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もふぽて  作者: しーにゃ
第二章
119/121

第19話 今年も雪は降る

更新してない日も読んでくれる人がいる。

そう思うととっても嬉しいです。いつもありがとうございます。

 ひどく分厚い灰色の雲が空に浮かび、否応なしに雪が降ることを予感させられる今日この頃、朝の修行を終えたわれはのんびりと配下たちと共に朝食ができるのを待っていた。


 こたつ? いや、今はリビングのテーブルに座って待っている。あの聖域は昼寝の時や夜にだけ楽しむことにしたからな。今後は主に一日のご褒美として活躍してもらう予定だ。


 われがアイクやエイネ、ネルと談笑し、フレイがサクヤを抱きつつヴィムをもふり、そんな様子をヘレンが眺めていると、どうやら食事の準備ができたようだ。ケイとミリア、ルーアがキッチンから皿を持ってやってきた。


「おまたせー。今日のごはんは、さらだとべーこんにすーぷ、それとやきたてのパンだよ」


 ふむ、今日の飯もうまそうだな。うぬ? なにやらパンがいつもと違う気がする。はてさて、何が違うかはよくわからんが、とりあえずミリアに聞いてみるか。


 われは配膳を終えたミリアとパンの間で視線を往復させる。するとそれに気付いたミリアがにっこりとしながら嬉しそうに言葉を紡いだ。


「タマきづいた? あのね、今日のパンは、ミリアがこねてやいたんだよ! ぐにぐに~、ぎゅっぎゅっ、じゃーん、ってやったよ!」


 ほほう。最後の擬音はよくわからんが、ミリアが焼いたのか。料理は同じ材料でも作り手によって味が変わると以前ケイが意味もなく意味深に言っていたが、パンはどうであろうな。早速確かめてみるとしよう。


 われはミリアの頭をしっぽでぽむぽむしてから、パンを取ってかじりついた。


 がぶり。あつつ。はふはふ、もぐもぐ、ごっくん。


 うむ、うまい。ケイが作るのよりも若干固めで味の深みが異なる気がするが、しっかり麦の香りと丁寧さが感じられる。六歳にしてパンまで焼いてしまうとは、やはりミリアはフレイと違って料理の才能があるようだな。


 期待した目でこっちを見てくるミリアにうむと頷いてやると、にぱーっと笑ってから自分もパンにかぶりつくミリア。どうやら自分も満足のいく出来だと感じたようだ。夢中でパクついている。


 ヴィムやアイクたちからも絶賛され、ご満悦のミリア。それを笑顔で見守るケイたち。ミリアをなんとなく羨ましそうな表情で眺めながら、最近始めた離乳食をもぐもぐするサクヤ。


 ふむ。今日も朝から平和なようだな。それでは今日も張り切ってがんばるとしよう。


 こうしてわれの一日は始まった。



 寒空の下動物たちに頼んで少しだけ温かくしてもらったのと、偉大なる太陽の日差しによってなんとか震えずに午前の外での活動を終えたわれは、現在家の中をとことこと歩いている。われの背中にはアイクが、頭の上にはルーアが乗っており、後ろをサクヤが這いずって追いかけてくる。


 そう、冬が近づいたころサクヤが自分で移動するようになったのだ。最初の頃はフレイかシルフィの所へ移動するとき、あとは気が向いたとき位しか動こうとしなかったのだが、ミリアに頼まれてしっぽをふりふりしてやったら追いかけてくることがわかったのだ。ふふふ、さすがわれ。


 とは言ってもまだまだサクヤの動きは相当ゆっくりなので、速く動いて逃げるとすぐに諦めてしまう。なので今のわれはしっぽを揺らしながらとことこと歩いているというわけだ。


 時折立ち止まって目の前までしっぽを差し出すと、それを捕まえようと必死に腕を伸ばすサクヤ。だがわれのしっぽはそんなに安くない。ひらりとサクヤの手を躱すとまたてくてくと進む。サクヤは疲れるまでムキになって追いかけてくる。


 そんな感じでわれがサクヤと追いかけっこしている様子をミリアやミナ、動物たちがにやけながら見つめている。たまにケイたちとかブラドたちも見ているな。


 なぜか他の動物たち相手だとサクヤは追いかけないので、この役は今の所われが独占している状態だが、サクヤは疲れると適当に近くにいるやつの所に行き捕まえて寝てしまうので、それを狙って動物たちは飽きずにわれたちの追いかけっこを見に来ているのだ。


 こうしてハイハイをするようになったサクヤだが、今の所一番速く動くのはシルフィがいる時だ。自力で近付けるようになったのが相当嬉しかったのか、シルフィを目にすると全てを放り出して近づくサクヤ。その様子にケイとブラドが落ち込んだのは言うまでもない。ちなみにシルフィはサクヤから近寄ってくれるのを見てでれっでれになっていた。


 さて、そろそろテーブルの周りを二週したか。今日はサクヤに褒美をやるとしよう。われはついうっかりといった感じでよそ見をし、しっぽをサクヤのすぐ目の前で固定した。サクヤはすかさずがばっと飛びつく。うむ、ちゃんと相手の隙を狙うことはできるようだな。


 われがおとなしくしっぽをにぎにぎされていると、羨ましくなった動物たちがサクヤの周りに集まりすりすりと身を寄せ始めた。サクヤはシルフィ以外が相手ではそれほど豊かな表情の変化を見せないのだが、さすがに半年以上の時が過ぎた今ではサクヤが内心喜んですりすりもふもふされているのをみな理解している。


 うむうむ、素直じゃないがかわいいやつだな。


 われはそう思うのだった。



 昼飯を食べた後ネルに頼んで少しだけこたつで昼寝した後、今日は川に行くことにした。われの後をエイネと何人かの動物たちがついてくる。冬場の川は寒いのであまり人気がないのだが、エイネを筆頭に寒さに強いやつらは気にせずちょくちょく来ているらしい。


 恒例の出迎えを受けた後、早速若い魚たちが勝負をしようと意気込んで近付いてくるのだが、われとしては寒いので水を浴びる可能性のある勝負にはあまり乗り気ではない。それでもまあさっさと終わらせればよいかと相手をしようとすると、そんなわれにエイネが話しかけてきた。


「くく~。くぅ?」


 ほぅ、さすがはエイネ。配下らしいことを言ってくれるではないか。よろしい、われに代わって相手をしてやれ。


 われがエイネの問いに頷いてから魚たちに一声かけると、エイネは喜んで川に飛び込んでいった。水辺で暮らすビーバー対魚たちの、水中での勝負の始まりだ。


 当たり前かもしれんが勝負はエイネが圧勝した。陸上でもわれに劣らない身体能力を持つエイネが本領を発揮できる水中で勝負をしたのだ。いくら魚といえどもまだまだ若いやつら相手では分が悪い。


 しょぼんとした若い魚たちを見かねたのか、はたまた楽しそうと思ったからか、今度は熟練の大人たちがエイネに勝負を挑んできた。その様子をわれと若者たちで見守ることにする。


 静かに始まった勝負は次第に派手になっていった。魔法なしの状態でも素早く動く魚たちに余裕で反応するエイネ。それを見てどんどん遠慮なく魔法を使い始める魚たち。数の上では一対五。どんどん激しくなっていくが勝負は五分五分に見える。


 若者たちは先達の動きを見て、その手があったか、上手い、と興奮している。われは配下の活躍に大きな自慢とちょっぴりの嫉妬を織り交ぜながら観戦していた。


 しばらく均衡を保っていた戦局に動きが生じた。これまで基本受けに回っていたエイネが攻勢に出たのだ。エイネの周囲に水柱が何本も勢いよく噴き出す。魚たちの内一人はその水柱によって上に打ち上げられた。だが四人はそれを避けチャンスとばかりにエイネに突っ込む。


 水中で四方から魚たちに攻撃されたエイネは一見絶体絶命に見えたが、それは罠だった。エイネに近寄った魚たちが一斉にその動きを止めた、いや、止められた。エイネが水を纏う得意の魔法を使って動きを止めたらしい。そして動きを止められた魚たちはエイネのしっぽによってぺんぺんと上に弾かれる。


 勝負ありだな。


 われが思うのと同時に落ちてきた魚たちの一人が白旗を挙げた。ふむん? どうやら氷で作ったものらしい。無駄に細かいな、あやつら。というか白旗で降参というのは人間の人族にだけ伝わる風習ではなかっただろうか。われと同じくケイかフレイあたりから教えられたのか?


 エイネには白旗の意味が問題なく伝わったようで、満面の笑みを浮かべたエイネが川から上がり魔法で体を乾かした後、われに擦り寄って来た。


「くぅう~」


 うむうむ。よくやったぞ、エイネ。


 われが褒美にぽふぽふと右手で頭を撫でてやると、エイネは何かが限界に達したのかしゅぱんと走り出し川に飛び込んだ。ふむ、おかしなやつだな。まあいつまでも抱きしめてくるミリアなどよりは扱いが楽でいいな。


 その後は魚たちと先程の戦いについてや最近の出来事なんかについてゆっくり話をするのだった。


 そして雪が降って来たのに気付くとダッシュで拠点に帰った。



*****



 今年あたしは人生最大の喜びを感じた。そう言うと大袈裟かもしれないけど、そこそこ生きてきた中でこれほど無邪気に喜べたのは初めてなんだから、大目に見てほしい。


 数年前からこの森にひょこんと現れた小麦色の猫っぽい魔物。そのタマと呼ばれる存在に興味を持ち始めたのはいつからだっただろう。最初はそこまで興味はもってなかったはず。でも、他のみんなと一緒に遊んでいる内に、弱くても上だけを向いてがんばる姿を見ていたら、だんだん彼のことが好きになっていったのだ。


 もちろん恋愛対象としてではない。彼とつがいになっても子供はできないし、好きになった頃にはもうミリアがいて、あの子を押し出してまで彼の隣にいたいと思えるほどの気持ちは持てなかったからね。


 それでも自分の気持ちを自覚してからは、なんとなく彼の前に出る回数が減ってしまった気がする。本当はもっとすりすりしたりしてアピールしたいけど、やり過ぎて嫌われたらどうしようとか恥ずかしい所を見せたくないだとか、そういう気持ちが勝ってしまったのだ。好きっていうのも案外厄介なのだとこの時初めて知った。


 まあ遠くから見ているだけでも楽しかったので、それで満足することにした。彼や彼の家族たちは見ているだけでとても面白かったし、それだけで今までにない生きる活力を得られたから。



 そう思っていたあたしの日常に変化が訪れたのは、ミリアの六歳の誕生日を目前に控えた頃だった。周りの多くの仲間たちほどではなかったけど、ミリアのことは気に入っていたのでその日も彼女が喜びそうなものを探していた。


 それからみんなの暮らす大樹に戻ってみると、露骨に怪しい態度の黒兎たちが急に現れて、人気のない所に連れて行かれたと思ったらミリアがタマの配下候補を探していると伝えられたのだ。そして自分がその候補の一人なのだとも。


 あたしはとても驚いた。別にそれほど好意を隠していたわけではなかったから、ミリアが自分がタマを慕っていることには驚かなかったが、まさか彼女自ら自分の地位を脅かす配下候補を探すとは思ってもみなかったのだ。


 後になってからわかったけど、ミリアは只々タマが大事で、自分の地位へのこだわりよりもタマのことを優先する子だったのだ。


 あたしはこれは好機だと思った。タマに堂々と好意を示せるし、あのタマの拠点のぽわぽわした不思議空間の一員になれるなんて、夢みたいだ。


 それからちょっとばかし色々あったけど、何事もなくタマの、いや、タマ様の配下になることができた。配下になって関係がどう変わるのか少し心配だったけど、前よりも気にかけてもらえるようになったくらいで、ほとんど何も変わらなかった。


 でも、あたしの方からの態度はかなり変わったと思う。面接の時に素直に好意を示してから、タイミングを見計らってちょくちょくとタマ様にちょっかいを出すようになったから。


 これは単純に自分の好きなタマ様と戯れるのが楽しかったのもあるけど、それと同時にミリアがやきもちをやくのが見れて面白かったからだ。ちょっと意地悪だったかもしれないけど、こんなミリアの知らない一面を見れて、彼女のこともとても気に入ってしまったのだ。


 念の為ケイさんとフレイさんに許可をとってからは、更に遠慮なく自由に過ごせるようになった。そうしたらもっといろいろ気付けた。タマ様は思ってた以上にお人好しで、想像以上にどこか抜けていて、そしてとっても頼もしいってことを。まわりのみんなも負けず劣らず優しくて、本当の家族として接してくれているんだってことを。それが本当にうれしかった。


 自分が羨ましいいと感じていたぽわぽわした空気が目の前に広がっていて、自分もその空気を作っている一員になれたのかと思うと、とても誇らしくなった。



 配下になってから少し経ったけど、相変わらずタマ様はかわいくてかっこいいし、ミリアのやきもちは見ていて飽きない。ケイさんの作る料理はおいしいし、フレイさんのもふり方はとても気持ちいい。サクヤ君はすっごくかわいくて、ヴィムたちや同期の仲間たちとも前より仲良くなれた。


 本当にこんなに幸せでいいんだろうか。いや、いいんだろうな。今の素晴らしい環境はみんなが努力して作った物で、維持しようとしているものだ。なら、あたしもそれを手伝いつつ、大いに恩恵に与ればいい。


 幸いあたしはここが大好きで、みんなもあたしを受け入れてくれている。なら、楽しむしかないよね。


 さて、それじゃあ今日もタマ様のふかふかの毛並みを堪能して、それを見たミリアと対決して友情を深めて、それから、思う存分楽しむとしよう。


 こうしてあたしの幸せな一日は今日も始まる。


後半字数稼ぎに書き始めたら、なんかこんな感じになってました。

地の文で語り部の個性を出すって難しいですね。なんだか書いても納得がいかないので、自然と書きなれてる感じになってしまいます。

赤ちゃんの成長はあまり詳しくないので、気付いたときにサクヤの描写を加えているのですが、おかしなところないですかね。ちょこっと調べてから書いているのですが、やっぱり詳しくないことを書くのは不安です。

もし違和感を感じましたら、スルーして頂けるとありがたいですね。


お読みいただきありがとうございました。

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