第13話 ねこ、面接する
昨日はすみませんでした。疲れてたんです。。。
『それでは面接を始める』
ミリアの誕生日の翌日、家のリビングのテーブルに腰かけたわれは目の前の四人に向かってそう宣言した。われのすぐ後ろの左側の椅子にはケイが、右にはフレイが座っている。今日はわれとこやつらの役割は面接官だ。
ミリアはサクヤを抱っこしてテーブルの左手側に座っている。今回ミリアは推薦者ということになるので、面接官ではなく見届け人としての参加だ。それとヴィムとルーアも面接に自信がないとのことなので、ミリアの隣と頭の上に陣取って面接者を見守っている。
なぜいきなり面接をすることになったのかと言えば、昨日のミリアの言葉が原因だ。誕生日の最後にわれたちがプレゼントを渡した後、ミリアが四人の動物を呼び出しわれにプレゼントだと言ってきたのだ。いつももらうだけではなくお返しを用意しているミリアだったが、さすがに生き物を渡されたのは初めてだった。
突然の事態に当惑したわれたちに、ミリアがどうにかこうにか説明を始めた。途中で黒兎たちが出てきて補足説明をした結果、どうやらわれの配下が少ないことを気にしたミリアが候補者を見繕ってきたということらしい。
ふむ、われの至らなさが原因とはいえ、あまり勘違いしそうなことはやめてほしいものだ。最初はこの四人がミリアに命ごと捧げたのかと思って心配したぞ。
だがまあ、われ自慢の側近がせっかく準備してくれたのに無下に却下するのはしのびないし、どうやらこやつら自身の意志でもあるようなので、昨日の時点では面接に合格したならと条件付きで許可したのだ。さすがにミリアの誕生日にみなの前で不合格だなどという事態になるのは避けたかったからな。
ということで面接は翌日の今日にすることにし、昨日の夜はいつも通りささやかに豪華な夕食を食べて眠りについたのだった。
今日もいつも通りの時間に目覚めると、既に起きていたミリアとフレイがリビングでそわそわしていた。
「うにゃん?」
われがそう問いかけると、フレイが苦笑しながら理由を説明してくれた。なんでも日の出前から家の前でずっと配下候補者の四人がスタンバっているそうだ。それに対しどう扱うべきかわれに聞こうとも思ったが、起こすのもどうかと思いそわそわ待っていたらしい。
ふむ、どうやら気合は十分なようだ。だがさすがに時間が早過ぎる。まずは一緒に修行して朝ごはんを食べさせて、一息吐いてから面接を開始することにしよう。われはそうフレイに伝えてから、候補者たちに直接言いに外へ出た。
最初は緊張のあまりガチガチになっていた四人だったが、われがいつも通りにしろと言って無理やり修行に参加させると、次第に落ち着きを取り戻していった。それからケイが用意してくれた朝飯を一緒に食べ、少しばかり日向ぼっこをしてから、改めて面接を始めるぞと声をかけた。
リビングに集まっていたわれの配下については先程言った通りテーブルの周りにいるが、昨日から泊まっていたブラドとシルフィ、ギルは面接者からは見えないようにやつらの後ろに座ってわれたちの様子を面白げに見ている。
さて、あやつらは無視して面接を始めるとするか。
『それでは面接を始めるぞ』
われが空気を引き締めるためににゃうんとそう言うと、われの対面に座る候補者たちが姿勢を正してわれに注目してきた。うむ、何から聞くべきか。われは何も考えていなかった頭を働かせてゆっくりと質問を始める。
『まずは自己紹介からしてもらおうか』
われから見て一番左に座っているものに目を向けてそう言うと、やや緊張した声で自己紹介が始まった。
「きゅきゅい、きゅっ、きゅっ」
小さい体ながらも大きな声でそう言ったのは、ハリネズミだ。今回面接する動物たちは近くの大木に住む動物たちで、こやつは途中から一緒に修行したりするようになったやつだな。
見た目は腹側のふんわりした毛は白、硬い針状になる背側は灰色で、大きさはわれよりも一回り小さい雄。そしてハリネズミとは言っているが、背中の毛は魔力操作によってその硬さが変わるため、普段は少し硬めな毛を持っているようにしか見えない。
自己紹介によると、大木には家族親戚が四十人以上も居て、本人は結構若めらしい。なので大木から旅立つのも森から出るのも、ブラド以外の配下になろうともなんの問題はないという。それから得意魔法は土魔法だそうだ。
うむ、まあまあ知ってはいたが、改めて本人の口から聞いてみると意外と知らないことが多かったな。親交が深まり一緒に修行したり遊んだりしていたとはいえ、こうして面と向かって話し合った機会はなかった気がする。それは他のものにも言えることなのだが、だからこそなぜこやつらがわれの配下になりたいのかがわからんな。まあ後で訊けばよいか。まずは自己紹介を聞くのが先だ。
ハリネズミの次に自己紹介を始めたのは、ヤギだ。
全体的に白と茶が混じった色で、額の両側にはグルんと立派なクリーム色の角が生えている。大きさは今のヴィムと同じくらいで、1mと少し程度だろう。
「めえぇえ、めぇ、めえ」
若干自信のない声だったが、覇気がないわけではなかった。おそらく元来引っ込み思案な性格なのだろうが、本人なりに気合を入れているのだろう。こやつの言葉によると大木に同種の仲間はあまりおらず、故郷の大きな群れがいる場所は同じ森の中だがここからは離れているそうだ。十何年か前にそこから何人かと一緒に旅立ってここに住み着いた、と。
立派な角を持つこやつは雄で、得意魔法は眠りに関する闇魔法らしい。ふむふむ。ケイが隣で「ヤギなのに睡眠?」などと言っているが、まあ無視しよう。
「ほっほぅ、ほー」
次に自己紹介を始めたのはミミズクだ。茶色に所々違う色が混じった毛並みに、焦げ茶色の耳のように見える毛がチャームポイントの雌である。大きさはわれを足で掴んで飛べそうなくらいは大きい。
落ち着いた声による説明によると、大木に住む老フクロウとは親戚関係であり、この中では一番年上らしい。またなんでもこの森のフクロウやミミズクたちは能動的に知識を蓄え興味深い経験を積もうとする性質があり、どこに行こうと自由な立場なのだそうだ。
得意な魔法属性は風。それと闇魔法も使えるのでこっそり無音で獲物を捕まえるのが得意らしい。それと静かに近づいて盗み聞きをするのも得意とのこと。ふむふむ。
さて、最後はビーバーだな。われと大して変わらない大きさのビーバーが、熱の入った声で話し始めた。
「くぅ~、うー!」
ふむ、一番アピールを感じるのはこやつだな。体は黒っぽい毛に覆われているが、しっぽだけは無毛で硬質で平べったくて黒いという特徴を持っている。陸上でも生活できるが、このしっぽがあるため水場の方が本領を発揮できる珍しいやつだな。
上体を起こして少しだけ水かきの付いた手を大袈裟に動かし情熱的に話してくれた内容によると、こやつははぐれものの雌ビーバーであり、ここらではビーバーはこやつしかいないとのこと。のんびり水に浮かんだりご飯を食べるのが趣味だと言っているが、今の興奮した態度からはあまり想像できない。まあ見たことがあるので嘘ではないのはわかっているが。
得意魔法は水で、普段は特に泳いだり濡れた体から水を払ったりする時に使用するらしい。得意なのは水中戦だが、意外に陸上でも俊敏に動き手強いと感じたことが何度もあるな。
うむうむ、とりあえず自己紹介が終わったようなので一度情報を整理するか。
静かに頭の中の整理を終えたわれは、ゆっくりと次の質問を発した。
『おぬしらは、なぜわれの配下になることを望む?』
次の問いは志望動機の確認だ。どうしてもこやつらがわざわざ自由で楽な大木での暮らしでなくわれの配下としての人生を選択した、その理由がわからんからな。そのあたりを聞いてみんことには配下にはできぬ。
なにやら後ろから「俺の時はこんなまじめに聞かなかったのに」とかケイが言っている気がするが、気にしない。そもそもあの頃はまだ意思疎通が難しかったし人間のことなどよくわからなかったからな。多少勘違いもあったかもしれないが、今が良ければそれで良いのだ。ぐちぐち文句を言うでない。
われが若干眉をひそめると、それを見たハリネズミが真剣な表情になって答え始めた。もしかしたら嘘をついたらわれが怒るとでも思ったのかもしれん。
「きゅい、きゅい~。きゅぅ」
ふむふむ。以前から体は小さいのに器の大きいわれのことを尊敬していたのか。同じ大木に住む仲間にも尊敬できるものはいたが、われは何かひと味違うと感じられた。自分はこのままだと幸せだが無難に人生を終えてしまう可能性が高いが、われの近くでなら大変だがきっとただ森で暮らしているだけでは得られないものが得られると確信している、と。
ほほう、なかなかに鋭いやつではないか。表情を見るに多少大袈裟に言ってはいるものの、嘘は吐いていないようだしな。では、踏み込んだ質問をしてみるか。
『われの近くにいる、というだけなら配下になる必要はないのではないか? たしかにわれはいずれこの森を離れるかもしれんが、何十年か、それ以上先になるかもしれんぞ』
そのわれの言葉に少し言葉を詰まらせたハリネズミだったが、息をのんでからはっきりと意思を語った。
「きゅいっきゅい! きゅっ、きゅー!」
うむ。わかった。人生を変えるチャンスだと思ったのは本当だが、それよりもわれの在り様に惚れた、そういうことか。なるほどな。これまでは年上の者たちに遠慮してわれに関わることが少なかったが、今回ミリアに配下候補として誘われたのは正に天啓だったと。
ふむ、そんなことを考えていたのか。遠巻きに見られている印象はあったのだが、そういうことだったとはな。やはり他人が何を考えているのかは直接話してみんとわからんものだな。
よし、ハリネズミの意見はわかった。では次、ヤギの番だ。
「めぇ、め~」
う、うむ。そうか。小さく弱かったわれが、努力を続けて力を付けていく様子を見て、何事にも諦めがちだった自分が恥ずかしくなった、と。身近にも強いものはいるが、将来性と器の大きさがとてつもなく、現時点でその存在を近しく感じられるわれの側で、自分を鍛え直したい、ということだな。
ううむ、やはり動物たちからしてみればわれはまだ弱いのか。ぐぬぬ、これからも修行をがんばらねばな。
それはそうと、こやつもわれの近くで自分を変えたいということか。最後にボソッとおいしいご飯が毎日食べられそうとか言っていたが、それはあくまでも副次的な要因だよな?
よし、ヤギについても事情はわかった。それでは次はミミズクだな。
「ほぅ、ほぅ、ほぅ」
ふむ。これはまた正直な答えだな。だがわれはそういうのは嫌いではないぞ。
この森で一番未知を体験できそうなのがわれの近くで、われと深く関わるには近くで暮らすだけでは足りず、配下になるのが一番。うむ、ここまではっきりと言われると理解しやすいな。
「ほほぅ、ほ~ぅ」
うむん? それからお世辞抜きでわれの配下が羨ましいとな。しかも探求欲だけの話でなく、日々の生活から感じられる幸せオーラがすごいと。
うむぅ、なにやらわれ自身のことを言われるより、配下たちについて褒められた方がむずがゆさが強いな。だがまあ、ミミズクがそう思うのもしょうがあるまい。なにせわれの配下だからな。この世で一番素晴らしい環境なことに異論を挟む余地はない。
さて、では最後にビーバー、おぬしの動機を聞こうか。
「くぅー!」
そのビーバーの言葉に一番大きな反応をしたのはミリアだった。思わず腕に力が入ってしまったのか、抱かれているサクヤが少し苦しそうにしてぺちぺちと抗議している。
だが、そうか。そう来るとは思っていなかった。ビーバーの志望動機は、われのことが大好きだと、それだけのようだ。
幸いと言っていいのかはわからぬが、恋愛対象としてではないようだ。まあおそらくわれとビーバーでは子はなせぬだろうし、そう言われてもわれが困るだけなのだが。
ビーバーの力強く輝く瞳を見ていると、どうにも嘘ではないようだ。はてさて、どうするか。
われは最後に大きな衝撃をくらったが、とりあえず考えてみることにした。
われが結論をまとめている間、ケイとフレイからも質問がなされた。
「好きな食べ物は?」「おやつは何がいい?」「一番好きな魔道具は?」「この拠点の一番好きな所は?」「もふもふされるのは好き?」などなど。
うむ。おぬしらが面接する気がないのはよくわかった。そういうのは受かってから聞くことだろう。というかやはりもふもふはおぬしらにとって重要な判断材料なのだな。
そんな怒涛のどうでもよい質問に答える四人を見ていて、われも考えがまとまった。
われがにゃふん、と咳ばらいを入れると、ケイとフレイが口を開くのをやめた。
『さて、それでは面接の結果を発表する』
われがそう言うと、四人は額に冷や汗を浮かべながら緊張した顔でこちらを見る。
後ろでケイが「俺たちと相談はしないの?」などと言って驚いているが、別にしないぞ。まあ質問とその答えは一応考慮したから、いなくても良かったわけではないからな。
心の中だけでそう言い訳すると、われは全員に注目される中、結果を発表した。
『おぬしら全員、われの配下として認めよう』
勿体付けることなくそう言うと、対面に座る四人は驚き、首を傾げ、言葉を理解すると、やっと破願して体から力を抜いた。
周りを見てみると、ミリアは嬉しそうに笑ってサクヤを抱いており、ヴィムとルーアは早速新たな仲間に話しかけている。ケイとフレイは最初から結果がわかっていたのか、何も異議を言うことはなく温かな笑みを浮かべていた。ケイの方は相談されなかったことだけ若干不満そうにしていたが。
うむ、まあ、面接などほとんど口実で、最初から配下にすることは既定路線だったからな。そもそもミリアがわれのマイナスになることをするなんて考えにくいし、後はほんの少し確認するだけだったのだ。
それに先程ケイとフレイとのやり取りを見て、ここでも仲良くやっていけそうだとわかったからな。申し出を断る理由はなくなった。
こうしてわれに新たな四人の配下が加わった。
一方ブラドたちはと言うと。
「やーい、タマに部下をとられてやんのーっす」
そう言ってブラドをからかうシルフィ。はあ、おぬし確実にミリアより精神年齢低いな。
「うるさい。うちは自由が売りだからなんの問題もない。それと森の住人はあくまで住民で、直接的な部下ではない。あとはまあ、相手がタマだから仕方ない部分もある」
なんてことないと態度で示しつつ、ほんの少し悔しさと寂しさを浮かべているブラド。はて、われだから仕方ないというのは、われのカリスマが圧倒的ということか?
「ふむ。それでは私めもお馬鹿で小娘な主を捨ててタマ殿の所に鞍替えしましょうかね」
そんな不吉なことを呟いているギル。いや、おぬしはお断りだからな。主をいたずらするのが趣味なんてやつを配下にするわけなかろう。
こやつらはやはり相変わらずだった。
この後新たに配下に加わった四人と一緒に配下加入を祝うパーティが開かれた。拠点のすぐ外で様子を窺っていた動物たちも交えて、昨日のミリアの誕生日と同じかそれ以上の騒ぎになった。
そんな騒ぎの中本当に嬉しそうにしている新たな配下たちを眺めていると、これで良かったのだと心から思えるのだった。
われはこんな素晴らしきプレゼントを用意してくれた側近に近付くと、そっと声をかける。
ミリア、今回もありがとうな。大儀であったぞ。
「にゃうん、にゃぁお」
そんなわれの言葉を聞いて、ミリアはぎゅっとわれを抱きしめてきた。
「タマ、うれしい? ミリア、やくにたった?」
そんな風に聞いてくる小さな側近にわれはやれやれといった口調で言葉を返す。
ああ、嬉しいぞ。配下に何かをしてもらって嫌がる主なぞいないからな。まあ時々困らされることがあるのも事実だが、それでも嬉しく感じるものなのだ。
「みゃあ、ふにゃん、にゃあ」
その言葉を聞いて更に嬉しそうな笑みを浮かべるミリア。
それと、がんばってくれるのはありがたいが、ミリアはまだ幼い。われのことだけに囚われることなく、今しかできないことをもっと楽しめ。
「ふみゃぁお、うみゃ、にゃん」
そんなわれの言葉がきちんと届いたかどうかはわからんが、ミリアは明るい笑みを浮かべたままだった。ふむ、こやつのこれはどうしようもないかもしれんな。
そんなミリアの態度に困る一方で、嬉しくも感じるわれであった。
そんな感じで本日、われの配下に新たにハリネズミ、ヤギ、ミミズク、ビーバーの四人が加わり、こやつらは住処をわれの拠点に移した。われの日常は今まで以上に賑やかになるようだ。
うむ、これからは新たな配下も幸せにしてやらんとな。
ほぼ毎日更新しているのに、更新してない日に限ってPVがいつも以上なのを見ると苦笑いが止まりません(笑)
まあただのタイミングの問題なのでしょうが。そう思っておきます。
今回は昨日できなかった新人さんについて。三月というのもあって面接(風)にしてみました。でもこれめちゃくちゃめんどいですね。キャラ多いし。
動物の種類については、今まで出てなかったやつから適当に思いついたのを出しただけです。ネコ科を出さないって案外キツイですね。数少ないこの作品に課した縛りです。後で撤回するかもしれませんが。
それでは明日以降も書ける日は毎日書いて更新します。できなかったらごめんなさい。
お読みいただきありがとうございました。