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もふぽて  作者: しーにゃ
第一章
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第六話 お出迎えの前の時間

「ふにゃん?」


 われは自分が気を失っていたことに気付くと、すぐさま起き上がり当たりの様子を確認した。

 人間がなにやらやっているが、どうやら危険はないようだ。


 われは何があったか思い出そうとするが、なにか嫌な、でも気持ちいいことがあったような、だめだ、思い出せん。

 ひとまず人間に抗議しようと歩み寄ると、視界の端に木の桶が映った。

 その瞬間、われは全てを思い出した。


 思い出すもおぞましい水責めだった。

 こちらの意思に関係なく体の隅から隅まで洗われてしまった。

 途中から力をふり絞り情けない姿を見せまいと気丈に振舞っていたが、あれはきつかった。われでなければ耐えられなかっただろう。


 しかしその後に乾かされたときはびっくりした。布で水を拭われたと思ったら、人間は面妖な技でどこからともなく温い風を当ててきたのだ。

 最初は驚いたもののその温かさは意外に悪くなく、おとなしく乾かされてやったものだ。

 あれのためならまた洗われるのも悪くはないかもな。


 そして乾かされた後改めて自分の毛並みを確かめてみると、いつも以上に良い状態に仕上がっていた。いつもが100点なら、これは150点はいくだろう出来だ。

 なるほど、あの人間はわれの秘めたる魅力にいち早く気付き、よりふさわしい姿にするためにあんなことをしたのだな。

 あの気持ち悪い笑みと無断で強行したことは褒められる行為ではなかったが、われのためを思ったが故の行動だ、許してやろう。だが次からはきちんと一言かけてからにするよう言っておかんとな。いくらわれでも水責めに対しては心の準備が必要だからな。


 そしてそんなことを考えていたらあやつは急にわれに襲い掛かったのだ。まさかここまできてわれに攻撃することはないだろうと思っていたが、われは自分の甘さを痛感した。

 この世にまさかあのような攻撃が存在するとは。

 われの体を執拗に撫でくりまわし、的確に弱点を突いてくる。それでいて毛を無理に逆立てるようなことはせず、痛みを与えない強さで全身をもみしだく。

 なんと気持ちが良いことか。やばい、あれは癖になってしまう。


 これまであそこまで高等な技術を用いた攻撃はされたことがなかったゆえ、不覚にも気を失ってしまったようだな。

 ちっ、まさか人間の勇者があれほどの実力を隠していたとは。世の中もなかなか侮れんものだ。

 しかし、次こそは負けんぞ。われはいつでも挑戦を受け付けている。だから早いうちにまたあの攻撃をする準備をしておくことだな。

 

 われは一瞬のうちにそう考え、人間に伝えようと近寄ってみることにした。

 ん? なんだ、あやつ、肉を切ったり粉をかけたり、草や根を切ったりと、珍妙なことをしている。そうか、あれが料理か。

 料理というものが旨いものを作る作業だとは知っていたが、このような作業をしていたのだな。今宵竜王のやつが料理を食べにくると言っていたから、その準備だろう。

 なかなか真剣にやっておるようだな。朝のあやつの用意したものでも十分に旨かったが、竜王に下手なものを食べさせるわけにはいかんとでも考えているのだろう。うむ、旨いものを作るためだ、邪魔はしないでおこう。だがわれの分も忘れるでないぞ。


 さて、そうなるとちと暇になるな。夜の食事は狩りに出ずとも人間が用意するだろうしな。

 ちょうどよい、ちょっと拠点の見張りでもしてくるか。


 そう思い少しばかり歩いてみると、木が不自然に切り倒されているのを見つける。

 敵襲があったか? いや、これはおそらく獣ではなく人間の手によるもの。そしてここにあの人間以外の匂いはしない。ということは、あの人間がやったと考えるのが妥当だろう。どうやら先程の人間の近くにあった木の台を作るためにやったのだろう。人間は道具が好きだからな。


 ふむふむと頷きながらその周辺を歩いていると、珍妙なものがそびえ立っているのに気付いた。

 低いところは四角い空間ができており、その上には木の枝がゴテゴテとくっついている。なんらかの儀式用の祭具か何かか?


 近づいて調べてみると、最下部はどうやら木にできた穴のような構造のようだ。床にはよくわからない魔物の毛皮が敷いてある。

 ちょっと中に入ってみる。


 ふおお! なんかいい感じだぞ!


 適度に狭く、不快さを感じられない空間がここにはあった。

 いつまでもここで寝たくなってしまうような、そんな危うい魅力がここには潜んでいる。


 なんだ、なぜ人間はこのようなものをつくったのだ。

 人間の思惑を計りかねながらも、強烈な誘惑を必死に振り払い一度穴から出ることにした。

 ふう、危なかった。もしやわれを閉じ込めるための罠か?


 次は穴の上にあるよくわからない木の枝の塔だ。

 見ていてもわからないのでとりあえず登ってみることにする。

 よっ、ほっ。ふん、この程度の道など、われの障害にもならぬ。


 そう思いつつも登っていると途中に一休みできるスペースがあった。

 ほう、ここもなかなか悪くない場所ではないか。地面の上とも、木の上とも違う不思議な感覚だが、悪くない。


 更に登ってみる。

 う~む、人間のサイズから考えると、これは何のための道具なのかほんとうにわからんな。

 頂上に着き、ここでも横になるのにちょうどよい範囲の空間が広がっていることがわかったので、とりあえず横になってみる。


 うむ、先程とはまた違った感じで、ここも悪くない。一番下の穴といい、ここはまるでわれのために誂えられた場所のようだ。

 はっ、いや、まさか、そういうことなのか?


 ふふふ、なるほど。あやつもなかなか味なまねをしてくれるではないか。


 われはここがあの人間がわれのために用意した寝床なのだと気付いた。

 奉公精神溢れるやつだと思っていたが、これは予想以上だった。

 われの想像をこうも容易く何度も越えられてしまうと、まだまだわれも修行不足だと痛感してしまうな。


 だが、おもしろい。

 こうでなければ、われが旅に出た甲斐もないというもの。

 これからもますます牙を磨いていかねばな。

 どれ、まずはこの寝床をわれの支配下に治めるために、人間の用意した仕組みをとことん味わい尽くしてやる!


「みゃおおおおおおおん!」



*****



 猫はやっと起きたと思ったら、一度こちらに来た後何かを察したかのように出掛けて行った。あっちは猫タワーのある方向だ。気に入ってくれるかな。

 でもほんとにあの猫はよくわからないな。見た目とか仕種は普通の猫だから、朝みたいに肉を見たらすぐに跳びついてくるかと思いきや、俺が料理しているのを確認して邪魔しないように気を遣った気がする。

 もしかしたらものすごく頭がいいのかもしれない。一瞬肉に目が釘付けだったけどな。


 まあそんなわけで猫にも気を遣われてしまったことだし、料理の準備を進めちゃいますか。いやー、勇者たちの荷物持ちをしていたのって辛いと思ってたけど、今では逆にラッキーだったって思えてくるな。なんせお高い香辛料とか食材が今使い放題なんだから。ていうかあいつらが旅を続けられるのか気になってきた。まあ俺が考えることじゃないか。


 そんなこんなで料理の準備は終わった。

 よし、これでドラゴンをもてなすには十分だろう。多分。余ったら亜空間に入れとけばいいや。足りなかったときはすぐ作ろう。

 あとは猫用に薄味で食べられそうなものも用意しておくか。あの猫が人間と同じものでも大丈夫かどうかまだわからないからな。ドラゴンなら大丈夫だろ。生活習慣病のドラゴンとか想像できないし。


 猫はどうやら猫タワーに気付いて楽しんでいるようだ。

 さっきちょろっと様子を見に行ったらタワーを昇り降りしてはしゃいでいるのが見られた。まじかわいかった。

 少し心配だったけど、気に入ってくれたようでなによりだ。


 さて、猫用の食事の用意が終わったらどうするかな。一度これからの生活についてじっくり考えてみたいけど、これからドラゴンと夕飯食べてちゃんと話をしておくのが先だろうな。もしかしたらたまにラノベに出てくる困ったときの助っ人的な立場になってくれるかもしれないし。


 いずれこっそり街に買い物しに行くときに乗せて行ってくれたりしないかなーなんて、竜王とか呼ばれてるドラゴンに馴れ馴れし過ぎるかな。でもなんか最後のファンキーな口調を聞いちゃうと、一度打ち解けちゃえばいけなくもない気がするんだよな。


 とにかくドラゴンとどんな話をするかわからないけど、設問回答を予習しておくか。


 そうして考え事をしてたらドラゴンがやってきたのに気付く。

 さあ、ここが正念場だ!

 俺は気合を入れてドラゴンを出迎えた。


そういえば猫の小屋って猫小屋でいいんですかね? 猫ハウス?

犬小屋、鳥小屋、兎小屋とかは耳なじみがありますが…。まあいいか。


お読みいただきありがとうございました。

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