で自分の縄張りに入って来たから排除しようとしたが、あまりにも強いから勇者だと思ったらしいぞ。それとご飯をくれたから自分に服従したいと思ったらしい。すでにこいつの中ではお前は配下扱いだ。
それで配下の面倒は自分で見るってことで俺にビビってるケイをかばってやったんだとさ。」
「え、俺が配下なの?
ていうかかばわれたと思ったのはやっぱり気のせいじゃなかったのか。
それとあの後何度かこの猫と戯れたけど、こいつの力で倒せる人間なんてほとんどいないんじゃないか?」
「多分初めて攻撃した人間がケイだったのだろう。そしてこいつは自己評価やプライドだけは高いようだからな。自分の攻撃に耐える=自分と同等以上=そんなの勇者やドラゴンレベルしかいない、って感じか」
あれ? なんだろう、この猫の導き出す結論って道筋がいろいろ無茶苦茶なのに答えだけは合ってる。自分の思い込みをここまで正当化できてなおかつその結果だけは正しいって逆にすげえな。
「なんか理解できたよ。通訳ありがとう。
それで、この猫には名前はないのか?」
「自分は唯一無二の絶対的な存在であるから、侮辱するようなものでないのならなんと呼ばれても気にしないらしい」
「なんだそれ。ほんとに自分をいい意味で神聖視してるな。
よし、じゃあ俺がツァルマータと名付けよう。呼びやすいように通称はタマだな」
「ツァルマータか。何か意味はあるのか?」
「故郷の言葉で“頂き”って意味だ」
嘘です。即興の造語です。猫はタマって思っただけです。
「ほう、なかなか良い名前だな。猫もそれでいいそうだ」
「これからよろしくな、タマ!」
俺が名前で呼んでやると、タマはみゃーと応えてくれた。やはりかわいい。
「それじゃあ今日はこれで帰るとするわ。
その内また来るから、食材の確保は忘れずにしておいてくれよ。ここは食材の宝庫だから多分問題はないだろう」
「了解。手持ちの食材はまだしばらく保つけど、俺も森の食材は楽しみだからな。色々採って試してみるよ」
「期待している。
それではまたな」
「ああ、じゃあな」
こうして今日という日は無事に終わった。
なんか凄い濃かったな。
いろいろあってブラドに聞き忘れたことがたくさんあったが、また来た時にでも聞けばいいか。
んん、今日はそろそろ寝るとしよう。
また明日からがんばろう。
タマも猫タワーを寝床として認識してくれてるみたいだし、よかったよかった。
それじゃあお疲れさまでした、だな。
猫が、猫成分が足りない…。次回から猫成分増加計画を実施予定です。
なんか竜王のおっさんとケイの喋り方が似てるので何とか差別化したいんですけど難しいですね。
大量のキャラを書き分けるプロや先輩の方々の凄さを実感しました。
次回からは時間の進行速度が飛躍的に上昇します。多分数話で半年くらい、の予定です。
良ければ次話以降もよろしくお願いいたします。
お読みいただきありがとうございました。