表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もふぽて  作者: しーにゃ
第二章
116/121

第16話 幼女、ビーバーとバトル

 そろそろコタツを出してくれないかと思う程度には日中の気温が下がってきた今日この頃、われはハリネズミのアイクと共にもぐらと対峙していた。もぐらのやつは数の不利を気にすることなく悠然と構えている。その姿にイラっときたわれは結果で見返そうと気合を入れ直す。


「うにゃあ!」


 われが声をかけると隣から元気な返事が返ってくる。


「きゅい!」


 その直後、われとアイクは走り出した。


 前後左右から挟み撃ちにしようとするわれたちをもぐらはお得意の土魔法で防いでくる。ときには攻撃を受け止め、ときには進路を妨害することでわれたちの攻撃を確実に捌く。


 さすがにこちらは身体強化のみでは魔法有りのもぐら相手には分が悪いようだ。だが、それは正攻法で挑んだ場合の話だ。


 われが目線で合図を送るとすぐさま了解の視線を返すアイク。そして一度すぐ隣まで来たアイクと同じタイミングで左右に飛び出す。


 先程と同じ二手に分かれての挟撃だと予測していたもぐらは、その直前からわれたちの目の前に土壁を生み出していた。どうやら衝突させて終わらせるつもりのようだ。


 だが甘い。


 われは踏み出すと同時にしならせていたしっぽでアイクを弾き飛ばした。突然進行方向を変えたアイクは丸まり、全身トゲだらけの状態でまっすぐもぐらに向かう。


 予想外の展開に慌てたもぐらは、咄嗟に大きく横に動くことでアイクの突進を躱した。その反応速度は素晴らしいが、こちらへの注意が疎かになっているぞ。


われは途中まで生み出された土壁を使って高く飛び上がり、もぐらの死角から必殺のしっぽを振るった。


 周りをキョロキョロしていたもぐらは上からの攻撃に反応することができず、われのしっぽを頭にくらい倒れた。


「もぐぁ!」


 そう言ってもぐらは前のめりに倒れる。いや、実際はそんなに強く叩いていないだろうに。本当にノリがよいなこやつらは。


「そこまで! タマちゃん、アイクちゃんペアの勝ち!」


 審判役を務めていたフレイの言葉で一気に周囲が盛り上がりを見せた。観戦していた動物たちはわれたちがここまで息の合ったコンビプレイを見せるとは思ってなかったようだ。


 ふふふ、どうだ見たか。これがわれたちの実力だ。


 ところでなぜおぬしらはシマリスに木の実を渡しているのだ? それとシマリスもなぜそんなにホクホクした顔をしている?


 まさか賭けていたのか。しかも圧倒的にわれたちの倍率が高かったと。ふむ、やはりあやつらには一度痛い目を見てもらう必要がありそうだな。


 なに? これがわれの取り分? 儲けさせて貰ったからそのお礼とな?


 うむ、そういうことならまあ許してやるとしよう。だが次もわれに賭けるのだぞ。


 こうしてわれはアイクと報酬の木の実や果実を山分けしつつ、他の動物たちの試合を観戦するのだった。



 配下が増えた当初は色々つまらないことで頭を悩ませていたが、シルフィとの相談以降われたちは比較的良好な関係を築けていると思う。


 ハリネズミのアイクはおどおどすることが減ったし、ヤギのネルは昼寝係としての仕事に誇りを持ち始めている。ミミズクのヘレンは相変わらずだったが、弱点を見つけたのでやり過ぎた時も軽く諌められるようになった。


 だがまだ問題は残っていた。ビーバーのエイネだ。こやつだけはまだミリアと時々争っているのだ。珍しくミリアも制止を振り切って張り合っているからな。どうしたものか。


 一度ケイとフレイにも相談してみたのだが、二人は笑って傍観することを勧めてきた。


「ミリアも普通の子供だったんだなって安心したよ。あれは仲が悪いわけじゃないからほっておこう」


「他人が余計な口出しをすることじゃないものね。タマちゃんが心配なのもわかるけど、あれは女の子が一度は通る道なの。見守ってあげて」


 二人はそんなことを言っていた。ふむ、親である二人がそう言うならしばらく手は出さないとするか。だがあまりにもひどくなったら介入するから、そのつもりでな。


 われが笑う二人にそう忠告した時のことを思い出していると、試合場にミリアとエイネが現れた。ここ最近の修行でよく見られる組み合わせだ。


「きょーのおやすみ前のもふもふはミリアがもらうの!」


「くくぅ!? くぅっ、く~!」


 叫び合った二人はフレイの合図に合わせて飛び出しぶつかり合った。


 体は人であるミリアの方が大きいが、エイネもわれよりふた回りは大きい。最初のぶつかり合いはほぼ互角のようだった。


 一度距離をとった二人は互いに睨み合う。


「まほーなしだとやっぱりごかく! だったら!」


「うぅー!」


 魔力を纏い身体強化を終えた二人が肉弾戦を繰り広げる。さすがに急所を狙うようなまねはしないが、そのやり合いは相手の体を思いやる気持ちのない、本気の攻撃のように見える。


 普段われたちが行う縛りを多く取り入れた、ある意味仲間内だからこその試合とは異なる互いに何かを背負っているような真剣さに、観戦しているわれたちは少々圧倒される。


 ふむ。最初は感情のままに動いているのかとも思ったが、動物たちの言う通り最低限のルールは守っているようだ。それにしても何日も繰り返している内に二人ともかなり動きが良くなってきた気がする。やはり最近のわれには真剣さが足らなかったのだろうか。


 そんな風に考えるわれだったが、一つだけどうしてもわからないことがあった。二人はなぜあんなに真剣に争っているのだろうか。


 誰かに訊く度に呆れた溜め息を吐かれるこの質問の答えは、やはりわれにはわからなかった。



 しばらく肉弾戦を続けていたミリアとエイネだったが、エイネが先に魔法という手札を切った。水がエイネの体を包み、接した時に距離や角度を無視した水による攻撃を織り交ぜ始める。


 それに対抗してミリアは一度宙に上がって静止し、地上に目を配らせる。そしてエイネから離れた所に降りると、先程目星をつけていた土の塊や小石を拾い魔法で飛ばし始めた。


 遠距離から攻めるミリアと、それを水の鎧で防ぎつつ接近戦に持ち込もうとするエイネ。二人の戦闘は再び膠着状態になった。


 だがやはり戦闘経験の差からか、エイネの方が余裕があるようだ。更に別の手を用いて戦局を支配しようとしている。エイネの周囲には小さめの水球がいくつか浮かび上がり、それらがミリアに向かって飛んでいく。


 しかしその速度はそれほど速くない。ミリアは十分な余裕を持ってその水球を躱すが、顔には怪訝な表情を浮かべている。おそらくエイネの攻撃の意図が読めないのだろう。


 われも同様にエイネの考えを読もうとしていたのだが、すぐに身を以て理解することになった。


「にゃぶん!」


 エイネの放った水球がわれに直撃したのだ。明らかに当たらないコースだったのにも関わらず当たったということは、最初から狙ってコントロールしていたのだろう。


「タマ!?」


 われが上げた悲鳴に気を取られたミリア。その隙をエイネは見逃さない。素早く距離を詰めたエイネはその勢いのままミリアを押し切り勝利を収めた。


「そこまで! エイネちゃんの勝ち!」


 フレイがそう言うも、ミリアは納得できなかったようだ。


「うぅ、タマをまきこむなんて、ずるい!」


 そう叫ぶミリアにエイネは厳しい返事を返す。


「くぅ、くー。くくぅ、う~。(勝負の最中に余計なことを考えたのがあなたの敗因。真にタマ様を大事に思うなら、タマ様の強さを信頼しきるか、タマ様を守りながら戦えるようになりなさい)」


 その言葉にミリアは反論できず、悔しそうに唇を噛んだ。


 エイネはそれを見ると、ゆっくりとわれに近付き頭を下げた。


「うぅ~~。(タマ様、ごめんなさい)」


 われはそれに鷹揚に頷いて応える。


『構わん。おぬしの行動は正しい。相手の弱点を突くのは闘いの正道だ。今回は油断していて避けられなかったわれが悪い。だが乾かしてくれると嬉しい』


 われがそう言ってやるとエイネは嬉しそうに身をすり寄せながら魔法でわれから水分を飛ばしていった。


 うむ、やはり水魔法は便利だな。だがそんなに身を寄せる必要があるのか?


 われの表情から思考を読んだのか、エイネは笑って答える。


『あたしはすぐ近くじゃないと上手く魔法をコントロールできないんです』


 ふむ、それにしてはわれに水球をぶつけるのが上手かったような。それともう乾いたから離れてはくれないだろうか。


 結局そう時間が経たない内に、われから離れようとしないエイネとそれを引き剥がそうとするミリアの第二回戦が始まるのだった。


 ふむむ、本当にこやつらは仲が悪くないのだろうか。


 そう首を傾げるわれだった。



*****



 ミリアの誕生日を契機にタマに新しい配下ができた。まさかあのタマに自ら志願して配下になりたがるやつがいるなんて当時の俺はかなり驚いたものだ。しかもそれを娘のミリアが計画したっていうんだから、子供の成長と発想はやはり侮れない。


 新しく配下に加わった四人は種族も性格もバラバラだったけど、タマを尊敬する気持ちだけは共通しているようだった。そんな四人を俺たち家族は温かく迎えた。だってあのタマの配下ってことは、ヴィムやルーアも加えた俺たち家族と同じ立場ということ。なら家族として扱うべきだろう。そう決定したからだ。


 面接とかいう無駄な儀式を経て家族になった四人に、俺は名前を付けてあげた。


 ハリネズミは、アイクラッゾ。通称アイク。意味は『棘の中の秘められた優しさ』。

 ヤギは、ネルトーン。通称ネル。意味は『安らかさを司るもの』。

 ミミズクはヘレナージュ。通称ヘレン。意味は『知識の地平線を望む鳥』。

 ビーバーはエイネルシア。通称エイネ。意味は『自身の気持ちに素直でいること』。


 まあ意味はいつも通り適当な嘘っぱちだけどな。


 そんな名前だけど、この森の動物たちは名前を持たないからすごく喜んでくれる。お礼にもふもふさせてくれたので俺も大満足。正にwin-winだ。



 新しい家族ができても俺たちの生活はそんなに変わってない。強いて言えば新たな家族としてのスキンシップが増えたくらいだ。みんな嫌がらずもふらせてくれるので、俺とフレイのもふもふ欲は前よりも満たされている。


 タマは配下が一気に増えて扱いに困ってたみたいだけど、シルフィに相談したら解決したらしい。あのへっぽこ魔王に相談して解決するなんて、いったい何に悩んでたんだろうな。作り置きしておいた料理をお礼として全部食べさせた位だから、もしかしたらタマにとっては重要な問題だったのかな。


 まあ今は解決したみたいだからそんなことはどうでもいいか。それより今この拠点で最も注目されているのはミリアとエイネの対立だ。


 ミリアは言わずと知れたタマ大好きっ娘だが、エイネも相当なタマ好きだ。今までは仲間の動物たちにも隠してたみたいで知らなかったけど、配下になったのを機にさらけ出された好意はやばい。なんたってあのミリアとタマについて言い争うことができるほどだ。


 そんなエイネにタマを取られると思ったのかミリアは常にエイネに対して威嚇をしている。そんな姿が非常に子供らしくてかわいかったのと、これを機にミリアの視野が広がって成長してくれるのを期待して俺とフレイは静観することを決めている。


 ヴィムとルーアにもその旨を伝えるとなんとなくわかってくれたみたいだ。タマと新人さんには面白いので詳細は説明していないけどな。


 ミリアは最近ずっとエイネと争っているらしい。タマや動物たちとの特訓時に行われる模擬戦とか遊びとかでは、必ずエイネと対立しているとのことだ。勝負内容は毎回異なるから勝率は五分五分だそうだが、多分エイネが調整してくれてるんだと思う。


 なぜそう思うかと言うと、エイネを盲目的なタマ信者かと思っていた最初の頃、夜に部屋を訪れて俺とフレイにだけこっそり本当の気持ちを語ってくれたのだ。


 タマが大好きなのは本当だけど、更に言うとここの雰囲気がたまらなく好きなのだそうだ。直接そう言われると照れるが、動物たちはみんな大なり小なりそう思ってくれているらしい。


 そしてエイネは人の成長する姿を見るのも大好きらしい。それをこっそりと手伝うのも。そんなエイネにとって、ここの住人はタマを筆頭に見ていて非常に楽しいのだと笑顔で語っていた。


 それを聞いた俺とフレイは、それなら好きなようにしてくれとこちらからお願いした。なぜならミリアやサクヤに対して、親だからこそできることもあるけど、親だからできないこともあると知っているからだ。


 今まではタマやブラドなんかにその辺を任せていたところもあるけれど、他に頼れる人がいるなら頼みたい。そう思ったのだ。



 それからのエイネの行動を見ていると、うまいことここの生活に馴染みつつもミリアに対してだけは真っ向から衝突しているみたいだ。ミリアはこれまでいい子過ぎて心配な部分もあったけど、それをエイネや動物たちも察していたんだろう。それでこうして子供らしく自分の気持ちを身勝手にぶつけることを体験させてるんだと思う。


 時々タマへの過剰なスキンシップを見ていると只の素の行動なんじゃないかと不安にもなるが、大丈夫だろう、多分。エイネなりの考えがあるのだ、そう信じている。


 とにかく今は、ミリアが人との関わり方は仲良くするだけじゃないってことを学んでくれたら満足だ。夕日の下河原で握手なんて展開はないと思うけど、親として娘が世の中のきれいさだけじゃなくて、ダメな部分、理不尽な部分も知ってくれたらと思わざるを得ない。


 まあ俺はそういうのが嫌で森に逃げ込んだんだけどな。


 そんなことを考えつつ、今日の俺は家の中でサクヤをあやしている。しかしサクヤはあまりこちらを見てくれない。


 あの、サクヤさん。もう少し父親に興味を持ってはくれないでしょうか。いや、ほんと。


 こうして俺は息子の白けた目線をなんとか変えようと、必死に頭を捻るのだった。


実は一番大人なのはビーバーさんだった!?な回でした。

本当の所はどうなのか、真相は闇の中です。別にまだ深く考えてないとかじゃないですよ。

う~ん、もう少しもふもふ感を出したいので、次は少しだけ考えてから書きたいと思います。


お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ