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もふぽて  作者: しーにゃ
第二章
106/121

第6話 避難訓練

シリアスさんが寂しそうにしてたのでちょっとだけ参加させました。ちょっとだけですが。

 日中の暑さが辛いと感じる、夏の本領が発揮される今日この頃、われは全速力で駆けていた。近くには呆然としながら走るミリア、時々足をもたつかせるミリアを後ろから注意するヴィム、そして空から先行して前方の安全を確認するルーア。


 ミリアが何度も振り返る後方に目をやると、われの拠点があるはずの方向は炎で赤く染まり、夏の暑さよりも熱い熱が伝わってくる。われは悔しさに歯を食いしばりながら必死に足を動かし、一歩でも拠点から遠ざかろうとしていた。


 焦燥で焦げ付きそうな頭を必死に冷ますため、われはなぜこの悪夢のような事態が起こったのかを思い出す。始まりは、今朝ケイから言われた何気ない一言だったはずだ。



「あ、今日避難訓練するから。みんな覚悟しておいてくれ」


 朝飯を食べている途中、ケイがそんなことを言い出した。避難訓練とは何なのだろうか。いや、言葉の意味は推測できる。だが、目的や手法などはさっぱりだ。


 そんな思いがわれ以外からも感じられたのだろう、ケイはもう一言付け加えた。


「今日ここに疑似災害が起こるから、みんな本気で避難してくれ。後で迎えに行くから。あ、俺とフレイとサクヤはなしな。ミリアはタマについていってくれ」


 ふむ、詳しい説明する気はないということか。われたちはよくわからないまま頷き、引き続きご飯を食べる作業を続けた。


 そんなことがあってから数時間後。もうすぐ昼だろうかと思った頃、われたちは木陰で休憩していた。先程まで一緒に修行していた動物たちは、珍しいことに昼飯を食べに一度帰ると言ってみないなくなってしまった。ということで今はわれ、ミリア、ヴィム、ルーアの四人でのんびりと座って雑談をしているのだ。


 この後の昼飯は何だろうかと話し出したとき、それは起こった。


 突然地が揺れ、あちこちから火の柱が噴き出た。辺りには轟音が響く。圧倒的な熱量と振動がわれたちを襲うのに呆けていると、空から大きな咆哮が聞こえてきた。


 咄嗟に見上げた空には、赤い鱗を持つ、竜化したブラドより少しだけ小柄な赤竜が羽ばたいていた。その体から放たれる大量の魔力と殺気が、一気にわれたちの体を駆け巡った。


 その瞬間われは大声で叫び命令した。逃げるぞ、と。


「うにゃああ!」


 われの声で正気を取り戻した三人は、われが促すままに走り始める。方角は北東。われたちが居た地点から最も早く森へ入れたのがその方向だっただけだ。だが、拠点に長く留まれば間違いなくあの赤竜にやられる、そう判断したのだ。


 ミリアは突然の異常事態に呆然としていたようだが、走り続けながら後ろを何度か振り返り、その赤い火と熱を見ても事実が容認できないのか難しい顔をして何かを考えている。


 そんなミリアを見て支えようと思ったのか、ヴィムはミリアを必死に励まし足を止めないように促し、ルーアは一刻も早く拠点から離れるルートの安全を確認しに行く。


 そうして少し走っていたら、やっとわれは頭が動き出したのを感じた。いくつかの疑問が結び付き、事態の全貌が理解できてきたのだ。


 これがケイの言っていた避難訓練というやつなのだろう。突然の事態にも冷静に行動し、安全に避難して被害を軽減させることが目的だろうか。そう考えるのが一番しっくりきた。


 ではわれは何をするべきか。ケイは無駄に知識を蓄えている。経験に基づくものではないが、客観的に合理的に整理された知識だ。ならば今回の訓練も、ただの嫌がらせではなく何らかの目的があり、そして正解例を用意しているだろう。


 ケイの用意した正解に興味はないが、そういった考えの基考案された訓練なのであれば、われは最善を尽くすだけだ。


 われはすぐに考えをまとめると、配下である三人に指示を出した。


 ルーアには進路の方角の指示と安全確認。ヴィムにはミリアの護衛と周囲の警戒。ミリアには、脚を動かし続けること。


 三人は真剣なわれの声に従い、われたちは避難を続けた。



 われたちが向かっているのは最初と同じ北東方向だ。こちらに逃げ続ければいずれ白馬の管理領域に着く。災害にはいくつか種類がありそれに応じて対応を変える必要があるが、今回のように敵が襲来した場合なら逃げることとより強いものへの増援要請が妥当だろう。


 増援を要請するのは白馬でなくとも構わないが、ベルの所在は不明、首長竜のいる水辺は方向的に向かいづらいうえに都合よく近くにいるかはわからない。であれば機動力に優れた白馬に頼り向こうから察知して駆けつけてもらうのが確実だ。


 本来ならブラドに頼るべきだし、そもそもこういう事態を起こさないように気を付けているはずだから今の状況は異常中の異常事態なのだが、おそらく今回はブラドが手を貸しているからな。ブラドは当てにしない方針だ。仮にブラドを当てにするにしても、あちらの方が気配察知も速度も上なのでどの道とる行動は同じだが。


 われが走りつつ考えをまとめていると、ミリアが問いかけてきた。突然の事態に泣き出すかとも思ったが、存外動じていないように見える。それとも今回が訓練だと理解しているのだろうか。


 われはそんなことを考えながらミリアの問いに耳を傾けた。


「タマ。ママやサクヤたち、動物さんたちは一緒に来なくて良かったの?」


 ケイのことを具体的に言わないのはわざとなのだろうか。そう思いつつわれはミリアの問いに答える。


『それについては今回はどうしようもなかったと考えている。これはわれの実力不足から生じた結果だ。すまない』


 われが謝罪したことにミリアたちが目を見開いて驚いている。うむ、なんだ。われだって自分が悪いときは謝るぞ。特に今回は主としての力不足を痛感したからな。


 われは驚く三人に向けて更に言葉を紡ぐ。


『だがあの状況下で他のものを探し、一緒に行動するというのは間違いなく不可能だった。今回のベストは他のものたちも無事逃げ出せることを信じ、自分たちが必ず生き残ることだ。故に判断ミスはないと考えている』


 それを聞いてから、ミリアは本題を訊ねた。


「ほんとーにたいへんなことがおこったら、タマは…」


 そこまで言った時点でわれはミリアの質問を遮って答えた。


『われに可能であれば自ら助け出す。だが、緊急性が高すぎる場合や他に任せられるものが一緒にいると確信している場合は、われは今回のように近くにいるものだけを率いるだろう』


 ミリアは少し悲しそうな顔をした。多分どのような事態でも自分を助けに来ると言って欲しかったのかもしれない。だがわれは自分の実力を弁えている。現時点のわれにはそこまでの力はないのだ。


 われは俯くミリアに更に言葉をかけた。


『しかし、仮に配下と別れてしまいその安全が不明な状況であれば、ブラドでもシルフィでも頼れるものを頼り、必ず助けに行くことは保証する。…いずれは自力で助けに行きたいがな』


 われがそう言うと、ミリアは俯けていた顔を上げてにこっと笑ったのだった。



 しばらく走っていると、目の前に何かが現れたことに気付いた。


 われたちは足を止めて注意を向けると、それがシルフィだと気付いた。シルフィはさも今回は本意ではなかったのだとでも言うかのような表情を浮かべながら、こちらに話しかけてくる。


「みなさん、お疲れさまっす。訓練は無事終了したので、ひとっ飛びで帰るっすよ」


 そう言うや否やシルフィの魔法によってわれたちは空中へ浮かび上がり、高速で来た道の上を通って戻っていった。


 さすがはシルフィの魔法だな。われたちはすぐに拠点まで戻ってきた。拠点は昼前と何ら変わらない姿を保っていた。ふむやはりあれは幻だったか。


 われたちがホッとしながら拠点の広場に降り立つと、そこにはケイ、フレイ、サクヤ、ブラド、ベル、白馬がいた。そしてケイは土下座状態でブラドに座られている。


 われは誰に話しかけるか一瞬迷ってから、ベルに話しかけた。ベルは真っ先に自分に話しかけられたことに苦笑しながらも口を開く。


「お疲れさまでした。今回はケイさんからの依頼の下、私たちが協力して行いました。ご心配かけて申し訳ありません」


 そう言って頭を下げるベルに、われはすぐに声をかける。


 おぬしが謝ることではない。全ての原因はそこで這いつくばっている男にあるからな。


「うにゃん。ふみゃぁお」


 われがそう言って目を向けると、ケイが下を向いたまま今回の訓練を行うに至った経緯を話し出した。


「実は、最近人間領のいくつかの国がこの森を越えて魔族領を侵攻しようと計画を立てていたらしいんだ」


 ほほう。おぬしはそんな重要な情報をわれに黙っていたのか。


 われが険しい視線をケイに浴びせるも、ケイは無視して話を続けた。


「らしいんだけど、予算が足りないだとか、志願する兵が少ないだとかの理由で、小規模な軍隊だけが森に入ってきたみたいだ。で、速攻ブラドがブレスで吹っ飛ばした」


 …ふむ。黙っていたのは善意でも悪意でもなく、話す必要がないと判断したためか。


 われが視線の圧を下げると、ケイはさらに話を続ける。


「なんかさ、最初に話を聞いたときはやばいって身構えてたのに、すぐにあっけなく問題が片付いちゃってさ。なんか、こう、むしゃくしゃして、今回の訓練を思いついたんだ。ただ、っこまで大迫力なものになるとは思ってなかったんだ。それについては謝る。ごめんなさい」


 ケイが下げていた頭を更に下げて、額を地面に付けた。それを見て許したのか、ブラドがケイの背中から立ち上がった。


 ケイは少しの間頭を下げ続けてから、額を拭いつつ立ち上がった。


「ごめんな、ミリア。怖がらせて。でも、必要だと思ったのは本当なんだ。こんなパパを許してくれるか?」


 ケイが罪悪感に満ちた目でミリアに問いかけた。それにミリアは微笑んで答えた。


「だいじょーぶだよ、パパ。ブラドがちゃんとこえかけてくれたから。びっくりしたし、ちょっとこわかったけど、ミリア、だいじょーぶだよ」


 ケイが驚いてブラドに目をやると、ブラドはニヤリとして答えた。


「俺が赤竜の姿の幻影を纏って吠えた時、ミリアにだけ頭の中に話しかけておいたんだ。あと、シルフィの恐怖を倍増させる魔法もミリアだけ弾いておいた。今回の目的は主にタマの能力の確認だったからな」


 ふふんとそう言ってミリアの頭を撫でるブラド。ほう、何やら色々やっていたようだな。さすがにこやつらに本気で魔法を使われると見抜けんな。ちょいと説明してもらえるだろうか。


 われが問いかけると、シルフィが説明を買って出た。


「まず大体は幻だったっすね。炎とか、赤竜の姿とか。これは主に白馬さんが担当したっす。地面を揺らしたのはベルさんっすね。それから炎から出た轟音は、自分の魔法っす。それと、そこの子供大好き男が吠えた時にこっそり恐怖を感じやすくする魔法も使ったっすよ。これ部下を黙らせるとき結構便利なんすよね。熱に関しては幼女を撫でてるドラゴンが担当っす。どうやらタマさん達の近くだけ熱く感じるようにしてたみたいっすよ」


 ふむふむ。では実害は驚かせたこと以外は音と地震くらいか。付近の住民には先に根回ししておけば許される範囲だろうな。だからこそブラドも協力したのだろうが。それにしてもあれだけリアルに幻と熱を感じさせるとは、こやつらの本気はどれだけすごいのだろうか。


 われが感心していると、ベルが小声で話しかけてきた。


「タマさん。あまりケイさんを怒らないでやってくださいね。ベクトルは多少異なりますが、ここの平和を望む気持ちは竜王様やタマさんに負けないくらい強いようですから」


 そんなフォローを律儀に入れてくるブラドにわれは頷いて返事を返した。まあケイがいたずら心だけで行動する奴ではないことくらいわかっているとも。あやつもわれの配下だからな。わかりにくい時もあるが、ちゃんと見ているからそう心配するな。


 われはミリアたちに本当に申し訳なさそうに謝っているケイを見てから、近寄った。そしてこちらに気付いたケイに言葉をかける。


 ケイ。今夜の夕飯はご馳走なのだろうな?


「うみゃ、うにゃぁあ?」


 ケイはぽかんとした顔をしてから、こくこくと頷く。


 うむ、それなら今回は不問とする。毎回言っているが、今後はわれに一声かけるのだぞ。


「うにゃん。みゃあ、うみゃあ」


 われはそれだけ言うと、ベルや白馬たちに礼を伝えてからフレイとサクヤの様子を見に向かった。うむ、サクヤはきちんと守られていたようだな。すやすやといつも通り眠っている。


 後ろでざわついてなにやらわれのことを話している集団は無視して、われは桜の木の下で昼寝することにした。


 もし今後、ここが危険に陥ることがあったら、その時はわれの力でここを守ってみせなければな。


 そう思いながらわれは昼寝を開始したのだった。


なんかこう、どうでもいい理由で避難訓練をするだけの話が、勢いに任せて書いたらこんな感じに…。

あ、森が人に攻められるという展開はないですよ。適当に書いただけですので。

まあ平和ボケはしすぎるとダメですからね。予防は大事ですよね。

ということで最近調子のいいタマに実力不足を実感させるためのお話でした。


お読みいただきありがとうございました。

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