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もふぽて  作者: しーにゃ
第二章
120/121

第20話 もぐら叩きっぽいなにか

 雪がずっしりと積もり続ける今日この頃、ケイからてるてる坊主なるものを教わったわれは、フレイから大きな布をもらってミリアたちと一緒に作っていた。教えられた通り大きな布で頭を覆い、首元をひもで軽く絞めて、前が見えるように目の部分に穴を開ける。


 ふむ、異世界の雨乞いならぬ晴れ乞いの儀式とは変わっているな。まあミリアや他の配下たちにはてるてる坊主姿が好評だったので良しとしよう。


 そんな感じで今年も冬を迎えたわれたちだった。



 てるてる坊主姿が意外と暖かかったのでそのまま修行もしようと思ったのだが、布のせいで手足がうまく動かせないし視界が狭まってしまうので、残念ながら普通に修行を行うことにした。


 外は雪がもっさりと積もっていて動きにくいが、毎年のことなのでもう慣れてしまった。たまに穴掘りの代わりに雪を掘っているやつらがいるのだが、これが入ってみると意外に温かい。そう言えばかまくらも下に掘るのではなく上に雪を積んで作るが、中は温かかったな。


 エイネなんかはビーバーの本能的に巣作りができて楽しいのか、気軽にあっちこっちに一人用の巣を雪で作っている。知らなかったがどうやらこれまでも森の中で作っていたらしい。


 そんなエイネの作った巣の中にちょこんと座り休憩を取りつつ今日も今日とて修行を続ける、と言いたい所だったが、今日はケイ考案の遊びを行うことになった。もぐら叩きという遊びらしい。


 その名を聞いて顔色を青くしたもぐらを宥めつつ、ケイは説明を始めた。どうやら穴をたくさん掘って、そこに何人かが隠れて時々頭を出し、挑戦者はその頭を叩く、という遊びのようだ。もぐらに対して思う所があるなら叩くよりも捕まえた方がいいのではと思ったが、様式美というやつらしい。


 本来は地面に穴を掘る方がもぐらっぽくていいらしいのだが、それでは汚れるので今回は代わりに雪を掘るようだ。まあ多分今日思い出したから適当に言っているだけだろうな。


 われは憶病に隠れ潜むより狩人らしく叩く側に回りたかったのだが、多数決という人間の生み出した理不尽な数の暴力によって叩かれる側になってしまった。


 今回のルールでは、挑戦者は一人ずつ、持ち時間は一分。隠れる側は五人、十秒以上潜り続けてはダメ、ということになった。挑戦者が五人終わった時点で最も叩かれなかったもの、最も多く叩いたものには景品が与えられる。それをメンバーを入れ替えつつ繰り返すらしい。


 早速とばかりにムササビが挑戦者として即席の巣穴の中心で構える。われたち隠れる側が雪穴に潜ったら勝負開始だ。


 われはいくつもの出口とつながった巣穴をこそこそと進んで、そろ~っと顔を出す。何度か叩かれるのは覚悟して、相手の行動パターンを読むことにしたのだ。


 しかし顔を出してきょろきょろと見渡すも、先程まで中央にいたムササビの姿が見当たらない。おかしいと思い首をひねっていると、急に上から叩かれた。


 思わぬ衝撃に驚きつつもさっと頭を引っ込めた所で気付いた。ムササビのやつ、空に飛び上がっていたのだな。これは予想していなかった。だが、それさえわかってしまえばこっちのもの。次からは上にも注意することにしよう。


 その後は更に二度叩かれることになったが、一度目の成績としては三位ということでまずまずの結果となった。五位のたぬきは七度叩かれたらしい。ふむ、この調子でがんばるとするか。


 次の挑戦者はシマヘビ。クリーム色の体に黒い線が頭から尾に向かって何本かある、まあ普通の蛇っぽいやつだな。普通の蛇は冬は冬眠するやつもいるらしいのだが、この森では冬も寒くならない場所が多々あるからか、こやつは寒くてもぴんぴんしている。いや、魔物ならさもありなん、か。


 ということで始まった二回戦、シマヘビは先程のムササビとは逆で雪の上を這うようにして移動するので動きが読みづらい。しなるような動きで三度叩かれたところで終了した。今度は四位か。うむむむむ。


 次はアカギツネが相手だ。白っぽい狐と違って、毛の色はわれに近い明るい茶で、手足や耳、尾の先が黒く、腹側は白い。ミナがお気に入りのどこか保護者っぽい狐とは性格がまるで異なり、昼寝といたずらが大好きなやつだ。


 勝負の前にわれをじっと見つめていた気がするが、何かする気だろうか。そこはかとなく警戒を強めつつ、勝負は始まった。


 結果、われは一分の間に八度も叩かれ見事五位を獲得した。いやいや、おかしいだろう。最初の対戦で勝負のやり方がわからなかったたぬきのやつがぼーっとしていて七度叩かれたのはまだ理解できるが、なぜわれだけこんなに叩かれているのだ。他のやつは多くても二度しか叩かれていないのに。


 われが審判のケイにぷんすかと抗議するも、ケイは首を横に振るだけだった。アカギツネのやつは兎たちなどのいたずら仲間とハイタッチをして喜んでいる。


 ぐぬぬぬぬ。今度油揚げが食卓に上がったらとっておいて、おぬしの前でうまそうに食べてやるからな。覚えておけよ。


 四人目の相手はオコジョだ。夏は茶色、冬は白色の毛並みになる変わったやつだな。こやつもいたずら好きなので用心に用心を重ねることにしよう。そう決意したわれだったのだが、しかし勝負が始まるとわれの予想をはるかに上回る事態に陥った。


 試合開始早々、ひょこっと顔を出したわれの後ろでずしゃっと音が鳴った。驚いて振り向くと、穴が雪で埋まってしまっている。焦って上から他の穴に移動しようとするわれに、オコジョの魔の手が忍び寄る。


 てしてしてしてしてしてしてしてし。


 われは隠れることもできず、ひたすら両手で叩かれるのであった。


「そこまで。今回は叩かれたのはタマだけだな。回数は二十四回」


 そう告げるケイに向かって、われは猛抗議した。だが穴が埋まったのは事故であり、運が悪かったのだ、諦めろ、とすげなくあしらわれる。


 おい、それはおかしいだろう。しっかり背後に気配を感じたし、隠れる側のシマリスと攻撃側のオコジョが今まさに喜びを分かち合っているではないか。これは明らかな不正行為だ。


 笑っている二人のいる方をしっぽで示して反論するも、ケイは取り合わない。もしやこやつ、買収されているな? 報酬はもふもふといった所か。ぐ、このままではまずい。


 われはなんとかもし次回も穴が塞がったらノーゲームでやり直し、というルールを追加させて引き下がることにした。幸い次の相手はどちらかというと温和なクモが相手だから、先の二戦のようなことにはならないだろうが、念のためだ。


 そう保険を用意したつもりのわれだったが、われの想定は甘かったしか言いようがなかった。


 最終戦のクモとの勝負。穴から顔を出したわれを待っていたのは粘つく糸。細いのに強靭な糸はわれの動きを見事に封じ、われの頭はクモの空いた六本の手によってとすとすと叩かれたのだった。


「しゅーりょー。今回もタマだけだったな。回数は六十八回。さすが、クモは捕まえるのがうまいな」


「ふにゃあああぁあぁあああ!!」


 さすがのわれも怒りが頂点に達して叫んだが、糸に絡み取られた体ではろくに抵抗できず、逆に袋叩きにされるのだった。


 最終的に苦笑したミリアのとりなしによってわれは解放された。攻撃はぽすぽすと弱いものだったが、縛られて一方的に攻撃されたのにはとても腹が立った。なのでわれは広場の隅っこのエイネが作った巣に引き籠り、ネルの甲斐甲斐しい世話を受けつつその後も続いたもぐら叩きを只々観戦するのだった。


 くそう。われが抜けた途端穴が塞がったらやり直し、相手の行動を縛るような行為は反則、というルールを追加するとは卑怯な。それにミリアが挑戦したとき誰も隠れずむしろ頭を差し出すとはなんのつもりだ。見ろ、ミリアも呆れて注意しているではないか。


 われはぶつぶつと隣のネルに愚痴を言い続けるのだった。



 その後も楽しそうに続いたもぐら叩きも夕暮れと共に幕を閉じた。へそを曲げたわれをミリアや何人かの動物たちが励ましてくるが、そんなものではわれの機嫌は直らんぞ。


 そんなわれの下に諸悪の根源たるケイが乾いた笑みを浮かべつつ近寄って来た。


 なんだ? 言っておくが一週間はおぬしにもふもふさせんからな。因果応報という言葉の意味を思い知るがよい。


「うみゃ? うにゃあ、みゃぁあん」


 本気で機嫌が悪い声色でそう言うわれに対し、さすがにまずいと思ったのかケイが安い言葉を並べる。


「いやいや悪かった、反省してるって。だから機嫌を直してくれよ。俺、もう三日以上タマをもふらない日々が続くと禁断症状が出ちゃう体になっちゃったからさ。ほら、今日の夕飯特別に豪華にするから、な?」


 こやつ、そんなことでわれの機嫌が直ると本気で思っているのか?


 われはミリアに視線を向けて判定を下させた。


「パパ。こんかいは『めっ!』だよ。本気のしょーぶはべつだけど、あそびはせいせーどーどーじゃなきゃだめって、ママがいってたもん」


 うむ。その通りだ。相手の裏を突くのは悪い行為ではないが、遊びにまで裏取引を持ち込むのは趣に欠ける。本気で勝負するという意味を履き違えていると言わざるを得まい。


 ケイは娘の言葉にがっくりと肩を落とした。ミリアは少しだけ同情した表情を見せるも、われを見て再度きりっとした表情に変えて、更に告げる。


「こんかいはばつとして、パパにはタマへのもふもふ一週間きんしのけーにしょします」


 改めてミリアに罰を言い渡されて地に手と膝を着くケイ。だが、ふと表情を和らげたミリアがもう一言添える。


「それと、ミリアにりょーりをおしえること。パパ、いっぱいおしえてね」


 そう言って笑うミリアをまるで聖母のように見上げるケイ。うむ、ミリアも飴と鞭の使い方がわかってきたようだな。だがわれには飴だけで良いからな。


 そんな感じでケイとその他に罰を下すことで、今回も最後は平和に終わった。後でいたずらを計画した動物たちをアイクとネル、エイネが闇討ちしたとか噂を聞いたが、まあ自業自得だな。


 所でヘレン、おぬしはわれのためにお仕置きをしてはくれなかったのか? ふむん? 実は自分も加担しようとしていた? そうか、おぬしにはわれが直々にお仕置きする必要があるようだな。


 こうしてわれたちの日常は今日も平和に過ぎていくのだった。


これはいじめじゃないですよ。ちょっと調子に乗っちゃっただけです。タマが優しいのに甘えちゃったんです。後できちんと謝罪しているので許してあげてください。

でもまあ、リアルでは気を付けないとダメですよね。いじめてる側は気付けないとか言いますし。

今回は雪合戦以外の冬の遊びを書こうと思っていたのになぜかもぐら叩きになってました。不思議ですね。


お読みいただきありがとうございました。

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