第12話 ねこの側近の六歳の誕生日
日が出ても暖かさより涼しさの方が強く感じる今日この頃、普段以上に集まった動物たちに加えてベルや白馬等と一緒に、われは拠点の広場に集まっていた。
今日は一年で一番この拠点が盛り上がる日、ミリアの誕生日だ。もしかしたらサクヤの誕生日も同じくらい盛り上がるのかもしれんが、とりあえず今の所は一番なので、それでいいだろう。
われはそわそわしつつもうきうきわくわくしている動物たちの様子を眺めながら、隣にいるベルとの話を続ける。
『そうして見事いたずらコンビを追い詰めたわれなのだが、惜しい所で逃げられてしまったのだ。やはり空を飛べるというのはずるいな。いずれはわれも自由に飛べるようになりたいものだ』
そう話すわれに、ベルが感想を言ってくる。
『そうですね。翼を持たず、また土属性しか適性のない私もそう思ったことがありますよ。でも雷属性のタマさんなら擬似的に飛ぶことはできるかもしれませんね』
なぬ、それは聞き捨てならんな。ちょっと詳しく話してみよ。
われが詳細を催促すると、ベルは微笑みながら語った。
『噂話程度の信憑性しかないので間違っているかもしれませんが。たしか雷属性は自身の身体を雷化させることができますよね。その魔法の応用で、上だろうが横だろうが、正に雷の如く宙を駆けることができる人がいたらしいですよ』
ほほう、なるほど。たしかに雷は普通天から落ちて来るが、雲があるような高い所では横にも降るらしいからな。まあブラドから聞いた話だが。
われがうむうむと頷いていると、白馬がぱかぱかと横から現れた。ついでにと思いわれは白馬にも訊いてみることにした。
『白馬よ、おぬしは空を飛ぶことができるか?』
その言葉にキョトンとする白馬。何を言っているんだとでも言いたげな顔だ。
『あら、知りませんでしたか?私はこれでもペガサスの一種なので普通に飛べますよ?』
そう言って白馬は光り輝く白い翼を背から生やした。
うむん? それは飾りではなく飛べるのか? 光魔法なのだろう?
そう疑問に思ったわれの心を読んだのか、白馬は意地悪げに答える。
『タマさん、魔法に物理法則を持ち込んでもなんの意味もありませんよ? たしかに火魔法や土魔法で飛べと言われても私には想像もつきませんが、ペガサスとして光の翼で飛ぶというのは常識以前に本能なのです』
ふむ、そう言われては返す言葉もない。なるほどな、われはまだまだ魔法に対する認識が足りなかったようだ。
そうして反省しつつ白馬も交えて世間話を続けていると、家からケイたち家族、獣人家族、ブラドにシルフィ、ギルがやってきた。どうやら誕生会が始まるようだ。
昼までのしばらくの間はフリータイムだ。この時間はミリアが思う存分動物たちと触れ合う時間である。まあミリアのやりたいようにというと、ずっとわれを独占する可能性も否定はできないのだが、ミリアは賢いからか空気を読んでいるからか、多くの時間は普段接点の少ないものや触り心地などが気に入っているものを多めに、だがそれでも全員をもふもふするようにしている。
ミリアが動物たちへサービスをしている間、われは落ち着いて世間話に興じることができる。今日はなかなか豪華なメンツが揃っているので有意義な話ができそうだ。
われがそんな風に会話している間、サクヤの世話はシルフィとブラドがするようだ。喧嘩しつつではあるが二人で構っている姿を見てみな微笑んでいる。ギルだけは微笑みの種類が違いそうだが。
今回われは人間の各種族の特徴について聞いてみることにした。ブラドが一番詳しそうではあるが、あやつには最後に訊けば良いので今は放っておく。
われがうにゃうにゃと訊ねると、主にギルがそれに答えてくれた。もちろん人族のことはフレイ、獣人族はアウルとテナ、異世界人についてはケイが話したが。ベルと白馬は森の外で暮らしていたことはあるが人間とはあまり関わっていなかったようなので、われと一緒に聞き役に徹している。
ギルたちが色々説明してはわれたちが質問するという感じでしばらく話していると、思ったよりも人間は多種多様で面倒な関係にあるらしいことがわかった。
「というわけでして、この森を中心に考えた場合北を魔族、南を人族、西を獣人族が支配地としているわけです。そしてエルフは北東にある寒冷な森を、ドワーフは南東にある山々を聖地としています。魔族とは違って他の種族は人族ともそこそこ仲良くやっていますね」
ふむ、なぜ魔族だけ嫌われているのだろうか。
ギルがこちらをにこっと見つめてから説明を加えた。
「これまで人族はほとんどの種族と戦争した経験がありますが、唯一魔族だけが自分から戦争をふっかけたことがあるんですよ。もう遥か昔のことですがね。そのせいで魔族は一際嫌われているようです。ああ、でも他の種族は案外普通に魔族領にいらっしゃいますよ。人族でわざわざ来る方は少ないですが」
それだけ聞くとむしろ人族が嫌われそうなものなのだが。つまり人族は戦争大好きということだろう? なぜ他の種族は人族を嫌わないのだろうか。その疑問にもギルは答える。
「正直な所を申しますと、人族は戦闘力という点だけは他の種族からなめられているのです。反抗されたらその時は叩き潰すと、そのように考えられているわけですね。特に魔族が敵対し続けているせいでここ数百年人族は魔族以外にほとんど戦争を仕掛けていませんから、敵対する理由もないのでしょうね」
ほほう、人族は弱いのか。フレイを見ているとそうは思えないのだが。まあ今はそれはよいか。ではなぜ魔族は人族と敵対し続けているのだ?
われがそう問うとギルは今度はニヤリとして答える。
「戦いの場を求めているからですよ。多くの魔族は血の気が多いですからね。それと魔王とかいう立場に就く人が尽く、今までの制度を変えるのを面倒がっているからですね」
…まさか後者が本命の理由ではないだろうな。われが訝しんでギルに目線で問うが、ギルはそれには笑うだけで答えない。
うむ、まあよい。とりあえず色々とわかった。森に引き籠るすらっとした根暗なのがエルフで、山で鍛冶ばかりやっているマッチョでひげな酒好きがドワーフ、様々な動物の特徴を持つそこそこ強いのが獣人、特に特徴のない数だけ多くて弱いのが人族、戦闘狂のバカが魔族、そういうことだな。
それで寿命はエルフ、ドワーフは長生き、魔族は種ごとに異なる、獣人と人族は短め、と。うむ、覚えたぞ。
われがふむふむと頷いていると、動物たちをもふり終えたミリアとミナがこちらに駆け寄ってきた。うむ、そろそろ昼飯だな。
われたちが立ち上がってミリアたちを迎えると、ケイは昼飯の準備を始めるのだった。
ミリアにもふられてから昼飯を食べた後は少し昼寝の時間を挟み、次の企画が始まった。今回はケイがブラドに頼んで作ったレース場にてレースが行われた。その多くは似た体格のものたちがスタートからゴールまで互いに妨害有りで走るというものだったが、くじで無作為に選ばれたものによるレースや、ブラドとシルフィとギルによって行われたレースというか喧嘩は見応えがあった。
ミリアとミナによるガチンコ勝負は今回空を飛べるミリアに軍配が上がった。本気で負かそうとしていたミナは悔しさに泣きそうになりながらも最後は固い握手で健闘を称え合っていた。
われも何度か走り、兎やリスなどと争うことになったが、一度も一位になることはできなかった。だが動物たちよ、毎回徒党を組んで協力して妨害するのはさすがにどうかと思うぞ。こっそりやってるつもりかもしれぬが、バレバレだからな?
そんな感じで午後のケイ企画のイベントは今年も大きな盛り上がりを見せて幕を閉じた。次は夕飯前の最後にして最大のイベント、プレゼントタイムだ。
今年のわれはサクヤが産まれたのに合わせたプレゼントを用意した。偶然見つけたものだが、黒い何かの結晶で、所々に青や藍色が混じったものである。未だ小さなミリアにとっても小さなサイズの結晶が十数個でしかも未加工のものだが、加工はケイに頼むか自分でやってもらうことにしたのだ。
別に面倒だったとか時間が無かったわけではないぞ。ただ結晶を加工するのに十分な技術がわれにはなかっただけだ。それにミリアは既にたくさんプレゼントされたアクセサリーを持っているからな。たまには自分で好きなものを作るのもありだろう。でなければミリアは毎日われのプレゼントしたものを全て付けそうだからな。
ということを伝えつつ贈ったのだが、ミリアは未加工なのを残念に思うということはなかったようだ。むしろこれでバッグに付けるアクセサリーをサクヤとおそろいで作ってみると意気込んでいた。ふう、良かった。
そして今年もミリアからわれへのプレゼントがあった。ミリアが突然何人かの動物たちを呼んだかと思うと、笑顔でわれに向かって言ってきたのだ。
「タマ、いつもありがとー! 今年のミリアからのプレゼントは、あたらしーはいかだよ!」
ふむん?
われは首を傾げてミリアに連れられた動物たちの顔を見るのだった。
*****
秋に入ってしばらく経った頃、俺たち大樹に住む者はミリア嬢のためのプレゼント探しを開始した。だが今年の俺はつがいの白兎と一緒にウサギ型の花を使った押し花の栞を贈ると決めていたので気楽に過ごしていた。これはミリア嬢の父のケイから作り方を教わったものだ。
前から目星を付けていた栞にするために必要な樹液を小型の壺に確保した頃、ひょっこりと俺たちの住処の大樹にミリア嬢が現れたと仲間から知らせを受けた。なんでも俺を含めた何人かに用事があるらしい。
残念ながら呼ばれた全員がその時住処にいたわけではなかったが、それでも何人かは行っていた作業を放置してミリア嬢の下へ向かった。そして大樹から少し離れた静かな場所に移動した後ミリア嬢から話を聞かされた。
「あのね、今年のタマへのプレゼントに、あたらしーはいかをよーいしてあげたいなって思ってるんだけど…」
ミリア嬢の話を詳しく聞いてみると、いつまでもタマに配下が増えないからせめて候補を見繕ってやりたいとのことだった。どうやらミリア嬢は俺たちの仲間にタマを尊敬の対象として好いているやつがいることを見抜いていたようだ。
俺たちはたしかにタマを気に入っている。まあ俺なんかを筆頭に多くのやつらはタマをからかうことという半分照れ隠しな行為でそれを表現しているが、中には純粋にタマを慕っているやつもいる。そんなやつらはあまりからかうといったことはせず、遠くから見るだけだったり数少ないアタックするチャンスももじもじして無駄に消費してしまったりしている。
タマはそれをいまいち理解しておらず、ミリア嬢はそんな様子を見てヤキモキしていたらしい。
ああ、あの猫はたしかに普段察しがいい割にはそういう自分への好意には結構鈍感だよな。敵意には人一倍敏感なくせして。だから俺たちはついついからかいたくなっちまうんだけどな。
そんな俺たちの話は置いておくとして、どうやらミリア嬢は自分が目を付けたやつらについての話を聞きたいのと、自分が勧誘していいかの確認をしに来たらしい。まったく幼いのに本当に賢くて気遣いのできる嬢ちゃんだよな。あの猫にはもったいないぜ。
そんなことを内心思いつつ俺たちはミリア嬢から聞かされた面々についての情報を公開し、タマの配下になりたそうで素行に問題ないやつらを推薦していった。個人情報の保護なんて概念はそこにはない。みんなミリア嬢の力になれることを喜んでいるからな。
それともちろん勧誘は問題ない。竜王様はこの森に住む住人には自由を保障してくれているからな。森に対し危害を与えなければだが。
そんな感じでひそひそと相談を終えたミリア嬢は、また来るからこっそり話を通しておいてくれと頼んで自分の家に帰っていった。俺たちは手を振ってそれを見送ると、素早く行動に移した。
一人ずつ、こっそり周りにばれないように拉致しては遠回りに話をし、それから大丈夫そうなやつにだけ本題を話す。といっても今回の候補は全部で四人だけだったし、慎重に選んだ四人だから全員問題なかったが。
俺たちがそれとなく今回のミリア嬢の依頼内容を告げると、四人は面白いくらい取り乱したり赤くなったりしていた。だが共通していたのは喜んでいたってところだろう。こいつらなら推薦しても大丈夫。俺たちは目線を合わせてそう思った。
それからの四人は事情を知っている俺たちからするとあからさまに挙動不審だったが、周りのやつらは特に気にしてなかった。まあおかしいやつは多いしな、この森。まったく常識のあるやつが俺くらいしかいないのが困りものだ。
そんなことを思いつつ三日ほど経過すると、またミリア嬢が大樹を訪ねてきた。俺たちは予定を伝えていたので候補者と一緒にまた少し離れた所まで移動してから会議を始めた。
「みなさん、タマのことはすきですか?」
ミリア嬢が練習してきたような口ぶりでそう四人に訊ねると、四人は真剣な眼差しをしてこくりと頷いた。
ミリア嬢はそんな四人に嬉しそうに笑いかけた。
「あのね、ミリアにできるのは、タマにすいせんすることだけなの。だから、もしかしたらタマにことわられちゃうかもしれないけど、それでもへーき?」
今度は少し申し訳なさ気に訊ねるミリア嬢。だが四人はそれに対し力強く頷いた。
チャンスをもらえるだけでも十分だ。今まで伝えられなかった気持ちをぶつけてみる。側近であるミリアさんにそこまでしてもらえるだけで光栄だ。とにかくがんばる。
そんな声が聞こえてきた。ほほー、こいつら思った以上にマジでタマが気に入ってたんだな。まあそうじゃなきゃミリア嬢も大事なタマの配下にしようなんて思わなかったか。
よし、そんじゃ当日タマがうだうだ言い始めたら俺たちが喝を入れてやるから、お前たちは精一杯がんばってくれよ?
俺たちがそう激励すると四人は笑顔を見せて感謝してきた。そして話が終わるとミリア嬢は去って行った。その後ろ姿がいつもより嬉しそうに弾んで見えたのは、多分気のせいじゃないだろう。
というわけで俺たちは周りとは若干異なる事情でわくわくそわそわしながらミリア嬢の誕生日を待ちわびたのだった。
タマの配下が増えないなって思ってたんですよ。作者が詳細なキャラ設定を作るのが面倒だったってのが原因ではありますが。
さて次回、果たしてタマは新たな配下を受け入れるのか。そしてその四人とは誰なのか。乞うご期待。
っとか一応言っておきますが、まあ適当に書いてみますので、ほどほどにお楽しみにして頂けたら幸いです。
それと露骨にエルフとドワーフの伏線?を張りましたが、こちらは登場予定は今の所ありません。いつか出したいなー程度です。
お読みいただきありがとうございました。