第十四話 新たなもふもふ
新たなもふもふ登場です。
少し肌寒くなり、森の木々の色が…特に変わらない今日この頃。
われは探索中に白くて赤い変なものを見つけた。
近づいてみるとそれは血で汚れた白い狼の子供のようだ。
拠点の近くで少し前に大きな魔物が暴れたばかりらしく、他の動物が警戒する中勇敢にもわれは確認に行くことを決めた。現場は木が倒れたり土が捲れたりと少し荒れており、その時にできたであろう小さな穴の中に、こやつがいたのだ。
まだ生きている若い命が失われるのを見過ごすのもなんなので、とりあえず連れて帰って来た。後はケイに任せる。
拠点まで狼の子供を咥えて戻り、処置はケイに任せた後われはブラドにそう説明した。
ブラドいわく、その現場は腹を空かせた飛行型の魔物がやってきたところに運悪く出くわしてしまったやつが抵抗のために暴れたせいとのこと。ちなみにその飛んできたバカはすでに返り討ちされて残らず腹の中であるとも言っていた。
なのであの狼は現場とは無関係の場所で傷つき、たまたまそこに逃げただけのようだ。
そんなことを話しているとケイは処置が終わったのか、こちらにやってきた。
「タマ、この子を助けてくれてありがとな。
早く見つけてくれたおかげで傷もすぐにポーションでふさげたみたいだ」
相変わらずケイの話している内容はわからないが、雰囲気や仕種で何を伝えたいかは大分わかるようになってきた。どうやら狼が無事だったことと、われの偉大さを誉めているのだろう。うむ、存分に褒め称えよ。
その後夕食を食べていると、狼が目を覚ましたようだ。周りをきょろきょろと見渡しながら警戒している。うむ、腑抜けた輩ではないようだな。
どれ、ここはひとつわれが説明をしてやろう。
「みゃああ。みゃあ、みゃああ? ふみゃあお」
すると狼はあろうことかわれに向かってとびかかってきた。
だがおとなしく襲われるわれではない、手負いの童の攻撃など、いともたやすく避けて、避け、むう、しつこいぞ、このっ。
われが必死に攻撃を避けていると、われとあやつをケイがひょいっと持ち上げた。
仲裁してくれたのには感謝するが、われまで持ち上げる必要はなかったのではないか? 最近ケイのやつがこれまで以上にわれをなめている気がする。
まあよい、ここは話ができるブラドとお節介なケイにまかせてわれは夕食の続きでもいただくとするか。
あれからブラドに説明されて状況を理解したのか。狼はおとなしくなった。今はおとなしく一緒に夕飯を食べている。
話を聞くに、ある程度育ったから親に旅に出ろと放り出されたらしい。そしてあてもなくさまよっているうちに、腹が減って狩りをしようとしたら返り討ちにあった、と。
ふむ、要するにこの狼は負け犬だったということだな。
だがわれはこやつを見下したりはせん。誰でも弱いときはある。そこを乗り越えられるかどうかが大事なのだ。乗り越え方にも色々ある。ここがあやつの正念場だな。
そんなことを考えつつ夕飯を終えると、ケイがわれに話かけてきた。
「あのさ、タマ。この子どうやら行く当てが無いらしいんだ。
それともうすぐ冬がやってきて、これからますます生きていくのが大変になる。
それで、この子の希望としてはここで一緒に住みたいらしいんだけど、どうかな?」
そんな内容らしい。だがわざわざケイが話した後にブラドが通訳するのは二度手間ではないか? なに? 様式美? それならしょうがあるまい。
まあわれとしては異存はない。だれがどこに住むか、それを決めるのは自分自身だ。ただ、そこに住む条件を決めるのが自分ではないだけでな。
ただし、一つだけ条件がある。われに敬意を払うことだ。
そうブラドに伝えるとケイはホッとしたような顔を見せた。だがわれにはわかる。あれは自分が愛でる対象が増えたのに喜んでいる顔だと。
まあ、これでケイがわれにかまう頻度が減るのであればむしろ喜ぶべきであろう。ただし、ブラッシングだけはきちんと毎日してもらうがな。
そうして話がついたと思ったのだが、狼がわれの前に立ちふさがってきた。
くぅ~ん。わう、わぅん?
うむ、何を言っているかさっぱりわからん。
だが、察するに「この度はありがとうございました。私が助かったのもあなた様のおかげです。これから以後あなた様の拠点に住まわせてもらうことになりますがよろしくお願いします。もしよろしければ時間のある時でかまいませんので私を鍛えてはもらえませんでしょうか?」とでも言っているのであろう。
その程度であればわれもかまわん。こやつも強くなる必要を感じ、助けたわれに教えを乞おうと思ったのだろう。
ということでわれはゆっくりと頷き、寝床に戻って休むことにした。
*****
タマが戻ってきたと思ったら、血まみれの白い子犬を咥えて引きずっているのに気付いた。
一瞬タマが仕留めた戦利品かと思ったが、あのタマがそんなことをすると思わないし、できるとも思えないので、あれはどこかで見つけて拾ってきたのだろう。
すぐに旅時代の産物のポーションを取り出し治療を始めた。
幸い傷は深くなく、時間もそんなに経っていなかったようで安物のポーションでもすぐに傷が塞がってくれた。
だが失った体力はすぐに戻らないため、まだすやすやと眠っている。ひとまず汚れは落としておくか。
そして無事処置を終えてタマにお礼を言うと、満足そうに頷いてくれた。タマはなんだかんだ優しいよな。後でご褒美のブラッシングをしてあげよう。
そして夕食を食べていると、どうやら子犬が目を覚ましたようだ。
ちなみにブラドいわく犬ではなくナイトメアデスホーリーヘルハウンドとかいうこれまた痛い種族名だったので、俺はそのまま犬と呼ぶことを決めている。
警戒しているようなのでこちらも不用意に近づかないように様子をうかがっていると、タマが近寄ってなにやら話し出した。どうやら状況説明をしてくれるらしい。
でも言葉が通じてないのか、子犬は途中でタマに襲い掛かった。さすがに20cmくらいの子犬には負けないと思ったのでここはちょっと成長した32cmのタマに任せようと思ったのだが、タマが反撃をしないのをいいことにしつこくタマを追っかけている。
ぶっちゃけ子犬と子猫のじゃれあいにしか見えないが、あれで両者真剣なのだろうと思うと早く仲裁してあげるべきなので、すたすた近寄って首根っこひっつかんで止めてあげた。ついでにタマも持ち上げたのだが、何やら非難の眼差しを感じる。
だが俺はやめない。タマがかわいいのが悪いのだ。
俺が持ち上げたままブラドが説明をすると、子犬はどうやら無事理解してくれたようだ。少し震えているが、多分ブラドが竜王だと気付いたのだろう。
そして一緒に夕食を食べつつ、これまでの経緯やこれからの展望を聞いてみた。親に放り出されたとか、タマといいこの子といい、この世界の魔物の親は獅子ばかりなのかな?
それで今後については迷惑にならないようなら冬の間だけでもここに住まわせてほしいと言っているので、俺はだったら自由に居ればいい、できればずっとここに居てくれていい、と言ってやった。
これはただの善意だ。俺のもふもふ欲なんて10割しか含まれていない。
でも一応タマにも了承を得たら、ということになり、夕食後訊ねてみるとタマは即決で頷いてくれた。ブラドいわく条件も特にないらしい。
さすがタマ、太っ腹! 最近ちょっとお肉がついてきたことは黙っててやるからな!
子犬の方もホッとした顔をしてタマにお礼を言いに行ったようだ。タマは一度だけ頷いて寝床に戻った。
あれ? この子の言うことはタマはわかるのかな?
「いや、わからないはずだ。だが『先程はすいませんでした。助けてくれてありがとう。本当に住んでいいの?』という内容に対し頷いただけだから、特に問題はないんじゃないか?
おそらく何か勘違いをしているはずだけど、いつもどおりだろ」
とブラドは言っている。確かにその通りだ。
「なら大丈夫だな。
それじゃあこの子の名前を考えないとな。白い犬、白い犬…。シロ、は安直過ぎか?
うん、じゃあ、ヴィムオーラ、通称ヴィムにしよう。」
「いいんじゃないか? やっぱり何か意味はあるのか?」
「故郷の言葉で“清く正しい”って意味だ」
うん、嘘です。ヴィムって響きが浮かんだだけです。
「それは良い名だな。
こいつもありがとう、その名に恥じぬようがんばるって言ってるぞ」
「そっか、良かった。これからよろしくな、ヴィム!」
「うぉん!」
こうして俺たちの家に新しい仲間が増えた。
これからの生活が更に楽しくなりそうだ!
主にもふもふ的な意味で!
名前を決めるのは大変ですね。今回はスルッと出てきてホッとしました。
ちなみにもふもふの本名はなんとなく無意味なオリジナル名で行こうと決めてます。
一応ググってから決定してますが、無意味ってマジメに考えると意外と難しいです。
人名は適当です。当たり障りない感じで。竜王は黒い竜だからです。
お読みいただきありがとうございました。